steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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80話 ビークルバトルトーナメント 2

 

 闘技場の係員から、俺より先に第一試合を終えたバニラとフェンネルの結果を聞いた。

 二人とも、無事に緒戦突破だ。

 俺も気を引き締めていかないとな。

 準備は万端だ。

 しっかりと休息を取って砂漠での疲れは癒しているし、【ジャガーノート】のメンテナンスも完璧である。

 マルガリータの整備によって、俺のビークルは特にエンジンと駆動系に磨きがかかっている。

 慣らし運転も牧場で十分に行った。

 砂漠を渡ったことによる砂埃によるダメージは……一応、整備場で洗浄とオイル差しはしてもらったので、大丈夫と信じたいな。

「……よし」

 そろそろ俺の名前も呼ばれそうなので、こちらもビークルのエンジンを掛けておこうと思いエンジンキーを取り出す。

 しかし、俺がキーを捻ろうとしたところで、横合いから聞き覚えのある声が掛けられた。

「グレイ、少しいいかしら?」

「……ああ、大丈夫だ。久しぶりだな」

 俺は一旦【ジャガーノート】から声の主へ意識を移した。

 

 

 俺の目の前に現れたのは、露出度の高い衣装を纏った妖艶な美女……かどうかはわからない。仮面があるから。

 まあ、仮面をつけていないときも、彼女は分厚い眼鏡を掛けていたので、素顔をはっきりと認識しているわけではないのだが……。

 声を掛けてきたのは“女帝”の異名を持つAランクバトラーのサフランだ。

 俺の一回目の対戦相手である。

 以前、俺がリッキーをぶちのめした後、サフランはしばらくビークルバトルに出場しなかった。

 その後はちょくちょく試合に出始めた話は聞いたものの、俺もトロット楽団の仕事などが忙しかったため、彼女と戦う機会は無かった。

 噂では、以前より強くなったと聞いているが……。

「そういえば、最近会ってなかったな。調子はどうだい?」

「ええ、おかげさまで、絶好調よ」

 仮面越しだが、前よりも血色がいいことがわかる。

 初対面の頃は周りが目に入っていないような印象を受けたが、今はそのような刺々しい空気も纏っていない。

 これは、リッキーのことに折り合いが付けられたってことでいいのかな。

 まあ、今更蒸し返す話題でもないが……そうなると何を話せばいいんだ?

「え~と……」

「あの人のことなら、もう大丈夫よ。確かに、必死に稼ぐ理由も勝敗にこだわる理由も無くなっちゃったけど。でも、私はこうしてビークルバトルを続けている。今は、自分のためにね」

 俺が言い淀んでいると、サフランの方から話を続けてくれた。

 近況についてポジティブな内容なのがありがたい。

「不思議なものね。以前の私は、とにかく勝たなきゃ、条件のいいスポンサーの目に留まらなきゃ、1URでも多く稼がなきゃ、って思ってたのに……。リッキーと別れてからの方が、勝率も格段に上がったし、スポンサーもさらに条件のいいところが契約してくれたし、稼ぎも良くなったわ」

「そうか。よかったじゃないか。今は稼いだ金も自分のために使えるだろ」

「ええ、贅沢すぎる悩みだけど、使いきれなくて困ってる。あ、それとね。最近、Sランクへの昇格も見えてきたわ」

「そいつは凄いな」

 Sランクといえば、Kランクのエルダーを除いて、この地方では俺とシュナイダー以外に居ない最高ランクだ。

 そこに手が届くところまで上り詰めるとは、サフランは相当な研鑽を積んだようだな。

 きっと今のサフランは強い。以前よりも、原作よりも。

 

 

