steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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81話 ビークルバトルトーナメント3(サフラン戦)

 

 サフランは開幕からカードを切ってきた。

 スラスターを噴射したダッシュ移動と急制動を利用して、不規則に遮蔽物の間をすり抜ける俺に、【スティール・モラル】のスナイパーアームから放たれた弾丸が向かってくる。

 新装備は隠し玉として使ってくると思ったが、いきなりの発砲だ。

 少し面食らった。

 スナイパーアームの弾薬の規格はガトリングアームや俺のチェーンガンアームと共通、それでいてフルオート機構を搭載しておらず連射が利かない。

 火力に関しては言わずもがな、精度も俺のチェーンガンに劣る。

 それでも、俺の愛用する火器と同じ高速弾が飛んでくる状況は、何よりそれを扱うビークル乗りがSランクも間近の腕利きともなれば、この試合が一筋縄ではいかないことを容易に想像できる。

 それに、盗賊との戦いならば奇襲とアウトレンジからの一方的な狙撃でコクピットを狙うことも定石だが、これはビークルバトルだ。

 競技であり、ゲームであり、ショーでもある。

 早撃ち勝負をするつもりが無かった俺は、チェーンガンによる応射を思い留まり回避行動を取った。

「うぉっと!」

 サフランの放ったスナイパーアームの弾丸は【ジャガーノート】のボディすれすれの位置に飛んできた。

 まともにヒットはしておらず、仮にボディへ被弾したとしても【ジャガーノート】の装甲であれば一発程度どうということはないはずだ。

 しかし、それでも弾丸が自分のビークルに向かって正確に飛んでくるという状況はなかなかにキツい。

 コクピットに当たれば、俺は車載火器の大口径弾で挽き肉である。

 サフランは射撃武器の扱いにそれほど熟達しているわけではないはずだ。

 それにもかかわらず、不規則な挙動をする俺のビークルにここまで正確な射撃をカマしてくるとは……高ランクバトラーの肩書は伊達じゃない。

 半端ない適応力だ。

 一回戦から厳しい戦いになりそうだ。

 

 

「うふ……どうしたのぉ? グレイ」

 大岩の影にビークルを滑り込ませた俺を、サフランは嗜虐的な声で嘲笑った。

 きっと彼女の顔は気味の悪い笑みで歪んでいることだろう。

 あれは真性のドSだ……。

 恐らく、ビークルに乗っているときだけ。

 控室で話したときも彼女の自宅で会ったときも、サフランの印象は普通の女性だったが、ビークルバトルでは豹変するようだな。

「逃げ場は無いぞ~!」

「そのまま我らの女王様の糧となるがいい~!」

 うるさい野次に続いて、鋭い風切り音が俺の耳に届く。

 音の方向から迫りくる脅威を何となく察した俺は、大岩の陰から斜めにビークルの左アームを突き出し、トリガーを引いてチェーンガンを乱射した。

「っ!」

 案の定、岩陰には【スティール・モラル】の装備するウィップアームの先端が僅かに見えた。

 しかし、遮蔽物の横から回り込んで俺を捉えようとしていた鞭は、すぐに軌道を変えて引っ込んだ。

 俺はチェーンガンで鞭を撃ち落とそうと試みたが、どうやら直前でこちらの発砲は察知されたようだ。

 なかなかの反応速度だ。

「危なかったわぁ」

 いつの間にか、【スティール・モラル】は俺をウィップアームの射程内に捉える位置まで接近していた。

 ウィップアームは広い場所で効果を発揮する武器だが、サフランほどの熟練者になると遮蔽物を上手く利用してくる。

 ゲームでも、こちらの射撃武器の直線的な攻撃はオブジェクトに着弾すると貫通せず消えてしまうにもかかわらず、サフランのウィップアームは攻撃範囲の広さゆえに横合いから直撃してくる、なんて現象がよくあった。

 その一方的に攻撃を食らうシチュエーションが現実でも再現されてしまうのだから、今の状況は本当に厄介だ。

 さらに痛いのは、ゲーム上のビークルバトルはHP制なので、どんなに強力な武器でも一発程度なら攻撃を食らっても大丈夫だが、現実では一撃でビークルがお釈迦に、もしくは操縦手が死ぬこともあり得る点だ。

 ゲームにおけるサフランの攻略法は、ダメージを気にせず接近して投げて追い打ちをすることだった。

 一発の攻撃が致命傷となり得る現実では取りづらい戦法故に、俺は簡単には攻撃に転じることができなかった。

 

 

 またしても死角から襲ってくるウィップアームを、俺はチェーンガンで迎撃した。

 歪な挙動でこちらの弾幕を避けつつ接近してきた鞭の先端は、【ジャガーノート】を後退させることで躱したが、今度は遮蔽物から身を晒したところを見計らうように、スナイパーアームの銃弾が撃ち込まれる。

 敵の射撃を回避しつつ、俺はまたビークルを反転させてウィップアームを撃ち落として破壊しようと試みるが、既に鞭は【スティール・モラル】の右アームのウインチで巻き戻されていた。

