steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
トーナメントの一回戦が全て終了し、二回戦が始まる前の空き時間。
コニーが再び観客席へ向かい、フェンネルが自分のビークルのところへ戻った直後、俺とバニラのもとに来客があった。
「バニラ君、グレイ君」
声を掛けてきたのは、原作でも一回戦の直後に顔を合わせることになる人物だった。
「セントジョーンズ卿、いらしてたんですね」
「ああ、今年はグレイ君も出ると聞いていたからね。バニラ君も出場しているとは思わなかったが。何はともあれ、二人とも緒戦を突破したみたいじゃないか。おめでとう」
「どうも、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
原作では、すぐにマーシュの件を口にしたセントジョーンズ卿だったが、今回は事前に報告が済んでいるので、バトルの方を話題にした。
まあ、ゲームではスームスームから戻ってきた直後はセントジョーンズ卿が不在で、このビークルバトルトーナメントのイベントのときでないとコンタクトが取れないからな。
原作では、トーナメントの後にようやくセントジョーンズ卿はスームスームへ向かい、プレイヤーともシブレットとマーシュが居る掘っ立て小屋で再び顔を合わせることになるのだ。
今回は既に親子の再会は済んでいるはずなので、周りの目も気にせずマーシュのことを口にするほどの余裕の無さは見せない。
「ところで……もうドン・スミスとも会われましたか?」
「……ああ、もちろん。問題も解決したし、今後も友好的な付き合いができそうだ。非常に実りのある会談だったよ」
セントジョーンズ卿も俺の意図を悟ってマーシュの名前やジュニパーベリー号のことは口に出さずに答えた。
ブラッディマンティスの関与や奴らがハッピーガーランドに根を張っていることは伝えてあるので、整備士や他の選手の耳に情報が入るリスクを排除しているのだ。
ぐるっと見回したところエルダーの姿は無いが、警戒するに越したことは無い。
ガーランド闘技場には意外に死角が多く、そういった場所で選手とスポンサー企業のエージェントが密談をするのは暗黙の了解――当然ながら違法賭博の取引も行われている――ではあるが、ブラッディマンティスの関係者全てが相手となると話は別だ。
「そういえば、君たちも近々スームスームへ行くそうだね」
「ええ、野暮用がありますので」
「その件は私も聞いているよ。こちらも近いうちにもう一度ドン・スミスのもとを訪れることになると思う。詳しいことはその時に話そうじゃないか」
「俺はそれで構いません。バニラもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。トーナメントが終わったら、僕もすぐスームスームへ行く予定だからね」
こうして、セントジョーンズ卿との短い会談は終了した。
二回戦の第一試合はフェンネル対バニラの戦いだ。
試合開始時間も近くなったので、バニラは自分のビークルのところへ向かい、激闘に備えた。
俺も控室の【ジャガーノート】のところへ戻る。
そうすると、偶然ながら俺はある男と顔を合わせた。
「グレイ……随分と手こずっていたようだな」
「彼女も腕を上げていたからな。当然さ」
二回戦の対戦相手シュナイダーだった。
シュナイダーは試合の外で挑発や嫌味を放ってくるタイプでもなければ、他の選手に気の利いたことを言える性格でもない。
試合前にわざわざ向こうから会いに来た可能性はほぼ皆無なので、ここで遭遇したのは本当に偶然だ。
「シュナイダー……」
「…………」
シュナイダーは最早言うことは無いとばかりに沈黙を返した。
相変わらず無愛想な奴だ。
この男と話すと、俺の方が圧倒的に口数は多くなる。
「シュナイダー、“ネフロの英雄”はあんただ。俺もネフロ闘技場でSランクに認定されたバトラーだが、それだけであんたに取って代わることはできない」
「…………」
「だが、俺にも負けられない理由があるのでな。このトーナメントを譲るつもりはない」
「当然だ」
シュナイダーは相変わらず不機嫌そうな声で短く答えた。
言葉は少ないが意志は伝わってくる。
向こうもやる気は十分。
俺も闘志ははっきりと示した。
最早言うことは……いや、それだと二人して黙って踵を返すことになるな。
俺が喋るべきだろう。
「じゃあ、いいバトルにしよう」
「フン……」
微妙にジミーのセリフをパクッてみたが、シュナイダーは返事とも言えないような答えを残して歩き去った。
本当に、無愛想な奴だよ。
“青い稲妻” フェンネル 【ブルー・サンダー】
vs
“?????” バニラ 【カモミール・タイプⅡ】
試合開始の合図と共に、会場には眩い閃光が交差した。
