steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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98話 市民軍

 

 数日もすると、市民軍にはハッピーガーランドの住民を主とする多くの有志が集まっていた。

 ビークル乗りは物資の輸送や建設作業の手伝いや警備、整備士は砦の修理場でビークルの修理や補給、それ以外にも炊き出しや軽作業に従事する人員が集結している。

 セントジョーンズ病院からも看護師を始めとする医療スタッフが送られてきた。

 司令部には、弁護士などの法律関係者やガーランド大学の有識者など、ブラッディマンティスとの交渉を担当する連中が次々と出入りしている。

 皆、それぞれ割り振られた仕事を積極的にこなし、ブラッディマンティスとの交渉および先頭に向けて着々と準備を整えている。

 だが、そんな状況にあっても、文句を言うだけの連中と言うのは居るものだ。

 今日も、ファーガスンのもとには大勢の市民が詰めかけていた。

「このままいつまでも燃料が手に入らなければ、再び馬車の時代に戻ってしまう!」

「ビークルが無かったら、私の商売も生活も成り立たないんだよ!」

「あなたがのんびりやっている間も、物価は上がり続けているのよ!」

 ヒステリーじみた声を飛ばす着飾った連中を見回したファーガスンは、ゆっくりと口を開いて諭した。

「皆さん、焦ってはいけません。これまで私は和解交渉を進めてきたのです。しかし、奴らは返事を先延ばしにするばかりでした。どうやらその裏で、奴らは巨大な陸上戦艦を建造し、砂漠全体を掌握しようとしているようなのです。その後、ハッピーガーランドに攻め込んでくるという情報もあります」

「じゃ、じゃあなおさら! ゆっくりしていられないじゃないか」

「そうです。しかし十分な戦力が無いままブラッディマンティスと戦うのは無謀です。今は陸上戦艦『ロングシンフォニー』を完成させましょう。負けてしまっては元も子もありません」

 市民というか、燃料の高騰で大損をこいた投資家もどきの連中は、渋々引き下がり砦を後にした。

 ……好き放題言っておいて、市民軍に参加もしなければ物資や金銭の支援もしないんだな。

 ファーガスンを見ると、眉間を抑えながらため息をついていた。

 そこに、物資の管理責任者に就任したマジョラムがやって来る。

「司令、どうかしたんですか?」

「ああ、皆焦っているようだ。血気盛んな市民は、今にも戦いたがっている」

 それはどうかな?

 連中は口だけだろう。

 実際に見てみれば、奴らがどういう種族かは想像がつく。

 働き者のマジョラムの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。

 よくよく思い出せば、マジョラムは市民軍に参加してからというもの、砦で一番働いている。

 物資の管理をして、輸送の仕事を割り振って、トロット楽団による慰問コンサートの話までまとめていた。

 社畜の才能があるな。

 そんなことを考えていると、マジョラムは俺に水を向けてきた。

「どうしても、戦いは避けられないのかな? このままだと、とんでもない数の犠牲が出てしまうよ」

「気持ちはわかるが……まあ、望み薄じゃないか。ここまで大規模な計画を実行に移したんだ。連中もハナッから交渉に乗る気なんて無いだろう」

 俺とマジョラムがそんな会話をするなか、ファーガスンはただ険しい顔で黙っていた。

 彼としても、部下や市民軍の無駄な犠牲は避けたいところだろう。

 しかし、それが状況的に難しいことは彼も重々承知しているはず。

 しばらくすると、ファーガスンは顔を上げて静かに口を開いた。

「……いや、まだだ。バニラ君を呼んでくれ」

 

 

 炊き出し場でコニーの作ったサンドイッチを食べていたバニラは、慌ててパンを呑み込みながらやって来た。

 先ほどまでのバニラはといえば、エプロン姿のコニーにデレデレとした表情を浮かべ、隣のおばさんが作った絶品ビーフシチューに目もくれず、コニーの料理を頬張っていた。

 因みに、彼女のサンドイッチの出来は……何と言うか、作り手の腕前によって味が左右される料理でなくて幸いというべきか。見た目はともかく。

 材料のチーズは俺が発注したピジョン牧場製だから、余程のひどい扱いをしなければ味は保障される。

 まあ、バニラの奴はコニーの手料理に素材以外の美味しさも感じていたようだが……。

 そんなバニラに、ファーガスンは淡々と用事を言いつけた。

「バニラ君、我々はこうして決戦の準備をしているわけだが、戦わずに済むのならそれに越したことは無い。だからもう一度、奴らと和解交渉をしてみようと思う。君には交渉人の護衛をしてもらいたい。……これが本当の最後だ。交渉が決裂すれば、そのまま宣戦布告をしてもらうつもりだ」

