steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
翌日、俺はビークルの助手席にナツメッグ博士を乗せて、ネフロの街を目指して出発した。
ビークルに積み込む荷物は戦利品の宝飾品と盗賊のワッペンだけだ。
死体は燃やして埋めた。
荷物はどうにかビークルのバックパーツのキャリアーに載せた箱に収まった。
「グレイ、昨日は聞きそびれたが……お前さん、ビークルの操縦は前世のゲームとやらで覚えたんかの?」
「ええ、コントローラー……ハンドルのようなものの構造は違いますが、挙動が似ているので助かりました」
「まったく……初めて乗ったビークルで盗賊ビークルを五台も六台も相手にするとは、本当にイカれた奴じゃ」
ナツメッグ博士に呆れられながらも、俺たちは化石の採掘場であるワグテール渓谷を抜けてビークルを歩かせる。
「盗賊、居ませんね」
ゲームではこの採掘場には『ハンドレッド』というムカデのような形をした盗賊ビークルが居るのだが、現実ではお目にかかれない。
「街道だからの。警備がここまで侵入を許すはずがなかろう」
原作ではネフロからピジョン牧場へ至る線路の上を『ハンドレッド』が堂々と走っていましたが何か?
ネフロの街は城壁に囲まれた如何にもヨーロッパ風の街並みだ。
ピジョン牧場方面から来たので南東の門から入り、そのまま西に進んで行く。
南西部に商店や人通りが集中しているのはゲームと同じだ。
もっとも、PS2のゲームのデザインに比べれば現実の街はもっと広く、建造物ごとの違いも顕著だ。
「あそこに停めるんじゃ」
博士からの指示通り、駐車場にビークルを止めてエンジンを切った。
ビークルから降りると、先に立って歩くナツメッグ博士の後を追う。
駐車したビークルに盗賊団の戦利品を残していくのが不安だったが、この町でナツメッグ博士の乗っていたビークルから盗みを働くような奴は居ないのだろう。
見れば、街行く人々は皆ナツメッグ博士に会釈して通り過ぎていく。
やはり、トロットビークル開発者の知名度と地位は相当なものだな。
博士の右後ろ――銃を抜いて構えやすい護衛の立ち位置――を追従する俺にも様々な視線がぶつけられる。
「邪魔するぞ」
「いらっしゃ……まあ! ナツメッグ博士ではありませんか」
博士に連れられて入ったのは、ゲームでも登場したネフロの街のブティック『ファッション・ロンド』だ。
出迎えた女主人はやはりナツメッグ博士の顔を知っている。
「礼装をお買い求めでしょうか?」
「いや、今日はこっちの助手の服が欲しくての」
「あら、新しくお弟子さんを? ……変わったファッションでいらっしゃるのね」
さすがに接客業の女性だけあって不躾にじろじろと見るような真似はしないが、やはり俺のスウェットとパーカーは珍しいようで視線は感じる。
「見ての通り、異国から来た奴じゃ。悪目立ちしない服を見繕ってやってくれんかの?」
「よろしくお願いします」
「畏まりましたわ。こちらにいらしてくださいな」
身長やら肩幅やら胴回りをメジャーで測った女主人が、意味不明な数字をメモに記入していく。
そのメモを持って近くの棚や奥の倉庫から服を出してくるのかと思いきや……。
「あの、失礼ながら……既成品ですと、こちらの労働者向けのシャツとジャンパーに作業ズボンしかサイズの合うものがございませんわ。お客様はかなり大柄でいらっしゃいますので……」
まあ、確かに百八十を優に超える身長に百キロ近い体躯の俺は、バンピートロットの世界だと船乗りや肉体労働者でしか見ないサイズだろう。
ナツメッグ博士の身内ということで、店主はもっと上品なスーツを用意しよう思っていたようだが、当然ながら特注でないと無理だな。
とりあえず、今ある服がこのタイプしか無いというので試着させてもらう。
「少しはマシになったではないか。そのけったいな寝間着よりもな」
博士はご機嫌なのでこの服でいいか。
動きやすそうだし。
服の代金は博士が出してくれた。
さすがに原作通り服が数百URということはなく、銀貨4枚の4000UR――日本円で四万ほど――だった。
日本ならこのクオリティの服など一万円もしないが、まあ昔は服が高価だったことくらい知っているので仕方ないな。
「博士、ありがとうございます」
「気にするでない」
労働者風の頑丈な服に着替え、拳銃の入った鞄を持ち直したところで、俺は銃のことを思い出し店主に聞いてみた。
「マダム、一つお聞きしたいのですが、こちらでホルスターは扱っていますか?」
「ホルスター、ですか?」
「ええ、このサイズの銃を持ち歩くのに」
俺は鞄からリボルバー拳銃を出して見せた。