先手必勝とばかりに長距離キャノンアームを発砲したフェンネルに対し、バニラがガトリングアームを撃ち返したのだ。
空中で衝突したミサイル弾頭と大口径の徹甲弾は、爆炎と共に大量の破片を辺りに撒き散らす。
フェンネルの駆る【ブルー・サンダー】の周辺には乱射されたガトリングアームの跳弾が乱れ飛び、バニラの【カモミール・タイプⅡ】の周りには長距離キャノンアームのミサイル弾の破片が降り注ぐ。
「ちっ! グレイと同じ武器……いや、そっちが原型か」
バニラの使うガトリングアームはデザートホーネット団謹製のカスタムだが、チェーンガンに比べると性能は数段劣る。
精度に関しては言うまでも無く、機構が複雑なので堅牢性も低く、当然ながら重量も体積も嵩めば、取り回しが悪くなり弾薬の搭載スペースも小さくなる。
しかし、それでもゲームにおける最強の遠距離武器の威力は伊達ではない。
長距離キャノンアームを主兵装として備える遠距離戦型ビークルに搭乗するフェンネルとも、バニラはロングレンジで対等以上に渡り合った。
長距離キャノンアームに対して圧倒的な手数を持つガトリングアームの掃射は、確実にフェンネルを試合場のコーナーに追い詰めた。
発射速度に圧倒的な差がある以上、バニラが攻勢に出る時間が長くなるのも当然だ。
バニラが放ったガトリングアームの弾丸によって、試合場にはフェンネルがダッシュ移動で【ブルー・サンダー】を滑らせた軌道をなぞる様に弾痕が穿たれている。
それでもこの状況で一発も被弾していないフェンネルは、さすがはトーナメントに出場するAランクバトラーである。
そして、バニラは攻勢を維持しつつも、タイミングを見計らったフェンネルによる長距離キャノンアームの射撃に合わせて【カモミール・タイプⅡ】を急制動させ、横滑りにフェンネルの左側面に回り込んだ。
「っ!」
【ブルー・サンダー】から放たれたミサイル弾頭がバニラから外れた位置に着弾し爆炎を撒き散らすが、視界が悪い中でもフェンネルは敵の接近を目視した。
しかし、完全な遠距離攻撃型ビークルに搭乗するフェンネルには、そのまま近距離で迎撃する術は無い。
普段ならスラスターを噴射して距離を取るところだが、速度の乗っているバニラから逃げることは叶わない。
「そこだ……って、うわ!」
「ふっ、甘ぇぜ!」
しかし、そのまま急接近してトライデントアームの刺突を繰り出そうとしたバニラは、突如として足元で起こった爆発に、慌ててビークルを退いた。
飛んできたのは【ブルー・サンダー】の左アームから軽快に流し撃ちされた砲弾だった。
フェンネルの主兵装である右アームの長距離キャノンアームの死角を突いた戦法は途中まで成功した。
だが、フェンネルもビークルバトルに出場する際にはそれなりに備えをしているのだ。
トロット楽団に所属していた頃の癖で、フェンネルは今でも普段はバックパーツにステージバックを装備しているが、バトルに出るときは補助エンジンを積んで出力を向上している。
さらに、左にも補助的に砲弾アームを装備しているので、副兵装も備えていることになる。
そして、フェンネル自身も十分に長距離キャノンアームの射撃間隔をカバーするように副兵装を活用する技術を習得していた。
余談だが、フェンネルも原作以上に腕を上げている。
その背景には、突如現れて一気にSランクバトラーまで上り詰めたグレイの存在を意識していることもあるのだが、本人はそのことを知る由も無い。
距離を保った状態で一撃必殺の長距離キャノンアームを撃ち込みたいフェンネルに、ガトリングアームの手数と弾幕でダメージを与えてあわよくば接近してトライデントアームの刺突をお見舞いしたいバニラ。
序盤は両者一歩も譲らない攻防を繰り広げていたが、戦局は徐々にバニラに傾き始めた。
原因は、長距離キャノンアームの装弾数の少なさと、何と言っても着実に【ブルー・サンダー】にダメージを与えてきたバニラの地力だ。
フェンネルもグレイに触発されて射撃技術とビークルの操縦の精度に磨きは掛けてきたが、バニラには一歩及ばない。
バニラの【カモミール・タイプⅡ】も爆風と破片で細かい傷は付いているものの、フェンネルの【ブルー・サンダー】は既に何発かいい弾をもらってボディに穴が開き、ブレストパーツのバンパーも吹き飛んでいた。
このままでは、フェンネルはジリ貧だ。
じわじわと削られて、先に【ブルー・サンダー】の方が動かなくなることは明白である。
当然ながら、フェンネル自身もそのことを理解していた。
「おい! バニラ! 聞こえるか!?」
「……?」
お互い遮蔽物で射線を切った状態で、フェンネルは声を張り上げた。
バニラははっきりと返事をしなかったが、フェンネルはお構いなしに言葉を続ける。
「このままじゃ埒が明かねぇ。次の当たりで決着を付けるってのはどうだ?」
「…………」
バニラは依然として答えない。
