steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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74話 ミームー村へ小旅行

 

 バニラの【カモミール・タイプⅡ】の右アームをトライデントアームに換装し終えた俺は、予定通りミームー村へと向かった。

 開通して間もない鉄道を使っての移動だ。

 バニラとコニーも観光がてら一緒に来ている。

「凄い絶景だね」

「そうだね。小さい頃に乗った遊覧船を思い出すよ」

 同じコンパートメントのコニーとバニラの視線は、車窓に広がるスキトール湖の絶景に釘付けだ。

 二人っきりにしてやりたい気がしないでもないが、さすがに知り合いをシカトして立ち去るのも変なので、俺は二人に窓側を譲って通路側のシートでのんびりと寛いでいる。

「コニーもミームー村へ行くのは初めてなの?」

「うん、初めてだよ。去年あたりから噂は聞くようになったけど、それまでは名前も聞いたことなかったからね。鉄道が開通したのだってつい最近だし」

 今やミームー村へは汽車で直通だ。

 水上ビークルを運用する盗賊と遭遇する心配も無く、湖畔を走る汽車で景色を楽しんでいれば、二時間後には自動でミームー村駅に到着である。

 少し前まで耐水仕様のビークルで半日掛かっていたのが嘘のようだ。

「因みに、ミームー村まで鉄道を伸ばしたのはグレイだよ」

「え!? そうだったの!?」

 バニラはまさかの俺の名前の登場に驚いてこちらを振り返った。

 しかし、コニーの説明は端折り過ぎだ。

 確かに、ミームー村までの路線を建設するために、『ディープアングラー』の始末からミームー村の資源調査と建築資材の確保まで、色々と根回ししてきたがそれだけだ。

 俺が自ら陣頭に立ってクレーンを運転したわけではない。

「成り行きで開発を支援しただけさ。ちょうどスキトール湖に、巨大魚なんて言われて盗賊の潜水ビークルが出ていた時期でな。当時はピジョン牧場駅も建設途中で、そっちの工期にも影響が出そうだったから討伐したんだ。ミームー村へ路線を引くのを援助したのはついでだよ」

 バニラは巨大魚ビークルに興味がありそうな様子だったが、端的に言ってしまえば、このサブイベントは俺が掻っ攫ったようなものだ。

 現実世界では、この時期にミームー村への開拓に着手して、すぐに路線を開通させることなど不可能であり、バニラも原作のサブイベント全てにこの世界で介入しているわけではないのは知っているが、それでも少し後ろめたい部分はある。

 ナツメッグ博士のレクチャーや長期に渡るジンジャーの修行など、色々とフォローはしているつもりだが、バニラから奪ってしまった経験がシナリオにどのような影響を及ぼすかはわからない。

 果たして、今後の展開は……。

「(どうなることやら……)」

「ん? 何か言った?」

「いや、何でもない。それよりも、だ。ミームー村は上質なトリュフの産地でもあるが、湖の魚もそれなりに名物でね。不漁でなければ向こうで食べられるはずだ。君たちもきっと気に入るだろう」

「へぇ、それは楽しみだな」

「そうだね」

 そして、汽車は崖を切り崩した湖畔を過ぎ、俺たちはミームー村へ到着した。

 

 