 重大な局面を迎えていることもあって、バニラは緊張で唾を呑み込みつつ準備に移った。

 どうせ無駄足に終わることだし、そんなに緊張するほどのことでもないが……まあ、ファーガスンの手前わざわざ茶々を入れる必要は無いか。

 そうこうしている内に、司令部の方でも交渉役の選定が終わったようだ。

「準備が出来たようだね。こちらが交渉人をしていただく、弁護士のクラインさんだ」

「よろしく。私の弁舌で、奴らを屈服させてみせますよ」

 何とも自信満々なことで……。

 そして、クラインを乗せたバニラの【カモミール・タイプⅡ】は砦を出ていった。

 結果はわかりきっているが……まあ、俺も彼の帰りを待つか。

 

 

「最後通牒、か」

「ああ、そのようだな」

 後ろから掛けられた声に俺は返答した。

「あれで片付くのか?」

「……まあ、十中八九ムリだろうな」

「何故だ?」

「こちらの要求は油田の占拠の解除と人質の解放、対価は金銭と恩赦くらいか? それに対して、向こうの目的は石油利権の奪取とテロ行為そのもの。ハナッから交渉にならん。あんたもそう思わんか?」

「……そんなものか」

 振り向くと、そこには予想通り傷のある仏頂面の筋肉質な男が立っていた。

 ネフロのチャンピオン、シュナイダーだ。

 俺の誘い通り、彼は市民軍に参加してくれた。

 シュナイダーは申し分ない戦力を持つビークルバトラーだが、彼にはシルヴィアというパートナーが居る。

 彼女にしてみれば、シュナイダーを戦地に送り出すなど、決して望ましいことではないだろう。

 そのうえで俺の要請に応えてくれたことは、本当に感謝している。

 しかし……相変わらず不愛想な奴だ。

「まあ、なんだ……改めて礼を言わせてくれ。市民軍に参加してくれたことは、本当に助かるよ」

「別にお前のためじゃない。ブラッディマンティスの件では、ネフロにも影響が出ている」

 こういう部分は変わらないな。

 まあ、頭を下げられて喜ぶタイプでないことは知っているので、俺はそれ以上の謝意を押し付けることはしない。

 ふとシュナイダーの後ろを見ると、彼のビークル【マキシマム】が目に入った。

 オリジナルのシールドアームに金棒アーム、遠距離武器の類は無い。

 俺は【マキシマム】を一通り眺めてから口を開いた。

「戦場は広大なガラガラ砂漠になる。砦付近も遮蔽物が多い地形とは言い難い。開けた場所での運用であっても格闘仕様……相変わらず接近戦一筋か」

 シュナイダーの表情は動かなかったが、意外にもはっきりと答えた。

「射撃武器はほとんど使えなかった」

「ん? 遠距離戦の才能が無いと?」

「いや、金が無くて買えなかった。弾薬代で維持費が掛かる」

 あぁ、そういう……。

 原作で見た話だが、彼は以前ムショにぶち込まれていたことがあり、出所して食っていくためにビークルバトルを始めたという経歴だった。

 今のシュナイダーなら普通にスナイパーアームも長距離キャノンアームも買えるだろうが、それこそ遠距離兵装と縁が無い期間が長すぎたか。

 軽口のつもりが地雷にぶち当たったな。

「すまん、立ち入り過ぎたな」

「いや、構わん。……以前、俺は塀の中に居たことがあってな。シルヴィアと出会ったのは――」

 シュナイダーは珍しく饒舌だった。

 原作で聞いた話だけでなく、シルヴィアとの馴れ初めやビークルバトルに関しても、彼のファンなら涎を垂らしそうな情報が出るわ出るわ……。

「何故、俺にその話を?」

「……さあな。自分でもよくわからん。ただ、来年のトーナメントのことを考えると、伝えておいた方がいい気がした。あと、お前から妙な憐憫の情を感じた」

 俺が適当にわざと負けて、恵まれないシュナイダーにチャンピオンの座を施しで譲るとでも?

