steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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86話 ビークルバトルトーナメント8(バニラ戦 後編)

 

「ふん!」

「くっ!」

 俺が振り下ろした強化ブレードアームの刀身は、ついにバニラの【カモミール・タイプⅡ】に到達した。

 お互いに強力な射撃武器を装備しているため、狭い試合会場にもかかわらず、バトルはずっと遠距離の撃ち合いに終始していたが、火薬樽を用いた目晦ましによって俺は一気に距離を詰めることに成功した。

 もちろん、俺の専門もチェーンガンを用いた遠距離戦だ。

 シュナイダーのように至近距離まで接近することで有利になる状況は、俺にとってそう多くない。

 むしろ、あらゆる局面に対応し数多くの武装を使いこなしてきたバニラの方が、俺よりも幅広いレンジでのバトルに対処できるかもしれない。

 しかし、やはりビークルを用いた戦闘の経験値は俺の方が上だ。

 必死になって距離を測りガトリングを撃ちまくっていたバニラに、今の奇襲へ対応しろというのは酷な話だ。

 俺のブレードは、完全に不意打ちの一撃となって、バニラのビークルを破壊……するはずだった。

「ふむ……」

「っ! ハァ!」

 俺の強化ブレードは【カモミール・タイプⅡ】のボディに到達していなかった。

 強化ブレードの刃が食い込んでいるのは、金属製の三叉の槍の柄。

 バニラは【カモミール・タイプⅡ】の右に装備したトライデントアームで、俺のブレードの斬撃を防御したのだ。

 さらに、バニラはトライデントを強引に捩じって引き戻し、鋭く突きだして反撃してくる。

「おっとぉ!」

「っ!」

 直線的な刺突を躱した俺は、そのままカウンターの一撃を叩きこもうと試みたが、バニラはすぐにビークルを反転させて、遮蔽物を挟んで俺と向かい合う位置に移動し、一旦戦いを仕切りなおした。

「驚いたな。手応えはあったんだが……」

「はぁ、はぁ、はぁ……危ない……」

 完全な不意打ちと思った俺の一撃を、バニラは防ぎやがった。

 トライデントアームは穂先の一部が欠けたようだが、それでも大した対応力だ。

 

 

「……強すぎる」

「そうでもないさ」

「っ!」

 横合いから掛けられた俺の声に対して、バニラは息を飲みながらビークルごと振り向いた。

 無謀にも、そのままガトリングアームを振り抜くようにして俺に弾丸を見舞おうとしてが、すんでのところで思い留まり回避行動を取った。

「くっ……」

「おっと」

 レッグパーツの一部に損傷を受けたバニラに、俺は続けてチェーンガンの射撃を食らわそうと試みるが、それは叶わなかった。

 バニラはただビークルを反転させて一直線に逃げるだけでなく、次の行動に移る直前にガトリングをほぼ後ろ向きに発砲してきたのだ。

 不自然な体勢での乱射も同然なので、当然ながら狙いは滅茶苦茶だが、それでもフルオートの射撃武器を撃たれれば、放たれた弾丸の内の何発かは俺の近くを掠める。

 俺は【ジャガーノート】を反転させて、遮蔽物の陰まで身を引いた。

 ビークルを使った戦闘は、生身での銃撃戦とは違う。

 どうしても重機サイズの乗り物を動かして火器を使う以上、拳銃の抜き撃ちに比べれば動きは遅くなる。

 火力は人間が携行できる武器より桁違いに大きく、しかし鋼鉄の乗り物であるビークルの防御力は貧弱な人間の体とは比較にならない。

 人間同士のコンバットシューティングなら、お互いに弾を避けるなどあり得ない動きだが、これがビークルバトルだ。

「ははっ! やるじゃないか!」

「くぅ!」

 バニラはなおもビークルを滑らせながら必死にガトリングを発砲してくるが、動きは僅かに精彩を欠いている。

 先ほど、俺のチェーンガンの弾丸をレッグパーツに受けたのが効いているようだな。

 だが、それでも俺に一方的に仕留められないだけの動きは維持している。

 この状況でよく粘るじゃないか。

 一方の俺は、バニラを追いかけながら僅かな高揚感を覚えていた。

 これだけ力を注いだバトルは久しぶりだ。

 強いバトラーというだけなら、サフラン然りシュナイダー然り、バニラ以外にも俺の周りにはごまんと居る。

 盗賊ビークルの中にも、強敵と呼ぶに相応しい存在は居た。

 しかし、奴らにはそれぞれ攻略法があった。

 多少、行き当たりばったりな状況でも。原作の知識とこの世界で培ったビークル技術と【ジャガーノート】の性能を以ってすれば、着実に相手を追い詰めて仕留めることができた。

