steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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99話 一時帰宅からの......

 

 ピジョン牧場へ戻った俺は、まず物資の発注を済ませた。

 発足から数日が経ち規模が拡大した市民軍は大食らいだ。

 小麦も野菜も肉やチーズも足りない。

 保存が利く食材を中心とした大量注文だが、用意できるのは明朝になるとのことだった。

 ちょうど帰って来たことだし、久々に今夜は自宅で寝るとしよう。

 俺は日没を眺めつつ丘を登り、ナツメッグ邸の前に【ジャガーノート】を着けた。

 家の前にはマルガリータの【クラフトマンシップ】が停まっているが、最近では彼女が来ているのも当たり前となりつつある。

 工房で真剣に作業をする彼女の姿を思い出しつつ、俺は家のドアを開けた。

「グレイか」

「あ、博士。ただいま戻りました」

 ちょうど玄関先から見える位置に居たナツメッグ博士が俺に声を掛けてくる。

 俺はビークルから下ろした荷物を家に運び入れるが、こちらに注がれる博士の視線に違和感を覚え、動きを止めた。

 何か言いたいことがあるようだ。

「あの、何か?」

「うむ、こんなときになんじゃが……ローズマリーの確定診断が付きそうじゃ」

 

 

 俺は一旦テーブルに座り、博士の話を聞く態勢となった。

「例の検査用の器具ってのが届いたんですか?」

「ああ。わし自身、まだ使い方が完璧には分かっておらんのでな。すぐに検査することはできんが……近いうちに調べられるじゃろう」

 そいつは喜ばしいことじゃ。

 だが、俺も明日にはコンドル砦に戻らなければならないし、ローズマリーの検体採取に出張ることはできないな。

 ピジョン牧場の誰かにお使いを頼むことになるだろう。

「それでの……予想通り、排ガスや工場の煙によっておこる呼吸器の病だった場合、今すぐにローズマリーを移動させるべきかどうか。お前さんの意見を聞きたい」

「まあ、やめた方がいいでしょうね。今すぐってのは」

 俺の答えは博士も予想がついていたようで、それほど驚きはしなかった。

「理由はブラッディマンティスの件か?」

「ええ」

「何時になったら、カタが付くんじゃ?」

「ガラガラ砂漠決戦は近いうちに終わります。交渉は決裂して、市民軍は宣戦布告を行いました。恐らく、数日中には砂漠地帯で総力戦になって決着が付くでしょう」

 いつもなら、ここら辺で納得するだろう。

 しかし、今日の博士は妙に食い下がった。

「強大な秘密結社が数年越しで計画した破壊工作……それが、すぐに片付くと?」

「そうです」

「お前さんの予想通り、事は進むと?」

「はい」

「ぬ…………」

 ナツメッグ博士はじっと俺の顔を見据えた。

 何が言いたいのか量りかねるまま、しばらく時が流れる。

 そして、博士はゆっくりと口を開いた。

「なあ、グレイよ。率直に聞くが……お前さん、ブラッディマンティスのことで、何かわしに隠しとりゃせんか?」

「っ!」

 

 

「お前さんの『原作の知識』やら『運命』やら、忘れたわけではないぞ。あのけったいな謎に包まれた秘密結社に関しても、十分に知っておろう」

「…………」

「お前さんは何でも合理的にやる奴じゃ。金儲けを画策したときも、ビークルを強化するときも、バニラが来たときも……師であるわしを遠慮なく扱き使い、周りを上手く巻き込んで立ち回ってきた。しかし、ブラッディマンティスに関しては違う」

 ナツメッグ博士はさらに言葉を続けた。

「お前さんのことじゃ。連中の目的や黒幕についても、既に調べはついているのじゃろう。その割に、これほどの大事になっても、奴らのことでわしに何も相談しようとしない。何も語ろうとしない」