 貨物車から降ろしたビークルに乗り、俺たちは村の居住区まで進んでビークルを駐機する。

 湖畔の崖が切り崩され、村の中心に駅が建設されたとはいえ、ミームー村の様相はそれほど変化していなかった。

 まあ、近代化されたといっても、ビークルと鉄道が持ち込まれたくらいだ。

 そう大きく村の景色が変わるものでもないか。

「凄く長閑なところだね。あ! 向こうに山羊が居るよ」

「本当だ。こっちは羊じゃないんだね」

 そういえば、ピジョン牧場に山羊はほとんど居ないな。

 肉の味は圧倒的に羊が上であり、乳やそれを原料としたチーズを作る場合も、基本的には羊の方が優れている。

 しかし、山羊のチーズにも一部に美味いものはあるので、ナツメッグ邸でもたまにミームー村から仕入れているのだ。

 せっかく来たのだから、今日も少し買って帰るか。

 はしゃぐバニラとコニーを見ながらそんなことを考えていると、横合いから俺に声を掛ける者たちが居た。

「ぐ、グレイさん!? こ、これはこれは! 今日はまたどのようなご用で……?」

「おや、あんたはあの時の恩人さんじゃないか。よく来たね」

 村長のマルローと……村の漁師のマッカートニーの奥さんだな。

 当然、俺を歓迎していない慌てた声の方が村長だ。

「どうも、マルロー村長にマッカートニー夫人。用事はあるといえばあるのですが、今回は遊びに来たのがメインですよ。一応ね」

 村長は俺が抜き打ち査察にでも来たと思っていたのだろう。

 あからさまにホッとしている。

 まあ、気が向いたら住民からアンケートでも取ってやるさ。

 最近、村長が尊大な態度になっていませんか、村の収益の一部を着服している様子はありませんか、ってね。

 今は小悪党を相手にしていても仕方ないので、俺はバニラとコニーの方を示して紹介した。

「こちらの二人は俺と同じトロット楽団のメンバーです。ボーカリストのコニー、それにトランペット奏者のバニラ。マッカートニー夫人、ここの鮮魚料理を二人に食べさせてやろうと思いまして……」

「ああ、任せときな。腕によりをかけて、最高の料理をご馳走するよ」

 バニラとコニーは表情を輝かせた。

 なかなかに苦難の多い人生を送っている二人だが、こういう時くらいは思いっきり楽しんでもらいたい。

 さて、バニラとコニーの方はこれでいいとして、俺も自分の用事を片付けなければな。

 俺はナツメッグ博士からマルガリータのことを聞いて、わざわざこの村まで出向いてきたのだ。

 とりあえず、彼女の所在を確かめないとな。

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 しかし、村長たちにマルガリータのことを聞こうと思っていたら、俺が口を開く前に後ろから呼び止められた。

 

 

 俺は後ろから掛けられた声に振り返った。

 この村では珍しい若い女性の声だったが、振り向いた俺の目に飛び込んできたのはまさに絶世の美女というに相応しい人物だった。

 ラフなシャツに分厚い茶色の前掛けと服装は完全に作業着で、髪もざっと梳かしただけのようで化粧っ気も無い。

 しかし、顔の素材の良さはこのゲームにおける美女の代名詞であるセイボリーにも負けていない。

 そして、俺は彼女の顔に見覚えがあった。

 以前、ミームー方面から来た馬車に乗っていた彼女を見ている。

「あんたが……グレイ?」

 向こうは俺のことがわかっているらしく、真っ直ぐこちらに向かってきて問いかけた。

「ああ、そうだ。君は船大工のマルガリータだな?」

「うん、そうだよ。この村の船は全部あたしが面倒見てるんだ」

 彼女こそ、俺がミームー村を訪れた最大の目的だ。

 数日前に、彼女はわざわざ俺の家を訪ねてきたのだ。

 当然、俺は留守だった。

「君のことはナツメッグ博士から聞いたよ。先日は対応できなくて、すまなかったな。ちょうど、昨日の夜にピジョン牧場に帰ってきたものでね」

「いや、あたしの方こそ悪かったよ。突然、押し掛けちゃってさ。……でも、よかったよ。ようやく、あんたに会うことができた」

 こんな美人に追いかけられるのは悪い気はしないな。

 しかし、ここで横合いから邪魔をする者が約一名。

「グレイさん、もしやあなたのご用件というのは……」

「ええ、彼女に会いに来たんです。だから、もう大丈夫ですよ」

 追い払うような雰囲気で返答すると、マルロー村長もようやく悟ってその場を後にした。

 因みに、マッカートニー夫人は空気を読んだのか、既にバニラとコニーを連れて立ち去っている。

 気を遣わせてしまったな。

 今度、彼女には何か差し入れを持ってこよう。

 村長? そんな奴は知らん!

