steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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72話 ピジョン牧場へ帰還1

 

 ネフロの街の東側に回りワグテール渓谷を過ぎ、俺はようやく懐かしの第二の故郷ピジョン牧場へ到着した。

 一か月ほど留守にしたが、牧場の様相は全く変わっていない。

 メリー乳業の羊が所々で草を食む広大な牧草地も、比較的新しく建築されたピジョン牧場駅もそのままだ。

 ミームー村方面への路線にも、見る限りトラブルは無いようだな。

「もっと! もっとパワーを!! ウィリー!!!!」

「これ以上は無理だよ、兄さん。高馬力エンジンを積むと、今度は機体が重くなるんだから」

 オットーとウィリーのライト兄弟もどきは、相変わらず丘の傾斜を利用して羽根付きビークル【フラップフライヤー】を飛ばそうとしている。

 今はちょうど出力を上げたパターンを試している段階のようだな。

 重量オーバーを無視して、Hサイズのボディに補助エンジンまで積み、羽ばたくパワーを上げているのだ。

 ……原作と同じペースか。

 思ったより【フラップフライヤー】の進捗は芳しくないのか?

「おや? グレイさん。帰ってきたんだね」

「おお! グレイの旦那! 見てくれ、今度の【フラップフライヤー】はパワーを重視して……って、ぬわああぁぁぁあああああァァァ! 落ちる!! 落ちるぅぅうううぅぅぅぅぅ!!!!」

「ああっ!! 兄さん!」

 ……この二人に絡むのは後にしよう。

 丘を上がった先に佇む歪な形の家が、我が師匠ナツメッグ博士の工房にして、この世界における俺の自宅だ。

 キャラバン型の運送ビークルを引き連れた俺は、【ジャガーノート】を先に工房側に寄せて、輸送ビークルを家の前に着けさせた。

「よし、到着だな。荷物を下ろしてくれ」

「へい」

 ドン・スミスから買ったワイン――ほとんどはタダで貰った――とポールの絵を輸送ビークルから運び出し、とりあえずは玄関前に寄せて置く。

 ついでに【ジャガーノート】のキャリアーに固定していたデザートホーネット団からの鹵獲品の武器も工房に運ばせる。

 そうして家の前で引っ越し並の大荷物を整理していると、おもむろに家のドアが開いた。

「グレイ、ようやく帰ってきたの。……何じゃ、お前さんのビークルも砂塗れではないか」

 これも一か月ぶりの顔だ。

 我が師匠ナツメッグ博士も、以前と変わらない姿を見せた。

 元々が小柄なのでわかりにくいが、特に痩せ細っていることも無いようだ。

 前回のハッピーガーランド行きよりもナツメッグ邸を長く留守にしたが、博士が孤独死していないようで安心した。

「ただいま戻りました。ナツメッグ博士」

「うむ」

 

 

 キャラバンビークルから荷物の積み下ろしが終わり、俺はデルロッチ貿易のビークル乗りにチップを握らせて追い返した。

 かなり扱き使ってしまったが、数枚の銀貨を握り締めたビークル乗りは、鼻歌を歌いながら上機嫌で帰っていった。

 仕事は結構キツかったはずだが、今のチップも含めた実入りを考えれば、俺の依頼は相当に美味しい案件だったのだろう。

 あの金は酒に化けるのか娼婦の懐へ消えるのか……。

 そして、お土産に買ってきたワインを一旦家の中に入れようと思っていると……今度はピジョン牧場の面々が押し掛けてきた。

 おっさんどもは俺への挨拶もほどほどに、ワイン樽に群がって勝手に配分を決め始める。

 オットーとウィリーには先ほど会ったので、俺が帰ったことを既に彼らが知っていてもおかしくはないが、さすがに来るのが早すぎないかね?

 まったく、酒の匂いを嗅ぎつける能力だけは一人前な奴らだ。

 どうにか、うちの分のワインを小樽で二つ分ほど確保し、強盗どもが帰った頃には、すっかり日も沈んでいた。

「さて……博士、夕食はもう済ませましたか?」

「いや、今日はまだじゃな」

「じゃあ、何か作りますよ。ちょうど食べ頃の牛肉を手に入れてきたので」

「ああ、頼んだぞ」

 

 

 ミディアムレアに焼き上げたステーキをテーブルに並べ、早速スームスームから持ってきたワインをグラスに注ぐと、俺と博士はどちらともなくナイフとフォークを手に取り食事を始めた。

 まずは一口と、切り分けた肉を口に運び咀嚼すると、程よい歯応えと肉汁が口の中で踊る。

 日本のスーパーに百グラム千円くらいで売っている脂の味しかしない肉とは違い、自然な赤身肉の旨味だ。

 いい肉に敬意を表して、ソースは肉汁を重めのワインで解いて玉ねぎのみじん切りを煮詰めた、肉の味をそのまま活かすグレイビーソースである。

 これがまた、ドン・スミスから貰った上質なワインとの相性が抜群だ。

 俺とナツメッグ博士は、しばらく無言でステーキとワインを交互に口に運び続けた。

 本当に美味い食事のときは、誰しも無口になるものだ。

 特に香りまでご馳走になる料理はなおさらだろう。

 開いた口から芳香が抜けて霧散してしまうのがもったいない。

 そうして俺たちはしばらくの間はステーキを味わうことに集中した。

 付け合わせのベイクドポテトと人参のグラッセも腹に収め、皿に残ったソースを粗方パンに染み込ませて片付けたところで、ようやくナツメッグ博士が口を開いた。

「そういえば、少し前にコニーとバニラが来たぞ」

 バニラたちは砂漠から帰ってきてすぐナツメッグ博士に会いに来たらしい。

 先ほど、博士が俺のビークルも(・)砂塗れと言った理由がこれだ。

 【カモミール・タイプⅡ】はボディパーツを置換した直後なので、一度はナツメッグ博士に見てもらった方がいいと伝えておいたが、どうやらバニラは忠告通りに行動したようだな。

