steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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82話 ビークルバトルトーナメント4

 

 俺のビークルバトルトーナメント一回戦は、無事に勝利で幕を閉じた。

 審判の勝者を告げる声に続いて、試合場には歓声が響き渡る。

 観客にとってもなかなか見応えのあるバトルだったらしく、俺と対戦相手のサフランには惜しみない拍手が送られた。

 斜に構えたところで、称賛を受けるのは気持ちいいものだ。

 しかし、そんな俺のドヤ顔は一瞬にして凍り付くことになる。

「っ! マズいっ!」

 俺のチェーンガンの掃射を受けて活動を停止した【スティール・モラル】からは、ボタボタと黒い液体が流れ出ていた。

 どうやら、俺は誤って燃料タンクを撃ち抜いてしまったようだ。

 普段ならこのようなミスはしないが、サフランの【スティール・モラル】は前面が派手なマスクブレストで装飾されているので、燃料タンクの位置がわかりにくい。

 おまけに、サフランが予想外の粘りを見せたために、些か慌てて制圧したことも原因だろう。

 あのままでは【スティール・モラル】が爆発炎上しかねない。

「サフラン! 早く脱出を……っ!」

「え……きゃあ!!」

俺の声は、突如起こった眩い閃光と熱風にかき消された。

 俺が放ったチェーンガンの弾は、エンジンを撃ち抜いた際に電気系統も中途半端に傷つけていたようだ。

 スパークの火花が燃料に引火したサフランのビークルは、足元から一気に炎に包まれた。

 

 

