steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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78話 共に砂漠を超えて

 

 約束通り、コニーの家の近くのパン屋『ネフロ・ベーカリー』の前あたりでバニラたちと合流した俺は、そのままネフロの街を出てレイブン砦方面へ向かった。

 砦に着いた頃には既に日も傾いていたので、今日はここの宿泊所で夜を明かす。

 宿泊所へ向かう前に、夕方のバザーでそれぞれ保存食を購入した。

 飲料水はここで買うと無駄に高いので、俺もバニラたちもネフロで用意してきたが、食糧はバザーで手に入れることにしている。

 明日、オアシスで摂る夕食の材料は用意してきたが、途中で遭難したり盗賊の襲撃で逸れたりする可能性がゼロではない以上、余剰の保存食は持っておいた方がいい。

 そうなると、やはり砂漠に近い砦で買うべきだ。

 うちにも干し肉や燻製くらいはあるが、本物の砂漠地帯に適した製法で出来ているかはわからないからな。

 腐った干し肉で中るなど間抜けすぎる。

「相変わらず、凄い活気だね」

「確かに、この時間帯でも凄い人混みだ」

 レイブン砦の店の配置はもう大体わかっているので、俺は秒で買い物を済ませた。

 二人はもう少しバザーを回るようだが……またコニーに何か貢ぐのかどうか知らないが、懐は大丈夫なんだろうな?

 前回はバニラの甲斐性のためにダンジョンへ行く羽目になったが、今回はそこまでの時間的余裕は無い。

 最悪、俺がこっそり貸すか……。

 コニーが露店の方へ集中している隙に、俺はバニラに小声で確認してみた。

「(で、色男くん。今回は玉切れになってないかね?)」

「(玉……?)」

「(軍資金は大丈夫かね?)」

「(あ、ああ。大丈夫だよ。前に来たときに、稼がせてもらった分がまだ残ってるから)」

 同じ会社の作品ネタは通じなかったが、今のところバニラの財政状況は心配ないようだ。

 まあ、コニーが強請る物の内容にもよるが。

 いや、彼女は直接おねだりしているわけではないのだが……。

「俺は先に宿泊所へ戻る。二人もあまり夜更かしせずに寝ろよ」

「わかったよ」

「おやすみ、グレイ」

 自分のテントに戻った俺は、すぐにベッドで横にはならず、しばらくバニラを待ってみた。

 幸い、その日の内にバニラが俺に泣きついてくることは無かった。

 まあ、最終的にバニラはデルロッチ貿易支店で勧められたアクセサリーを買ってスッカラカンになったようだが……。

 押しの強い店員の「彼女さんにぴったりの一品が」から「よくお似合いです」のコンボに、コニーの満更でもない表情のフィニッシュで、有り金叩いたんだと。

 俺も知っている店員なので、一応偽物ではないと思うけどさ……。

 

 

 

 

