steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
いつもと変わらないロブスター亭の朝。
俺が一階に降りると、店主のダスティンがマジョラムを呼び止めていた。
「マジョラム、トロット楽団宛てに郵便が来てたよ。ほれ」
「ああ。ありがとう、ダスティン。……鉄道便か。仕事の依頼かも」
マジョラムがテーブルに書類を広げると、他のメンバーたちもわらわらと彼の席に集まってきた。
「どこどこ~? 次はいよいよ王都に進出かなぁ」
「もう、バジルったら……。でも、そろそろ大都市から依頼が来てもおかしくないわね。この前のスームスーム公演では、遠方から来た人も遊覧船に乗っていたでしょうし……コニーの歌声は他の街でも評判になっているはずだわ」
「そんな、セイボリーこそ……」
「僕もコニーの歌声は素敵だと思うよ。他の街に伝われば、きっと国中の人気者さ」
「ちょっと、バニラ……///」
「あらあら、二人は相変わらずね」
「ぼ、僕はセイボリーが一番素敵だと思っているからね!」
楽団の面々は相変わらずドタバタと喧しいが、そんな喧騒の中マイペースに書類を読み終えたマジョラムが顔を上げた。
「残念だけど、大都会ではないかな。ミームー村だよ」
「んん? ミームー村って、確かピジョン牧場の……」
「そうだよ。スキトール湖の向こう側の漁村だね。そこの村長のマルローさんって方から、コンサートを開いてくれないかって依頼が来たんだ。日取りは……今すぐでも大丈夫だって」
俺に顔を向けるバジルに、マジョラムが説明した。
そうか……。
原作でもミームー村のコンサートイベントがあったが、このタイミングで来るか。
ウズラ山トンネルの盗賊団が壊滅し、ネフロ~ハッピーガーランド間の鉄道が復旧した。
既に補修作業と安全確認は終わっており、今では普通に列車が運行している。
早速とばかりに、俺は鉄道便で廃屋のシスターとピジョン牧場のエリッヒに手紙を出した。
シスターに出す手紙には、リックに持たせるドン・スミス宛ての俺が書いた紹介状と、ロバートの名前が載ったガーランド大学の入学許可証を同封した。
エリッヒには鉄道便が復旧した旨を伝えたところ、ピートに送りたいというチーズが俺宛てに届き、めでたくパシリに選ばれた俺は先日ヒバリ田園地帯へお使いに行ってきたところだ。
あのガキ……運送費の節約に俺を利用するとは、なかなかにいい根性をしてやがる。
因みに、原作にウズラ山トンネルのイベントの報酬は、ネフロ~ハッピーガーランド間の鉄道の復旧――ゲームシステム上、それだけでも十分な恩恵だが――と記念プレートが貰えるだけだが、今回は鉄道会社から謝礼金が支払われた。
謝礼金に関しては鉄道会社側からの忖度なのだろうが、重役クラスが一介のビークル乗りの機嫌を取ってくるだけでも、セントジョーンズ卿の名前の影響力が垣間見える。
まあ、セントジョーンズ卿が鉄道会社のケツを叩いてくれたおかげで復旧が早まったわけで、謝礼金も俺にとっては端金だがバニラにとってはいい小遣い稼ぎになったので、悪いことはないか。
何はともあれ、今はネフロ方面へ行くのに砂漠を渡る必要は無く、滞っていた物流も回復している。
「それにしても、随分と急な話だね」
「どうやら、以前から駅開通記念に何かイベントを催す計画はあったらしい。それが、駅の完成直前にトンネルが封鎖されて、立ち消えていたみたいだね」
「ああ、それでようやく鉄道が復旧したから、って感じか」
マジョラムの説明にバジルは納得した。
確かに、原作では無理やりビークルバトルトーナメント前に駅を開通させても普通に楽団を呼べるが、現実ではそうもいかないよな。
「他の街とも公演の調整はしているけど、予定が迫っているものは無いし……新曲の『Just shout it out』も出せるくらいには合わせられているね。僕はこの話を引き受けようと思う。皆はどうだい?」
「……ああ、俺の予定は大丈夫だ」
少し迷ったが、マジョラムの提案に俺は頷いた。
原作のことを思い出せば、ここから世界は大きな脅威に見舞われ、ゲームのストーリーもエンディングに向けてほぼ一直線だ。
だが、今回はマーシュのことをドン・スミスに任せて早めに一区切りつけ、ブラッディマンティスへの妨害もジンジャーやファーガスンと協力して細々と進めて時間を稼いでいる。
どちらにせよ、ブラッディマンティスが動き出すまでやれることは無いので、今から一つ公演が入ったところで問題ないだろう。
全ての楽団メンバーがマジョラムの案を承諾し、俺はさらに付け加えるように提案した。
「今回は時間もあるからな。ミームー村駅へ行くにはネフロとピジョン牧場も通ることだし……皆ついでにローズマリーさんとナツメッグ博士にも会っていくといい」
「そうだね! お母さん、皆に会えたらきっと喜ぶよ」
「賛成だ。僕もコニーのお母さんの具合が気になるし、博士にビークルを見てもらおうかな」
