変態銃と芸術家   作:よし

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Double Devil

「うははは」

 

 荒野で銃を撃ちまくる女のアバターは、非常に絵になりました。

 マズルフラッシュと激しい銃声を絶えず発生させるのは《“Double Devil” Twin AR System》というアサルトライフルです。この銃は変態銃として名高く、王道を征くアサルトライフル《AR-15》を2つ用意し、横に並べて合体したというゲテモノです。ゆえに火力は二倍。

 しかし彼女はDouble Devilを2丁持っています。Double Devilの2丁銃ということで、火力は四倍です。

 

「ほら、大人しく武器を落としな」

「ぎゃああああ! 新しく買ったのにぃぃー!」

 

 そう叫んだ男は、ガラスが割れたように破砕し、消えてゆきました。

 女が持つ銃にはバイポッドが付いており、撃つならこれで支えることを推奨されています。しかしこの女には関係ありません。何故なら彼女は、このフルダイブ型VRゲーム《ガンゲイル・オンライン》の古参の一人で、()()()()()()()()()()()()を終えた彼女は、サービスが始まったその日にダイブしています。なのでレベルも今のところトップクラス。スキル振りで鍛えられた筋力(STR)はどんな銃も振り回してみせます。しかしこのゲームはレベルではなくプレイヤーのスキルが物を言います。FPSではエイムを鍛えることが第一でしょう。フルダイブで、普通に体を動かす感覚でアバターを動かすこのゲームでは、とにかく瞬時に物事を決められる判断力が大切です。あたふたしていたら撃たれます。

 で、彼女。銃を撃つためにわざわざ海外に飛んでいくほどのガンマニアなのですが、ガンはガンでも変態的なガン。つまり変態銃をとてもよく好みます。彼女の思考回路が周りと外れているというわけではありません。変態銃のマニアはそれなりにいるものです。

 GGOでドロップする変態銃を求め、高難易度ダンジョンにわざと身を投じたり、高い額課金して買ったり、変態銃を持つプレイヤーをPKしてランダムドロップを狙ったり等々。様々に手段を駆使して変態銃をコレクトしています。

 彼女が手に持つDouble Devilは、彼女が初めて手に入れた変態銃です。高難易度ダンジョンに潜んでいた、双子型の大型モンスターからドロップしました。

 このDouble Devil2丁は改造されています。引金2つに金属の丸棒がくっついており、左右どちらかの引金を引くと連動して反対側の引金も引かれる、というものです。こうすることで彼女は、Double Devilの2丁銃(いえ、この場合4丁銃でしょうか?)を可能としたのです。

 

「おーいガンプ。片付いたかい?」

 

 ガンプとは、彼女の名前です。もちろんゲーム内の名前です。

 全身をピチッと覆った、なかなか際どい鼠色の全身スーツを着たガンプ。スレンダーですが筋肉質な体躯ということもあって、色気は感じさせません。黒く長い髪は輪ゴムで乱暴にまとめられています。ポニーテールの失敗作です。

 彼女のアバターは女性のものですが、実は現実では男性です。不具合かどうかは分かりませんが、何故かガンプのアバターは女性です。ガンプ自身も何故かは分かっていませんが、然程気にしていないようです。

 ガンプを呼んだのはから全身を茶色のスーツで固めた男でした。生物的なデザインのスーツで、ところどころ浮き出ている血管のような管は脈打ち、右肩から出る円筒状のパイプ三本から、時折煙が放出されています。頭はエイリアンの意匠をしたヘルメットに覆われていて、顔も見えません。

 ガンプは返事をしました。

 

「一通りはな。生き残ったやつはみんな逃げてった」

「よし分かった。僕もそっちに行く」

 

 岩と岩をヒョイヒョイと跳んでやってきた男の名はバイド。SF好きな彼もまた変態銃マニアです。ガンプとリアルでの付き合いもあります。

 バイドはガンプのもとに来て聞きます。

 

「お目当てのものは落ちたかい?」

「待て待てバイド。今確認する」

 

 Double Devil2丁をストレージに仕舞い、荒野を歩きます。

 茶の大地に転がる銃。その数は、およそ9丁。

 

 

 