 翌朝、俺とバニラとコニーはレイブン砦を出てガラガラ砂漠へと足を踏み入れた。

 相変わらずの灼熱の大地だ。

 常に日に焼かれながら長時間移動しなければならないだけでも、日陰のあるレイブン砦内とは格段に違う過酷さだ。

 以前バザーで買った砂漠の帽子クーフィーヤを被っていても、じりじりと体力が削られていく。

 バニラもカウボーイハットの下の顔にそれなりの疲労感を浮かべている。

 コニーも以前と同じバニラがプレゼントしたエスニックな装飾のある砂漠の装束を着ているが、顔を火照らせながら手で日差しを遮っている。

 ……バニラが財布をひっくり返して買ったというのはあのイヤリングか。

「やっぱり、砂漠は暑いね」

「そうだね。コニー、無理しないでこまめに水分を摂ってね」

「うん……オアシス、まだかな……」

「もうすぐさ……」

 何はともあれ、注意した方がいいな。

 暑さで全員の集中力が落ちている。

 現代のサバイバルの定石で言えば、日中は穴を掘って水を確保しつつ自分もタコツボで眠り、夜中に移動することが薦められる。

 しかし、この世界の砂漠ではそうはいかない。

 夜中の砂漠は危険すぎる。

 こちらの視界が利かない状態で、デザートホーネット団から一方的に撃たれることになるのだ。

 前にポールを救出しに行ったときに、そのヤバさは十二分に理解した。

 日中なら『アース・ウィンド』による不可視の奇襲が無いだけまだマシだが、やはりこの砂漠の環境に慣れているという点で、砂漠の民であるデザートホーネット団の方が有利だ。

 気を抜くわけにはいかない。

 しかし……。

「来ないな……」

「え?」

 頭に疑問符を浮かべてこちらを見るバニラに答えた。

「デザートホーネット団、襲ってこないな」

「あ、ああ。そうだね」

 バニラは今思い至ったという様子で頷いた。

「おいおい、大丈夫か? キャラバンの護衛で戦った相手だろ」

「ごめん、前回は襲われなかったから、つい」

 確か、バニラはスームスームからウミネコ海岸に行く際に襲撃されず、デザートホーネット団のアジトにも再び寄ってきたのだったな。

「そういえば、そんなことを言っていたな。どういうことだ? 元々、この辺りの盗賊というのは、騎馬民族が小競り合いを繰り返していた時代の戦士の末裔だろう。本来は、敵対する氏族や侵略を目論む余所者を襲撃して略奪することを黙認された、海で言うところの私掠船の乗組員のような連中だ。盗賊行為を自発的にやめることは考えにくいが……」

「うん、そこまでは知らないけど、ノーラも盗賊は先祖代々の生業だって言ってた。でも、僕たちは襲われなかったし、アジトに着いた後も歓迎してくれたし……そんなに悪い人たちじゃないのかもね」

 バニラの言う通り、コニーたちを襲う気が無いならそれでいい。

 盗賊稼業を休業しているのならば大歓迎だが、果たして本当にそうだろうか?

 この世界は原作に即してはいるが、ゲームの描写だけが全ての世界ではない。

 ダンディリオンとチコリの話以上にシリアスなことがある。

 少なくとも、盗賊との戦いは全年齢対象のゲームでは描けない有様になることが大半だ。

 決して優しいだけの世界ではないことは、俺も転移して二年余りの間によく理解している。

 それに……。

「(俺は襲われたけどな)」

「ん? 何か言った」

「いや、何でもない」

 そして、俺たちは一度もデザートホーネット団の襲撃を受けることなく、カワセミオアシスに到着した。

 

 