 ナツメッグ博士は俺をじっと見据え詰問する。

「連中の背後には、一体何が……誰が居るんじゃ?」

 黒幕はダンディリオン、そしてセイボリーも彼に協力している。

 目的はチコリの復讐のため。

 もちろん、この事実は最初から認識していた。

 しかし……とてもではないが、ナツメッグ博士に話せる内容ではない。

 いずれ知ることになる話だが、俺の口から伝えるのは無理だ。

「言っても、きっと信じませんよ」

「お前さんが荒唐無稽なことをほざくのは今更だろうに」

 そいつは反論できないな。

 言っても信じないというのも、結局は言い訳だ。

 しかし、感情面はもちろん、合理の面でも博士に伝えられないのもまた事実だ。

 覚悟なんて決められるものじゃない。

 ダンディリオンのことを……こんな残酷なことを伝えたら、博士はきっとブラッディマンティスと戦えない。

「言えないのです。誰かが傷つくなんて軽い表現では、済ませることができません」

「ふん、随分と偉くなったものじゃ。神にでもなったつもりか。上から見おって」

 この一言には、俺も胸の奥で怒りを覚えた。

 いずれダンディリオンと戦うことになると覚悟していた。

 最悪の場合、俺が手を下すことも考えていた。

 ブラッディマンティスとの決戦が近づき、その話も現実味を帯びてきた。

 そして、この世界がただのゲームではないことも、俺はとっくに承知している。

「お言葉ですが、博士。俺もこの世界に転移して数年、トロット楽団メンバーや街の皆にはそれなりに愛着を持っています。そんな人たちを、最悪自分の手で殺めることになる俺の気持ちが……!」

 あんたにわかるか?

 そう言いかけたが、ナツメッグ博士は俺を手で制した。

「わかった、もうよい。もう何も言わん」

「博士っ……」

「違う! お前さんを信じてやるよって」

 意外な言葉に、俺は些か驚いた顔で博士に向き直った。

「……お前さんは多くのことを成し遂げてきた。お前さんのやり方が正しいと思うなら、そのまま最後までやり遂げてみるがよい」

 そして、ナツメッグ博士は再び俺をじっと見据えた。

「しかし、覚えておけ。お前さんは孤高の救世主ではない。今となっては、守るべき家族も居るただの一人の男じゃ。このことは、ゆめゆめ忘れるでないぞ」

「家族……? ああ、はい」

「話は終いじゃ」

 もし、俺がダンディリオンを殺したら、博士は俺を許してくれるだろうか?

 どうするのが最善か……いや、あまり考えても仕方ないか。

 所詮、俺は元社畜。

 多くの人間に影響を及ぼす意思決定など、はっきり言って無縁の人生だった。

 そんな俺が……そう簡単に割り切れるものではない。

「博士」

「ん?」

「可能な限り、救います。でも、期待しないでください」

「……ああ」

 それだけ言うと、俺はダイニングから退出し自室へと向かった。

 着替えて……少し休むか。

 明日にはまたコンドル砦だ。

「マルガリータ。お前さんの旦那が帰ってきたぞ」

 工房へ向かった博士が、後ろでふざけたことを抜かしている。

 そういえば、彼女とも話さないとな。

 まあ、少し休んでからでいいか。

「(はて、どこに……?)」

 ナツメッグ博士が何か言っているが、俺は気にせず自分の寝室の扉を開いた。

 

 

「っ…………」

 自分の寝室に足を踏み入れた俺は、信じられないものを発見した。

 視界に飛び込んできた光景は、何とも衝撃的で煽情的で……いやいや!

 直視してはダメだ。

 しかし、目が離せん!