「サフラン!」

「だ、大丈夫、何とか……」

 サフランのビークルは炎に包まれたが、幸いコクピットは無事なようだ。

 トロットビークルは四メートルほどの高さを持つので、地面とレッグパーツで漏れたガソリンが炎上した程度なら、座席の人間にまで影響が及ぶことは少ない。

 もちろん、弾薬ボックスや燃料タンクそのものを爆発させたら、ビークル全体が木端微塵で操縦手も挽き肉だが……。

 そういう意味では運が良かったな。

 見る限り、サフランは無傷だ。

 しかし……。

「おい! 早く降りろ!」

「あ、脚が……」

「マジかよ……」

 最悪だ。

 ビークルの操縦席が潰れて、サフランは脚を挟まれて身動きが取れなくなっているようだ。

 交通事故の事例として聞いたことがある状況ではあるが、まさか実際に目の当たりにするとは、しかも自分が原因で起こるとはな……。

「「「「「サフラン様~!!!!!」」」」」

「じょ、女王様が~!」

「は、早く、係員を……」

「グレイの野郎……俺の飼い主様を……」

 気持ち悪い観客の声を無視して、俺は【ジャガーノート】を加速させた。

 そのまま一気に【スティール・モラル】の目の前まで接近し、俺は強化ブレードアームを振るう。

 狙いすまして放った斬撃は、【スティール・モラル】の耐水ボディMの前面を大きく抉るように切り落とした。

 そのまま露出したボディパーツの内部をアームで掴み、引き千切るように引っ張る。

 効率は悪いが、下手にこれ以上ブレードを差し込むとサフランの体を傷つけかねない。

 何度か強引な解体動作を繰り返している内に、【スティール・モラル】のコクピットは座席の周囲を歪ませるようにして広がった。

「グ、グレイ、あなた……」

「こっちに移れ!」

 俺は【ジャガーノート】のボディを前面に傾けてサフランへ手を伸ばした。

 最初は呆けていたサフランも、はっと我に返ったような表情で、必死に俺の腕を掴もうと試みる。

 映画ならスリリング且つロマンチックな光景だろうが、現実でいつ爆発するかわからない状態だと焦りと恐怖しかない。

 俺が限界までコクピットから体を乗り出すと、どうにかサフランの手を掴むことに成功した。

 そのまま【ジャガーノート】のアームで【スティール・モラル】の分解を続けつつ、俺はサフランを潰れたコクピットから引き摺り出す。

 不自然な体勢なので人一人の重量を引き揚げるのは一苦労だ。

 とはいえ、サフランの名誉と自分の見栄のことを鑑みると、それを口にするのはもちろん顔に出すのも憚られたので、俺は可能な限り表情を隠しながら腕を引いた。

 そしてついに、サフランの足先が【スティール・モラル】のコクピットから抜け出す。

 サフランはどうにか俺にしがみつくようにして、【ジャガーノート】のコクピットに乗り移ってきた。

「うぉ!」

「きゃあ!」

 ちょうどそのタイミングで、先ほどまでサフランが乗っていた【スティール・モラル】から続けざまに炸裂音が響いた。

 ビークル全体が爆発したわけではないが、燃え盛る火が原因でスナイパーアームの弾薬が誘爆したようだ。

 俺は咄嗟にビークルを反転させたので、破片は【ジャガーノート】のミスリル装甲に弾かれており、コクピットの俺とサフランに被害は無い。

 しかし、【スティール・モラル】の弾薬ボックス周辺には大きく亀裂が入っており、操縦席には破片が飛んでいる。

 あのままサフランが自分のビークルに搭乗し続けていたら、彼女は大怪我をしていたはずだ。

「間一髪だな……」

「…………」

 この段階になってようやく闘技場の係員が担架を持って駆けつけてきたので、俺はサフランのことを彼らに任せて【ジャガーノート】に乗って退場した。

 

 

 

 

 闘技場の選手控室の隅にある救護所では、先ほど試合場から緊急搬送されたサフランが簡易ベッドに横たわっていた。

 ビークルはズタボロの黒焦げだが、奇跡的に彼女は無傷だった。

 潰れたコクピットで挟んだ脚も、少し打撲がある程度で入院は必要ないらしい。

 本当に運のいいことだ。

「負け、ちゃったか……」

 サフランは天井を眺めながらポツリと呟いた。

 当然、彼女が声を掛けた先は俺だ

 何故か、本人の希望で俺はベッド上のサフランに付き添っている。

 休むだけなら俺は必要ないと思うけどな……。

 まあ、仕方ない。

 サフランの怪我と消耗の原因は俺だ。

 二回戦まではまだ時間があるので、そのくらいの要望なら聞くさ。

「スナイパーアーム、全然当たらなかったわ」

「まあ、年季が違うからな。俺はずっとチェーンガンアームを使って戦ってきた。自分で言うのもなんだが、射撃技術には自信がある。付け焼刃で対策されて撃ち負けるタマじゃないさ。君はよくやったと思うよ。短期間であれだけ射撃武器を使いこなしているのだから大したものだ」

 我ながら気の利いたことは言えていないと思うが、サフランは意外にも心から嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべた。

 仮面越しだが、雰囲気でそのくらいはわかる。

「……ねぇ、グレイ」

「ん?」

「今日は……本当にありがとうね」

「さすがに目の前で丸焼きになりかけている奴を見殺しにはしないさ。ビークルバトルは殺し合いじゃないからな」

「そうじゃなくて!」

 サフランは強い口調で否定した。

「私……あなたが居たから、バトルを続けて「おい! 大丈夫か!?」」

 俺はサフランを遮るように飛んできた声の方向に振り向いた。

 

 

 現れたのはフェンネルだ。

 後ろにはコニーとバニラの姿も見える。

「……まあ、お前なら無事に決まってるか。あんなもんで死ぬわけがないよな」

「心配したよ。いきなりビークルが燃え始めるんだもん」

「グレイ、大丈夫だったのかい? 凄い炎だったけど」

 三者三様のセリフに、俺は落ち着いて答える。

「ああ、何とかな。俺はぴんぴんしてるし、サフランもかすり傷だ」

「そうか。その様子なら、この後の二回戦も大丈夫そうだな」

「おう、問題ない」

 どうやら、サフラン戦の後のビークル炎上騒動は、観戦していた連中から見るとかなりの大事故だったようだ。

 俺は傷一つ無い五体満足でサフランも軽傷で済んだが、一歩間違えば命を落としていたかもしれない。

 俺もサフランもそれなりに経験を積んだビークル乗りで、お互いに安全管理をきちんと意識しているにもかかわらず、実際にはこれだけの事故が起きる。

 それを思うと、盗賊との戦闘に比べればビークルバトルが遥かに安全とは言い切れないのかもしれないな。

 とはいえ、今更やめるわけにもいかない。

 緒戦から色々と面倒はあったが、俺の目標はトーナメントでエルダーを倒して奴をチャンピオンから陥落させることだ。

 原作では、トーナメントの結果は大してストーリーに影響しないが、この世界でエルダーからチャンピオンの座を奪うことには相当な意味があるはずだ。

 無敵のビークル乗りとしてのイメージを崩壊させ、確固たる地位として確立したものを破壊する。

 それだけでも、エルダーの地位を利用した資金集めとブラッディマンティスの統率を妨害することになるだろう。

 そして恐らく、奴を倒せるのは俺かバニラだけだ。

 

