steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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71話 帰り道、そして少し寄り道

 

 ポールをハッピーガーランドまで連れ帰り、セントジョーンズ病院に担ぎ込み、テオドールに後のことを任せて俺は、ようやくピジョン牧場へ向けて出発した。

 色々とゴタゴタしていたせいで、バニラとコニーより一週間近くは遅れている。

 向こうは既にジュニパーベリー号の方も回り、渡航許可証も回収したかな。

 ビークルバトルトーナメントまでの日数も残り少ないので、さっさとピジョン牧場へ寄って、ハッピーガーランドに戻らなければ。

 俺は手近な荷物をスーツケースに詰めて【ジャガーノート】に積むと、またしても慌ただしくハッピーガーランドを後にした。

 コンドル砦を抜けて三度ガラガラ砂漠へ足を踏み入れる。

 今度はポールとテオドールは居ないので俺一人……ではなく、同伴するキャラバン型輸送ビークルが居る。

 帰省の荷物が思った以上に嵩張ってしまったため、デルロッチ貿易に依頼して一台回してもらったのだ。

 ドン・スミスから温度によって劣化しにくいワインが届いたのは良かったが、樽の数はどう見てもビークルのバックパーツに積める量ではなかった。

 手紙には、セントジョーンズ卿と顔を繋いでくれた礼も含めての品だと仰々しく書いてあったが……まあ、そこら辺はあまり深く考えないようにしよう。

 そして、土産のワインだけでなく、ハッピーガーランドに来てから購入したポールの絵も一枚や二枚ではない。

 これらの荷物を全て持って帰るには、とてもではないが汎用ビークルの【ジャガーノート】の積載量では間に合わないわけだ。

 そんなわけで、俺はキャラバンを一台雇う羽目になった。

 まあ、輸送ビークルが一台で済んだのは不幸中の幸いだったな。

 俺が居るので、他の護衛ビークルも必要ない。

 しかし、いずれは自動で追従してくれる輸送ビークルが欲しいものだ。

 この物理法則を無視しそうなスチームパンク世界においても、自律型の無人機器の開発は桁違いの難しさだろうが、何とかナツメッグ博士の存命中に手を付けられれば実現の可能性はある。

 

 

 輸送ビークルを引き連れて砂漠を進んだ俺は、慣例通りカワセミオアシスで一泊して、ネフロ方面への入口であるレイブン砦へビークルを進めた。

 途中、デザートホーネット団の『アース・ウィンド』と『イエロー・ワスプ』の編隊に襲撃されたが、これは俺がノーダメージで処理した。

 今回の敵は口を開く前に吹き飛ばしてしまったので、ビークル二台だけの難易度の低い獲物だと思ったのか、それとも俺に復讐することが目的だったのかはわからない。

 ……いや、このタイミングで襲ってくるということは、俺をピンポイントで狙ってきたのだろう。

 面倒なことだ。

 せっかくなので、敵ビークルの武装を回収する。

 『イエロー・ワスプ』からはガトリング、『アース・ウィンド』からは火炎弾を射出するランチャーだ。

 輸送ビークルを雇ったことで【ジャガーノート】のバックパーツは空いているので、この程度の荷物を追加で運ぶくらいどうということはない。

 暇なときにナツメッグ博士の工房でバラして徹底的に調べてやる。

 手間を掛けさせやがった礼だ。

 このくらいの得はあってもいいだろう。

 そして、俺たちは無事にレイブン砦に到着した。

 

 

 砦に付いた頃にはとっくに昼を過ぎていたが、すぐに出発する予定だ。

 ここにも宿泊所はあるが、わざわざ予定を遅らせてまで一泊したいほどの三ツ星ホテルではない。

 バザーには少し寄った。

 砂漠の近くだけあって普段は保存食の干し肉を主に扱っている肉屋だが、今日は珍しく生の牛肉があったので二キロほど購入する。

 熟成というほどではないが、いい感じに旨味が活性化している色合いだ。

 ピジョン牧場ではきっとナツメッグ博士が腹を空かせているだろう。

 早く戻ってこいつを食わせてやろう。

 レイブン砦で軽く補給と買い物をした俺は、すぐに砦を出てアレハーテ丘陵へビークルを進めた。

 デルロッチ貿易のビークル乗りは強行軍に少々げんなりした表情を見せたが、俺が払いのいい上客だということを思い出したようで、すぐに表情を引き締めて輸送ビークルのハンドルを握りなおした。

 そして、アレハーテ丘陵のネフロ方面へと向かう道の途中で、俺は【ジャガーノート】を減速させて後続の輸送ビークルの方へ振り返る。

「ちょっと寄るところがある。待っててくれ」

「へい」

 俺は返事をしつつも怪訝な顔をするビークル乗りを尻目に、ネフロ方面へと続く道の脇に逸れる。

 そして、俺がビークルを駐機したのは、およそ人が住んでいるとは思えないボロ屋だ。

 いつぞやのシスターと子どもたちが住んでいる廃屋である。

 廃屋に残る子どもはリックとロバートの二人。

 二人のイベントはまだ完全に片付かないが、どちらにも進捗と言える話はある。

 早速、シスターに報告すべく、俺はここに立ち寄ったのだ。

「ごめんください」

「はい!」

 俺が廃屋の扉をノックしつつ声を掛けると、前回よりも元気なシスターの声が聞こえた。

 

