変態銃と芸術家 作:よし
「えっ?」
レンを瀕死にまで追いやったチーム《SHINC》。LMはそれを、なんとか撃破することができました。愛銃《P90》で蜂の巣にしたり、プラズマ・グレネードを誘爆させたり、ナイフで切り刻んだりして、難敵なアマゾネス集団に打ち勝つことができたのです。
エムのもとへ行った際、装甲が入れられたバックパックを背中ではなく前に保持していたために、エムの首が反対側に曲がったように見えて本当に驚いたのはご愛嬌。
しかし、SHINCとの戦闘によりP90が大破し、使い物にならなくなりました。レンが持つ武器は、黒いつや消しが施されたコンバットナイフのみ。
さて、どうする。
もうほとんど残っていないHPと弾薬。救急治療キットも消費し、真正面からの戦闘は避けたいものです。ですが、生き残ったチームが一つ。それは、SJ開始前にエムが懸念していたチーム《MARIA》。
MARIAの現在の状況がどうなっているかは分かりませんが、こちらが不利な状況にあるのは事実。
バレないように近づいて、エムの狙撃で倒すか。それともレンの速さと小ささを活かし、アマゾネス集団のボスを屠ったときと同じようにナイフで戦うか。
残りの残弾とHP、レンの状況に
「ごめん、もう一回言ってくれない?」
「……
チーム《MARIA》へ降参をお願いする。それが、エムの最善の一手でした。
「……無理な気がしてならないんだけれど」
荒野にぽつんと現れた装甲車。時間が経過するにつれて、会敵までの時間を短縮するためにランダムで出現する移動アイテムの一つです。荒野にぽつんと佇んでいた装甲車はあまりにも不自然で、シュールでもありました。
それを有効活用するべく、エムは運転席へ、レンは助手席に座りました。
ガソリンはタンクに半分ほど。燃費は知りません。ただ、MARIAとの邂逅を早められるのならなんでもいいです。
刺さっていたキーを回し、エンジンをかけます。
「なんとかこちらの事情を説明して、納得してもらおう」
「ただそれだけだと割に合わないような……。優勝賞品を譲るとか……?」
「それも、視野に入れておこう」
優勝賞品がなんなのかも、今のところ判明していませんが、恐らく弾薬やレアな銃あたりでしょう。
エムはアクセルを踏み、装甲車を走らせました。
かなり深く踏み込んでいるようで、装甲車はどんどん加速していきます。
荒野でのドライブは、石や砂利を轢くために車体が揺れに揺れました。シートベルトをしていましたが、レンのお尻は車体が揺れるたびに座席から小さく跳ねました。
「はあ。ピトさんがいたら、こんなことにはならなかったんだろうなぁ」
レンの、心からの思いが漏れ出ました。レンが心のなかで最強と認定しているピトフーイは、今日は生憎用事が入っているので、SJに参加することができませんでした。ピトフーイがいれば、降参してもらうという、ある意味苦渋の選択をすることなく、真正面からかち合うことができたかもしれません。
「俺は……そうはいかないと思う」
「どうして?」
エムはレンの思いを否定しました。気になり、レンが問います。
「あの二人はBoBでの優勝経験があり、戦術の幅は多岐にわたる。それに、あの二人が使う武器が分からない以上下手な出方もできないし、なにより以前二人が酒場で話していた、三人目のメンバー。それが気がかりだ。二人と同じく変な銃を使うのか、それとも普通の銃を使うのか。中近距離で戦うのか、中遠距離で戦うのか。……情報不足は、敗北に繫がる大きな材料なんだ」
「うう、そうかあ……」
はああ、幸先が悪過ぎたぁ。
座席の上で体育座りをして、膝と腹の間に顔を埋めました。
「そろそろ会敵してもいい頃だ。前方警戒」
荒野から居住区の南側を東に向かって走り、都市に入ったら東から北へ。
ピーちゃんを失った今、武器はナイフのみ。これでまともに戦えるのかはともかく、単眼鏡で助手席から気になるところの警戒を始めました。トラックはスピードを落とし、エムが身をかがめながらの運転に移行しようとした、そのとき。
ゴガンッ! とフロントから大きな音がして、煙を出し始めました。確認しなくても分かります。狙撃です。
「わひゃい!?」
「対物――車から出ろ! 北北東に200から300メートルの屋上にいる!」
単眼鏡で警戒していましたが、先にエムが発見しました。これは、経験の差からくるものでしょうか。レンは少し悔しく思いました。