フェンネルの気質を考えれば、これが揺さぶりや罠である可能性は低いが、それでも軽々しく対戦相手の口車に乗るのは憚られた。
しかし、フェンネルにとってはここが正念場だ。
状況からして、一発逆転を狙って勝負に出るしかない。
一拍置いて、フェンネルは声に闘志を漲らせながら口を開いた。
「……お前がどう思おうと、俺は今言った通りに動くぜ。俺に勝ちたかったら、撃ち返してみろ。行くぞ!」
「っ!」
次の瞬間、フェンネルは言葉通り遮蔽物の陰から飛び出した。
バニラは僅かに出遅れたが、ビークルの損傷度合いの影響もあり、二人がそれぞれの武器を構えた時の状況は五分五分だ。
損傷度の大きい【ブルー・サンダー】は僅かに駆動部の動きが鈍っている。
しかし、ビークルの状態が万全とは言い難いなか、フェンネルは正確に長距離キャノンアームを放った。
熱源を探知して追尾する弾頭の性能と軌道を熟知した、完璧な照準での射撃だ。
「くっ!」
強力な炸薬を搭載したミサイル弾頭がバニラの【カモミール・タイプⅡ】に迫った。
「ぐぉ!」
フェンネルの放った長距離キャノンアームのミサイル弾は、バニラのビークルに到達する中ほどの空中で爆発した。
状況から、フェンネルにもバニラのガトリングアームによって撃ち落とされたことがわかる。
しかし、俄かには信じられないことだった。
格闘戦を展開することも視野に入れた闘技場はそれほど広くない。
一方的にアウトレンジから攻撃することが難しい以上、長射程の射撃武器を使うことによるアドバンテージも取りにくくなるが、近距離からの射撃が命中しやすいのも事実だ。
さらに、フェンネルほどの腕を持つビークル乗りが行う射撃ともなれば、回避や迎撃は困難を極める。
そもそも、長距離キャノンアームの弾を撃ち落とせるほどのビークル乗りや武器など多くない。
しかし、バニラはこの状況を逆手に取った。
グレイのチェーンガンアームより劣る精度をカバーするために、敢えて近距離での射撃戦を受けて立ったのだ。
咄嗟の判断で前進しながらガトリングアームを乱射し、より命中率の高くなる近距離で撃つことで、見事に弾丸をミサイル弾に命中させたのだ。
これにはフェンネルも面食らった。
「なっ!?」
さらに、フェンネルは驚愕を声に滲ませた。
長距離キャノンを装備した右のアームを見てみると、接合部から火花を散らしながら不自然な動きを繰り返しているのだ。
先ほど、空中で撃ち落とされたミサイル弾の破片の影響か、右のアームの制御が全く効かない。
主兵装の機能が完全に停止してしまったのだ。
「ふっ!」
「っ!」
これを見逃すバニラではない。
フェンネルの【ブルー・サンダー】の動きが止まった隙を見計らい、バニラは【カモミール・タイプⅡ】の右側に装備したトライデントアームを稼働させ、スラスターを噴射したダッシュ移動の前進に合わせて鋭く突きだした。
【カモミール・タイプⅡ】のダメージもゼロではないが、【ブルー・サンダー】に比べれば軽傷なので、動作に影響はほとんど見られない。
「ぐぅ」
ビークルが強烈な打撃を食らった衝撃で、操縦手のフェンネルも強かに息を詰まらせながら下を向いた。
衝撃で体が跳ねそうになるが、ハンドルを強く握って体勢を保つ。
【ブルー・サンダー】はノックバックで結構な距離を後退させられた。
「…………っ!」
顔を上げたフェンネルは未だに闘志の衰えない瞳をサングラスの奥からバニラに向けるが……マシンの限界に抗うことは叶わない。
ボディと駆動部を連結する部分の回線を破壊された【ブルー・サンダー】は、レッグパーツを折るようにその場に崩れ落ちた。
硬質な鋼鉄の塊が試合場の地面に落下する音が響き、バニラも勝利を確信する。
「勝った……」
最早、フェンネルのビークルにこれ以上の戦闘を続ける力は無い。
観客もバニラが勝利したことを認識し、一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声が闘技場内に鳴り響いた。
「「「「「わぁぁぁぁぁあああぁぁあああああぁぁ!!!!」」」」」
「凄ぇ!!」
「フェンネルに勝っちまったぞ!」
「ルーキー万歳!!」
初出場の無名のCランクバトラー。
この数か月でバニラの名前はそれなりに有名になっていたが、まさかトーナメント常連のAランクバトラーに勝利するとは、多くの人間の予想を裏切った。
しかし、試合場で行われたバトルは、フェアで且つ見応えも十分な、まさに名勝負であった。
誰も今のバトルに文句などつけない。
観客の全てがバニラに、そしてフェンネルにも惜しみない拍手を送った。
「……ふっ、やるじゃねぇか」
フェンネルの呟きは観客の声にかき消された。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。