「グレイ、リッキーの件の後、私は物凄く努力した。あなたに比べれば、取るに足らないものかもしれないけど、それでも私なりに真剣にビークルバトルに取り組んできたわ」

「ああ」

 サフランの努力に関してはよくわかる。

 俺も長いことAランクを続けて、トーナメントではなく正攻法でSランクまで昇格した人間だ。

 そして、サフランは一拍置いて言葉を続けようとして、急に俯いて言い淀んだ。

「あの、ね……だから、っていうのも変だけど……あなたには、そもそも関係のないことなのにアレだけど……」

 サフランは深呼吸してから、覚悟を決めたように口を開いた。

「もし、私が勝ったら……一つだけ、お願いを聞いてくれない?」

「おいおい。どうした? 改まって。困っていることがあるなら、別に条件なんか付けなくても手を貸すくらい……」

「大切なことなの! だから、お願い……」

「……そんなにヤバイ頼みごとなのか?」

 結局、肝心なことを何も伝えられていないにも等しいが、サフランの雰囲気だけでも厄介な頼み事であることがわかる。

 気軽に頼むことができない内容なのは明白だ。

 さて、面倒なことになったぞ。

 高い飯や酒を奢らされるくらいならまだマシだが、サフランの言うお願いとは、それ以上のもののような雰囲気だ。

 さすがに殺しの依頼や国家反逆罪に問われるような仕事の片棒を担がされるのは勘弁してもらいたいのだが……。

「べ、別にそんな重い負担を強いるものじゃないから。いや、重いといえば重いんだけど……」

 そう言われると余計に気になる。

 原作におけるサフランのイベントはリッキー絡みだけだったこともあり、彼女の言う頼みが何か全く想像がつかない。

「先に用件だけでも教えてくれないのか?」

「ふふっ、それはダメ」

 サフランは悪戯っぽく笑ってはぐらかした。

 いや、本当に困るんだけど……。

「即答はしかね「グレイさん! サフランさん! 入場の準備をお願いします」」

 そんな終着点の無い問答をサフランと続けていると、係員が俺とサフランの名前を呼んだ。

 試合の時間が来てしまった。

 サフランは俺との会話を打ち切って踵を返した。

「お、おい……」

「約束ですからね!」

 一方的な念押しをして、サフランは愛機【スティール・モラル】に向かう。

 そのままこちらを一瞥することすら無く、彼女は入場用のリフトへビークルを進めてしまった。

 試合前には呑気に話していたが、今を以て彼女とはライバル同士だ。

「まったく……」

 俺は【ジャガーノート】のエンジンを起動すると、こちらも入場用リフトにビークルを乗り入れ、試合会場へとリングインした。

 

 

 

「「「「「「「「「「わぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああ!!」」」」」」」」」」

 いつものガーランド闘技場の数倍とも思える音量の完成が響く中、俺とサフランは試合場へビークルを乗り入れた。

 ゆっくりと視線が上がり、観客席の一部から徐々に試合場の全容が把握できる位置まで視野が移動する。

 完全に地上に出たところで、強かな振動とともにリフトが停止した。

「「「うぉぉおおお! やっちまえ!!」」」

「グレェイ!!  蜂の巣にしちまえぇ!」

「叩っ斬れ!」

「「「サフランさまぁ~!!」」」

「たまんねぇ!」

「俺の尻もウィップアームで殴ってくれぇ!」

 リフトを駆動させるパーツが鳴らす機械音は、闘技場全体に満ちる歓声にいとも簡単にかき消される。

 盛り上がってくれるのは結構なことだが、一部にお近づきになりたくない連中の声が混じっているな……。

 さて、気を取り直して正面を見据えると、対戦相手のビークルも俺と同時に姿を見せていた。

 サフランの登場する【スティール・モラル】は、範囲攻撃を可能とする強力な中距離武器ウィップアームを装備している。

 ウィップアームは攻撃範囲が広く躱すのが困難なので、なかなかに厄介な武装だ。

 さらに、【スティール・モラル】はレッグパーツが鳥脚ノーマルM強化型であるため機動力が高い。

 しかし、サフランのビークルは左がノーマルアームで武装を持たず、他も装飾用の装備ばかりで、原作では特筆すべき脅威など無い相手だった。

 ウィップアームの挙動は隙が大きいので、ガードするかダメージ覚悟で突っ込んで、そのまま持ち上げて投げからの追い打ちを繰り返せば、基本的には削り切れる、

 しかし、今俺の目の前に居るサフランのビークルは、明らかに俺の記憶とは別物だ。

 ボディパーツが珍しい耐水ボディMであることと、派手なブレストパーツは変わらない ……いや、マスクブレストの後ろには装甲が貼られているようだ。

 風防パーツもウサギ耳の飾りはそのままだが、コクピット周りが少しゴツいな。

 従来のバニールーフにプロテクター機能を追加したか。

 何より一番の違いは、以前はウィップアームだけだった武装に加えて、左にスナイパーアームを装備している点だ。

 そう来たか……。

 スナイパーアームは弾速がそれなりに早く使いやすいので初心者プレイヤーに人気の武器だが、原作のライバルバトラーが一人も使っていない唯一の遠距離武器だった。

 ボウガンアームは……セイボリーの【ワイルド・ストロベリー】が戦闘仕様のときに使うのでノーカンで。

 何はともあれ、ゲーム上でも使われたことが無い武器を装備した相手と戦うとなると、やはり緊張するものだ。

「(ふふっ)」

 正面に見据えたサフランが仮面の下で笑ったような気がする。

 そして、闘技場に試合開始を告げる号砲が轟き、俺たちは同時にスラスターを利用したダッシュ移動でビークルを滑らした。

 

 

“ナツメッグ博士の右腕” グレイ 【ジャガーノート】

vs

“女帝” サフラン 【スティール・モラル】

 

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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