 オアシスにビークルを停めた俺たちは、他のキャラバンが同じタイミングで来ても邪魔にならないように、一か所に固まって場所を確保した。

 寝る場所はともかく、夕食は一緒に摂るつもりなので、一つの焚火を囲むようにして腰を下ろす。

 早速、俺は今日のために持ってきた食材をビークルから下ろして準備に取り掛かった。

 今日中に消費する前提で用意しているので、完全な乾き物ばかりではない。

 ヨーグルトと塩コショウとカレー粉に漬けた鶏の手羽元、トマトソース、オイル漬けのブルーチーズ、といった具合に、砂漠地帯のキャンプとは思えないほど豪勢な食材が並ぶ。

 しかし、この世界における食材の密封といえば、基本的には瓶詰だ。

 転移して二年ほど経つが、未だにプラスチックどころか缶詰の技術すら小耳に挟んだことが無い。

 瓶は重くて嵩張るので、こうしてアウトドアに食材を持ち出す際には些か不便だ。

 ポリエチレン製のジップロックがあれば、一部はそれで済んだのにな。

「凄いね。そんな本格的な感じなんだ」

「ナツメッグ博士からグレイの料理は凄いって聞いてたけど、私とは次元が違うよ……」

 焚火に掛けたスキレット上でいい音を奏でるタンドリーチキンもどきを覗き込みながら、バニラとコニーは感嘆の声を漏らした。

 前回の砂漠行きでは、俺はバニラとコニーとは別行動だった。

 デルロッチ貿易に同行していたとはいえ、砂漠のキャラバンの護衛では、二人の食糧事情は決していいものではなかったことだろう。

 硬い砂漠のパンと干し肉の晩餐か……。

 若い者が可哀想に……。

 まあ、その時の俺が一人で豪勢なキャンプ飯を食っていたかと言われれば、そんなことはなかったけどな。

 片っ端からデザートホーネット団をサーチアンドデストロイしていたわけだから、優雅なピクニックには程遠い状態だった。

 当然、俺の食事や睡眠の質もロクなものじゃない。

 あの時に比べれば、今日の夕食はどれだけマシなことか。

 最初のおもてなし料理がアウトドアというのもアレだが……。

「そういえば、二人にご馳走するのは初めてか。まあ、所詮は野営飯だ。あまり期待しないでくれよ」

 何を隠そう、保存食とはいえ、そろそろ消費期限がヤバそうな食材の処分も兼ねているからな。

 このトマトソースは先日作ったものではなく、もっと前に作って備蓄していたものだ。

 現代の缶詰やレトルトのような保存期間は望めない。

 俺の留守に備えてナツメッグ邸に食料の備蓄は必要だが、ひと月から数週間単位で消費していくしかないのだ。

「ほい、焼き上がったぞ。召し上がれ」

 食欲をそそるスパイスの香りに、バニラとコニーは真っ先にメインのタンドリーチキンに手を伸ばした。

 

 

「これ、すっごく美味しいよ! 香辛料がピリッとして、口の中に香りが広がって……」

「本当だ。コニーの言う通りだよ。それに皮もパリッとしてて、肉自体も美味しい」

「そうか、そいつはよかった。……うん、美味いな」

 砂漠で持ち歩くことを考えると、長時間に渡って漬け込むことはできなかったが、それでも十分に味は染みている。

 前世に負けず劣らず、この世界でも手羽は安価だ。

 調理法もさらに限られているので、ムネ肉やモモ肉に比べて需要が少ない。

 脂が多いので頻繁に食卓に乗せるのは考え物だが、たまにはいいだろう。

 タンドリーチキンと一緒に、酵母を使わない砂漠のパンで作ったブルスケッタを、交互に口に運ぶ。

 温めなおしたトマトソースとオイル漬けのチーズを乗せただけで、味気ないパンが格段に食べやすくなっていた。

 キャンプ飯にしては上出来じゃないか。

「お母さんにも食べさせてあげたいな……」

「おいおい、そこまで大した料理じゃ……まあ、ローズマリーさんが回復したら、お祝いに持って行ってやるか」

「本当!? 約束だよ」

 ゴールドーンまで【ジャガーノート】に乗った俺が鶏肉を運ぶ絵面は、なかなかにシュールだな……。

 その頃には、ジップロックともう少しクオリティの高いクーラーボックスを完成させたいものだ。

 まあ、ローズマリーなら、タンドリーチキンくらい、自由に動けるようになったら自分で作れるだろうけど。

 レシピさえ教えれば、もしかしたら俺以上の完成度で焼き上げるかもしれない。

 何せ主婦の年季が違うからな。

「それにしても、グレイは本当に料理が上手だね。これはナツメッグ博士が食事にうるさくなるのも頷けるよ」

 しみじみと言うコニーに、俺もこの世界に来たばかりの頃のナツメッグ博士を思い出した。

 出会ったばかりの頃の博士は「腹を満たせばいい」「病気にならなければいい」のコンボをぶちかましてきたものだ。

 今ではすっかり美食家だが。

「前は違ったの?」

「うん、グレイが来るまではいつも食事は簡単に済ませてばかりだったから。お母さんも医者の不養生って言ってた」

「へぇ、そうだったんだ」

 昔のナツメッグ博士を知らないバニラには想像もつかない話だろうな。

 

