steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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長くなったので二分割です。


89話 祝勝会 前編

 

「え~、皆様。本日はタダ酒目当てにお集まりいただき、誠にありがとうございます。突然のお声かけにもかかわらず応えていただいた暇人の皆様には、そのお気遣いとご足労に感謝の思いが絶えぬ次第ではございますが……まあ、あれですな。面子の多くが荒くれビークル乗りにシケた面の年寄りとは……わたくしの人望の無さを嘆く次第でございます」

 ロブスター亭のレストラン内に笑い声と若干のブーイングが響く。

 皮肉を交えて演説をキメる俺の姿はステージ上にあった。

 何度も上がっているステージだが、今日の俺のポジションはいつもの定位置ではなくボーカルマイクの前。

 普段はコニーが立つポジションである。

 しかも、今ステージ上に居るのは俺一人だけ。

 他のメンバーと共に上がるのが日常だっただけに、何とも妙な気分だ。

「ま、何はともあれ、今日は無礼講で楽しみましょう。それでは、皆様お手元のグラスをお持ちください。ハッピーガーランド一のイケメンであるこの私のトーナメント優勝を、新生チャンピオンの誕生を祝いまして、乾杯!」

「「「「「乾杯!!」」」」」

 俺の音頭に合わせて、会場の連中は声を揃えてグラスを掲げた。

 そう、これは俺の祝勝会だ。

 この街の知り合いを大勢招待しての大盤振る舞いだ。

 最初は楽団メンバーとガーランド闘技場に居る顔見知りの選手を何人か誘うだけのはずだったが、どこから話が漏れたのか、あれよあれよという間に規模は数倍に膨れ上がった。

 会場はロブスター亭のレストランを貸し切り、料理は隣の食料品店『ラッキー・フーズ』にも大量注文した。

 酒はさすがにドン・スミスセレクションの品までは用意できなかったが、ロブスター亭のバーテンであるクリスが在庫をひっくり返してかき集めてくれた。

 その結果、どこぞの貴族の誕生日会と見間違うくらいには豪勢なパーティーになった。

 会場こそ一流ホテルの巨大ホールではないが、料理は下手な上流階級の遊園会を凌駕するクオリティだろう。

 因みに、費用は全額俺持ちなのでトーナメントの優勝賞金が吹っ飛ぶ。

 ……まあ、いいけどさ。これくらい。

 それに、闘技場以外の業界の人間も集められたので、各所へ足を延ばして話す手間が省けたと思えばいい。

 ……それにしては、高い出費だけどな。

 

 

「グレイ、優勝おめでとう。凄い試合だったね」

「さすがだね、グレイ。新聞の第一面にも載ってたよ」

「ほぇ~……あのグレイがトーナメントのチャンピオンか~」

「この国で一番なんて、凄いわねぇ」

「グレイ、おめでとう。決勝戦は僕も見てたけど、本当に手に汗握る戦いだったよ」

 まずは最も親しい連中が俺の周りに集まる。

 この会場で一番親しい連中といえば、やはりトロット楽団の面々だ。

 コニー、マジョラム、バジル、セイボリー、バニラがそれぞれ俺に祝いの言葉を述べた。

 そして……。

「グレイ、今日のところはお前の優勝を祝っとくぜ」

 脱退してからというもの、トロット楽団の人間とは意図的に距離を取っているようなフェンネルだが、今回はビークルバトル関連での祝い事なので、普通に招待に応じた。

 楽団メンバーと積極的に絡まないのは変わらずだが……。

「ああ、ありがとう。予想外に派手なパーティーになっちまったが、たまにはこういうのも悪くないだろう。普段、皆は客もてなす側ばかりだろう? 今日は楽しんでくれ」

「やった! ご馳走だ~! ほら、セイボリーも行こうよ」

「そうね。せっかくのパーティーだし、楽しまなくちゃね」

 セイボリーは主催者の俺に目で礼を言いながら、ドタバタと喧しいバジルに続いた。

「フェンネル、バニラ。お疲れさん。俺が今回当たったのはバニラだけだったが、とてもいい試合だった。来年の俺は決勝シードだから戦うのは一人だけだが……どちらが来ても気の抜けないバトルになりそうだ。挑戦を楽しみにしている」

「ああ、来年は俺がチャンピオンになってやるからな」

「うん。僕も負けてられないね」

 改めてお互いの健闘を称え合い、バニラとフェンネルは各々のポジションに戻っていった。

 フェンネルはファンキーな見た目の連中のもとへ……どうやら、今回はボッチではないようだ。

 以前もフェンネルと話しているところを目にしたことがあるが、彼らがロックバンドのメンバーであるベンジャミンとフランクリンだ。

 いずれエレキギターが完成したら、彼らともきちんと話さないとな。

 バニラは当然ながらコニーに声を掛けた。

 二人の様子は……けっ!