「いいわね! ローズマリー、元気にしてるかしら……? それに、ネフロの街も復興が進んでいるだろうし、再建した博物館でも見に行こうかしら」
「あわわ……セイボリー、博物館なんて行くの? そんな難しそうなところ……」
「決まりだね。今回はのんびりと行こう。でも、初めての場所だから当日入りは不安だ。公演の二日前くらいにネフロへ行ってゆっくりして……ミームー村には前日入りで。皆、よろしくね」
そんなわけで、トロット楽団は再びネフロ方面へ赴くこととなった。
そして、あっという間にミームー村でのコンサート日が近づいてきた。
例によって、俺たちが汽車でネフロ駅に乗りつけると、俺たちを見つけたネフロの住民たちから歓声が浴びせられた。
今回はネフロの街での公演というわけではないが、以前のキラーエレファント団の襲撃のことも影響しているのだろう。
最前線でビークルを駆って戦ったトロット楽団の面々は、なかなかに英雄扱いだ。
「あはは……何だか、こそばゆいな」
「バジル、頑張ったものね。危険な盗賊団を相手に、一歩も退かずに戦って……皆、あなたのこと勇敢だって思っているわよ」
「ほ、本当!? セイボリーもそう思うかい?」
「ふふっ……」
セイボリーは曖昧に微笑んだ。
まあ……バジル君は早々に『ワイルド・ルースター』のミサイル弾に吹っ飛ばされ、大破していましたけどね。
そんなことを考えていると、コニーが俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
「皆、何してるの? 早く早く!」
「うぁっと! コニー……」
バニラの手を引きつつ手招きするコニーに従い、俺たちは彼女の家に向かった。
「お母さん」
「あら、コニー。お帰りなさい。ネフロに戻っていたのね」
「うん、ただいま。鉄道が復旧したからね」
「そうらしいわね。皆、忙しそうにしているわ」
家に中からコニーの声が聞こえるが、俺たちはまだドアの外で待機だ。
「こっちには、お仕事で?」
「そうなの。明日、ミームー村でライブなんだ。前に話したよね? ピジョン牧場の湖の向こうにある村で、最近になって鉄道が通ったところ」
「ええ、覚えているわ。あなたが買って来てくれたチーズ、美味しかったわね」
「うん、それでね……実は今日、楽団の皆も来てるんだよ」
「え? 皆って……?」
ここでコニーは家の外の俺たちを呼んだ。
待ってましたとばかりに、俺たちはコニーの家へ順番に足を踏み入れる。
大所帯でゾロゾロと扉を潜る光景はなかなかにシュールだが、とりあえず先頭の俺から家主に挨拶をしていった。
「お邪魔しますよ」
「こんにちは、ローズマリーさん」
「どうも、ご無沙汰してます」
「やっほー、ローズマリー! 元気だった?」
「久しぶりね、ローズマリー」
それほど広くないアパートなので、室内はすぐに寿司詰め状態となった。
しかし、楽団メンバーには懐かしい顔も居たようで、ローズマリーは目を輝かせた。
「まあ! 皆、久しぶりに……少し見ないうちに大きくなったわねぇ」
何だか年寄りっぽいセリフだが……楽団メンバーにしてみれば、こそばゆいだろうな。
原作でダンディリオンが言っていた通り、ローズマリーはコニーの母親というだけでなく皆の母親のようなものだ。
俺とバニラ以外の全員が彼女から音楽のイロハを教わっている。
「マジョラムは何だか貫禄が出たわね。前にも増して恰幅が良くなったような……」
「あはは、勘弁してください」
「セイボリーなんて随分と色っぽくなっちゃって……」
「もう! イヤだわ、ローズマリー。老けたってことぉ?」
「バジルは……そんなに変わってないわね。あんまりセイボリーに迷惑かけちゃダメよ」
「か、変わってない!? 嘘でしょ……」
そんな具合に、ローズマリーは懐かしい面々を見回して順に声を掛けていった。
声が弾んでいるあたり、サプライズ的な登場の効果はあったようだな。
「――それでね、トーナメントの準決勝はバニラとグレイの一騎打ちになったんだ」
「で、最後はグレイが前年度のチャンピオンまで倒して優勝! 祝勝会も凄かったんだよ。シュナイダーとか、凄い人がいっぱい来てさ!」
「ふふっ、そうなのね」
子どものようにはしゃいで喋り続けるコニーとバジルに、ローズマリーは穏やかな表情で相槌を打っている。
狭いアパートの一室だが、それぞれ思い思いの場所に腰掛け、壁に寄りかかり、ローズマリーを囲むようにして談笑した。
そして、ハッピーガーランドに戻った後の出来事――主にビークルバトルトーナメント関連――の話が粗方終わると、ローズマリーは俺たちを軽く見まわして口を開いた。
「ところで……やっぱり、フェンネルは来ないのね」
「あ、うん……」
ローズマリーはフェンネルの脱退とそれに伴うバニラの加入の件を知っている。
どうやら、スームスームからネフロ方面へ戻ってきた際に、バニラとコニーが色々と説明したようだ。
