steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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92話 ウズラ山トンネル 後編(スチーム・ハムレット戦)

 

「(グレイ……)」

「(ああ)」

 ウズラ山トンネル内部にゆっくりとトロッコが侵入し、暗闇に目が慣れてくると敵の全貌が明らかとなる。

 バニラの声に返答しつつ正面に注視すると、そこには俺の知識通りの巨大ビークル『スチーム・ハムレット』が居た。

 上下の路線を封鎖されており、トンネルの逆側の光が見えない。

 ならず者盗賊団にしては、なかなかの規模の巨大ビークルを建造したじゃないか。

 バンピートロットに登場するビークルはどれも秀逸なセンスの光るデザインだが、現実問題としては非効率的な部分が散見されるものも多々存在する。

 この『スチーム・ハムレット』もファンタジー的な発想を凝縮した典型的な例だが、現実では果たして……。

「ん? はっはー! またカモが来やがったー!」

「ここは通行止めだぜぇ!」

「地味なビークルが二台……工事作業に来た奴らか」

「ちっ、シケてやがる。まあいい。有り金とビークルを置いていきな!」

 こちらに気付いた盗賊の声を皮切りに、『スチーム・ハムレット』は動き出した。

 二両の汽車を繋げてゴテゴテと拡張したような見た目通り、汽笛のような甲高い蒸気の音を轟かせ、火花を散らして線路を軋ませる。

 左右の線路に載った車両には、それぞれ二基ずつの回転砲台が搭載されており、『スチーム・ハムレット』の起動と同時にこちらへ砲門を向けた。

 この狭い空間で可動性の高い速射砲の制圧射撃だ。

 警察ビークル隊も、砲弾の嵐と崩落するトンネルの建材の雨で、成すすべなく制圧されてしまったのだろう。

 しかし、俺たちは敵の戦力を把握しており、向こうの武装も俺の原作知識と合わせて大体の予想がついていた。

「グレイ!」

「おう!」

 当初の計画通り、俺とバニラは後退るようにビークルを滑らせ、迫りくる『スチーム・ハムレット』から距離を取った。

「逃がすな! 撃ちまく……うぉ!」

 バニラは【カモミール・タイプⅡ】を後退させながら俺の横に出ると、ヘッドライトのハイビームで正面を照らし、トリガーを引きっぱなしにしてガトリングアームを掃射した。

 絶え間ない連射で大口径弾を浴びせるが、『スチーム・ハムレット』側の盗賊は身を隠したため、有効打は与えられていない。

「なっ……!? 軍用グレードの武装……戦闘用ビークルだと……」

「こいつら、ただのビークル乗りじゃねぇ!」

「賞金稼ぎか!?」

「いや、俺たちの計画は漏れていない。この短期間で当局から懸賞金が掛かるとは……」

「畜生、もうしばらく稼げるはずだったのに……」

「構うこたぁねぇ! ぶっ殺せぇ!!」

「そうだ、怯むな! 腕は大したことねぇぞ!」

 一見、バニラの行動は意味の無い無駄撃ちだ。

 向こうもガトリングアームの火力に一瞬驚いたものの、ただの牽制の射撃と判断したのか、そのまま『スチーム・ハムレット』を進めてきた。

 敵の砲台も既に砲撃態勢に入っている。

 しかし、俺は慌てることなく【ジャガーノート】の体勢を安定させると、チェーンガンアームのトリガーに慎重に指を掛けた。

「……いいぞ、そこだ」

「「「「「ゴァ!」」」」」

 次の瞬間、凄まじい爆発音とともに『スチーム・ハムレット』の砲台で閃光が生じた。

 

 

「ぁ、が……」

「馬鹿な……」

 眩い閃光とともに炸裂した『スチーム・ハムレット』の砲台近くに搭乗していた盗賊たちは、全身を無数の破片で貫かれて絶命するか重傷を負うかして、バラバラと線路に投げ出された。