 ちょうど、バニラはコニーから料理の載った取り皿を受け取っていた。

 そうですか。

 バニラの皿に取り分けられていた料理は、彼の好物ばかりですか。

 甲斐甲斐しく世話を焼くコニーに、バニラは照れた様子で礼を言いながら鼻の下を伸ばしている。

 リア充爆ぜろ……と言いたいところだが、またコニーにマルガリータの件を突っ込まれそうだ。

 触らぬ神に祟りなし。

 俺はイチャつく二人にはこれ以上関わらず、まだ声を掛けていないメンバーに向き直った。

「マジョラム、今回は世話になったな。君と『ラッキー・フーズ』のおかげで、テーブルの上が寂しいことにならずにすんだよ。急な注文ですまなかったね」

「とんでもない。大口の取引はいつでも歓迎さ。母さんも喜んでいたよ。それに、僕もご馳走になってるし」

「そうか。まあ、親御さんにもよろしく言っておいてくれ」

 実際、マジョラムは大食漢だ。

 祝いの席ということで料理は多めに用意してもらったはずだが、マジョラムの皿から消えてゆく料理の様子を見るに、残飯が出る心配は無さそうだな。

 それにしても……食べ慣れた実家の味のはずなのに、随分と美味そうに食うものだ。

 テレビのある世の中だったら、食レポで引っ張りだこだろう。

 

 

 一通り料理を腹に詰め込み、見た目の割に上品な所作で口を拭ったマジョラムは、若干コニーの方を気にしながら口を開いた。

「(そういえば、今日ダンディリオンは?)」

「(ああ、それなら……)」

 声を潜めて質問してきたマジョラムに、俺はセイボリーを示す。

 ちょうどバジルは彼女の傍を離れているらしく、俺とマジョラムの視線に気づいて意図を悟ったセイボリーはこちらへ寄ってきた。

「(ダンディリオン、今日は来れないみたいよ。ちょうど仕事が立て込んでいるらしいわ)」

「(そっか)」

 俺はダンディリオンを誘うのをセイボリーに任せたのだ。

「(やっぱり、この街には……)」

「(どうでしょうね……でも、あの人と顔を合わせることになると思えば、ちょうどよかったのかも)」

 若干の悲痛さを滲ませたマジョラムに対し、セイボリーは招待客のとある一団に視線をやりつつ答える。

 彼女の目には僅かに険のある色が浮かんだ。

 一瞬のことだったので、マジョラムは気づいていない。

「(ところで、セントジョーンズ卿はグレイが招待したのよね?)」

「(ああ、お得意さんだからな。ダンディリオンもセントジョーンズ卿も呼ばないわけにはいかないから、俺も内心ひやひやしていたよ)」

 セイボリーの言う通り、この祝勝パーティーにはセントジョーンズ卿も招待している。

 彼はトーナメントが終わったらすぐにスームスームへ行くのかと思いきや、俺が形式上の招待状を送ったら、本当にやって来たのだ。

 まあ、既にマーシュとは再会できているので、心にゆとりがあるのだろう。

 ダンディリオンへの誘いをセイボリーに委ねたのはこういうワケだ。

 彼女にセントジョーンズ卿が来ることを伝えておけば、当然ながらダンディリオンの耳にもそのことが入る。

 そうなれば、ダンディリオンは確実に欠席すると踏んだのだ。

 俺の立場上、ダンディリオンを誘わないわけにはいかない。

 しかし、今ダンディリオンとセントジョーンズ卿が遭遇するのは避けたい。

 原作では、この二人が直接絡むイベントは無いからな。

 この世界で二人が相まみえる展開になった場合、一体何が起きるのか分かったものではない。

 まあ、ブラッディマンティスの創設に始まる壮大な策略を鑑みれば、ダンディリオンが大っぴらに妙な真似をするとも思えないが……。

 何はともあれ、セイボリーはダンディリオンの裏の事情を知っており、エルダー状態の彼とも普通に話せる立場に居るので、彼女に任せれば話は早い。

 向こうも口裏を合わせやすいと思ってのことだったが、実際にその通りになったな。

 ありきたりな欠席理由に、深読みされてもハッピーガーランドへのトラウマというそれらしい事情がある。

 俺はまんまと二人への義理を通しつつ今後の展開に影響するかもしれないイレギュラーを排除することに成功したわけだ。

「(それにしても……)」

「(ん? どうしたんだい?)」

 ポツリと呟いたセイボリーに、マジョラムは疑問を発する。

 セイボリー他の招待客と話しているセントジョーンズ卿を見つつ首を傾げた。

「(セントジョーンズ卿、ヤケに楽しそうね。マーシュが行方不明になって気が気でない状態かと思っていたけど……)」

 そりゃ、マーシュとセントジョーンズ卿は既に再会していますからね。

 そこら辺をセイボリーとダンディリオンがどこまで把握しているのかはわからないが、セイボリーが俺の前で敢えてシラを切ってこちらを観察している可能性もあるのだから油断はできない。

「(何か進展でも……)」

「ああ! セイボリー!! そんなところで何してるんだい!?」

 緊張感で重くなりかけていた空気は、突如現れた緑の闖入者によって霧散させられた。

 そんなところとはご挨拶だが、今回ばっかりはいいタイミングだ。

 だが……俺とマジョラムに険しい視線を送ってくるあたり、相変わらず面倒くさい奴だ。

「ちょっとね……バジルこそ、もういいのかしら? さっきの子、あなたに夢中みたいよ」

「へ? そ、そんなわけないって! 僕のファンだっていうから……僕はセイボリーが最優先だよ!」

「そう、嬉しいわ。でも、ファンの子も大事にしなきゃダメよ」

 こんなちんちくりんにもファンが居るんだよな。

 まあ、腐ってもトロット楽団のメンバーで、ベースの腕は確かだ。

 珍しく役に立ったバジルにセイボリーを押し付け、俺は足早にその場を後にした。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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