 ガンプとバイドは、そこまで難しくないダンジョンの帰り道に、二つのスコードロンの銃撃戦に出くわしました。

 いつもならそそくさと退散して、SBCグロッケンにある酒場や路地裏で騒いでいることでしょう。しかし、このときは違いました。

 

「あ、《Thunder .50BMG》!」

 

 バイドはその声に驚き、ガンプを見ると既に元いた場所にはいませんでした。Double Devilを2丁を構え、銃撃戦に参陣したのです。

 《Thunder .50BMG》ハンドガン。読んで字のごとく、アンチマテリアルライフルが撃つような大口径実包の.50BMG弾を撃つことができる拳銃です。装弾数は1発。どことなく漂うサイエンスフィクションな形状で、重量は5キロほど。マズルブレーキも搭載していますが、しかし発砲の衝撃は非常に強く、しっかり握っていないと反動で跳んできたサンダーが射手の顔面を襲います。

 そんな超弩級変態銃を、銃撃戦に洒落込んでいたスコードロンのメンバー一人が持っていたのです。

 ガンプは、変態銃には目がありません。あらゆる手段を尽くして我が物にしようとするのです。

 高性能武器? 知ったこっちゃないね。

 ガンプとはそんな人です。

 

 

 

「サンダー……駄目だ。ドロップしてない」

「駄目だったね。まあランダムだし、そうそうドロップはしないよ」

「こうなりゃ奪って全力で逃げればよかったかもな」

「こらこら」

 

 残念無念。サンダーはドロップしませんでした。悲しみに暮れつつも、ガンプはドロップした銃を拾っていきます。バイドもそれに続きます。

 

「AK、GLOCK、MP5、UZI、M870」

「M9、M1ガーランド、SCAR-L、MP28。SCARとM870あたりがそれなりの値段になるかな」

「おーそうかそうか。まあ普通の銃は事足りてるから、全部売っぱらっちまおうぜ」

「そうだね」

 

 ドロップした銃を、二人はストレージにしまいます。

 銃撃戦の跡地には、一台のバギーがありました。恐らくどちらかのスコードロンが乗っていたものでしょう。弾丸がフレームやタイヤを穿ち、至るところに穴が空いています。

 使い物にならないと分かると、二人は徒歩でグロッケンへの帰還を再開しました。

 

 

 

 場所は変わり、グロッケンの酒場。

 ドロップ品を売り捌いたあとの二人がいました。

 

「そういえば近々、チームのバトルロイヤルイベントがあるんだって」

「ほーう。チームか。BoBとは違うわけだ」

 

 BoBとは、GGOプレイヤーの最強を決めるバトルロイヤル《バレット・オブ・バレッツ》のことです。ガンプとバイドは、双方一度だけ大会に出場したことがあります。

 BoBはソロのバトルロイヤルで、孤軍奮闘を強いられます。

 バイドは、チームのバトルロイヤルと言いました。BoBとは違い、チームの連携が大切になります。

 

「その名も《スクイッド・ジャム》」

「いや絶対違うだろそれ。イカのジャムってなんだよ」

「あれ、違ったっけ?」

「この場合スクイッドじゃなくてスクワッドじゃね?」

「ああそうそうそれそれ」

 

 バイドはペプシっぽい炭酸飲料を、エイリアンヘルメットの口から出るインナーマウスのようなストローで飲み干します。隣のテーブルで酒を呑んでいるプレイヤーが、少し顔を青くしました。

 

「ほら。この前のBoBでチーミングしてたら、運営からのお咎めがあったじゃん?」

「あれね。でも他の奴らもチーミングしとったじゃん。シノンっていうスナイパーとキリトっていうダース・ベ○ダー」

「確かに黒い風貌でフォトンソード使っていたけれど」

「で、その大会が何だって?」

「BoBでチームプレイするくらいなら、いっそチーム戦の大会に出ればいいのでは、って話」

「名案だ」

「でしょ?」

 

 ガンプはコーラっぽい炭酸飲料を一気飲みしました。

 

「いつやるんだ」

「2月1日。丁度1ヶ月後」

「ほー、その辺りは特に立て込んでないな」

「直近の()()は?」

「先月終わった。次は分からん」

 