 速射砲の弾薬が全て誘爆した砲台の影響で、別の砲台や奥の機関部にも結構な損害が出ているようだ。

 何故、このようなことが起こったのか、原理は単純だ。

 俺は砲身にチェーンガンの弾を撃ち込み、内部の弾薬を炸裂させたのだ。

 気分は戦車の砲口を撃ち抜いたシ○・ヘイヘだが、これは砲口へ真っ直ぐ正確に弾丸をぶち込む精密射撃が要求され、尚且つ薬室に砲弾が装填されているタイミングを完璧に狙う必要がある。

 視界の悪い線路内で、目まぐるしく動く速射砲の回転砲台に対してやるものではない。

 しかし、成功すれば効果は絶大な自信があった。

 巨大ビークルとはいえ、狭いトンネル内で動くからには敵の大きさや装甲は制限される。

 そこに高い制圧力を持つ重武装を搭載しているとなれば、弾薬が誘爆したときのダメージは相当な有効打になるに違いない。

 結果は大成功なわけだが、今の一撃には入念な計画が必要だった。

 バニラには予め、ヘッドライトとガトリングアームのマズルフラッシュで、俺の視界を確保するよう頼んでおいたのだ。

 敵が砲撃を始める前に制圧射撃をカマせば、向こうの砲台は発射態勢のまま動きが止まり、弾薬を薬室に保持した状態を保ってくれる可能性も高い。

 あとは、バニラのガトリングより高い精度を持つ俺のチェーンガンで、砲口を撃ち抜けば完璧だ。

 ……確実に成功する策ではないので、うまく行かなかった場合は普通に撃ち合う覚悟もしていたが……。

 初撃で大ダメージを与えられたことは僥倖だ。

「くそがっ」

「撃て撃て!」

 犠牲者を出しながらも『スチーム・ハムレット』に搭乗する盗賊は残った砲台を駆使して俺たちを攻撃してきた。

 さすがにトンネル内での大口径砲の制圧射撃は強力で、崩落したトンネルの天井の破片などが落ちてくる。

 あまり放置すると、トンネル自体の被害も大きくなりそうだな。

「畳みかけるぞ! 一基ずつ、確実に潰せ!」

「了解!」

 だが、手負いの巨大ビークルなど、何度も強敵を打ち倒してきた俺たちの敵ではない。

 トンネル内では俺たちも回避行動がとれないが、『スチーム・ハムレット』は線路上を移動する列車型なので、こちら以上に被弾を避ける術は無い。

 俺とバニラは細かくサイドステップをする要領でビークルのスラスターを駆使し、的を絞らせないように立ち回りながら続けざまに機関砲の弾丸を浴びせる。

 『スチーム・ハムレット』も線路上を後退して、引き撃ちで砲弾をばら撒くが、逃がすつもりは無い。

 そしてついに、砲台の奥に位置する機関部が吹き飛び、『スチーム・ハムレット』の第一形態(・・・・)は破壊された。

 

 

「やった、か……?」

「いや、まだだ」

 何ともテンプレなセリフを放つバニラに苦笑しつつ、俺は敵の方を示した。

 予想通り、『スチーム・ハムレット』はガシャガシャとやかましい音を立てながらスクラップと化した前部を切り離し、今まで後部を守る装甲版として機能していた壁が勢いよく倒れてくる。

 スクラップを散らしながら奥から姿を現したのは、上下の路線を両方とも塞ぐ幅の巨大な石炭車だった。

 両端にはドリルのような巨大な鋭い刃が付いたクレーンが並んでいる。

「なっ!」

「第二形態だ。さっきの砲撃車が突破されても戦えるように、段階的に防衛線を張っているのだろう」

 何ともファンシーな仕組みだが、トンネルに立て籠もる運用法を思えば、完全に無駄なギミックとは断じられない。

 鉄道会社にとってトンネルは莫大な工事費を投入した貴重な財産であり、株主たちの意向を鑑みても、ウズラ山トンネルごと吹き飛ばして盗賊を排除するという選択肢はあり得ないからな。