 

 久しぶりに見たシスターの顔は前回よりも血色がよかった。

 さすがにこの短期間で体つきまでは変わっていないが、青白かった顔には幾分か赤みが差し、肌にも張りがあるように思える。

 俺が渡した食糧と金で、少しはマシな飯を食ったようだな。

 シスターが元気なのはいいことだ。

 子どもたちにとって、彼女は母親代わりだからな。

 元気と言えば、先ほどの返事がヤケに明るかったのは、俺の声を覚えていたからだそうだ。

 男の声にすぐ返事をしてドアを開けるのは不用心だと思ったが、それなら問題ないかな。

「グレイ様、お久しぶりでございます」

「どうも。元気にやっているみたいですね」

「はい! これも主のお導きと……グレイ様、あなたのおかげでございます」

「いや、そんな大層なものじゃないですから」

 まあ、その『主』とやらの面は是非とも拝んでみたいものだがな。

 俺を盗賊ビークルの闊歩する山奥に置き去りにしたクソ野郎に、銃弾をしこたま撃ち込んでやりたい。

「金は足りてます?」

「もちろんです。前にいただいた分は十分の一も使っておりません」

 それはそれで少し心配だな。

 あの時に渡したのは1万URだから約10万円だ。

 三人が一か月暮らして、しかもその内の二人は育ちざかりの男の子で、それで使ったのが一万円足らず。

 某番組の企画でも、使うのは一人(・・)で一万円だ。

 いや、この世界の物価と食糧事情なら、三人が食うだけであればそんなに金は掛からないか。

 最初に干し肉も一緒に渡したこともあるだろう。

「では、こちらだけ……」

「っ! いけません! これ以上いただいては罰が当たります」

 俺は新たに金が入った袋を二つ渡そうとしたが、シスターは慌てて返そうとしてきた。

「いや、こいつは受け取っていただかないと困ります。生活費は大丈夫そうなんで、これは旅費だけです」

「旅費、ですか?」

 俺は最初からシスターに説明した。

 

 

 未来のビークルバトラーを発掘したいというドン・スミスの手紙を読み終えたシスターは、ゆっくりと手紙を畳んで俺に向き直った。

「なるほど。リックをビークルバトラーに……」

「ええ、そちらは本人の希望とあなたの許可さえあれば、一発で話は決まります。まあ、鉄道が潰れているので、実際にリック君をスームスームへ送るのはもう少し後になりますが」

「…………」

「ロバート君の件は、彼次第の部分もありますし、後見人などに関して先方ともう少し交渉しなければなりませんが、恐らく無事に話はまとまるでしょう。まあ、そちらも行き先はハッピーガーランドなので、移動はウズラ山トンネルが開通してからですがね」

「……そうですか」

 シスターの反応は薄い。

 まあ、フローラの実績があるとはいえ、これだけの話をいきなり信用しろというのも無理な話か。

 都合が良すぎる。

 今まで母親代わりを務めてきたシスターとしても、色々と悩むところがあるのだろう……と思っていたが、彼女から発せられた言葉は思いがけないものだった。

「驚きです。最初にグレイ様とお会いしてから、まだ一か月ほどしか経っていないのに、もう二人目どころか三人目の里親まで……。本当に……何てお礼を言ったらいいか……」

 どうやら、信用に関しては既に問題ないみたいだな。

 言い訳の手間が省けるので、こちらとしては大歓迎だ。

 こちらの事情には話せない部分も多いからな。

「まあ、リック君の件には俺とドン・スミスの間の事情もありますからね。そんなに感謝されるほどのことではないですよ」

「そうですか……。でも、フローラのときは、グレイ様には何の得も無いのに、ミツバチ園まで往復して、色々と骨を折ってくださいましたよね。私は信じておりますよ。あなたは敬虔で慈悲深い神の使徒です」

 ただ、ここまで聖人扱いされると居心地が悪くなってくる。

 猜疑心むき出しで接してくるよりはいいが、やはり宗教家と話すのは疲れるな……。

 俺がこそばゆさを感じていると、いい具合にこの微妙な空気を払拭する声が発せられた。

「グレイさん、解けました」

「お、そうか。見せてみろ」

 ガーランド大学の教授が頭を捻っていた数学の難問の写しを、先ほどからロバートに解かせていたのだ。

 内容は数ⅡBの範囲になる

 俺も覚えている範囲だったので、答え合わせはできる。

 ロバートの答えは……問題ないな。

 俺の出した結果と同じだ。

 彼の年齢で数ⅡBの問題が解ける人間は、当然ながら現代の日本でも少ない。

 おまけにレベルの低い参考資料と、それすらロクに手に入らない居住地と経済事情。

 そんな環境でここまでの知能を手に入れるとは、ロバートは間違いなく天才だ。

「これで三人、行き先は決まったな」

 あとはハッピーガーランドに戻ったときに各機関へ話を通せばいい。

 俺はロバートから受け取った解答用紙を仕舞うと席を立った。

「では、俺はこの辺で失礼を。鉄道が復旧したら、電報でも出しますので」

「もう、行ってしまわれるのですね……」

 俺は廃屋を出ると【ジャガーノート】に乗り込み、コクピットで舟を漕いでいた輸送ビークルの操縦手を起こし、ピジョン牧場へとビークルを向けた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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