steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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7話 ナツメッグ博士に相談1

 ナツメッグ博士は機械工学のみならず医学にも明るく楽器製作もこなす天才という設定だった。

 まあ、イメージとしてはダヴィンチもどきといったところか。

 確か、原作で主人公がここに来たときも、ナツメッグ博士はトランペット製作の真っ最中だった。

 博士は楽器を作っているときに限って初対面の奴が訪ねてくるジンクスでも持っているのかね。

 バンピートロットのミニゲームの一つに楽器の演奏がある。

 主要人物のほとんどがトロット楽団という人気バンドのメンバーなのだから、当然ライブ演奏がゲームのシステムに深く関わってくるわけで、主人公も色々な楽器を演奏できる。

 主人公の仲間たちの人数として、バンドがちょうどいいのでは、と製作が思ったことがきっかけだったそうだ。

 バンドメンバーが居るのだから当然のことながら演奏も、となる。

 そして演奏できる曲が素晴らしい。

 トロット楽団で演奏できる曲は、ナディア・ギフォードをボーカルに据えたバラードを主としたものが五つも用意されている。

 当時のゲームの挿入歌としては破格のクオリティーだ。

 それにしても、あのナツメッグ博士が作っていたアルトサックスは見事だったな。

 装飾も無ければ、さして特徴のある仕掛けや素材でもない。

 しかし、ごく平均的な構成でありながら、大量生産品には無い仕上げの丁寧さと熟練の職人の手を介した品に特有の気品があった。

 シンセサイザーのシールドに例えるのなら、カ〇レの純粋な音をそのまま伝達する性能を、プロ〇デンスの精密さで作り上げたもの、とでも言うべきか。

 俺はどちらかと言えばサックスよりもピアノの方が得意なのだが、あのナツメッグ博士のアルトサックスには感じるものがあった。

 単純かつ質のいい楽器は、技量への自信と表現したい感情が釣り合えば釣り合うほど、演奏者にとって最適なツールとなり得る。

 ゲームで主人公がナツメッグ博士のところを訪れたときには、度々声を掛けたりその場に立ち尽くしたりで博士の集中力を欠いた結果、その時に組み立てていたトランペットがお釈迦になってしまう。

 あのサックスにそういった末路を迎えさせたくなかったから、俺はすぐに退出したわけだ。

 もし、俺もこの世界で楽器を演奏する余裕があるのなら、ナツメッグ博士の作ったものが欲しいな。

「いくら積めば売ってくれますかねぇ?」

「お前さん、サックスに興味があるのか?」

 つい先ほど家から出てきたナツメッグ博士は、俺の疑問に答えることなく質問してきた。

「ええ、まあ。興味というか、昔ちょっと吹いたことがあるというか。ピアノの方が得意なんですけどね」

「そうか」

 そう言って、博士は俺に先ほどのサックスを手渡してきた。

「……いいんですか?」

「まずは吹いてみぃ」

 それでは、お言葉に甘えて……。

 リードが木製の消耗品なのは同じだが、こんな色の木ってあったかな?

 続いて、簡単にチューニングする。

 日本ならメトロノームまで付いたデジタルチューナーがあるが、ここには無いので感覚で済ませるしかない。

「では……」

 俺は記憶を探り、サックス単体でパフォーマンスして、最も受けが良かったフレーズを吹いてみた。

 ポール・デスモンドの『Take Five』のメロディーだ。

 五拍子の曲と言われて、地球ならほとんどの人が最初に思い浮かべるほど有名な曲だ。

 意識の中で感じるリズムがスイングし過ぎないように注意して、音の切れ目をクールに落とし込むように霞ませる。

 本物に比べれば紛い物もいいところだが、この世界では知られていない曲なので勘弁してもらえないものか。

 益体も無いことを考えながら、俺はワンコーラス吹き終えた。

「ふむ、一昔前に流行ったジャンルじゃな。生憎、わしは聞いたことが無い曲じゃが」

「でしょうね。実はこれ、異世界の曲なんですよ」

「ほう……少し、中で話さんか? 診てやるぞい」

「誤字じゃないんでしょうね……まあ、ちょうどいいです。元々、その件を博士に相談しようと思って来たわけですから」

 俺は完全に精神病扱いされたことに若干の悲しみを覚えながらも、博士の後を追って家に入った。

 

 

「……すると何か? お前さんは気づいたら森のど真ん中にその変な服で倒れていて、来た道も方角も分からず、どうにか盗賊団のアジトを見つけたので殺して奪って、どうにかわしの所へ辿り着いたと」

「そういうことです。俺はここに来るまでは、別の世界に居ました」

「……別の世界とはまた面妖なことを言いおる」

 まあ、別世界という単語だけ聞いても遠い国と区別はつかないよな。

 この世界に転移してからの経緯は簡単に話したが、さて肝心のところをどう説明したものか?