喧嘩別れしたわけではないが、やはり今まで一緒にやって来た人間が離れてしまったことには皆思うところがある。
「えっと……ほら、フェンネルはああいう奴だから! 『俺の音楽のために楽団を抜けたんだ』なんてカッコつけて言っちゃったから……その内、フラッと戻ってくるよ!」
「う~ん……まあ、その可能性が無いわけじゃないわね」
バジルの苦しい取り成しとセイボリーの相槌で、再び部屋を静寂が支配した。
ローズマリーも僅かに悲しみを含んだ苦笑を見せたが、それ以上は何も言わなかった。
彼女も何となくフェンネルの音楽の方向性の違いについては気づいていたのだろう。
そして、あともう一人の足りない人物ダンディリオンについては、誰もが言及することを避けていた。
「あ、そうそう! トンネルのことだけどね、これもグレイとバニラが盗賊団をやっつけて路線を復旧させたんだ。ね、コニー」
「う、うん。二人が盗賊退治に行ってたって聞いたときは、びっくりしたけど……」
再び話し始めたバジルとコニーのおかげで、微妙な空気は霧散した。
俺たちは再び他愛のない話をして時間を過ごす。
そんな具合に談笑していると、扉をノックする音が聞こえた。
「ちょいと、ローズマリー。随分と賑やかそうじゃないか」
「あ、おばさん」
「おやまぁ! こんな大所帯で……」
コニー母娘の隣人のおばさんが来たことで、ただでさえ狭いアパートの一室がさらに窮屈になった。
「へぇ、今度はミームー村に……相変わらず、あんたたちは忙しいねぇ。でも、大したもんだよ」
「いえいえ……今回はのんびりしている方ですよ」
マジョラムは今回俺たちが来た理由を隣のおばさんに説明した。
「ネフロにはいつまで居るんだい?」
「明日にはミームー村へ向かう予定です。前日入りですから、そんなに急ぎではないのですが、その前にピジョン牧場にも寄りたいので……」
「そいつはまた忙しないね」
今回、ナツメッグ博士にはコンサートの件を伝えていない。
ミームー村へ向かう途中で汽車を降りライブに誘う予定だが、楽団メンバー全員で押し掛けるのは、ローズマリーのときと同じく完全にサプライズだ。
そして、マジョラムの話をしばらく聞いていたおばさんは、何か名案を思いついたような表情で口を開いた。
「よし、今日の夕食はあたしがご馳走してあげるよ。皆も食べていきな」
「えっ! いいの!?」
「でも、この数は……」
「若いモンが遠慮なんてするんじゃないよ! 大舞台を控えてるなら、しっかり食べて力を付けなくちゃね」
手放しで喜ぶバジルとは対照的に、セイボリーはメンバーを見回して人数の多さを理由に断ろうとしたが、おばさんは強引に押し切った。
「ただ、この人数だと今ある食材じゃ足りないね。ちょっと遅めだけど、買い出しに行ってくるよ。マジョラム、グレイ、手伝っておくれ」
「もちろんだよ、おばさん」
「はいはい、荷物はお任せを」
まあ、ガタイのいい野郎どもの出番ですわな。
唐突な思いつきに続いてどんどん話が進んでいく。
「よし、行くよ。あんたたちも、あんまり騒ぐんじゃないよ。まだローズマリーは病人なんだからね」
「は~い」
能天気なバジルを尻目に、俺とマジョラムはフライパンで追い立てるようにして指示を出すおばさんに従い、購入した大量の食材を家に運び入れる。
俺も下拵えを手伝い、二時間ほど後。
シチューや鶏のソテーやシラサギ芋の煮物などを中心に、いくつもの鍋を満たす大量の料理が完成した。
「ほれ、たんとお食べ」
「うわあ! 凄い。いただきま~す」
「もう、バジルったら……」
「んんっ! 相変わらず、おばさんの料理は美味しいね」
「そうね。いつも、ありがとうね」
遠慮なく真っ先にフォークを伸ばしたバジルに続き、コニーも料理を頬張って舌鼓を打った。
ローズマリーは比較的あっさりしたものしか口にしないが……この世界でも、きちんと回復するといいな。
因みに、フライパンおばさんの料理は俺の感覚でもかなりハイクオリティだった。
正直、一世紀も前の料理の味とは思えない。
俺もナツメッグ邸に住んで料理の腕は上がったはずだが、やはり主婦は年季が違うということか。
「あ、バニラ、口元にソースが付いてるよ」
「え? どこ?」
「待って、私が取ってあげるから……」
「わ、わっ! こ、コニー、実のお母さんの前で……」
「ふふっ……ご馳走様ね、お二人さん」
「まあまあ! 若いっていいわねぇ」
「ええ、本当に……」
「ふむ、さすがに産地だけあって質が段違いだね。保存に向いているとはいえ、うちの店ではここまでのシラサギ芋は……」
賑やかな連中と囲む食卓に美味い料理……こういうのも悪くないな。
……何故か、高い肉と調味料を俺が買わされたことは未だに解せないが。
こういう平和なイベントも原作で欲しかったです……。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。