変態銃と芸術家 作:よし
一年で最も寒い時期と言われる2月。その始まりの日に、フルダイブ型VRゲーム《ガンゲイル・オンライン》にて、チームのバトルロイヤル《スクワッド・ジャム》が催されます。
開始時刻は14時で、10分前には参加者は指定の酒場に集合する決まりです。
現在の時刻は13時すぎ。まだ余裕があります。
スクワッド・ジャム、略称SJの参加者である灰色ツナギの女性アバターのガンプと地球外生命体を彷彿とさせるデザインの防具を身に着けたバイドは、チーム《MARIA》を結成しました。
「ダブルデビルは1丁だけにしときなよ。他の武器が積めなくなるからね」
「おう。アサルトライフルはこれでよくて、他には――」
ガンプは、AR-15を横に合体した銃《“Double Devil” Twin AR System》をメインアームにするようです。使いにくいことこの上なさそうですが、ガンプは特に問題ないようです。
「拳銃は……これだ!」
「お、セッジリー」
ガンプは銃器が乱雑に入った木箱から、小さなグローブを取り出しました。牛革で作られたベージュのグローブですが、手の甲部分には小型の機械が取り付けられていました。
これの名は《セッジリー OSS.38》。第二次世界大戦中、アメリカ海軍情報局が開発し、セッジリー・カンパニーが製造した拳銃です。配備先は戦略諜報局。
中折れ式で単発、38スペシャル弾を使用しており、銃弾を回転させるライフリングはありません。
これは隠密作戦や暗殺を目的に作られたもので、トリガーはバレルの横にあるスイッチ。殴打で鉛玉を撃ち込むことができます。
「実用性皆無だね」
ガンプの選択に、バイドは酷評しました。中折れ式の単発銃で、極めて面妖な形状。一発撃てば装填が必要になり、その都度隙ができます。
メインアームが弾切れを起こしたときに、なんとかして戦闘を継続するための手段が拳銃というもの。お世辞にも、セッジリー OSS.38はその役目を為してはくれないでしょう。
「変態銃に実用性を求めていたらキリないぜ。撃てて殺せれば問題ない」
「はは、そうだね」
物騒な会話ですが、ゲームの話なので安心できます。これが現実であれば、警察を呼ばれるかもしれません。
「あとは……」
木箱のそこに手を伸ばして摑んだものは、銀色で筒状の棒。ガンプが筒の先にあるダイヤルを捻ると、ブォン、というどこかで聞いたようなSFチックな音に合わせ、光が姿を現しました。
「《ムラマサF9》。
フォトンソード。某SF映画のアレと酷似した武器です。弾丸飛び交う世界になぜこんなものがあるのか、二人は別段考えたことはありませんが、まあ面白いしいいか、という軽い気持ちでフォトンソードを所持しています。
「飛んでくる弾でも切ってみる?」
「いやいや。そんなことできるのは、余程の反射神経を持ってるやつだけだよ」
「余程の反射神経……」
「ダース・ベ◯ダーとかな」
「誤解を招く発言はよしなさい」
「でもあいつならできそうだよな」
「もしかしたらあり得るかもしれないね」
ガンプはダイヤルを回して光の刃を消すと、筒の先にあるリングを腰のベルトに通しました。
「こんなもんでいいか」
「もっと武器、持たなくても?」
「問題ない。俺たちはきっと勝つさ」
「そうかい。じゃあ僕は……」
スクワッド・ジャム開始の15分前まで、二人はどの銃を使い、どうやって戦っていくかを話し合いました。
その頃酒場では、大きな男とポンチョを被ったチビが話し合っていました。
それは、このチームは注意しろ! というもの。
「レン、この《MARIA》というチームには注意しろ」
「マリア?」
「ああ。このチームを構成するガンプというプレイヤーとバイドというプレイヤーだが、二人共BoB優勝経験者だ」
「はいぃ?」
BoBとは《バレット・オブ・バレッツ》のこと。GGO最大規模の大会で、プレイヤーの頂点を決めるバトルロイヤルです。数多のプレイヤーを屠ってきた猛者たちが集うその大会は、それはもう激しいバトルが繰り広げられているのです。
レンはその事実をSJ開幕まであと数十分というタイミングで知り、早くも雲行きが怪しくなっていきます。
「ど、どんな人たちなの? エムさん」
レンは食い気味にその話について訊きました。