「お前さん、まだそんな物騒な物を持ち歩いていたのか?」
「丸腰は不安なので」
ナツメッグ博士は呆れているが、実際にこの銃は盗賊を殺すのに役立った。
「博士、聞きそびれていましたが……これ持っているだけで捕まったりしませんよね?」
「そんな法律は無いがの。あまり言いたくはないが、わしの弟子だと言えば警察に武装解除されることもまず無いはずじゃ」
何だかんだで銃規制のことを聞きそびれていた自分のマヌケさに気がつくが、問題ないようで何よりだ。
しかし、そうなると実質俺は武装が許されたことになるわけか。
さすがにナツメッグ博士の七光りは凄いな。
「皮革加工の職人に発注するオーダ―メイドになりますので、少々お時間が掛かります。見積価格は……銀貨7000URほどに」
資料を確認した店主が告げてくるが、盗賊から奪った金が10万URあるので普通に出せる額だ。
「じゃあ、これで」
「ありがとうございます、承りました」
街に出ても浮かない服装に着替えた俺は、ナツメッグ博士と連れだって今度は警察署に向かった。
博士に付き従い受付に進むと、やけに張り切った敬礼とデカい声が特徴の警察官が声を掛けてきた。
「何かありましたか!?」
こんなキャラも居たな。
「うちの助手が盗賊団を一つ壊滅させての。グレイ」
「はい」
博士に促された俺は、盗賊の死体から引っぺがしたワッペンを受付に置いた。
「お、これは! ピジョン牧場の東の山を拠点とする、最近出てきた小規模の盗賊団のものですね。被害件数も少ないが、なかなか尻尾を捕まえられなかったしぶとい連中です。討伐されてしまうとは、さすがであります」
さすがに熱血警官、よく知っている。
「ええ、恐らくその一味で間違いないでしょう。構成員はほとんど死亡しました。ため込んでいた宝飾品も持ってきたので、処理したいのですが」
奥からさらに二人の警官が出てきて手を貸してくれた。
俺のビークルから宝飾品の詰まった箱を下ろし、署内で鑑定してもらう。
やはり所有者の特定が困難なありきたりな品や、持ち主が現れなかった物品は、質屋や古物商のような業者にまとめて卸すようだ。
あまりにも高額な戦利品は持ち主との直接交渉も可能らしいが、今回の戦利品にはそれほど特徴的な富裕層の持ち物は無かったので、このまま警察に任せて最低限の卸価格だけ貰えればいいか。
警察にも恩を売っておこう。
それでも懸賞金と合わせて20万U近くになった。
俺の所持金の合計は30万Uほどか。
ケチな盗賊団でも丸々潰せば一気に年収が稼げるのか。
もっとビークルの腕を上げたら、二回目も挑戦したくなるかもしれないな。
「ご協力感謝します。さすがはナツメッグ博士の助手ですね。小規模とはいえ、盗賊団を根こそぎ壊滅してしまうとは」
「いえ、運が良かっただけです。まだまだ博士から学ぶべきことの多い、浅学の身です」
懸賞金を受け取って警察署を後にしたころには、既に日が傾いていた。
その日は博士の案内でネフロの街の高級宿である『ホテル・ジャコウジカ』に泊まった。
ゲームではイベントの都合で一度も泊まれない宿だ。
現実でゲーム以上の経験ができるとはツイている。
因みに、ホテルの地下のバー・アフロディーテには労働者や修理工などの客層も居るが、宿泊客はほとんどが上流階級感を漂わせる連中ばかりだ。
まあ、宿泊料が他の宿に比べて段違いに高いので仕方ないか。
ナツメッグ博士ほどに顔の売れていない俺は、レストランで気取った連中にジロジロと見られることになる。
何がいけないのかって、どうせこの武骨なジャンパーを見下しているのだろう。
日本人の性で不躾な視線が気になる俺は、当然ながらこだわりがあるわけでもない服装を貫けるはずもなく、帰りにファッション・ロンドでスーツを注文することになった。
いいんだ、一着3万URくらいなら出せるから。
後日、スーツを取りに行ってびっくりした。
落ち着いたチャコールグレーの色合いとは裏腹に、サイズも少しゆとりがあって動きやすい。
ポケットが多く、水洗いもできるという、機能性も兼ね備えた逸品だ。
俺が半ば冗談で言った無理難題を全て解決してくれた。
この時代背景で達成できるとは驚きだな。
地球とは違う素材があるのだろう、きっと。
出来栄えに満足して、二着目のジャケットとベスト、替えのズボンとシャツをまとめ買いしてしまったのも問題ない。
あの女店主は商売がうまいな、本当に。
……しかし、普段は使いもしないネクタイと、ただの革靴を予備も含めて二足も買ってしまったのは無駄だったかもしれない。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。