 彼のことはマルガリータも完全にシカトしていたが……まあ、今ここで事情を根掘り葉掘り聞くこともないだろう。

「ところで……君がうちを訪ねてきたのは『ディープアングラー』の件だったか?」

「そうだよ。あんたにとっては今更な話だろうけど、やっぱり直接お礼を言いたくてさ。本当に、ありがとうね。あの巨大魚にやられた連中のなかには、あたしの親戚の爺さんも居たんだ。あんたのおかげで、彼の無念を晴らせたよ」

 先日、マルガリータがナツメッグ邸を訪れたことなどは博士から聞いていたが、彼女はこの件の礼を言うためだけにうちまで来たのだ。

 本当に律儀なことである。

「あんたには早くお礼を言いに行こうと思っていたんだけど、あたしも自分のビークルを手に入れたのはつい最近なんだ。皆と一緒に荷馬車で買い出しに行くことはあったけど、私用で寄り道するのも考えものでね……」

「いや、俺もミームー村には一度来ただけで放置状態だったからな。『ディープアングラー』の討伐にはこちらの事情もあったことだし、気にしないでくれ」

「いや、そういうわけにはいかないよ。この恩はきちんと返させてもらうから」

 彼女は別に恩を売る対象じゃないんだけどな……。

 ゲームのメインストーリーには関わらないはずの人物だが、まあ険悪な仲になるよりはマシか。

 

 

「そうだ! お礼になるかはわからないけど、あんたのビークルを整備させてくれないかな? いつでもタダで引き受けるよ。……まあ、正直に言うと、あんたのビークルに興味があるっていうのも理由なんだけどね。【ジャガーノート】だっけ? 凄い性能のビークルだって聞いたよ」

 確か、ナツメッグ博士もこのことを言っていたかな。

 マルガリータが【ジャガーノート】に興味を持っていると。

「ダメかな? 簡単な修理と燃料補給くらいならできると思うんだけど……」

 簡単な修理と燃料補給、か。

 マルガリータは初見でビークルの整備をこなしてしまうほどの技術者で、今回はナツメッグ博士からビークルに関するレクチャーも受けている。

 ほぼ確実に、並の整備士よりも質のいいメンテナンスを提供してくれるはずだ。

「願ってもないことだ。博士から君は筋がいいと聞いている。是非やってくれ」

「本当!?」

「ああ。ただ、【ジャガーノート】は午前中にナツメッグ博士に整備してもらったばかりだから、今は特に修理する箇所も無いと思うが……。まあ、エンジンルームとかも開けて構わないから、好きに見るといい。あ、武装には注意してくれ」

「やった! ありがとう!」

 いずれ彼女の整備が本当に必要になる時が来るかもしれないから、今回は機関部の確認だけ先にしてもらえばいい。

 俺は軽い調子でマルガリータにビークルの中身を見せた。

 しかし……いざ実際に【ジャガーノート】を整備してもらうと、彼女はエンジンの燃料系統に僅かなバリを発見した。

 昔の自動車のキャブレターなどで偶に起こっていたアレだ。

 マルガリータにエンジン内のカスを丁寧に取り除いてもらった俺は、整備したての【ジャガーノート】を早速とばかりに運転してみる。

「驚いたな。俺はもちろん、博士も見逃していたのか……」

「どう? 何か変わった感じはする?」

「う~ん、普通に動かしただけではそこまでわからないかな……。だが、エンジン音と排気音は確実に今までよりスムーズで静かになった」

 それに、いざ戦闘行動を取ってみれば、動きにも違いが出るかもしれない。

 ふんだんに使ったミスリルのパーツとナツメッグ博士の設計によって、【ジャガーノート】のエンジンの整備性と信頼性はかなり高いので、こういった問題が起こることは稀だ。

 しかし、マルガリータはそれを発見して対処した

 やはり、彼女は一流の整備士だ。

 この瞬間、俺の中でマルガリータは【ジャガーノート】を任せられる数少ない人物になった。

「そうだ、どうせなら今度はうちに来てくれないか? ここよりもナツメッグ博士の工房の方が設備は充実しているはずだから、もし機会があったら向こうでも整備してもらいたい。もちろん、報酬は出すよ」

「え!? そっちの工房を使っていいの!?」

「ああ、ナツメッグ博士もダメとは言わないだろう」

「行く! すぐにでも行けるよ!」

「いや、今日は俺もこっちに泊まるつもりだから、すぐには……」

 結局、マルガリータは明日俺がピジョン牧場へ帰るとき、一緒に工房へ来ることとなった。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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