steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
灼熱の砂漠を通り過ぎ、俺たちはコンドル砦に到着した。
相変わらず、デザートホーネット団は影も形も無い。
一度も襲撃されること無く、ガラガラ砂漠を渡り切った。
本当に妙な話だ。
俺が連中の恨みを買ったことは間違いない。
俺一人で砂漠に出たときは散々突撃してきたくせに、バニラとコニーが居れば遠目に姿を見せることすらしない。
まるで忌避剤だな。
俺への復讐がバニラとコニーを巻き込むほどのことではない……というわけではないな。
驚くべきは、大勢の仲間を殺した俺への攻撃を中止するほど、バニラとコニーが奴らに親愛の情を抱かれていることか。
まあ、平和なのはいいことだ。
できれば、デザートホーネット団とは今後一切関わらずに済ませたいが……そういうわけにもいかないだろうな。
一番厄介なイベントが、もうすぐ砂漠を舞台に展開される。
ブラッディマンティスによる油田の占拠と解放のための戦争は、ガラガラ砂漠での総力戦に発展するのだ。
その時にデザートホーネット団がどう関わってくるか……まあ、そこら辺は今考えても仕方ないな。
とりあえずは目先のことに集中だ。
ハッピーガーランドの南西の門を潜ると、見覚えのあるビークルが近づいてきた。
長距離キャノンアームを装備した青いビークルだ。
フェンネルの愛機【ブルー・サンダー】だった。
「よう」
俺たちを見つけたフェンネルが声を掛けてくる。
ここの展開は原作通りだな。
まさかここまでピンポイントで同じイベントが起こるとは……。
「来ないのかと思ったぜ」
「いや、今年は出るさ」
フェンネルは俺を見て僅かに笑みを浮かべた。
以前、フェンネルには今年のトーナメントに出ることを伝えていたからな。
バニラも俺たちの会話を聞いて合点がいった様子だ。
「そうか、フェンネルもビークルバトルトーナメントに……」
「ああ、もちろん俺も出るぜ。……ところで、ダッドリーを見なかったか? グレイが来たのなら、あとはあいつだけだ」
「見てないな。やはり時間通り来なかったか」
「まあ、あいつのことだ。ビビッて逃げたのかもしれん」
ダッドリーは正式に辞退を伝えずにすっぽかしたようだ。
そこも原作通りだな。
悪し様にダッドリーを罵ってはいるが、わざわざフェンネル自ら探しに来る辺り、面倒見がいいというか貧乏くじというか……。
「ちょうどいいな。フェンネル、ダッドリーが来ないなら枠が一つ空くだろ。バニラを推薦しないか?」
「ほう、そいつは名案だ。これ以上、ダッドリーの奴なんか待ってられん」
バニラはやはりといった表情で顔を強張らせている。
まあ、さすがに未知の強敵と続けざまに戦うのは怖いよな。
俺も原作の予備知識があるとはいえ、この世界で実際にやるビークルバトルはゲームとは違う。
現実はHP制ではなく、一発でビークルが大破する可能性もあれば、コクピットに乗っている人間が負傷したり死んだりすることもあり得る。
俺だってバトルに出場するときは、それなりの恐怖と緊張感があるのだ。
戦わないで済むのならそれにこしたことはないが……俺もバニラもこの世界の動乱の中心に居る以上、そういうわけにはいかない。
それに、盗賊との戦闘に比べれば遥かに安全なビークルバトルを敢えて断らせる手は無いだろう。
「バニラ君、ビークルバトルトーナメントは由緒ある素晴らしいイベントだ。この私とフェンネル卿の推薦を同時に受けるとは、非常に名誉なことである。再確認になるが……もちろん、参加するよな?」
「わ、わかったよ。どうせ、断れないんだろう……」
「去年まで出場を無下に断っていた奴がどの口で言うんだか……。まあいい、それじゃあエントリーの手続きをしよう」
颯爽と【ブルー・サンダー】を旋回させたフェンネルに続き、俺たちはガーランド闘技場へ向かった。