 ところが、バニラはこの段になっても俺に押し切らせない。

 傍から見れば、今は俺がバニラを圧倒しているように見えるかもしれないが、実のところ状況はほとんど動いていないのだ。

 バニラは……根性で耐えているわけでも、やけくそで最後の足掻きをしているわけでもない。

 あくまでもダメージを抑えてチャンスをものにするために最善な立ち回りをしている。

 これを自然にできるあたり、バニラは本物の強者だ。

 強いて言えば、一年半ほど前にトーナメント外で戦ったエルダーも、同じく多彩な戦術と幅広く高水準にまとまった能力を持つビークル乗りだったが、それも大分前のことだ。

 気を抜けば反撃されてこちらがやられる。

 バニラの戦いぶりには、俺にそう思わせるだけの何かがあった。

 

 

 距離が詰まった拍子に、またしてもお互いに近接武器の打ち合い。

 俺の強化ブレードアームの斬撃を、バニラはトラインデントアームで危うく弾いた。

 機体の重量差の関係で若干こちらより【カモミール・タイプⅡ】のノックバックは大きかったが、バニラはその勢いを殺さず、ビークルのボディを捻るようにして至近距離からガトリングアームを発砲しようと試みた。

「ほっ」

「くっ!」

 俺は【ジャガーノート】の右アームを操作し、返す刀でバニラのガトリングアームの動きを妨害する。

 ビークルの足腰の安定状態の差もあり、俺の方が一歩先んじた。

 破壊することは叶わなかったが、ガリガリと嫌な音を立てながら、【カモミール・タイプⅡ】のガトリングアームは銃口をこちらから外された。

「っと」

「このっ!」

 お返しとばかりに俺も左のチェーンガンをバニラに向けるが、そこは向こうも読んでいたらしく、【ジャガーノート】の左アームはトライデントアームの横殴りによって弾かれる。