 

「しかし……【ジャガーノート】は凄いな。いや、もちろんお前の腕もそうだけどよ」

「いやいや、ナツメッグ博士とマルガリータのおかげさ」

 俺はフェンネルの言葉に軽く答えた。

 フェンネルにはエントリー前にマルガリータのことを話したし、バニラとコニーは彼女と面識があるので、三人とも特に反応はしなかったが……。

「……マルガリータ?」

 唯一、マルガリータのことを知らないサフランから疑問の声が発せられた。

 俺が口を開くよりも先にフェンネルが答えた。

「【ジャガーノート】をメンテした整備士だってよ。凄ぇ腕利きらしい。あと、グレイの恋人だったか?」

「(っ!)」

「いやいや! ……まだ違うよ」

「(まだ……)」

 サフランは何やらひどく驚いたような表情をしているが、俺はそれよりもフェンネルの言葉が気になった。

 マルガリータがうちに来ていることは話したが、俺とのことなど何も……ああ、そういうわけか。

 フェンネルが不可解そうにコニーへ視線をやったことから推測するに、あること無いこと吹き込んだのはこの小娘か。まったく……。

「そうなのか? 聞いてた話じゃ……」

「ふふっ……まだ(・・)違う、ってだけだよ。ね、バニラ? 私たち、応援してるもんね」

「そ、そうだね」

「……なるほど。まあ、頑張ってくれ」

 妖しげに目を輝かせるコニーに、フェンネルは少し呆れたようにため息をついた。

 コニーの言うことを鵜呑みにされるのも考え物だが、興味なさげなフェンネルに弁解するのもお互いに疲れる。

 面倒なことだ。

 俺は一旦問題を先送りにして、簡易ベッドの上のサフランに向き直った。

「ところで、サフラン。さっき何か言いかけてなかったか?」

「……え?」

「フェンネルたちが来る直前に、何か……」

「な、何でもない! し、試合前に話したとき、リッキーの件で助けてくれたお礼をまだ言ってなかったから……。だから……ありがとうって……そ、それだけよ!」

「……そうか、わかった。そういえば、サフランが勝ったら聞いてほしい頼みってのは?」

「大したことじゃないから。忘れて」

「…………」

「忘れて」

「……サフランがそう言うなら」

 強い口調と仮面の奥から向けられる鋭い目に気圧されて、俺は頷いた。

 コニーはまたしても邪悪な笑みを浮かべているが、一体何だと言うんだ?

 

 

「さて、二回戦の予定は……」

 俺たちはサフランを医療スタッフに任せて控室に戻り、コニーも再び観客席へ向かった。

 そして、ちょうどビークルの格納スペースに戻ったところで。フェンネルが呟きに応えるように闘技場の係員が現れ、俺たちに二回戦の対戦表を渡してきた。

 ちょうどシュナイダーの緒戦も終わったようだな。

 相手がどこの誰かは知らないが、原作通りシュナイダーは確実に勝利している。

「次の相手は俺か。まさかお前と当たるとはな」

 フェンネルは些か驚いたようにバニラと視線を交差させた。

 俺は知ってたけど。

「でも、お前とは一度やってみたかったんだ。楽しみだぜ」

 バニラもフェンネルの熱い闘志を感じ取って力強く頷いている。

 コニーとベッド上のサフランは完全に蚊帳の外だが、俺も今はそちらに構っている余裕は無い。

 何故なら……。

「やはり、あんたと当たるか……」

 俺の二回戦の相手は、“ネフロの英雄”の異名を持つ俺と同じSランクバトラーのシュナイダーだった。

 予想通りとはいえ、やはり実際に対戦表を見ると自然と手に力が入る。

 彼も研鑽を積んで以前より強くなっていることだろう。

 接近戦仕様の高出力ビークルを駆る格闘戦のエキスパート。

 一筋縄ではいかない相手だ。

 




一応、念押ししますが、ヒロインはマルガリータです。
オリ主は鈍感系主人公ではないですが、サフランとのロマンスに進捗があると、作者の処理能力を超えそうでしたので、この辺りでご勘弁を......。
今後、サフランが登場する場合は完全に友人としての関係になりますので、ご了承ください。

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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