「ところで、ビークルの調子が良さそうじゃないか」
「お、わかるか?」
「ああ、どこがと言われても困るが、何となく今までの【ジャガーノート】と違うのは感じるぜ」
「まあ、フェンネルの言う通りだな。最近、腕利きの整備士に出会ってね。ミームー村のマルガリータという女性だ。まだビークルに触り始めて日が浅いのだが、ナツメッグ博士にも認められて、今はウチに出入りしながら正式に指南を受けているところだ。俺の【ジャガーノート】も彼女がメンテナンスしてくれた」
「ほう、あの爺さんがまた新しく弟子を取るとはな……」
肝心のバニラの登録は、俺とフェンネルの二人の推薦があったためか、滞りなく終了した。
俺とフェンネルは既に大会の運営から出場要請を受けて受領しているので、到着の報告のみで必要な話は済む。
これで試合前の手続きは完了だ。
そして、そのまま一回戦に……とはいかない。
原作では、ハッピーガーランドに入ったらフェンネルのイベントが起こってそのまま決勝までノンストップだったが、現実ではそうはいかない。
こちとら砂漠を渡ってきてクタクタなのだ。
トーナメントの準備を済ませた俺たちは、ロブスター亭でたっぷりと惰眠を貪り、試合当日までのんびりと過ごして、しっかりと英気を養った。
少し早めに出てきて正解だったな。
待っている間にダッドリーが到着したら、バニラをトーナメントに捻じ込む手続きで面倒なことになるかと思ったが、やはり彼は直前になっても現れない。
ここは原作通りの展開になるようだ。
そして、トーナメント当日。
俺はバニラとコニーと連れ立ってガーランド闘技場へ向かい、控室でフェンネルと合流した。
「それじゃあ、頑張ってね。客席で応援してるから」
コニーは原作よりも近い距離でバニラを激励した。
緊張で顔が強張っていたバニラの表情がいくらか和らぐ。
単純なことだ……。
「フェンネルとグレイも頑張ってね」
「ああ」
「…………」
コニーは振り向いて俺たちにも声援をくれたが、フェンネルは答えない。
バニラは少し心配そうな様子を見せたが、当のコニーは特に気にすることなく踵を返して観客席の方へ向かった。
フェンネルは悪意があってコニーを無視しているわけではなく、言葉が選べず返答に困っているだけだ。
俺はバニラが現れる前のトロット楽団でそれなりの時間を共にしてきたからわかるが、そりゃ事情を知らない人間からすれば困惑するよな。
「(やれやれ……)ほれ、二人とも。緒戦の予定だ。確認しとけ」
「……ああ」
「うん」
俺は若干呆れながらも、闘技場の係員から貰ってきた対戦表の写しを二人に見せた。
生返事をしたフェンネルは自分の名前を確認し、バニラに向かって口を開く。
「さて、一回戦のお前の相手は……」
「お久しぶりです。バニラ君」
横合いから掛けられた声に俺たちは振り向いた。
予想外の人物の登場に、バニラは唖然とした表情を見せる。
雰囲気の変わりようから、一瞬誰だか分らなかったようだ。
そのことは相手も悟ったようで、改めて名乗った。
「ジミーだよ。スームスームではどうも。君もトーナメントに出場するんだね。でも、君なら当たり前か」
そう、腰抜けジミーがバニラの一回戦の相手だ。
いや、既に彼は腰抜けではない。
積極的に相手のビークルを掴みに行くグラップラーへと変貌しており、口調も自信に満ちている。
スームスームでの一件で一皮むけたジミーは、この短期間でバトル経験を積み、ランクもCまで上げてきているのだ。
ビークルバトラー全体で見れば決して高ランクとは言えないが、最近の活躍が目覚ましく急激に知名度を上げつつある期待の新人。
まさにこの一攫千金の一大イベントにうってつけの存在だ。
「それじゃあ、行くよ。いいバトルをしよう」
そのままジミーは踵を返し、俺にも軽く会釈をして去っていった。
