steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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97話 油田占拠

 

 伝書鳩が来たのは、ミームー村のコンサートが終わった翌日だった。

 鉄道便ですらもどかしいほどの緊急事態。

 差出人はガーランド警察のファーガスン警部。

 この時期にナツメッグ邸の俺宛てに来ているあたり、内容は決まっている。

 予想通り、ガラガラ砂漠の油田がブラッディマンティスに占拠されたとの知らせだった。

 ハッピーガーランドでは既に市民軍の募集が始まっているらしい。

 俺たちも至急コンドル砦に来てほしいとのことだった。

 俺はまずメリー乳業はじめピジョン牧場の面々に、ハードチーズなどの保存食の確保を頼んで回った。

 近いうちに必要となるであろう食料物資の調達の準備を整えたわけだ。

 続いて、トロット楽団メンバーを全員集め、事情を詳しく説明していく。

「ネフロ観光どころじゃなくなっちゃったわね」

「そうだね、まさかこんな事態になるなんて……とりあえず、僕たちもできることをしようか」

 トロット楽団メンバーは一旦ハッピーガーランドに戻り、バジルとセイボリーはダンディリオンに今回の件を伝えに行き、他の面々はそのまま俺に同行して砦へ向かう運びとなった。

 昨日の今日で忙しないが、緊急とのことなので、最低限の用事だけ済ませてハッピーガーランドに向かう手筈だ。

「では、今日中にハッピーガーランドに戻るとしよう。午後の汽車に乗るから、それまでに各自準備を整えておいてくれ。集合はネフロ駅の改札で。マジョラム、すまんが切符の手配を頼めるか?」

「ああ、任せてくれ」

「頼む。……コニーはローズマリーさんに会っていけ。心配させないのは無理だろうが、せめて状況をきちんと説明しておくように。バニラも一緒に行ってやれ」

「うん。ありがとう、グレイ」

「わかった」

 俺は最後にセイボリーとバジルに向き直った。

「バジル、セイボリーを一人にするなよ。ネフロはまだ大丈夫に見えるが、市民生活の単位で大きな混乱が発生すれば、ここも治安が悪化する。女性の一人歩きは危険だ」

「もちろんだよ! セイボリー、いつでも僕がついてるからね」

「え、ええ。ありがとう、バジル。でも、無理しないでね」

 本音はセイボリーを単独行動させたくないだけだが、バジルに働きを期待するのも……まあ、大っぴらに妙なことをさせないだけの効果はあるかな。

 

 

 出発の直前、俺はといえば、地下道にあるジンジャーのアジトに来ていた。

 慣れた調子で奥に声を掛けると、相変わらず髭面に飛行帽のジンジャーが姿を現す。

「グレイ、遅かったな」

「どうも。こっちも色々と立て込んでしまって……」

 ミームー村でのイベントの直後にブラッディマンティスの件の知らせだ。

 ガラガラ砂漠決戦の前に顔を合わせておきたいとは思っていたが、結局ジンジャーと会うのはハッピーガーランドに戻る直前となってしまった。

「まずは、ビークルバトルトーナメントの優勝おめでとうと言っておこう」

「ありがとうございます」

 どうやら、トーナメントの結果に関しては、既にジンジャーも情報を入手していたようだ。

 俺が前年度の覇者エルダーを倒したことも知っていた。

「先にピジョン牧場の件を報告しようか。彼らが無事なのは知っているだろうが、詳細も気になるだろう?」

「ええ、お願いします」

 俺がトーナメントやスームスーム行きで忙しくしている間、ジンジャーは約束通りピジョン牧場を守ってくれたようだ。

 当然、ブラッディマンティスの連中は漏れなく返り討ちで、死骸は野鳥か野犬の餌だ。

 ナツメッグ博士の設計図には何事も無く、メリー乳業も泥棒が来たこと自体知りもしない。

 さすがは元チャンピオンだ。

 迅速で正確な素晴らしい仕事だ。

「さて、エルダーの件だ。奴の不敗神話は崩壊したわけだが……ブラッディマンティスはやはり動き出したか?」

「ええ、そのことで一つ重要な話が……」

 俺はブラッディマンティスがついに油田の占拠に動いたことをジンジャーに伝えた。

 案の定、ジンジャーはその件に関しては初耳だった。

 ハッピーガーランドのニュースがネフロに届くまで、さらにジンジャーが情報を入手するまでには若干のタイムラグがある。

 本来なら、ジンジャーが油田の話を知るのは、もう少し後になっていたことだろう。

「君の予想と比べてどうだ? 連中の動きは」

「推測通りか……気持ち遅めくらいですね。ジンジャーが奴らを始末してくれたことも効いているでしょう」

「そうか。私の行いも連中への妨害工作にはなったか」

「ええ、改めて感謝します。俺の家族を守ってくれて、ありがとうございました」

 頭を下げた俺は、さらに言葉を続けた。

「ジンジャー、あとは俺たちの仕事です。連中はガラガラ砂漠決戦と次の一手あたりに全力を注いでくるはず。ここからは俺たちに任せて、身を隠してください。このままアジトで息を潜めるか、どこかにガラを躱すか……」

「そうか。私はもうお役御免か」

 若干、皮肉っぽい言い方だが、ジンジャーが本気で悪い感情を持っているわけでないことは俺にも分かった。

 何だかんだで、彼とは結構長い付き合いだ。

 そのくらいは読み取れる。

「全て片付いたら、またゆっくり話しましょう。一杯奢りますよ」

「ああ、楽しみにしておく」

 そして、ジンジャーのアジトを後にした俺は、皆が待つネフロ駅に向かった。

 

