steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
こんな状況ですが、拙作が少しでも皆様の心の潤いとなれたら幸いです。
引き続き、手洗い顔洗い等の感染対策を徹底し、この危機を乗り越えましょう。
祝勝会が終わった次の日、俺はロブスター亭のバニラが泊まる部屋を訪ねた。
「バニラ殿、そろそろ準備の方をお願いできますでしょうか? はい」
「む、グレイ……」
腰の低い俺に対し、険のある表情を向けるバニラ。
拗ねたような雰囲気も醸し出しているが……悪いとは思うけどさ、男がやっても可愛くはないんだよな。
「ショックだよ。まさか、グレイが僕のことをそんな奴だと思っていたなんて」
「だからすまんて……」
しかし、平謝りなのは仕方ない。
昨日は俺の対応がマズかったからな。
祝勝会でバニラが言っていたブラッディマンティスに関する相談とは、やはりコンフリーからの勧誘の件だった。
結論から言うと、バニラが敵側につく心配は杞憂だった。
話の内容は、自分がコンフリーの誘いに乗るふりをして、俺やガーランド警察でブラッディマンティスを一網打尽にできないか、とのことだった。
その作戦に関しては、地下アジトを殲滅したところでエルダーには辿り着けず、どうせコンフリーあたりは拠点を捨てて逃げ出す準備をしているだろう、ということで却下になった。
だが、バニラ自身からこのことを相談されたときの俺は、一瞬だが彼が既にブラッディマンティスに取り込まれた可能性を疑ったのだ。
自分で誘導しておいてなんだが、バニラはブラッディマンティスがジュニパーベリー号を沈めたことを知っているので、自発的に奴らに与する可能性は極めて低い。
だが、俺にはバニラがどちらのルートを取ったのか客観的に判断する術は無いのもまた事実だ。
言い訳としては、ゲームと違ってブラッディマンティス所属中は軍服が脱げないなどというシステムも無く、バニラの通り名なんてものは確認できないため……だが、そんなことを本人に説明できるはずもなく。
こういう時だけ無駄に勘のいいバニラは、俺が彼の離反の可能性を考慮していることに気付いてしまったわけだ。
「グレイには何か計画があるのかとは思っていたけど、まさか僕が船を沈めた連中に協力すると疑っていたとはね……」
「あの~ 怒ってらっしゃる?」
「呆れてるだけだよ!」
キレてますやん……。
俺は小動物のように小さくなってさらに平謝りを続けるしかなかったが、やがてバニラは「はぁ……」とため息をつくと、俺に疑問を投げかけてきた。
「何で、僕がブラッディマンティスにつくと思ったの? 思えば、グレイは会って間もない頃からやけに僕を注視していたよね。妙に親切だったり、色々と世話をしてくれたり……それに、道を誤らなければどうとか、敵側に付くなとか……」
バニラは俺との会話の内容をかなり正確に覚えているようだ。
どれも意識誘導的にさらっと言っただけなのにな。
「絶対におかしいよ。あんなに早い段階で、まるで僕のその後がわかっていたかのようにお膳立てして……。単にビークルの才能を見抜いて、味方にしようと思っただけじゃないんだろ?」
「…………」
「何故、僕を疑うことになったんだい?」
一瞬、俺は全てを打ち明けようかと迷った。
俺が転移者であることなどは伏せても、ブラッディマンティスの成り立ちとダンディリオンのことは話せる。
ダンディリオンが黒幕で彼に同情してしまう可能性を鑑みれば、俺が今まで黙っていたこともバニラは納得してくれるはずだ。