レンはドアを開けて飛び降り、すぐ近くにあったコンビニのゴミ箱の横に身を隠しました。エムも運転席から出て、ビルの陰に隠れます。
「で!? どうするの!?」
「この距離なら、レンが走ればすぐに距離を縮められる。攻撃を躱しながら近づいて、事情を説明してくれ!」
「う、くっそぉ!」
レンは残り少ないHPの全損を覚悟で、ゴミ箱の影から飛び出ました。
右手にはナイフ。これで銃弾を切ろうとは思っていませんし、そもそもできないでしょう。
「北北東――いた!」
足をしゃかしゃか動かして、恐らくGGO一番の走りを見せるレン。現実でこの速度で走れるのなら、オリンピックの表彰台では一番上に立っていたことでしょう。
乱立するビル。そのなかの、レンから見て北北東200メートルの位置にあるビルの屋上に、いました。肉眼なのでぼんやりとですが、確かにいました。
こちらの出方に困惑しているのか、それとも確実に攻撃が当たる距離まで待っているのか、MARIAからの攻撃は一切なく、レンの走りは止まりません。
残り100メートルを切りました。ぼんやりとしか見えていなかった敵の姿は、次第にはっきりとしてきました。
「どっちも女の人?」
「そのうちの一人が、ガンプだ。ポニーテールの方」
残り50メートル。そのとき、屋上にいた二人のうちの一人が、構えていた銃を持って立ち上がると、ビルから飛び降りました。なにやらがりがりと削れる音が聞こえてきましたが、レンに音の正体を考える余裕はありません。
残り20メートル。路地から、ピトフーイが着ているようなツナギの灰色バージョンを着たポニーテールの女が、出てきました。
「よう!」
タトゥーのない頰を歪ませて、レンに向けて得物をぶちまけました。
「うひゃああああああああ!!」
銃撃を左に避け、ビルとビルの間の路地に身を隠します。
「おっと、残念」
ポニテ女――ガンプからの銃撃は2秒で終わりました。ガッシャゴン、と大きな音が聞こえました。マガジン交換のために空のマガジンを地面に放ったとも考えられますが、それにしても音が重厚です。銃本体を地面に落としたのでしょうか。
しかしレンは、まずガンプが使っていた奇っ怪な銃をエムに報告しました。
「な、何あれ!! なんかなんか、銃口が二つあったというか銃自体を横に二つくっつけたというか!!」
「《Double Devil》か。いや、それよりもまず!」
「あ、ごめん!」
アスファルトを歩く音は止みません。ゆっくりと近づいてきています。
レンはナイフをいつでも使えるように構えながら、いつ殺しにかかってきてもおかしくない女に言いました。
「待って! お願い、こっちの話を聞いて!」
すると、足音がピタリと止みました。止まってくれました。
「話?」
……声が、男の人?
アバターの見た目の割には、低い声でした。そういう女性も世の中にはいるかもしれませんが、それにしても低い声です。
ともかくこちらの話に耳を傾けてくれているようなので、すぐに話に移りました。
「降参してほしい、ってお願いならお断りだけどな。はは」
ビクゥ! とレンの身体が震えました。
嘘ぉ! バレてる!? いやでも、冗談っぽい調子だったし……とにかく!
より一層攻撃に警戒しつつ、レンはガンプに言いました。
「そう、それ!」
さあ、どうだ……?
「ははは……はい?」
返ってきたのは、気の抜けた声でした。
そりゃそうだよ。最後の真剣勝負ってときにいきなり降参をお願いされたら、誰だって驚くし戸惑うし、下手したら怒るだろうし。
レンは、どうやって説得しようかと次の言葉を探していると、ポニテ女(男の声ですが)のガンプからこんなことを言われました。
「もしかして……
「!! うん!」
その返しに、レンは驚きつつも即答しました。
ピトフーイとエムは、フィールドなどでMARIAの二人と戦い、話したこともあるみたいなので、もしかしたらピトフーイの異常性を既に知っているのかもしれません。それならば、多くを説明する必要はないでしょう。
「なるほどねぇー」
ガンプの声が遠ざかっていきました。忙しない足音も聞こえます。路地に身を隠したのでしょう。
反対の路地から話し声が聞こえてきました。内容は流石に聞き取れませんでしたが、ガンプがチームメンバーと話し合っているものでしょうか。
しばらくして、ガンプが路地から顔を出さずに、レンに大声で伝えました。
「内輪揉めで退場ってことにするからさー! 今度事情の詳細を頼む!」
「わ、分かった!」
な、なんとかなった……かな!?