「うふふ……あなたの魂胆はお見通しよ。何度も煮え湯を飲まされたから」

 今までサフランと試合をしたことは何度かあるが、その時はこの戦法で一方的に倒せていた。

 たとえ不利な位置に追い込まれても、ウィップアームを破壊するか、もしくは距離を取ってアームの可動部をチェーンガンで撃ち抜き機能を停止させれば、そこで決着だ。

 ゲーム通りではないが、俺なりにこの世界におけるビークルバトルの定石と敵の動きを鑑みて見出したサフラン対策である。

 しかし、サフランは強くなった。

 同じ手が何度も通用する相手ではないことは、こうして身を以て思い知らされている。

 少し奇策を講じるべきか……。

「ん? 何を企んでいるのかしらぁ?」

「ちっ、鬱陶しい」

 俺が遮蔽物の陰でコソコソと動いていると、すかさずサフランはウィップアームを回り込むように飛ばしてくる。

 エンジンを貫かれるのは避けたが、合金の鞭の先端は【ジャガーノート】のミスリル合金ボディに浅く傷をつけた。

 こちらの姿は目視できないはずなのにこの正確さだ。

 嫌になるな。

「っとと、これで……」

 サフランのドS攻撃を凌ぎ、どうにか準備を整えた俺は、ゆっくりと【ジャガーノート】を反転させる。

 稼働音と振動でサフランにも俺が動いているのは伝わったらしく、彼女が再びウィップアームを構えるアームの稼働音が響いた。

 どうやら、こちらの動きに合わせて再び横合いからビークルの急所を狙う作戦のようだ。

「うふふぅ……無駄よぉ」

「それはどうかな」

「っ!」

 次の瞬間、サフランは慌てて【スティール・モラル】のスラスターを起動してその場を離脱した。

 

 

 サフランが慌てて飛び退いた位置では、轟音と共に大きく土埃が舞った。

 状況を見れば、明らかに大質量を持つ物体が投げ込まれたことがわかる。

 徐々に埃が地面に落ちて視界が確保できるようになると、先ほど投げ込まれた物体の正体が明らかになった。

 俺が遮蔽物越しに投擲したのは、試合場にオブジェクトとして設置されていた大岩だった。

 命中していればサフランの【スティール・モラル】はペシャンコになっていたことだろう。

「っ! しまった!」

「っラァ!」

 当然、これだけで終わらせるわけがない。

 サフランが俺を見失った隙を突き、俺は【ジャガーノート】を横にスライドさせて、サフランから見て左手側に回り込む。

 サフランはどうにか俺の姿を認識して慌ててスナイパーアームで迎撃しようとしてきたが、俺が撃つ方が早い。

 チェーンガンの銃弾は【スティール・モラル】のスナイパーアームを付け根から吹き飛ばした。

 サフランが放った銃弾は明後日の方向に飛び去る。

 アームの器用さを利用してオブジェクトを投げつけるという戦法は、トロットビークルを用いた戦闘では珍しくない動作だ。

 現代の車載火器を知っている身としては少しコスパの悪い動作に思えるが、武装を持たない一般ビークルでも可能な戦闘方法なので、意外と需要がある機能だ。

 ビークルバトラーでは多くの者がアームパーツに装備した武装を主に使って戦うが、シュナイダーなどがこの機能を多用する。

 彼は格闘戦仕様のビークルの出力を利用して、オブジェクトの投擲や相手のビークルにグラップル戦を仕掛けることを得意としているのだ。

 大岩を投げ込んで視界を塞ぎ、同時に突っ込んで接近戦を仕掛ける戦法は、以前に俺も食らったことがあるシュナイダーの十八番だ。

 俺は近距離戦を得意としているわけではないので、シュナイダーの戦術の一部だけをコピーさせてもらった。

「くっ」

 サフランは苦し紛れにウィップアームを振るってきたが、アームパーツを片方無くした状態では機体のバランスが普段と違っており、まともに踏ん張って狙いを定めることができない。

 いつもより数段はキレが落ちる鞭の先端は、俺が振るった強化ブレードに簡単に斬り落とされた。

 そのまま刃筋を立てるように意識してもう一度強化ブレードアームを振るえば、今度はウィップアームの鞭部分が真ん中から切断される。

「あっ……このっ!」

 武装を完全に奪った以上、最早サフランに勝ち目が無いことは本人にもわかっているはずだが、彼女は動きを止めることなく俺に向かってきた。

 正直、今までのバトルでここまで粘ってきた相手はほとんど居ない。

 ビークルバトルは競技であって殺し合いではないのだ。

 一部の例外を除いて、ある程度のレベルのバトラーならば、お互いに危険なプレーはしない。

 ルールではないが、良識の範囲で戦うことが暗黙の了解である。

「私は……負けるわけには、いかない!!」

 サフランは既にまともな制御が出来なくなったウィップアームを振りかざし、中ほどから切断された金属のワイヤーを【ジャガーノート】に叩きつけようと試みた。

 正直、何が彼女をここまで突き動かしているのか定かではないが、このままでは色々とマズい。

「悪いな」

「あっ……」

 俺は【ジャガーノート】を斜めに後退させて【スティール・モラル】から距離を取ると、チェーンガンを点射した。

 損傷が激しくバランスが崩れていた【スティール・モラル】には、サフランの腕を以てしても俺の弾丸を躱すほどの機動力は残されていなかった。

 軽快な炸裂音と同時に徹甲弾が鋼のボディを抉る嫌な音が試合場に木霊する。

 そして、俺がチェーンガンアームを下ろして戦闘態勢を解除したときには、エンジンを破壊されたサフランのビークルは動きを止めていた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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