何だかんだ、俺は自分より一回り年下のバニラたちトロット楽団の面々を子ども扱いしていたが、この世界において彼らは十分に大人であり、社会がそうさせたのか予想以上にしっかりとした判断能力を持っていた。
しかし、だからこそバニラに全てを話すことは憚られる。
俺はどうしてもこのバンピートロット世界をどこか遠い世界のことのように捉えてしまうことがあるが、バニラはそうではない。
唯一無二の現実世界、大切な人たちと今を暮らす世界だ。
事情を知った彼はダンディリオンを助けようとするに違いない。
対して俺は、最低限ノーマルエンド通りの結末を迎えて、この世界を後の時代へと紡がなければならない。
俺も可能なら大団円を目指すつもりでいるが、正直に言って望み薄に多くを賭けられるほどの余裕は無いのだ。
だから、俺は正直(・・)に応えた。
「……それは言えない。今は」
落胆されるかと思ったが、バニラの反応は予想と違った。
バニラはため息とともに表情を緩めると、そっと口を開いた。
「そっか。大分、正直になったね」
俺は一瞬面食らったが、バニラは言葉を続けた。
「とりあえず、グレイが手段を選ばずブラッディマンティスを倒そうとしていることはわかったよ。そのためなら、僕にあらぬ疑いをかけることも厭わない。でしょ?」
「ぐっ……」
ぐうの音も出ません。
「いい気分じゃないのは確かだけど、そこは僕自身が怪しい出自の人間でもあったからね。仕方ないとは思ってる」
「えっとですね……私は何も悪意の元に黙っているわけでは……」
「いや、もういいよ」
苦しい言い訳に及ぶ俺を、バニラは手で制しながら遮った。
一瞬、バニラが呆れているのかと思ったが、彼の表情を見るとそうでもない雰囲気だ。
「言いたいことは全部言った。そっちにどんな事情があったとしても、僕はグレイにたくさん助けられた。それだけは間違いないから」
「……いいのか? 油断させて利用するつもりだったかもしれんぞ」
「それでもだよ。この国に来てすぐの頃は、恥ずかしいけど本当に心細かったんだ。コニーに助けられて、マジョラムやバジルと出会って、ローズマリーさんや隣のおばさんにもよくしてもらって、ジンジャーやナツメッグ博士にお世話になって……本当に、皆のおかげで凄く助かった。でも、ネフロに知り合いは一人も居なくて、自分がどこの誰かもわからなくて……」
バニラの声に徐々に熱がこもってくる。
「不安だった。先が見えなかった。本当に、怖かった。そんな僕を一番助けてくれたのは……グレイだから」
「…………」
そうだ。
俺も17歳の少年がそういう目に遭うことを知っていたからこそ、ビークルだけでなく生活面の支援もできる体制を整えてきたのだ。
打算もあったが、細かい部分はやはり俺の元日本人としての仁義によるものだ。
バニラの様子を見るに、それは正しい選択だったように思う。
「だから……グレイのこと、信じるよ。僕にできることなら、全力で恩に報いる」
バニラは力強く宣言した。
真っ直ぐに俺を見据えるバニラに対し、俺もしっかりと頷き返す。
やはり、信頼の積み重ねは大事だ。
ほんの少し配慮で思い遣りは伝わる。
今回の件は、奇しくもそれを証明する結果となった。
「でも……」
「ん?」
「もし、グレイまでコニーを危ない目に遭わせるつもりなら……」
「いや、ないから! それはない!!」
どうやら、コンフリーがコニーの名前も出して何かを仄めかしてきたようだ。
バニラにしてみれば、俺が彼女を餌として利用しないか心配なわけか。
信頼の積み重ねとか考えた途端に、随分な先入観じゃありませんこと?