レンが安堵からくるものなのかよく分からないため息をつくと、道路の方から銃声が。この音を、レンは知っています。
「これは、ピーちゃんの」
レンは路地から少しだけ顔を出し、断続的な銃声が聞こえる方を見ました。するとそこには、なんということでしょう。ポニテ女と、P90と光ってる棒を持った少女が戦っているではありませんか。あれが、エムが言っていた三人目のメンバーなのでしょうか。耳を澄ませて聴いてみると「光剣で目ぇ突き刺さないでー!」とか「うひょわあああ!」とか聞こえてきます。
その数秒後、銃声が止んで場が静まったので確認すると、【Dead】マークが2つ浮かんでいました。
直後にケバケバしいファンファーレと一緒に、
『CONGRATULATIONS!! WINNER LM!』
巨大な文字が空に表示されました。
「よ、よかった。なんとか、なった」
無線越しに安堵の声が伝わりました。この安堵は、今大会で一番重い発言でしょう。なにせ途中から、いえ最初から命をかけていたのですから。
試合時間、1時間57分。
第一回スクワッド・ジャム、終了。
優勝チーム・『LM』。
大会総発砲数・50,087発。
2月3日。火曜日。19時前。
SJの集合場所であり観客席でもあった大きな酒場ではなく、ショッピングモールのフードコートでの待ち合わせです。ショッピングモールには武器ショップやファッションショップがピンからキリまで構えられています。
フードコートのテーブル席に座っているのは、奥から緑色の迷彩服にローブを着たレン。その隣にはTシャツ姿のエム。更に隣には紺色のツナギを着たピトフーイ。レンは少し緊張した面持ちで、エムは冷や汗をかき、ピトフーイはいつものようにシニカルな笑みを浮かべていました。
三人が待ってるのはチーム《MARIA》。エムが勝てないと判断し、なんとか退場を懇願し、了承を得てくれたチームです。メンバー三人のうち、二人はBoBの優勝経験者です。あと一人の詳しいことは分かりませんが、P90に光剣となかなかどうして奇抜な戦闘スタイル。それで最後まで生き残ってきたのですから、猛者であることに間違いはありません。
何故そんなチームと待ち合わせているのかというと、MARIAへのお願いをするに至った事情を説明するため。MARIAのメンバー、ポニーテールで灰色のツナギを着た、アバターがピトフーイと同系統と思われるプレイヤーのガンプが、SJから退場する際に言いました。「今度事情の詳細を頼む」と。そのため、この場を設けたのです。セッティングはエムが行いました。
「レンちゃんと同じP90にフォトン・ソードかー! いやー楽しみだわ!」
「そ、そうだね」
――本当は、この場にピトフーイを連れてくるつもりはなかったのですが。
エムによれば、用事を終えたピトフーイがSJの中継映像を見て、
レンとしては特に、紫色の髪が特徴的な少女の戦闘は、GGOの主流な戦い方からかけ離れていて印象的でした。
時刻が19時をすぎました。
「おいっす!」
聞き覚えのある声の、妙ちきりんな挨拶が聞こえたので三人は後ろを向きました。
19時に待ち合わせをしていた、MARIAの三人です。
「こんばんはー」
「こんばんは」
ローブを被った少女とアジア系アバターの男性も、夜の挨拶をしました。
ガンプはSJのときと同じ格好でした。ピトフーイに非常に似たアバターで、頰にタトゥーはありません。
三人は、向かいの席に座ります。奥からガンプ、バイド、ユウキの順です。
ピトフーイとエムはユウキに、ガンプとバイドはレンに自己紹介しました。初対面には名前ぐらい教えないといけません。
「少し待たせたみたいだな」
「いやいや大丈夫。こっちもさっき来たばっかりよ」
「そうかい。じゃあ早速、何があったのかを話してくれ。大方、お前絡みだってことは分かっているけれど」
「あら、察しがいいわね」
ピトフーイがくつくつ笑う傍ら、エムは一枚の紙を渡してきました。
「これを読めばいいのかな?」
「ああ」
アジア系アバターのバイドがその紙を手に取ると、書かれた文章を読み上げました。
「……『やほうエム。奮戦中かね? ちょうど1時間が経ったら読むように言いつけておいたけど、破ってないだろうね? 破っていたら殺すよ? 今すぐしまえ。私の代わりに参加してるんだから、代わりに存分に楽しみなさいよ! これはゲームであって、遊びなんだからね! 1時間以内でふがいない死に方をしたらぶち殺すからね。でも、たった二人で1時間以上生き残ったのなら、本当にすごいよ。頭ナデナデして褒めてやるよ。そのあとに死んだら、やっぱり殺すからね。自殺もダメね。なんとしても生き残りなさいな。バトルは緊張感がないと、やっぱり楽しめないよね! さあさあ、存分に楽しめっ! 生を感じなさい! いじょー』」