 そもそも、強力な対地攻撃が可能な爆撃機や巡航ミサイルの類は、まだこの世界に存在しない。

 『スチーム・ハムレット』を排除するための攻撃は、ビークル部隊による強襲に限られる。

 地球では兵器の火力が防御力を圧倒的に超越したため重戦車ですらお役御免となったが、このバンピートロット世界においては巨大兵器の耐久力というのは決して侮れるものではないのだ。

 そして、トンネル内という、どう考えても回り込んでのクロスファイヤをカマせない状況。

 俺たちは敵の二段構え三段構えを正面から攻略することを強いられる。

 考えてみれば当たり前のことだが、俺も実際に戦ってみて厄介さを痛感した。

 なかなか、面倒な相手だ。

 

 

「うわっ」

「おっと」

 急加速した『スチーム・ハムレット』は、そのまま俺たちを掬い上げる勢いで前進してきた。

 俺たちは下手に流れに逆らわず、そのまま『スチーム・ハムレット』の石炭車にビークルを乗り上げる。

 最悪、トンネルの外まで下がっても良かったが、後ろには鉄道会社から借りたトロッコもあるので、何となく潰されるのは気分が悪かったのだ。

 俺たちはどうにかビークルの体勢を立て直し、石炭の山に落下して埋まるのを回避した。

 しかし、次の瞬間、大型のクレーンアームが先端のドリルやバールの先端っぽい刃を振りかざし、次々とこちらに襲い掛かってくる。

「ふんっ!」

「せぃ!」

 叩きつけられたクレーンアームを俺が強化ブレードで受け流すのと同時に、バニラも逆サイドのクレーンの攻撃をトライデントアームで弾いた。

 そして、バニラはスラスターの噴射を巧みに駆使してビークルを後退させた。

 確かに、前に進めば石炭と資材を満載した貨車にビークルの足を取られるので、立ち回りとしては悪くない選択だ。

 しかし、俺は構わず前進し、正面のクレーンアームを根本から強化ブレードで叩き斬った。

「ひ……」

 返す刀でクレーンの操作席にブレードを叩き込むと、搭乗していた盗賊は悲鳴を上げる間もなく絶命する。

「くそっ」

「野郎っ!」

 仲間が一人やられたのを見て、他のクレーンを操作する盗賊たちは激昂して俺を攻撃してきた。

 クレーンアームはそれぞれに人員が配置されており、向こうの攻撃は原作のような単純な振り下ろしだけではないので、なかなかに厄介だ。

 横合いからアームを振り回すようにして叩きつけられた大型ドリルの刃を、正面から強化ブレードで弾いて防ぐ。

 向こうにもそれなりの質量があるので、結構な衝撃だったが、この足場では回避もままならないので仕方ない。

 だが、俺がチェーンガンのトリガーに指を掛けると、間髪入れずクレーンアームの根元に続けざまに弾丸が撃ち込まれた。

「グレイ!」

「ああ、大丈夫だ。助かる」

 どうやら、バニラが援護をしてくれたようだ。

 素早い状況判断で助かる。

 そして、俺がクレーンアームを破壊しつつ奥まで進むと、目的の場所を発見した。

 石炭車のクレーンに動力を供給する機関室と思わしきエリアは、石炭の山に隠れるように位置している。

 原作のように、貨車の石炭に潜ったりはしないが、あそこが急所なのは同じと見て間違いない。

 搭乗している人員も多い。

「死にさらせ」

「ぅげっ」

「ぐわぁ!」

 チェーンガンを横薙ぎにして連続で弾丸を撃ち込むと、近距離からビークル搭載火器の掃射を食らった盗賊たちは一瞬で挽き肉となった。

 動力のバイパスに深刻なダメージを与えることに成功したようだが、ジェネレーターや計器類を吹き飛ばしたはずみで機関室が大きく炎上する。

「っ! 下がれ」

 俺はバニラを促し、急いで『スチーム・ハムレット』から離脱する。

 炭塵爆発のリスクを思えば、今の攻撃は少し迂闊だったかもしれない。

 幸い、爆発は起きず、『スチーム・ハムレット』の第二形態である石炭車は、全体の動力を制御できなくなり地味に沈黙した。

「これで……」

「ああ、次でお終いだろう」

 原作通りなら、『スチーム・ハムレット』は三つ目の車両が駆動系を制御する機関車になっている。

 あれを破壊すれば、完全に撃破できるはずだ。

 トンネル内の温度が徐々に上がっているが、俺は気を引き締めて敵の動きに注視した。

 