「す~……す~……」

 俺のベッドの上には、マルガリータが居た。

 体を少し丸めるようにして横になり、俺の枕に顔を埋めるようにして静かに寝息を立てている。

 何故、俺のベッドに居るのか、この時間から寝ているのか、前掛けが床に放り捨てられているのか……気になることは色々とあるが、そんな話はこの際どうでもいい。

 問題は、彼女のあられもない姿だ。

 洗いざらしのシャツのボタンはほぼ全て外れて前が開けており、彼女の豊かな双丘様が際どい所まで晒されている。

 分厚い生地のジーンズは膝辺りまで下げられ、機能的な白い下着も丸見えだ。

 何より、俺が最も目を疑ったのは、彼女の手が下着の中に潜り込んで……っと、イカンな直視しては。

 これは……うん、昨晩はお楽しみでしたね。お一人様で。

「んん……」

「っ!」

 身を捩ったマルガリータから発せられた声は、未だかつて聞いたことが無いほど甘く妖艶なものだった。

 恐らく、ほぼ無意識のことだろうが……ヤバいな。

 このままここに居ては、俺の理性が持たない。

「…………」

 俺は音を立てないように後退り、部屋を脱出しようと試みた。

 ハプニングを狙うつもりなど微塵も無い。

 しかし、こういう時に限って、運は妙なベクトルに味方をするものだ。

「ぁ、やべっ」

「っ! 誰っ!?」

 今の季節は使わないためドアの近くにハンガーで吊っていた上着が、ドサッと音を立てて床に落ちた。

 肘を引っ掛けるという何とも間抜けなミスであるが、その音でマルガリータは飛び起きた。

 しかし、誰って……俺の部屋なんだけどな。

「あ、あんた! もう帰って……っ!」

 俺の姿を認めたマルガリータは、すぐに自分の恰好に思い至った。

 慌ててシャツの前をかき合わせ、ジーンズを引き上げて太腿を閉じる。

 どちらかというと、激しく動いた拍子に見えたものの方が多いが……。

「~~!///」

「ははっ……」

 マルガリータは顔を真っ赤にして俺を睨んでいる。

 見てないフリというのは……無理だな。

 俺は笑って誤魔化すしかなかったが、マルガリータは一瞬で顔を怒りに染めた。

「馬鹿っ!!」

「いや、俺の部屋……」

「うるさいっ! 馬鹿! 変態! 覗き魔! 強姦魔! 死ねっ!!」

「ちょ、おいおいおい!」

 筆記用具や小物にライフル実包など、サイドボードの上に散乱していた物が次々と飛んでくる。

 マルガリータは近くにある物を目に付いた先から投げてくるので、俺は顔を手で庇うほかない。

「ま、待てって……うぉい! さすがにレンチは投げるな!」

 俺は額にぶち当たる拳銃弾に構わず、一気にマルガリータとの距離を詰めた。

 さすがにあれを食らったら死ぬ。

 俺も生身の体は普通の人間であり、【ジャガーノート】の装甲ボディとは違う。

 俺は何とか彼女がレンチを持って振り上げた手首を掴んだ。

 しかし、床を蹴って飛び出した慣性はそう簡単に消せない。

 勢い余って、俺は彼女をベッドに半ば押し倒すような形になってしまった。

 

 

「っ…………」

「あっ、や、これは……」

 マルガリータと目が合うと、射殺すような視線を向けられた。

 やっちまったな……。

 下には半裸の美女、俺は彼女に覆いかぶさり、その両手首を掴んで拘束している。

 法的にも、週刊誌的にも、完全に俺が悪者の状況だ。

 頬に掌の跡がついても、それこそレンチが来ても文句は言えない。

 言い訳しつつも殴られることを覚悟した俺は、多少体を引いて身構えた。

「…………………………………………?」

 しかし……衝撃はいつまで経ってもやって来ない。

 やがて、マルガリータの手からレンチが滑り落ちる。

 ステンレス製の工具がボスッと音を立ててベッドのマットレスに沈むのと同時に、彼女の腕からも力が抜けた。

「あの……」

「っ……」

 恐る恐る声を掛けながら視線を向けると、マルガリータは体を起こしてそのまま俺の胸に頭を埋めた。

 勢いよく胸にヘッドバットを食らったが、咳き込むのは我慢し、何とか彼女のことを抱き留める。

 マルガリータは普段よりかなりナーバスなようだが、俺に何ができるというわけでもなく……。

 やがて、マルガリータはポツリと呟いた。

「あんたも、戦争に?」

「…………」

「そんなに石油が大事? ビークルが大事? (あたしより……)」

 マルガリータの言葉は全て聞こえているにもかかわらず、俺は何も答えられなかった。

 彼女とはロクに話さず、俺はコンドル砦へ向かってしまった。

 もう一度、きちんと話すために戻って来たというのに、このザマだ……。

「何考えてんのさ……。あんたは神でも救世主でもないってのに……」

 さっきも似たようなことを言われたな。

 確かに、俺はドラゴンを殺せる勇者でもなければ、無限の魔力を持つチートキャラでもない。

 原作の知識こそあるが、俺が死なない保証などどこにも無い。

 マルガリータの気持ちもはっきりしている。

 彼女は……俺に危険な場所に赴いてほしくないと思っている。

 親しい人間に命を落とすリスクがある行動を取ってほしくないと思うのは、誰にとっても当然のことだろう。

 マルガリータがナツメッグ邸に来たばかりの頃も、彼女のそういった意識の片鱗は感じられた。

 だが、俺は……。

 考えれば考えるほど、反論材料は見つからない。

 俺はただ彼女の髪を撫で続けることしかできなかった。

「本当に……馬鹿だよ、あんた」

「落ち着け」

「うるさい!」

 俺がようやく発して一言は、鋭い怒声に一蹴された。

 間髪入れず、マルガリータは俺を突き飛ばし、体勢を入れ替える。

 今度はこちらがマウントポジションを取られる形になった。

 彼女の服装は相変わらず乱れているので、見上げると色々と目の毒な部分が視界に入る。

 しかし、当の本人には最早そのことを気にした様子など無い。

「うるさいよ…………黙って……」

 そのままマルガリータは俺の口に自分の唇を合わせてきた。

 またしても彼女からだが、相変わらず貪欲で情熱的なキスだ。

 言葉は少なく、言いたかったことの半分も言えていないが、お互いの気持ちが通じ合っていることを実感できる。

 離したくない、少しでも深く繋がりたい。

 お互い本能に近い部分でそれを察した。

 そして、長い口付けを交わした俺たちは……そのまま溶けるように交わり、共に一夜を過ごした。

 




R-15で大丈夫......ですよね?

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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