 そして、どこまで伝えたものか?

「ナツメッグ博士、あなたはパラレルワールドや異世界についてご存知ですか?」

「並行世界のことかの? 今存在する世の中とは別の選択をした結果、進むはずだった世界が存在するという理論は、どこかの学者が発表しておったな」

 なるほど、どうやら全く概念が無いわけではなさそうだ。

「似たようなものですね。ただ、俺の場合はもう少し複雑でして……。簡単に言うと、俺が数日前まで居た世界は、トロットビークルは普及せずにこの時代から百年以上が経った世界になります。ビークルの代わりに自動車と電車の性能が大きく向上して人間の輸送を担い、建築や土木や農業に利用される機械も自動車をベースにした重機が普及しています。まあ、他にも工業やインフラや生化学にナノテクノロジーの劇的な発達など、ここと違う点は色々ありますが、俺の生きてい場所の百年前の歴史と大きく違うのは、トロットビークルが存在しないことです」

「ふむ、トロットビークルが無くても成り立つ世界か……。自動車や電車の発展はエンジンの品質が上がったことや新しい燃料の発見などで説明がつくがの。トロットビークルのような汎用型の機械が無いということは……それぞれの作業に特化した自動車、いや個別の機械の製造技術とコストパフォーマンスが大きく向上したということか」

「その通りです」

 俺の自動車をクローズアップし過ぎた拙い説明を、補足する形で理解してくれた。

 やはり、ナツメッグ博士はただ者じゃないな。

 工業や建築技術の発展に関しても、大量生産や高層ビルに触れて軽く説明したが、メガネで表情が見えないので博士の心情まではわからない。

「……わしとしてはあまり嬉しくないことなんじゃが、ビークルはその汎用性ゆえに戦闘にも頻繁に投入される。お前さんの世界では、そこら辺はどうなんじゃ?」

「そうですね。戦車は発展しましたよ。大型の自動車に装甲版を貼り付けて、砲台や機関銃を搭載した兵器になりました」

 この世界では恐らく最後の戦車は馬車かそこらだろう。

 砲塔付きの装甲車としての戦車があったとしても、この世界は火砲の精度が引きそうなので、地球のような戦車の需要は無さそうだ。

「しかし、俺の時代になると戦闘はもっと両極端な形で展開がされていましたね。少人数の歩兵による隠密工作か、超遠距離からのピンポイント攻撃か範囲攻撃。小火器の威力や装弾数や発射速度も向上しましたが、大規模な紛争ではミサイル――長距離キャノンアームの大型版――が使われていましたね。ネフロから撃ってピジョン牧場の人間を皆殺しにできる兵器です。一発でハッピーガーランドを灰できる核兵器はさすがに使用が自粛されていましたが」

「何とまぁ……突拍子もない話だけに逆に信憑性があるの。お前さん、そんな殺伐とした世界で生きてきたのか」

 俺の居た日本は、表面上は平和な国ですけどね。

 これ以上、兵器の知識をひけらかしていても始まらないので、航空技術の話はまた今度にするか。

「で、博士、もう一つ厄介な事情がありましてね」

「ほう、お前さんが未来から来た可能性だけでも頭が痛くなる話だというのに、まだあるのか?」

「ええ、実はこれが本題でして。俺がここをただの過去ではなく別世界と断じた一番大きな理由です」

 ナツメッグ博士は黙って耳を傾けている。

「俺は、ピジョン牧場のことも、ナツメッグ博士のことも、ネフロの街の存在も、この世界に来る前から知っていました」

「……未来や異国の人間でも、わしやネフロのことくらいは知っていてもおかしくは無いが、お前さんがそこまで異世界と決めつけるからには、何か確固たる別の根拠があるんじゃな?」

「ええ、俺はこの世界の存在を知っていました……いえ、正確には、架空の存在としてナツメッグ博士やネフロを知っていたのです」

 




シンセのシールドに関する表現には、作者の偏見と個人的嗜好を含みます。

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

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