 

 大破した石炭車を切り離した『スチーム・ハムレット』は、ジリジリと後退を始めた。

「逃がすかっ」

「待て、バニラ」

「え……っ!」

 正面から『スチーム・ハムレット』の機関車に突撃しようとしたバニラを、俺は慌てて制止した。

 【カモミール・タイプⅡ】に急制動を掛けたバニラは怪訝な表情を俺に向けるが、この判断は正しかった。

 『スチーム・ハムレット』の機関室辺りから、歯車やら何やら金属製の資材が次々と飛んできたのだ。

 スクラップや金属片は結構な速度で飛んできたが、俺もバニラも回避行動を取ったので被害は出ていない。

「もっと後ろの資材持ってこい! 蒸気圧縮回路のパイプを開放して、ありったけ撃ち出すんだ!」

「試作品だが構わねぇ! 撃て撃て!!」

「奴らを止めろぉ!」

 なるほど、所謂スクラップガンに近いものだな。

 原作でも、『スチーム・ハムレット』の最終形態の攻撃手段は、巨大な歯車を飛ばしてくるというものだった。

 さすがにゲームのように歯車がバウンドしたりはしないが、圧力をかけて飛ばされるスクラップの雨はなかなかに危険だ。

 ビークルはともかく、コクピットに食らえば俺たちは怪我では済まないだろう。

 だが……。

「最後の車両だ。徹底的に破壊するぞ。機関室を蜂の巣にしてやれ」

「ああ、わかった」

 こちとらルール無しの撃ち合いには慣れているのだ。

 火器の括りにも入らない半端な飛び道具など、俺と【ジャガーノート】には通用しない。

 それに、今回は凄腕のビークル乗りに成長したバニラも居る。

 火力も立ち回りも完全にこちらの優勢だ。

 俺たちは瓦礫も利用しつつトンネル内で巧みにポジションを移動し、絶え間なく敵に弾丸を浴びせ続けた。

 バニラのガトリングアームと俺のチェーンガンが唸る度に、『スチーム・ハムレット』側の盗賊は直撃弾でくたばるか破片で負傷するかの末路を辿り、機関室の周囲からは不自然な蒸気や黒煙を吹き出す。

「そこだ!」

 そしてついに、俺のチェーンガンの弾丸は、機関室奥の蒸気バイパスの根本を捉えた。

 機関室のエネルギー系統のコアにビークル搭載火器を撃ちこまれては、さすがの巨大兵器も無事では済まない。

「おっと」

「うわ!」

 爆炎とともに吹き抜けた白煙に次いで、『スチーム・ハムレット』のパーツが俺の【ジャガーノート】とバニラの【カモミール・タイプⅡ】を掠るように飛散してくる。

 俺たちは破片から身を隠すようにしてコクピットに体を沈めた。

「バニラ! 大丈夫か?」

「な、何とか……」

 横目で確認したが、バニラの【カモミール・タイプⅡ】の損傷は軽微だ。

 もちろん、ミスリルボディの【ジャガーノート】にも大した損害はない。

 そして、蒸気と煤を含んだ黒煙が薄くなり徐々に視界が晴れると、線路上に『スチーム・ハムレット』の残骸が転がっているのが目に入る。

「やった、今度こそ……」

「ああ、完全に大破している。俺たちの仕事は終わりだ」

 トンネル内はスクラップと瓦礫で滅茶苦茶だが、『スチーム・ハムレット』最大の障害が排除された以上、復旧は時間の問題だろう。

 すぐに鉄道会社の手配で清掃と安全確認が行われ、汽車は運航を始めるはずだ。

 こうして、俺たちはネフロ~ハッピーガーランド間の交通網の回復に一つ貢献した。

 

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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