steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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84話 ビークルバトルトーナメント6(シュナイダー戦)

 

 リフトが硬質な機械音を発生させながら俺の【ジャガーノート】を押し上げると、例によって普段より音量が大きめの歓声が俺を出迎えた。

 試合場に入場する俺を見据える視線は先ほどから痛いほど感じる。

 まだ頭しか出していないのに……。

「待ってたぞぉ!!」

「シュナイダー! 今度こそぶっ倒せぇ!!」

「漢見せろやぁ!!」

「グレェイ! 今回も蜂の巣にしてやれぇ!」

「やっちまぇ!!」

 バニラとフェンネルの対戦は、俺の予想通り大幅に強化された原作主人公の勝利という結果になった。

 バニラは二回戦を突破した。

 次にバニラが戦うのは準決勝、原作ならシュナイダー戦だ。

 ここで俺が勝てば、次のバニラの相手は俺が務めることになる。

 その後は、勝った方がエルダーに挑む決勝戦だ。

 俺はこれから二回戦。

 まだ折り返し地点すら通過していない。

 だが、この戦いが決して油断できるものではないこともまた事実だ。

「シュナイダー……」

「…………」

 相変わらず不機嫌そうな表情で俺を見据える口数の少ない男は、この地方で唯一俺と同格のライセンスを持つ男。

 ビークル歴に至っては、向こうの方が圧倒的に先輩だ。

 だが……負けるわけにはいかない。

 今回も、俺が勝たせてもらう。

「……よしっ」

 俺はビークルのハンドルを握りなおし、開始の合図を待った。

 

 

 

 

“ナツメッグ博士の右腕” グレイ 【ジャガーノート】

 

vs

 

“ネフロの英雄” シュナイダー 【マキシマム】

 

 

 

 

「おおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!!」

「ぬっ」

 シュナイダーは開始の合図とともに飛び掛かってきた。

 真っ直ぐに、何のフェイントも無く、左アームに装備したオリジナルのシールドを翳しながら突っ込んでくる。

 コンマ一秒でも早く俺に到達して、近接攻撃をぶち込んでくる構えだ。

 俺は即座にチェーンガンで迎撃したが、シールドアームSSに吸い込まれた数発の弾丸程度では、シュナイダーのタックルの勢いは止まらない。

 そのままシールドバッシュの要領で、シュナイダーの【マキシマム】は激突してきた。

 いい選択だ。

 インパクトの寸前に右の金棒アームでの攻撃に切り替えようものなら、その瞬間に俺のチェーンガンがシールドの隙間から機関部を撃ち抜いていた。

「ぅおおおおおぉぉぉおおぉぉぉぉぉおお!!」

 俺は【ジャガーノート】を半身にして相手の突進を捌きつつ、右の強化ブレードアームで軽く打ち払うようにして、シュナイダーのシールドバッシュをやり過ごした。

 しかし、距離を詰めたシュナイダーの攻勢の手は緩まない。

 前のめりの突進体勢のまま、右の金棒アームを強引に叩きつけてきた。

 俺も近接武器である強化ブレードアームを掲げて防御態勢を取る。

 硬質な金属が打ち合わされる音が響き、殴り合いでお互いのビークルの動きはしばし止めるかのように思えたが……。

「くっ」

「ぬぅぅ!!」

 シュナイダーはそのまま【マキシマム】をさらに前傾させて重量を掛けつつ、ブレードごと【ジャガーノート】を押しつぶそうとしてきた。

 さすがに無謀で無茶が過ぎる。

 シュナイダーは格闘戦を得意とするビークルバトラーなので、どれほど冷静に戦いを進めようと、ファイトスタイルには猪突猛進の気がある。

 掴みかかり、投げ飛ばし、金棒でボコボコに殴るのが彼のスタイルだ。

 だが、今日のシュナイダーはあまりにも無鉄砲だった。

「この野郎……離れろ、や!」

「っ!」

 当然ながら、このようなごり押しで成す術なくやられる俺ではない。

 俺は【マキシマム】のレッグパーツからボディへの接合部を狙って、チェーンガンを至近距離から乱射した。

 さすがに俺の武装の火力を知っているシュナイダーだけあって、チェーンガンから放たれた弾丸はスラスターを用いたダッシュ移動で躱していた。

 

 