 この日は1月1日。元日です。

 元日で、普通なら親族が集まって年始の挨拶をするところですが、この二人はそんな伝統をことごとく無視してフルダイブしています。

 親不孝、ここに極まれり。

 

「じゃあ変態銃で頂きに立つとするか」

 

 というわけで、ガンプとバイドはスクワッド・ジャムに参加することにしました。

 

 

 

 数日前。

 GGOの運営《ザスカー》主催で行われるバトルロイヤル《バレット・オブ・バレッツ》は大きな盛り上がりを見せました。

 青い髪のスナイパーシノンに、GGO初心者という凄腕の光剣使いキリト。いずれも美しい少女のアバターでした。

 実は彼ら、撃たれたら現実で死ぬ、とゲーム内で密かに噂されていた《死銃事件》の事件解決のために奔走していました。犯人は、かつてフルダイブ型VRゲーム《ソードアート・オンライン》の殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》に、幹部として所属していました。

 ソードアート・オンラインとは、世界初のフルダイブ型VRゲームにして、世界を震撼させた舞台でもあるゲームです。

 一度ログインすれば自分の手でログアウト、つまり現実に戻ることができなくなってしまい、更に自分のHPを全損させてしまえばゲームでも現実でも死んでしまう、というまるで恐ろしい事件です。

 このとき誰もが使っていたフルダイブのための機械《ナーヴギア》は、頭をすっぽり覆うような形です。この機械が発するマイクロ波で、電子レンジのように脳を余すところなく焼き殺すのです。

 ソードアート・オンラインからの脱出方法はただ一つ。ゲームをクリアすること。閉じ込められた世界で、なんとしてでも生き残って元の世界に戻ろうと、人々はあらゆる手段を尽くしてゲームを攻略していきました。

 そんな攻略生活の最中、現れたのが笑う棺桶。

 ゲーム内で人を殺す。それは現実の人を殺すことと同義です。しかし警察は手出しできない。何故なら、ヴァーチャルの世界で起こっているのですから。

 それを利用し、人を殺し続けたのが《笑う棺桶》。そして、笑う棺桶の幹部《赤眼のザザ》こそが、《死銃(デス・ガン)》の一人なのです。

 死銃は、ゲームのアバターを動かす役と実行犯の2つに別れています。目標を殺す時刻を予め決めておき、その時間までに目標の自宅に侵入しておきます。そして、その時刻になったら死銃であるアバター《ステルベン》が目標を銃で撃ち、現実の実行犯が筋弛緩剤を目標に注射して殺す。この方法で、GGOのトッププレイヤーたちが数人殺されています。

 ステルベン役は、主に赤眼のザザこと新川昌一が担当しており、実行犯は《笑う棺桶》幹部のジョニー・ブラックこと金本敦、そして新川昌一の弟である新川恭二が担当していました。

 

 

 で、SAO攻略を担ったキリトと、大量殺人を行ったザザ。かつての怨敵同士が相まみえた第三回BoB。最初の時点でキリトはザザという名前を思い出してはいませんでしたが、それは壮絶なバトルになる……予定でした。

 バトルの終盤。死銃と、ザザを思い出したキリトの一騎打ち。宇宙戦艦の装甲で作られた剣にフォトンソード。銃の世界で剣の勝負という異様な戦いが繰り広げられました。シノンが機転を利かせ、スコープが壊され使い物にならなくなった対物狙撃銃《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》の弾道予測線をあたかも実弾に見せた“幻影の一弾(ファントム・バレット)”で、死銃を怯ませました。透明人間のように消えることができる光学迷彩で姿を消そうとした死銃でしたが、キリトの左手が持った拳銃《ファイブセブン》が消えかかった死銃を撃ち、死銃の透明化がキャンセルされたところでフォトンソードが死銃の横っ腹を真っ二つにぶった斬る、筈でした。

 

「ガッ!?」

「なっ!?」

 

 爆走したバギーが、死銃を撥ね飛ばしたのです。

 宙を舞う死銃は、バギーに乗っていた二人のうち、運転していない方によるアサルトライフルの猛攻により、HP全損させてしまいました。つまり死銃は空中で死にました。

 何故二人は、バギーの接近に気づかなかったのか。それは二人が集中の極限状態にあったからで、お互いがお互いに集中しすぎて周りの音が入ってこなかったのです。地形的に視界に入りにくかった、バギーの動力が電気で静かな走りを実現していた、という点もあります。