 

 改札に集合すると、楽団メンバーの面子の中には、コニー家の隣のおばさんも居た。

 俺が疑問に思っていると、おばさんはこちらにジト目を向けてきた。

「あんたたちのお目付け役だよ。何だか、無茶しそうな雰囲気だったからね」

 どうやら、コニーとバニラから油田の件と市民軍の募集の話を聞いて、俺たちに同行することを決めたようだ。

 確かに、市民軍ではビークル乗り以外にもメカニックや医療従事者や炊事衛生係を募集しているが……何と言うか、即決だな。

 まあ、今の段階でわかるのは、大規模な盗賊団との衝突になりそうだということくらいだ。

 コニーやトロット楽団の若い連中が心配になる気持ちもわかる。

「ああ、ローズマリーのことなら心配いらないよ。うちの亭主も居るし、近所の皆にも声を掛けておいたからね。滅多なことは起きないだろう」

「うん……ごめんね、おばさん。迷惑かけちゃって」

「何言ってんだい、コニー。困ったときはお互い様だよ。そんなことより、あんたたち本当に無茶をするんじゃないよ。ならず者をとっちめたいって気持ちはわかるけど、自分が怪我したり死んだりしちゃ元も子も無いからね」

 おばさんは些か強引にマジョラムの【イエロー・ベア】に同乗することを申し出ていたが、コクピットが狭くなりそうな……ゲフンゲフン。

 そんなわけで、俺たちは約一名の同行者を増やし、ハッピーガーランドへと戻ることになった。

 

 

 ダンディリオンの工房に赴いたバジルとセイボリーを除き、俺たちトロット楽団の面々は、ハッピーガーランドからガラガラ砂漠へと至る場所にあるコンドル砦へとやって来た。

 砦の中では、既に巨大な陸上戦艦『ロングシンフォニー』の建設が始まっている。

 まだ枠組みすらできておらず、前世の戦艦や空母に比べれば小柄な部類に入るだろうが、近くで見るとなかなかに厳つい巨大兵器だ。

 まだコンドル砦へと移動してきたバザーや志願兵の数は少ないが、既に砦は戦時中のような様相を呈している。

 ガーランド警察から派遣されたビークル部隊が所々で警備に立ち、なかなかに物々しい雰囲気だ。

 忙しく動き回るキャラバンビークルをホクホク顔で眺めるデルロッチ貿易の社長デルセンだけが不釣り合いだな。

 おばさんは早速とばかりに炊き出しの調理スペースに乗り込み、コニーも一瞬迷った後にバニラと二言三言交わしておばさんの後を追った。

 そんななか、俺とマジョラムとバニラに声を掛ける存在があった。

「やあ、よく来てくれたね」

 市民軍の司令官に就任した、ガーランド警察のファーガスン警部だ。

 ハッピーガーランドに住むマジョラムとは元々面識があり、バニラもトンネルの盗賊団の討伐の際などに少し顔を合わせているので、ここに初対面の人間は居ない。

 ファーガスンは早速本題に入った。

「グレイ君の忠告が現実のものとなったな。ブラッディマンティスに対する警戒、特に準軍事規模の戦力の配備と諜報の強化には不要論もあったが、今となっては早めに動けなかったことが悔やまれる。私もどこかで、そんな大それたことをする奴が居るはずないと、高を括っていたかもしれない」

「忠告ってほどじゃないけどな。連中の武器や金の動きを見れば、このくらいの革命じみた所業をやらかすことは予想に難くないだろう。でもまあ、ファーガスンのせいってわけでもないさ。国防や公的サービスの株主は上流階級の金持ちだ。セントジョーンズ卿まで動いてのこの始末であれば、最早どうしようもない話だろう」

「耳が痛いね」

 ファーガスンに愚痴ったところで仕方ないので、俺は目の前に鎮座する戦艦に目をやった。

「市民軍って割には、なかなかに立派な装備じゃないか」

「ああ、陸上戦艦『ロングシンフォニー』だ。元々は砂漠地帯の制圧用に軍の決戦兵器として設計されていたものだよ。意欲のある技術者たちによって、一部パーツは途中まで生産されていたが……全てを建造するには予算が足りず計画は放棄された。今回は街の防衛費と有志による援助で、建造計画の復活が決まったというわけだ。まあ、これを使わないで済むのなら、それに越したことはないのだが……」

 何とも泥縄式だが、これでも原作よりはこちらに有利な状況を作っているはずだ。

 ブラッディマンティスにはちょいちょい嫌がらせをしてきているし、エルダーもチャンピオンから陥落させたし、ピジョン牧場でのコソ泥計画もジンジャーによって阻止された。

 マーシュの方もドン・スミスの庇護を受けていることで、ブラッディマンティスは情報収集や攻撃に余計な労力を浪費しているだろう。

 しかし、連中は原作のシナリオ通りに油田を占拠して見せた。

 油断はできない相手だ。

「グレイ君、マジョラム君、バニラ君。今の市民軍には何もかも足りない。ビークルも、物資も、人材も……君たちの力を貸してくれ」

「ああ、そのつもりだ」

「ええ、もちろんです。司令」

「僕も手伝います」

「ありがとう」

 こうして、俺たちトロット楽団メンバーを加えた市民軍は、本格的にブラッディマンティスとの戦いに突入した。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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