 シュナイダーは大岩を遮蔽物として俺のチェーンガンの射線を切り、俺も同じ岩の反対側まで【ジャガーノート】を移動させて相手の出方を待つ。

 お互いの姿は見えない位置だが、声は聞こえる距離だ。

「らしくないじゃないか」

「お前に、負けるわけにはいかない……」

 若干の嫌味を込めた俺の言葉に対し、シュナイダーは自分に言い聞かせるように呟いた。

 観客の声の音量が凄まじいなか、あまり声が通らないはずのシュナイダーの言葉は、はっきりと俺の耳に届いた。

 先ほどの攻防、お互いに有効打は一発も入っていないが、僅かに俺が防戦寄りだった。

 俺とシュナイダーは今まで一度しか試合をしたことが無い。

 俺のSランク昇格を賭けた、ネフロ闘技場での一戦。

 あれが唯一の対戦だった。

 一年半と少し……約二年前の出来事か。

 そういう意味では、俺はシュナイダーの戦法に関しては最近の事情まで知らないわけだが……それでも先ほどの打ち合いがシュナイダーの本領とは思えない。

 確かに、彼は接近戦に特化したビークル乗りだが、あくまでも冷静に立ち回り戦術を駆使するタイプであり、防御を捨てる猪突猛進型のファイターではない。

「お前……焦っているのか?」

「…………」

 シュナイダーは無言だったが、俺には彼の考えが少し読めてしまった。

 今年のトーナメントは初参加者が多く、一見したところシュナイダーたち古参のビークル乗りにとって有利だ。

 ベテランに当たる確率が低いということは、普通は誰もがルーキー相手のイージーゲームと考えるだろう。

 実力と実績を持つ選手が消耗せずに予選を突破できる可能性が高い。

 だが、それは……一般的なぽっと出の新人が相手だった場合だ。

 今年の初参加者は事情が違う。

 Sランク昇格が目前となった原作よりも力をつけているサフラン、原作主人公のバニラ。

 そして、トーナメント外ではあるが、シュナイダーにもエルダーにも勝利した経験のある俺だ。

 少しでも選手の背景を知っていれば、例年よりも苛烈な争いになることは容易に想像がつくだろう。

 だが、シュナイダーは定石通りの消耗を抑える戦法で来たのだ。

 早期決着を狙って、強引に勝利をもぎ取りにきた。

 しかも、俺相手に。

「舐められたものだな」

「…………」

 

 

 上から嫌な気配を感じ、俺は【ジャガーノート】のスラスターを起動してその場を離脱する。

 予想通り、シュナイダーの【マキシマム】が、大岩を飛び越えて上から襲ってきた。

 轟音を発しながら地面に叩きつけられた金棒アームを視界の隅で捉えながら【ジャガーノート】を反転させた俺は、そのままチェーンガンアームを持ち上げて速射する。

「っ!」

 しかし、俺の発射した弾丸はほとんど【マキシマム】のボディを捉えることは無かった。

 左のシールドアームで防御されたわけでもない。

 シュナイダーは予め左のアームで掴んでいた鉄骨を投げつけてきたのだ。

「ぬっ……」

「おおぉ!」

 数発の弾丸のほとんどは空中で太い鉄骨を撃ち抜いて軌道を変え、【マキシマム】に着弾したのは一発だけだ。

 ブレストパーツのスパイクを破壊されながらも、ビークルの機能に対してダメージの無いシュナイダーは、そのまま強引に俺に突っ込んできた。

 再び接近戦に持ち込まれ、俺はまたしても強化ブレードアームでの防御を余儀なくされる。

「……舐めているのはお前だ」

「あん?」

 火花を散らしながら合金の金棒と強化ブレードが競り合うなか、シュナイダーは不意に呟いた。

「俺は……いつも全力だ。優勝するために、エルダーを倒すために……全力で、最善を尽くす。その姿勢は何時いかなる時も変わらない。お前はトーナメントを見ていない」

「……やけに口数が多くなったな」

 俺はチェーンガンの銃口を最小限の動きで上げて【マキシマム】に向け、至近距離からレッグパーツを撃ち抜こうとした。

 しかし……。

「無駄だ」

「おっ!」

 チェーンガンを装備した【ジャガーノート】の左アームは、どういうわけかシュナイダーに抑え込まれていた。

 よく見ると、【マキシマム】の金棒の柄が【ジャガーノート】の左アームの肘部分とチェーンガンの手前部分に嵌まっている。

 先ほど、近接武器での鍔迫り合いになった際に、上手いこと打撃部位の逆側を捻じ込んでいたようだ。

 人間同士のアームロックとは違ったフォームだが、ビークルと武装の構造を上手く突いた拘束技術だ。

 さすがに接近戦のエキスパートだけはある。

 片手でこちらの両手を封じられてしまった。

「グレイ……勝たせてもらうぞ」

 シュナイダーは左のシールドアームSSを振り上げた。

 武器としては然程の代物ではないが、回避もままならずコクピットを潰されれば俺もお終いだ。

 だが……。

「気が早いぜ」

「往生際が悪い……っ!」

 

 