 ともかくバギーとバギーに乗った射手が、目標である死銃を撃ち殺してしまったのです。

 

「……」

 

 その後バギーはどこかに走り去っていきました。キリトとシノンは集まり、死銃が倒された今、あのバギーに乗っていた二人を倒す理由はない、ということで二人はリアルネーム等個人情報を教え合ったあと、グレネードで共々自爆しゲームから退場しました。

 

 

 バギーに乗った二人……運転手のバイドと射手のガンプは、各々の変態銃でお互いの頭を撃ち合ってゲームを終わらせました。コンマ数秒の差でバイドが一位に輝きました。

 

 

 

 東京都西多摩郡奥多摩町。大都会の外れにある自然豊かな街には、とある芸術家のアトリエがありました。そのアトリエは森の奥に建っていて、誰も近づくことはありません。外壁には蔦が生い茂り、まるで魔女が住んでいるような佇まいです。

 そのアトリエに住み、日夜芸術活動を行っているのは、若手芸術家、伊尹尹(いいんただし)です。この名前はペンネームではなく本名です。

 風景画家の男性と彫刻家の女性の間に生まれた彼は、幼い頃から芸術の才能を開花させており、10歳のときに人物画で芸術に関する国際的な賞を受賞しました。その後もいくつか賞を獲得し、芸術界の期待の新星となりました。

 人物画を描いてきた尹は、高校三年生のときに、ふと風景画を描きたいと思いました。そして、美術大学の受験勉強の息抜きで、高台から見た街の風景を描きました。

 完成した絵を父親に見せました。風景画家の父親から、アドバイスを受けようとしたのです。

 しかし、その絵を見た途端に父親は激怒しました。

 人を描け。俺の仕事を盗るな。人を描け。お前に風景画は描けない。人を描け。人しか描かないお前に風景画は解らない。

 父親は、尹に人物画を描くことを強制し、尹の風景画を一切認めませんでした。

 つまるところ、嫉妬していたのです。尹の天才的な才能に嫉妬していたのです。なので、息子である尹が描いた、自分の得意とする分野の風景画を認めませんでした。

 大学に入学し、父親に認めてもらうために、日本各地に赴いて風景画を何枚も描きました。しかし父親は断固拒否し、認めようとはせず、人物画を描くことを強制しました。

 大学四年生の時点で、人物画家としての地位を確立していた尹は、とうとう耐えられなくなり、自分が初めて賞を受賞したときの人物画を、カンバスの木枠ごと滅茶苦茶に壊してしまいました。

 

「人物画なんて、二度と描いてやるものか!」

 

 尹は親元を離れ、奥多摩にあった廃墟を買い取り、改造してアトリエにしました。以来尹は、両親とは絶縁状態にあり、連絡も取り合っていません。

 何者にも邪魔されなくなった尹は、風景画や抽象画を描き、ときには自分の体を筆にして、巨大な作品も作っています。

 

 

 

 あるとき、彼は目の前の()()()を見て溜め息を吐きました。

 二度と描きたくないと思っていた人物画を、どうして描いてしまったのだろう。芸術家である彼は、ただひたすらに悩みました。

 人物画を目の前にして、悩んでも答えは出ませんでした。

 しかし妥協はしません。自分が納得する作品に仕上がるまで、ひたすら油絵の具を塗り続けます。

 数時間経ち、午前2時。パレットは椅子の上に放り、画筆とペインティングナイフ等を洗い、諸々の片付けをしました。手を洗い、汚れた衣服を気にせず部屋を出ていきました。

 

 

 

 カンバスには、黒いコートを着て、黒い剣と青い剣を持った少年の、何かに口を開けて吼える様子が、壮絶に描かれていました。

 

 

 

 これは、芸術家の物語。変態銃を好む芸術家の物語。




 誤字脱字があれば誤字報告をお願いします。

SJ3で登場してほしい変態銃は?

  • L85A1
  • ステン
  • SIX12
  • 6P62
  • アパッチ・リボルバー
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