すると、ゴツゴツとした筋骨隆々の男であるエムは、数学の難問を解いているときのような難しい顔が、より一層強張りました。難問がミレニアム懸賞問題にクラスアップしたようです。
「この二人はあるポリシーをもってGGOにいる」
ポリシーとは政策、政略、方針、といった意味を持っています。この場合、3つ目の意味でしょう。
「それはいかなるときでも、変態銃で戦う、というものだ」
「へんたいじゅう?」
レンはその単語を初めて聞きました。最後の三文字は分かるとして、何故「へんたい」が付くのか分かりません。そして「へんたいじゅう」という言葉も分かりませんでした。
「変態銃というのは、文字通り変態的な銃のことだ」
「余計分からない」
「新しい銃を開発したが、様々な点で失敗してしまった銃の俗称、と思ってくれていい。銃として理想的なものを追求したり、多機能化したり、新技術を導入したり、完全な趣味で開発されたりと、開発経緯は多様だ」
「趣味……」
この世界には色んな人がいるんだなぁ、と思うレンの頭のなかには、下衆の顔を謎の男が怪しげな笑みを浮かべて銃を開発しているシーンが。銃の開発者を一体何だと思っているのでしょうか。変態ですかね。
「例えば、レンのP90も変態銃に属するだろう」
「えっ」
レンはその衝撃的な事実に驚愕し、ストレージに仕舞われているピンク色のP90を思い浮かべました。
な、なんですとー!? ピーちゃんが変態銃!?
「しかし、P90は変態銃のなかでも成功した分類にある」
「あ、そうなの?」
「その特異的な外見とシステムは変態銃と称してまったく問題ないと言っていた」
「ピーちゃんは変態じゃなくてカワイイ……ん? 誰が?」
「MARIAの二人だ」
「へー。へ、うぇ?」
レンは変な声を出しました。大学の名前の知らない同級生たちには聞かれたくない声です。
「会ったことあるの!?」
「そう言っていたのはついこの間のことだ。初めて会ったのは、フィールド。ピトと変態銃目当てに二人を奇襲したんだが、返り討ちにあった」
「ええ!?」
エムの戦闘スキルは実際に見たことがないのでまだ分からない部分はありますが、ピトフーイはなんというか、凶悪な魔王そのもの。勇者パーティのご都合主義を容赦なく無視するような人です。そう簡単にやられる玉ではありません。というか、ピトフーイが倒されるところは想像できません。
そんな二人が返り討ちに見舞われるなんて、一体どれほどの手練なのでしょうか。それこそ想像できません。
「ピトはガンプと撃ち合ったあと、お互いフォトンソードで戦い、その後ピトがやられた」
「嘘でしょ……」
「その後俺は、長距離からの狙撃で頭を撃ち抜かれた。俺の認識外からの狙撃で、恐らく1500メートル以上離れた距離からのものと考えている」
「怖っ」
レンが戦々恐々といった様子で変態的なプレイを見せる二人のプレイヤーを想像します。
うわー、嫌だな―。どんな人たちなんだろう。
「しかし、特に分からないことが一つある」
「……分からない? 何が?」
もうやめてくれ、不安材料を出すな―とレンが心のなかで泣いてしまいます。
「二人が話していたことだが、このチーム、メンバーが
「え、他に誰かいるってこと?」
強力な武器がありそうとかだったらまだよかった。しかしメンバーがもう一人いるのといないとでは、戦術の幅は大きく変わってきます。強力な武器がある以上に大きな不安材料で、悲しいかな、レンの願いは儚くも撃ち抜かれました。
「そうなる。でも、それが誰なのか分からない」
「会ったことないの?」
「あの二人に関連する人物には会ったことない。二人も詳細を話してはいなかった」
「でもその二人と組んでるってことは……」
「二人の動きについていけるようなプレイヤー、ということだな」
「絶対強いよ、その人」
始まる前から幸先悪すぎる! とレンは頭を抱えました。
時刻は13時45分。スクワッド・ジャム、開始15分前です。出場するプレイヤーは指定の酒場に、開始時刻の10分前までに集合しなくてはならない決まりです。
酒場には出場するチームと観戦するためにやってきたプレイヤーたちで賑わい、各々仮想的な酒や肴を飲み食いし、わいわい騒いでいます。