即座に想いあたる時点でまあまあアウトな気もするが、今のところコニーを危険に晒すつもりは無いので、全力で否定した。
ただ……あの子は巻き込まれ体質だからな。
俺が介入したバンピートロットの歴史で、コニーがどのような目に遭うのか、正直なところ想像がつかない。
「どうだかなぁ? グレイはまだ情報を秘匿しているように思えるけど……」
「……黙秘します」
確かに、全てを話したとは言い難い。
意図的に伝えていない話はいくらでもある。
軽々しく全てを話すわけにはいかないが、これ以上嘘をつくのは憚られたので、俺は今回も回答を拒否した。
そんな俺に苦笑いを返し、バニラは立ち上がった。
「行こうか。今日はトンネルを占拠した盗賊団の退治だったね」
「……ああ。手を貸してくれ」
「もちろん」
俺とバニラがガーランド駅に到着すると、駅長と荷物搬入係のキースが出迎えてくれた。
「グレイさん、バニラさん。よく来てくださいました」
「あんたらが、トンネルを占拠したならず者盗賊団を倒してくれるんだってな。よろしく頼むよ」
既にセントジョーンズ卿が話を通してくれたので、話は恙無く進む。
今日、俺たちが出撃することも伝わっていたので、既に原動機付きのトロッコ二台も線路沿いに用意がされている。
修理機材や燃料弾薬の類も揃えてくれたらしい。
そこら辺はセントジョーンズ卿が資金を出して用意させたようだが……。
「至れり尽くせりだね……」
バニラは驚いているが、既にマーシュとの再会をお膳立てしていることを思えば、不思議ではないかな。
息子が見つかって心にゆとりがあり、ビークルの素材程度なら大した出費でもなし、彼なりに借りを返してくれているのだろう。
それに、トンネルが開通すればペンシル鉄道の株価が上昇する。
セントジョーンズ卿も鉄道会社の株は持っているはずなので、盗賊が片付けば彼も相殺以上の利益を得ることができるだろう。
だから俺たちは、遠慮なく整備場で出撃前のメンテナンスをしてもらった。
それぞれチェーンガンとガトリングアームの弾薬も満杯まで補充する。
俺の【ジャガーノート】の強化ブレードアームは……エルダー戦でエクスカリバーと打ち合ったダメージが刀身に残っているかもしれないが、これに関してはその辺の整備士でも自分でも手を出せない。
ピジョン牧場に戻ってナツメッグ博士に見てもらうしかないが……まあ、アーム駆動部の損傷はほぼ元通りに修理してもらったから、当面は問題ないだろう。
「トーナメント、見ましたよ。いやぁ、優勝者のグレイさんが出張ってくれるのなら、もう勝ったも同然ですな。……もちろん、準決勝まで進出したバニラさんも頼りにしております」
駅長は俺たちのバトルを見たらしく、興奮した様子
若干、バニラがついで扱いな気もするが、まあ本人は苦笑しているだけで特に気にした様子も無いので構わないか。
「警察ビークル隊が全滅したと聞いたときは、どうしようかと思いましたが……。上の方からも、既に制圧後の後片付けと路線の確保を見据えて準備するよう言われております。心配など無用かもしれませんが、どうかご武運を」
「どうも。期待に添えられるよう、やってみますよ」
気の早いセントジョーンズ卿の影響が少なからず出ているようだが、まあ早い分には問題ないか。
廃屋のシスターやエリッヒに連絡するのに、鉄道便が使えないのは不便だからな。
もちろん、今回の討伐も手を抜けるものではないが……。
そうしている間に、トロッコの準備が出来たようだ。
「ようし、線路に載せるぞ」
キースの案内に従い、俺たちはビークルをトロッコに載せた。
出撃の前に、俺は後ろに連結されたトロッコに【カモミール・タイプⅡ】を乗り上げた相棒に声を掛ける。
「バニラ、敵はトンネル内部を完全に封鎖できる大型ビークルを使っているはずだ。警察ビークル隊が殲滅されたことからも、制圧力と火力に秀でた武装を持っている可能性が高い。暗い閉所での戦闘になるから、いい感じに散開するのも難しい。遮蔽物も行動範囲も限られる中での射撃戦は避けられず、接近戦の準備も必要だ。油断するなよ」
「わかった」
バニラが頷いたのと同時に、線路の信号機の色が変わり、駅員たちがドヤドヤとこちらに集まってくる。
そろそろ出撃の時間だ。
「それでは出発!」
ほぼ総出で見送りに来てくれた駅の職員たちの敬礼に、俺たちも何となく返礼する。
そして、俺たちはゆったりと動き出したトロッコに身を任せ、盗賊団の占拠するウズラ山トンネルに向けて出発した。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。