 まあ、俺にとってビークルバトル自体がそこまで優先度の高いものではない以上……確かに、絶対に無いとは言えないな。

 現実の世界はこの先も続いてゆく。

 エンディングを迎えたからと言って、そこで時間が止まるわけではない。

 もし、その先の俺の人生においてチャンピオンの称号が邪魔になるようなら、適当に他人に押し付けることを選ぶだろう。

 ……予防線を張られたか。

「ま、今はブラッディマンティスの件だ。色々と使い走りみたいなことも押し付けちまうと思うが……全部片付いたら、一杯奢るよ」

「期待しておこう」

 ジンジャーにも酒を奢る約束をしたことだし、全て終わったら二人を引き合わせるかな。

 

 

 シュナイダーが去ると、今度は別のビークル乗りが俺に近づいてきた。

「グレイ」

「ああ、サフラン。来てくれて、ありがとうな」

 トーナメントで1回戦を戦ったサフランだ。

 今日はまた妙な格好だな。

 砂漠に近い場所だけあって、服は闘技場の衣装ほどの露出度ではないが、顔はいつも通りマスクで隠している。

 まあ、【スティール・モラル】を駆る以上、素顔を隠す覆面は必須か。

「え~と、大丈夫か? ビークルは修理できたかもしれないが、トーナメントでは散々な目に遭っただろう。精神的な疲れとかさ……」

「大丈夫、心配いらないわ。……ふふっ」

 サフランはマスクの奥で妖艶に笑った。

 何かおかしかったのかと俺は内心首をかしげるが、サフランは少し寂しそうな雰囲気を醸し出す。

「グレイはいつも私を心配してくれるわね。まるで、妹か娘みたいに……」

 妹か娘、ね。

 確かに、俺はサフランのことを原作の登場人物として見ていた。

 サブイベントで報われない描写をされていた彼女を見て、少しでも役に立ちたいと思った。

 あくまでも自己満足、メタ的な視点だ。

「リッキーのことなら、もう完全に吹っ切れたわ。寂しさも、疼くのも……自分ですれば、紛らわすことはできるし」

「おいおい……」

 こんな下ネタを言う奴だったか?

 俺が驚いていると、サフランはぐっと前かがみになり、俺の顔を下から覗き込むようにして口を開いた。

「あなたこそ大丈夫? あんまりいい顔つきじゃないわよ。恋人に会って来た方がいいんじゃない?」

「恋人って……ぁ…………」

 思い起こされるのは、ナツメッグ邸の工房でマルガリータと交わした口付け。

 デレは一瞬のことで、すぐにいつものツンケンしたマルガリータに戻ってしまったが、あの時の彼女の顔は忘れられない。

 あの後は、結局まともに話せないままコンドル砦へ来てしまった。

 このままでは……ダメだな。

 そんな会話をしていると、コンドル砦の門が開いてバニラの【カモミール・タイプⅡ】が帰ってきた。

「(おお! どうだった? 交渉はうまくいったか?)」

「(申し訳ありません、司令。奴ら、最初から交渉に応じるつもりが無いようです。それと司令、あの話は本当でした。奴ら、巨大な戦艦を建造しています)」

「(むう……! こうなっては、一刻も早く『ロングシンフォニー』を完成させなければ!)」

 予想通り、ブラッディマンティスとの交渉が決裂したことを確認した。

 いよいよ本格的に開戦か。

 ファーガスンたちの会話を遠くに聞きながら、俺は顔を上げた。

「そう、だな」

「グレイ?」

 俺はこちらを窺うサフランに向き直る。

「マルガリータに、会ってくるよ」

「……うん、そうした方がいいわ」

 俺はサフランに頷き返し、マジョラムの【イエロー・ベア】に向かって叫んだ。

「マジョラム! 俺はもう一度ピジョン牧場に行ってくる。向こうの食料物資は俺が引き受けるから、君とバニラはハッピーガーランド近郊の輸送を優先してくれ」

「わかったよ! 市民軍応援ライブの予定があるから、それまでに戻ってきてね」

 そして、俺はハッピーガーランド駅から汽車に乗り、数日ぶりのピジョン牧場へと足を向けた。

 

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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