 密着状態での超接近戦。

 明らかにシュナイダーが有利なポジションだったが、先に体勢を崩したのは【マキシマム】の方だった。

「何!?」

 慌ててハンドルを操作したシュナイダーは【マキシマム】をどうにか踏みとどまらせて俺と対峙しなおそうとするが、シュナイダーの表情は珍しくもさらに歪むこととなる。

 シュナイダーが一瞬だけ視線をやった【マキシマム】の右アームでは、主兵装である金棒アームが半ばから切断されていたのだ。

 当然ながら、俺の攻撃のよるものだ。

 強化ブレードアームで引き切るようにして、金棒を真っ二つにした。

 ブレードアームはその名の通り片刃の曲刀なので、『叩き斬る』よりもこうした『切り裂く』使い方は理に適っているが、普段の戦闘でそこまで意識することは稀だ。

 そもそも、人間が使う日本刀であっても、本来は打ち合いや強引に叩き斬る使い方にも耐えうることが前提である。

 今回、武器の性質の差がここまで顕著に表れたのは、偏に材質の差だろう。

 シュナイダーの金棒アームは市販品でただの鉄の棒。

 それに対して、俺の強化ブレードは黒鉄とオリハルコン製のナツメッグ博士謹製のパーツである。

「くっ!」

 【ジャガーノート】の左アームの隙間に挟まっていた金棒の残骸が、硬質な音を響かせて地面に落下するのと同時に、シュナイダーは再び俺に向かってきた。

 メインの打撃武器は失ったが、シュナイダーの戦意は衰えない。

 俺のチェーンガンを警戒して横から回り込むように接近しながら、【ジャガーノート】に掴みかかってきた。

 向こうは俺が後退しながらチェーンガンを撃つと考えたようだが……。

「っ!」

「ウラァ!」

 俺は【ジャガーノート】を前進させて、鋭く機体によるタックルを放った。

 またしても接近戦だが、完全にこちらが優勢だった。

「ぐっ!」

 【ジャガーノート】の装甲ブレストの衝突によって、【マキシマム】の機体全体を激しい衝撃が襲い、シュナイダーは息が詰まったように体を跳ねさせる。

 ビークル同士の取っ組み合いの格闘戦に関して、俺はそれほど熟練しているわけではない。

 チェーンガンアームを装備した【ジャガーノート】の真骨頂は、火力と精度を両立させた遠距離からの射撃攻撃だ。

 しかし、トロットビークルは人型の機械ではあるが、自動車や重機の類に近い存在であり、移動手段としての用途を主に想定した乗り物だ。

 当然ながら、人間のような関節や筋肉を用いた複雑な動きは再現できず、取れる体勢も限られている。

 それ故に、アーム部分を用いた動き以外、特にボディパーツやレッグパーツの操作においては、熟練者であっても挙動に限界がある。

 ビークルは蹴ることもしゃがむこともできない。

 しかし、レッグパーツは根本的な機動に直結する部位であり、生半可な足払いが効かない程度には安定性を持たせて設計されていることもまた事実である。

 要は、距離感とアームパーツを駆使できなければ、ビークル同士の格闘は単純なぶつかり合いとなるのだ。

 そして、接近戦において俺がシュナイダーに……【ジャガーノート】が【マキシマム】に完全に勝っている点は、パワーとウエイトだ。

 ノーマルボディMに一般的なビークルバトル用のチューンエンジンを搭載する【マキシマム】に対し、高出力エンジンと小型補助エンジンを内蔵したLサイズボディの【ジャガーノート】。

 力比べでどちらが有利かは明白だ。

「くっ……」

「逃がさん!」

 さすがのシュナイダーも一旦退いて体勢を立て直そうとしたが、それを許すほど俺も甘くない。

 大き目のボディに似合わない加速度も、人脚ノーマルM強化型を装備する【ジャガーノート】の特徴だ。

 俺はシュナイダーを直線で追いかけ、強化ブレードアームを振るった。

 シュナイダーはシールドアームSSを上げてどうにか防御するが、勢いをつけて鋭く突き出された超合金のブレードは、盾の半分をズタズタに切り裂きアームの部分も半ば切断しかけた。

 特注の強化シールドとはいえ、チェーンガンの弾丸を何発も撃ち込まれたところに強化ブレードの斬撃を受けたら、こうなるのも納得だろう。

「ぐぬぅ……」

 ここまで機体をやられたら自ら負けを宣言して試合を終えてもおかしくはないが、コクピットのシュナイダーは未だ闘志の衰えない目で俺を見据えている。

 些かうんざりするが、俺にもこのトーナメントで勝たなければならない理由はある。

 下手な対応をして、これ以上戦いを長引かせるのは得策ではない。

 万が一、悪あがきの一発で【ジャガーノート】が明日に響くダメージを受けたら目も当てられない。

 バニラとエルダーには可能な限り万全の態勢で挑みたい。

 どれほど僅かなパーセンテージであっても、リスクは排除させてもらう。

「悪いな」

 最後は素早く銃口で薙ぎ払うようにしてチェーンガンを掃射し、【マキシマム】のレッグパーツを破壊して、俺は因縁の対決に終止符を打った。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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