読み終えると、その紙をテーブルに戻して、なんとも言えない困惑したような表情を浮かべました。対して、ガンプは呆れ返っていました。そして一言。
「物騒」
ピトフーイはその言葉を聞くと、笑いました。大笑いです。
「なるほど。確かにこれは、保身に走るよね。僕たちに退場をお願いしたのも頷ける」
「……」
バイドが困惑しながらも納得し、ユウキは紙を手に取って文章を読んでいます。
「……これって」
ユウキが、文章を読みながら問います。
「本当に殺そうとしてるの?」
「そうだよーお嬢ちゃん。緊張感を持ってやらないと楽しめないでしょう」
「ガンプ、これがデストルドー?」
「いやぁ、エムを運命共同体とでも思ってるんじゃない? エムに己のデストルドーとタナトスを巻き込ませてるんだよ。多分」
ピトフーイの答えは、尋常の考えではないです。緊張感を持たせるために、有り体に表すなら勝たせるために脅迫しているのです。達成できなければ、殺す。
「デストルドーは死へ向かおうとする欲動。タナトスはデストルドーと同義と思ってくれていい。要はね――」
ユウキが度々聞いた2つの単語を説明し、その言葉が意味している事実を説明しました。
「ピトフーイちゃんは、死に憧れているんだ」
その事実を聞いて衝撃を受けたのは、ユウキだけではありませんでした。
それ以上に、レンが驚いていました。
「――……」
このとき、ユウキがなにか呟いていましたが、それは周りの喧騒に搔き消されました。
「ま、そういうわけで。お詫びとしてこっちからなんかプレゼントしようと思っているんだけれど。なんかほしい武器とかあるかしら?」
「他の変態銃マニアには言わない方がいいぞ。突拍子もない武器とか要求されるだろうから」
「大丈夫。言わないから」
「ああそう。特に何もいらないな。《M202》ロケットランチャーがほしいところだけど、実装しないだろうし」
しばらく話し合い、MARIA側は納得しました。ピトフーイはお詫びになにかほしいか訊きますが、特になにも要らないとのこと。
ピトフーイとガンプ。アバターが似ているため、まるで鏡の向こうにいる自分と会話しているかのような奇妙さがありました。
「僕もなにもない。気を遣わなくても大丈夫さ」
「ボクも大丈夫。今の武器で事足りてるから」
バイドとユウキも、ピトフーイからの申し出に遠慮しました。
「そう。じゃあ、これでお開きでいいかしら?」
「そうしよう。場を設けてくれてありがとう」
ぐっなーい、とガンプは誰よりも早くログアウトしていきました。
「ボクもログアウトするね。特にやることないから」
「僕もログアウトしよう。気になっている小説があるんだ」
二人も立て続けにログアウトしていきます。
レンはMARIAが全員ログアウトしたあと、深くため息を吐きました。
その様子を見て、ピトフーイが言いました。
「どうよレンちゃん。あの三人は」
向かいの席に移動したピトフーイ。どうって、とレンは少し考えて答えます。
「あのガンプって人、男性だよね?」
「あったりまえじゃーん! あんな太い声の女なんてそうそういないわよ」
「だよね。なんでアバターが女性なんだろう」
「あいつはバグって言ってたわよ」
バグ。システムの不具合。プログラムのミスが原因で引き起こされるものですが、性別とは逆のアバターに設定されることがあるのでしょうか。しかしGGOのアバターは完全にランダムのため、一概には言えません。
「バイドって人は……特に」
「あいつね。いつもはエイリアンみたいな防具着てるのよ。デザインが気持ち悪くて、人避けには役立っていたわ」
「えぇ。人避けって」
「あのユウキちゃんに言い寄ってくる男が減るから、二人にとっては好都合なんじゃない?」
このガンゲイル・オンラインというゲームはハードの世界です。硝煙香る廃れた世界の女性プレイヤーは、三毛猫のオスほど珍しい存在なのです。
そんなゲームを一緒に遊ぶ、あの三人。ガンプとバイドの二人とユウキは、どのようにして知り合ったのでしょうか。
「うーん。ユウキちゃんって、明らかに年下だよね」
「高校にも入ってなさそうよね―って、リアルの詮索は駄目よ」
「あ、そうか」
オンラインゲームにおいて、リアルの詮索はNGです。この話題はこれで終わりにしました。
「それにしても……」
「?」
ピトフーイは体を震わせてから、