 俺は間髪入れず右の強化ブレードアームを振るうが、バニラもこの危険な状況に身を置き続ける愚を犯す気は無く、彼は再び距離を取った。

 ブレードを空振りした俺を尻目に、バニラはスクラップを遮蔽物にできる位置までビークルを退く。

 またしても撃ち合いながらの様子見になるかと思いきや……決着のときは唐突にやって来た。

「っ! しまった!」

 遮蔽物から飛び出しながらガトリングアームの引き金を引いたバニラは、唐突に動きを止めて焦りの表情を浮かべた。

 まだガトリングアームの弾は残っているはずだが、バニラの構えた武器が火を吹くことは無い。

 俺も僅かに音を捉えたが、【カモミール・タイプⅡ】のガトリングアームから金属が不自然にぶつかり合うような音がした。

 回転不良だ。

 まだ弾は残っているはずなので、故障によるトラブルだろう。

 俺のチェーンガンより複雑な機構をしている分、ガトリングアームはさらに繊細な精密機器だ。

 先ほどの俺のブレードの一撃で、回転銃身の部品か撃発システムのどこかが傷ついたようだな。

 ビークルバトルにタイムアウトは無い。

 この好機を逃すつもりなど、俺にはさらさら無かった。

「ぁ!」

 バニラは接近する俺を視認して慌ててビークルを退こうとしたが、さすがにこの逼迫した状況では才能あふれる原作主人公もミスを犯した。

 数回トリガーを引いても反応しないガトリングに気を取られたバニラは、僅かに反応が遅れたのだ。

 その結果、【カモミール・タイプⅡ】はレッグパーツを失うこととなった。

「うわぁっ!」

 俺のチェーンガンの弾丸が【カモミール・タイプⅡ】の右レッグパーツの接合部を半ば吹き飛ばし、向こうのビークルはガクッと傾く。

 バニラは慌ててハンドルにしがみ付いたことで、どうにかコクピットからの転落は免れたようだ。

「くっ……まだだ!」

 しかし、バニラはなおも勝負を捨てていなかった。

 先ほど、チェーンガンを射撃するためにこちらも遮蔽物から飛び出したので、俺とバニラの距離はそれほど離れていない。

 ビークルが正常なら、ワンステップで殴りかかれる位置だ。

 しかし、射撃武器と脚を失ってこの距離では……。

「っ!」

「はぁ!」

 ところが、バニラは思いも寄らぬ行動に出た。

 スラスターを起動して無理矢理ビークルをこちらに突っ込ませてきたことまではいい。

 しかし、バニラはそのまま真っ直ぐ殴りかかるのではなく、激突の直前にビークルのボディを大きく捻る様にハンドルを切ったのだ。

 【カモミール・タイプⅡ】の右側は、破損したレッグパーツがさらに折れるように損傷し、さらに大きく腰を落とすような体勢になる。

 俺はバニラの突撃に強化ブレードアームで対処するつもりだったので、【カモミール・タイプⅡ】は【ジャガーノート】の懐に潜り込んだ形になる。

 そしてバニラは、そのまま下からトライデントアームを上に向かって突き上げてきた。

 ボクサーのインファイトからのショートアッパーのような一撃だ。

「ぬぉ!」

「グレェェェイ!!」

 重厚な金属の塊同士が激しくぶつかる衝突音。

 そして、強力なバネとレールで押し出されるトライデントアームの稼働音が重なり、試合会場からは一瞬音が消えた。

 

 

 俺は目の前の光景にしばし言葉を失った。

 【ジャガーノート】のコクピットの前には、下から斜めに突き上げられたトラインデントアームの先端が飛び出している。

 そう、目の前にだ。

 ブレストパーツの前ではなく、俺のすぐ目の前だ。

「……マジかよ」

 バニラが機体のレッグパーツの大破と引き換えに放ったトライデントのアッパーは、【ジャガーノート】の装甲ブレストの隙間を貫通していた。

 プッシュバンパーにも似た形状の装甲ブレストの、斜め横あたりから捻じ込まれたのだ。

 これがミスリル装甲の【ジャガーノート】ではなくノーマルの汎用ビークルだったら、もう少しトライデントの穂先が俺の方に来ていたら、俺はコクピットごと串刺しだったかもしれない。

「だが、勝負あったな」

「ああ……僕の、負けだ」

 バニラがコクピットに向けられたチェーンガンを一瞥するのと同時に、【カモミール・タイプⅡ】は完全に動きを停止した。

 俺が強化ブレードアームを引くと、【カモミール・タイプⅡ】はエンジンからもうもうと煙を吐き出す。

 俺のブレードの剣先は、今度こそ完全に相手のエンジン部分を捉え、バニラのビークルの動力を完全に破壊していたのだ。

 誰がどう見ても俺の勝利だ。

 装甲ブレストの隙間をぶち抜いたトライデントの一撃然り、こちらもそれなりにダメージを受ける結果となったが、最後に立っていたのは【ジャガーノート】だ。

 長引いた戦いだったが、これで決着だ。

 今季のトーナメント最大の激戦だったことは間違いない。

 バニラに、俺に……観客席からは惜しみない拍手と歓声が送られた。

 そして、俺はコクピットで未だに顔が強張らせたままのバニラにゆっくりと声を掛ける。

「バニラ」

「うん」

「俺の勝ちだな」

「ああ。僕の方が弱かったから……負けたんだ」

「……そうだな」

 バニラは間違いなく才能のあるビークル乗りだ。

 短期間で高ランクバトラーを凌駕する実力を身に着け、トーナメント優勝するのも夢ではないレベルにまで到達した。

 しかし、それでも俺の方が一枚上手だった。

 それだけの話だ。

「グレイ……僕も、頑張ってきたんだ」

「ああ、知ってる」

 思い返すまでも無く、バニラはこの地に流れ着いてから相当な努力をしている。

 必死に生きて、ジンジャーとの稽古をこなして、何度も死線を潜り抜けてきた。

 現代日本なら、17歳の少年が背負い込む苦労ではない。

 そんなバニラの軌跡を間近で見てきたからこそ、俺はバニラの呟きに即答することができた。

「もっと、差は縮まったと思ってた……」

 バニラはそっとため息をつくように呟いた。

 力なく口元を歪ませるバニラを少し意外に思いながらも、俺ははっきりとした口調で答えた。

「俺もさ」

 俺の言葉に、バニラは少し驚いたように顔を上げる。

 不思議そうな顔をしているが、こっちも焦る場面はあったのだ。

 俺は明らかなチート勇者でも無敵の戦士でもない。

 原作知識とそれなりの射撃技術、あとは運よくビークルの才能を多少持っていたにすぎない。

 決して、俺の強さがバニラたちと比べて異次元のレベルにあるわけではないのだ。

 総合的な戦闘力では、実際に戦ってみれば、俺の方が一歩秀でていただけだ。

 だから、俺ははっきりとバニラに告げる。

「俺もギリギリだった。特に最後のは、結構危なかった」

「グレイ……」

 それだけ伝えると、俺は踵を返して試合会場を後にした。

 今の言葉を聞いた直後のバニラの顔は見ていないが、俺は背中に力強い真っ直ぐな視線を感じていた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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