 

「ねぇ、ところでさ……」

 コニーは唐突に口を開いた。

 こちらをじっと見つめるコニーの視線に、思わず俺の食事の手も止まる。

「最近、マルガリータとはどうなの?」

「いや、どうって……」

 突然の問いに、俺は答えに窮した。

 そういえば、ミームー村に行ったときに、コニーとマルガリータは仲良くなっていたな。

 俺がナツメッグ邸にマルガリータを招いて、その帰りの汽車では俺とバニラが蚊帳の外にアウェーだった。

 まあ、コニーにとっても、自分がネフロに戻った後の友人の近況は気になるものか。

「毎日のように工房に来ていたよ。博士からビークルについて教わりつつ、俺の【ジャガーノート】の整備もしてくれている。今ではすっかりうちの工房にも馴染んでいるな」

 俺は食事の手を再び動かしながら答えた。

 マルガリータも本業の仕事があるだろうし、俺としては暇な日に来てもらえればと思っていたのだが、予想に反してマルガリータは連日うちの工房を訪れている。

 まあ、【ジャガーノート】のメンテンナンスは手厚くやってもらったし、美人が毎日のように顔を見せてくれるというのは悪くないが。

「そういうことじゃなくて……」

「……夕食はマルガリータも一緒に食っていくからな。彼女もうちの料理は気に入ってくれているよ」

「いや、だから……」

 コニーは呆れたようなため息とともに、一拍置いて言葉を続けた。

 

 

「……グレイは、いつマルガリータと結婚するの?」

「ぐヴォァッ!」

 コニーの放った爆弾に、俺は盛大にむせ込んだ。

 このタイミングで食わなきゃよかった……。

 しかし、いきなり結婚て……色々すっ飛ばしすぎだろ。

 何となく、コニーが色恋沙汰で詮索したがっているのはわかっていたが、まさかそこまで話が飛躍するとはな。

 根掘り葉掘りなんてレベルじゃないぞ。

「いきなり何を……っ! マルガリータから何か聞いたのか!?」

「え? 別に何も聞いてないけど? そもそも、ピジョン牧場で別れてから一度も会ってないし」

「それもそうか……」

 思わず詰め寄ってしまった。

 そして、思い出してしまった。

 先日、マルガリータが帰り際に放った意味深な一言を。

 それに、目が合うと慌てて視線を外し、真っ赤になりながら憮然とした表情でチラ見してくる姿も。あれは可愛かった。

 俺は鈍感系主人公ではない。

 マルガリータが俺にそれなりに好意を持ってくれていることはわかる。

 しかし、俺と彼女はまだ出会って日が浅い。

 向こうも俺の存在を話には聞いていたみたいだが、実際に言葉を交わしたのはつい最近だ。

 マルガリータの言う通り、手を出すのはまだ早いだろう……。

 ……いや、別に常に下心満載で彼女に接しているわけじゃないけどさ……。

「俺もマルガリータと初めて言葉を交わしたのは、君たちと同じくつい先日だ。まだお互いのことをよく知らないから、結婚も何も無いだろう」

「でも、マルガリータが言ってたよ。『腕利きのビークル乗りって聞いていたから、もっと粗野で品の無い男を想像していた。でも、思ったより……』」

「より……?」

「ふふ、これ以上は内緒」

 コニーは悪戯っぽく笑ってわざとらしく口を塞いだ。

 ケラケラを笑った拍子に、バニラからの貢ぎ物のイヤリングが焚火を反射して光る。

 おのれ、小娘……。

 しかし、ミームー村に滞在したとき、女子部屋ではそんなトークが……。

「やっぱり、二人ともいい感じなんだね。安心して、グレイ。私たちも応援してるから。ね、バニラ」

「え、ああ。もちろんだよ」

「お前ら……」

 何かを察したように生暖かい目を向けて来るコニーに居心地が悪くなり、この日はさっさと休むことにした。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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