「バニラのビークルは少し見てやった。細かい傷の修理と砂埃の除去、それと……耐水ボディMの調整もな。そこのスキトール湖に浮かべてみたが、特に問題は発生しなかったの。ウミネコ海岸沖の難破船とやらを調べる程度なら、何も問題は無いはずじゃ」

「そうですか。ありがとうございます。こっちの方では珍しいパーツだったので、街の整備場のメンテナンスだけでは不安だったんですよ」

 ナツメッグ博士は【ジャガーノート】の耐水ボディも設計しており、当然ながら公式パーツのことはしっかり把握しているので、博士が点検したのなら安心だ。

 【カモミール・タイプⅡ】が沈んでバニラとコニーが溺れる心配は無いだろう。

 それと、どうやら博士もジュニパーベリー号のことをバニラから少し聞いたようだ。

 説明する手間が省けたな。

「他に何か変わったことは?」

「おお、そうじゃ。もう一つあったな。ミームー村からマルガリータという若い娘がお前さんを訪ねてきたぞ」

「え!?」

 

 

 思わず聞き返してしまった。

 マルガリータといえば、ミームー村の船大工の女性だ。

 ミームー村はトロットビークルのことすら知らない人間が多い僻地であり、当然ながら整備場や出張修理所など存在しない。

 あの場所で唯一の修理と補給ができる設備が、船大工マルガリータの作業所なのだ。

 俺はこの世界で彼女と直接話したことは無い。

 以前、スキトール湖の巨大魚こと『ディープアングラー』を撃破してミームー村へ行ったときは、彼女はその巨大魚を探しに出ており留守だったのだ。

「面識は無いと言っておったが……お前さんが把握しているということは、彼女も困難の多い生涯を送ることになるのかの?」

「いや、そういうわけでは……ただ、ミームー村の住民から彼女の名前は聞いていたので」

 メインストーリーに係わる人物ではなかったが、マルガリータのことは普通に覚えていた。

 それと、この世界ではまだ会ったことは無いが、ハッピーガーランドへ行くためにガラガラ砂漠へ向かう直前、ピジョン牧場から一旦ネフロへ向かう道中で、彼女が乗った馬車を見た記憶がある。

 原作よりも美人に見えたが、係わりといえばそれだけだ。

「彼女は何でまたうちに?」

「お前さんに礼を言いたいそうじゃ。例のスキトール湖の巨大魚の件であろう。二年前にお前さんがミームー村へ来たときに言いそびれたから、と言っておった」

 そういえば、ミームー村には『ディープアングラー』を始末した後に一回しか行っていないな。

 ミームーまで汽車の運行が開始したのは数週間前なので、以前はビークルでスキトール湖を横断する必要があったのだ。

 路線を敷く道はもっと前に整備されていたが、他の住民からトラブルがあったという話は聞いていなかったので、わざわざ向こうまで足を延ばすことは終ぞ無かった。

「そうですか。結構前のことなのに……何と言うか、義理堅いですね」

「うむ、いい娘さんじゃ。技術者としても一級品の才能を持っておる。トロットビークルに触り始めたのがつい最近とは思えん。操縦の方はともかく、整備に関してはお前さんなど既に軽く凌駕しておるな」

「へぇ……博士にそこまで言わせるとは大したものですね。……っていうか、よくそんなことわかりましたね」

「うちへ来たときに、少しビークルのことや整備のことを少し教えてやったからの。あの娘のビークル……【クラフトマンシップ】じゃったか? 独学であれほどのカスタムができるとは、正直驚いたわい。今まで小舟しか作ったことが無いとは、俄かには信じられん」

「ほぅ、そんなことが……」

 確かに、原作でもマルガリータは初めてトロットビークルを触るにもかかわらず、完璧に整備をこなしていた。

 現実でもそれは変わらないらしい。

 ならば、その時点でマルガリータには技術屋として天賦の才があることは確実だ。

 この世界でも、ミームー村まで鉄道が運行を始めたのは本当に最近のことで、線路に沿った道が通れるようになったのも、それほど前のことではない。

 それからビークルを買ったとすれば、マルガリータのビークル歴は精々が数か月……下手をすれば一か月そこそこ。

 それで俺より整備の腕が上とは……。

「巨大魚を倒したお前さんと【ジャガーノート】にも興味があると言っておった。グレイ、次のビークルバトルトーナメントまでは暇じゃな。一度、ミームー村へ行ってくるといい」

「そうですね。そうします」

 既に汽車が通っているので、もう湖をビークルで渡る必要は無い。

 明日にでもミームー村へ行こう。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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