「ユウキちゃんと、いつか全力で戦いたいわぁ。命をかけるくらい全力で!」
この日、レンはピトフーイの異常性を、他チームとの交流で初めて知ることができました。
死への憧れを持つ女、ピトフーイ。それはゲームによって形成されたものではなく、現実での生活で形作られたもの。
いや、もしかしたら、生まれながらにしてその欲動に駆られていたのかもしれません。しかし、詳しい話は分かりません。リアルの詮索はNGですから。
しかし、LMが負けたら問答無用でエムが死んでいたという事実を改めて理解したとき、レンは――小比類巻香蓮は身震いしました。自分には理解し得ない存在が、この世にいることを。
そして、自分と同じく女性プレイヤーのユウキ。ピトフーイは少女と、全力で戦いたいと言いました。少女に、なにか思うものがあるのでしょうか。
ピトフーイの異常性、あの少女の謎で頭を悶々とさせながら、ベッドに入ることになります。
「……」
汚れたTシャツ。このTシャツの汚れは、特にアクリル絵の具によるものです。アクリル絵の具の汚れは頑固で、普通の洗濯用洗剤では取り除くことができません。
水色と黒色の絵の具がべっとりと付着していて、既に乾いていました。掌にも黒色の絵の具がべとべと付いていますが、乾いています。ベッドのシーツには、乾いてない状態で横になったために作ってしまった絵の具汚れが、いたるところにあります。
身を起こした男は、ヴァーチャル世界に入り込むための必需品である、頭部をすっぽり包み込む大きなヘッドギア状の機械を外して枕元に置きました。この機械も、絵の具にまみれています。
この男の名は
「……」
尹は、黄色に日焼けた天井を見上げました。
頭に浮かぶのは、ユウキの呟き。あのときユウキは、死に憧れる狂人に、当てつけるように呟いていました。
「絶対生きてた方がいいのに」
尹は、画鋲で壁に貼られた、新聞の記事に意識を移しました。地方新聞の記事の見出しには、大きな文字で一大ニュースを伝えています。
『完全な抗HIV薬の開発に成功』
そうだよな。人間、生きてた方がずっといい。
ユウキの言葉の重さは計り知れないな、と尹は思いました。
ここで、ノックが3回。
「どうぞ」
入ってきたのは、180センチは超えているであろう大柄な男性でした。白い髪は長く、一本にまとめられています。まつ毛や眉毛、髭も白色です。丸い眼鏡をかけた老齢の男性でした。
「さっきも言ったけれど、お風呂沸いてるから、先に入ってきてね」
「ああ。ありがとう」
尹は立ち上がると、男性の横を通って部屋を出ました。その際、通りすがりに男性の大きな胸に向かって、掌を当てて出ていきました。白色のベストに、黒の絵の具は付着しませんでした。
「……なにか、思うものがあるみたいだね」
「ありありだよ。
「まあ、そうだね」
あんな女、世界を探してもなかなか出てこないよ、と尹は風呂場に歩いていきました。
こたちゃん、と呼ばれた老人は、リビングに向かいました。
「……」
とある病院の個室にて。少女は夜空を眺めていました。
今日初めて会った、お世辞にも普通の人とは言えない女性を思いながら。
少女は、死への憧れを理解できませんでした。
生きてる方がいいのに。
生きてる方が楽しいのに。
どうして死に急ごうとしているのだろう。
「……尹は、どう思ってるのかな」
少女には、理解できませんでした。
そういえばSHINCとの戦闘でピーちゃんは壊されていましたね。その点を修正したので前回の話も合わせてご確認ください。
この調子だとセカンド・スクワッド・ジャムでは大波乱になりそうな予感ですね。でもすぐには書きません。箸休め的に三人の関係とかを書いたりすると思います。出会いとか。
誤字脱字は民家のゴキブリ並みに生息しているかと思われるため、アシダカ軍曹並の戦闘力をもって誤字報告をお願いします。
SJ3で登場してほしい変態銃は?
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L85A1
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ステン
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SIX12
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6P62
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アパッチ・リボルバー