そんななか、チーム《MARIA》の二人は、SBCグロッケンにある部屋から出て、酒場を目指していました。
「まだ来ないな」
「リハビリが長引いてるのかな」
「かもな。最悪俺たちだけで戦うことになる」
「それでもいいけれど、やっぱ一人いるのといないのとでは違うからね」
「事情が事情だからな」
と、ここでガンプの目の前にメッセージが表示されました。
それはログインコールというもので、設定したフレンドがログインすると、そのことをメッセージで知らせてくれるというもの。
「来たみたいだね」
「よし、チーム《MARIA》、SJで暴れるぜ」
「死なないようにね」
「おい見ろよ。変態コンビのご登場だぜ」
「うは、あのアバター欲しい」
「俺はあのエイリアンヘルメットが欲しい」
「確か神殿エリアのレアドロップだった気がする」
「マジか」
「今回もあの、AR-15を繫げたやつ、使うのかな」
「さあ。あいつらの武器は多種多様だからな」
「もしかしたら今回だけ普通の銃を使うかもしれないぜ?」
「ないな」
「ない」
「それはない」
酒場の出入り口から入ってきたチーム《MARIA》の二人。集合時刻まで残り1分という、ギリギリな時間での登場です。
観客の間で、SJ開始から終了までに何発の弾薬が消費されるかを予想する賭け事が行われていますが、それの他に、変態銃コンビのガンプとバイドが使う変態銃が何かを予想する賭けも行われていました。BoB優勝者ということもあり、知名度はなかなかのもの。
「じゃあガンプ」
「《Double Devil》で」
「俺は《セッジリー OSS.38》」
「またすごいのチョイスするな。あ、俺は《H&K G11》」
「《TKB-059》」
「火力三倍やめろ」
「《ガリル》」
「戦場で飲酒すんな」
「《コッファー》だな!」
「これはGGOであってHITMANじゃないからな」
「次、バイド」
「《トビーレミントン》」
「デカい」
「《Mauser Tankgewehr M1918》」
「発音がネイティブ。でもありえるな」
「《デイビー・クロケット》でフィニッシュ」
「GGOに核を持ち込むな」
「《XM214 マイクロガン》だろ」
「ストレージがそれでいっぱいだな」
「《MGL-140》」
「これはありえる」
「《CIWS》」
「絶対ない」
もはや変態銃の大喜利と化していました。
集合時刻まで残り30秒。今、残り29秒になりました。
「ごめん! おまたせ!」
酒場に入ってきたのは、紫色のロングヘアーに赤で紐のヘアバンド、赤のキュロットに黒のプロテクターの《ナウティーキュロット》を着た少女でした。待たせていた誰かのところに謝りながら、周囲の男たちの視線に気づくことなく走っていきます。
その誰かとは、鼠色の肌に密着したスーツを着た女性アバターと、脈打つ生物的な意匠の防具に身を包んだアバターで。
「お前らかよ!?」
「お前らかよ!?」
「お前らかよ!?」
「お、お前らかよ!?」
二人の近くにいた酒場のプレイヤーたちが、羨ましいという意味も込めて突っ込みました。
「無事に来れたな」
「ごめんね、リハビリが長引いちゃって」
「しょうがないさ。ゲームよりも自分の身体の方が大切だからね」
「そうそう。参加できなくても、俺たちは何も言わないからな」
「ありがとう。でもボク、どうしても参加したかったから」
「確かに、GGOでの大会は初めてだからね」
「無理しないようにな。でも、一緒に遊べて嬉しいぜ」
「うん!」
少女の笑みが眩しいようで、周りのプレイヤーがふざけて手で目を覆いました。
「さて、そろそろ始まるな」
13時50分まで、残り10秒。
「そいじゃ、優勝し目指して頑張るか」
「あと10分後だけどね」
「気分を削ぐなよバイド。行くぞユウキ!」
「うん! 行こう!」
3秒、2、1、零。
ガンプたち出場プレイヤーは、光りに包まれて酒場から消えました。
おひさ。余裕できたから投稿です。
この小説は原作と大きくかけはなれた時空にあります。故にそこに出もしない筈のキャラが平然と出てきます。ユウキは絶対に死なせん。
誤字脱字がありましたら誤字報告をお願いします。
SJ3で登場してほしい変態銃は?
-
L85A1
-
ステン
-
SIX12
-
6P62
-
アパッチ・リボルバー