今までのオドオドと人の顔色を窺ってばかりだったジミーとは本当に別人のようだ。
「初めて見る奴だな……。でも、気を引き締めていけよ」
フェンネルに頷いたバニラは、緊張した面持ちのまま【カモミール・タイプⅡ】に乗り込み、試合会場へと向かっていった。
「さて、俺も準備するかな」
トーナメントに出場するビークルバトラーは全部で九人。
チャンピオンのエルダーに予選を戦う挑戦者が八人だ。
組み合わせはその都度発表されるので、選手は直前まで誰と当たるかはわからない。
当然、観客にもそこら辺は公表されていないので、究極のマッチメイクが実現するかどうかの期待を煽れる仕組みだ。
ゲームだと、バニラを操作するプレイヤーは一回戦でジミー、二回戦でフェンネル、三回戦の準決勝でシュナイダー、決勝でエルダーと戦うことになる。
大会の運営サイドではブロック表も決まっているはずなので、俺の一回戦の相手がフェンネルでなかった時点で、俺はバニラとジミーとフェンネルが居るのとは別の、シュナイダーが居るブロックだ。
原作では描かれなかったフェンネルの一回戦の相手は……。
「やはり知らない奴だな」
「どれどれ……ほうバーナードか」
スーム闘技場のBランクバトラーだな。
スームスームの警察官で、警察ビークルの高機動型カスタムに搭乗している。
そういえば、原作ではフェンネルが他の出場者についてネフロのシュナイダー以外は知らない奴ばかりと言っていたな。
バーナードはメインストーリーには関わらないが、普通にスーム闘技場で対戦できる選手だ。
フェンネルが知らないというのは……まあ、バーナードがビークルバトルに出始めたのは最近のようだし、彼がトーナメントへ参加するのも初めてなのだろう。
それならば、主にガーランド闘技場で活動し、バンド活動でも忙しいフェンネルが知らないのも無知は無いか。
「知ってるのか?」
「ああ、スーム警察の高速ビークル隊のエリートだな。ライセンスは格下だが、油断はするなよ」
「言われるまでも無い」
「ところで、今年の出場者はフェンネルも知らないビークル乗りばかりか?」
「そうだな……いや、ガーランド闘技場から出ている奴が俺とエルダーの他にもう一人居るな。ちょうど、お前の一回戦の相手に……」
フェンネルは対戦表の俺の欄を再度確認する。
「お前の相手はサフランか。俺と同じこの闘技場のAランク……なかなか厄介な相手だぞ」
フェンネルの言う通り、俺の一回戦の相手は“女帝”サフランことビスカスだ。
ヒモ野郎に騙されていた可哀想な女性で、彼女のサブイベントは諸事情によって原作シナリオ開始前に俺が片付ける羽目になった。
リッキーの件以来、彼女とはあまり話していないが、こうして華々しく活躍しているのならもう大丈夫そうだな。
原作では、フェンネルが把握していなかった辺り、トーナメントには出場していないのだろうが、今回は腕を上げて着実に実績を積み上げているようだ。
そして、彼女とは緒戦で当たる。
……俺の最初の対戦相手はフェンネルではない。
そうなると、俺は二回戦でシュナイダーと当たることになるな。
彼との対戦は前回のネフロでの試合以来控えていたが、やはりここで衝突することになるわけか……。
そして、準決勝の相手がバニラかフェンネルだ。
……恐らくバニラになるだろうな。
彼は既にSランク相当の腕を持っており、装備もトライデントアームにガトリングアームと武装も十分だ。
何はともあれ、トーナメントの割り当ては決まった。
俺の一人目の対戦相手はサフラン、そして二回戦の相手はほぼ確実に一年ぶりのシュナイダーだ。
負けられない戦いだ。
俺は【ジャガーノート】の駆動チェックを入念に済ませ、自分の出番が来るのをじっと控室で待った。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。