涼風紅葉 作:唯我独尊
やっぱりある程度ストック溜とくもんなんですかね?
俺の名前は涼風紅葉。
都内の美大に通っている大学三年生だ。フリーのイラストレーターをやっていたりもする。知名度は業界内だとそこそこあるんじゃ無いかな。……多分。
まあ、仕事がぼちぼち入ってくるぐらいの知名度はあると思っていてくれればいい。
そんな俺だが、ただいま彼女が住んでいるアパートの前にいる。
本来今夜彼女と会う予定は無かったのだか、夕方突然電話がかかってきて"今日会えないかな?"と聞かれたのである。もちろん断る理由も無く、即行で彼女の家に来た。
それにしてもなんか何時もより元気が無かったような気がする……。
「なんか会ったのかな?」
取り敢えず玄関を開けて貰うために、ピンポーンとインターホンを鳴らす。
すると此方へ向かってくる足音が聞こえ、ドアがガチャと開きこのアパートに住んでいる彼女が顔を見せる。
「よっ! ひふみ」
「……くれは君。……中に、入って」
「う、うん」
やはり様子がおかしい。しかしこれは元気が無いというよりも、なんか怒っているような気がする。
やはりこの間の件がバレているのか……?
取り敢えずひふみの後について、部屋の中に入る。
「おっ、宗次郎じゃん。おひさー」
そう言いハリネズミの宗次郎に指でチョンチョンと挨拶するが、プイッと顔を反らされて無視されてしまう。
ふむ……、おかしい。何時もならもうちょっとじゃれてくるのに。
「そういえばひふみ。急に会いたいなんて何か――」
"あったの?"と聞こうとしたがその言葉は発することが出来なかった。何故ならひふみからベッドの上にいきなり押し倒されたからだ。
ひふみはそのまま俺の腹部にまたがり、顔の横にドンッ両手をついてきた。
「あ、あの、ひふみさん? こ、こんな積極的になるなんて珍しいね。そんなに溜まってたの……?」
彼女の大胆な行動に内心ビクビクしながらも軽口をたたく。
「……違う」
「で、ですよねー。分かっていました」
やっぱりあの事かなー? と、この様な事になった原因をある程度予測して再び口を開く。
「なあ、ひふみ――」
「――青葉ちゃん」
「……へ?」
予想外の人物名が出て来たことに唖然とする。
なぜ今この状況で"青葉"の名前が出てくるのかが謎すぎる。俺の知っている限りではひふみと青葉は互いに面識が無いはずだ。家の家族でひふみと面識があるのは母さんだけのはずだ。
別に知られて困ることでも無いけど、なぜ青葉のことをひふみが……?
「……知ってるよね……青葉ちゃんのこと」
「あ、ああ。もちろん知ってるよ」
俺がそう返すとひふみは悲しそうな顔になり、目尻からは透明な雫がうっすらと流れ落ちていく。
「そうなんだ……誤魔化す気もないんだね」
や、やばい。何故この様な状況になったのかが一切分からない。
確かにひふみは普段から口数が多い方ではないので、ほぼ初対面の時は何を考えているのか分からなかった時も多々ある。
しかし数年も付き合っていればある程度何を考えているのかはだいたい分かる。分かるのだか……こと、今回に至っては一切分からない。
「ねえ 私何かした……? くれは君の気に触るようなこと……何かした? してたら謝るから……」
「それともやっぱり年上よりも年下の娘のほうが……好きだった?」
やばい。何故こんなシリアスな雰囲気になってるのかが現在進行形で分からない。
「ねえ 何か答えてよ……! 答えてくれないと分からないよ……!」
とうとう涙腺が崩壊したようで大量の涙がこぼれ落ち、俺の胸に顔を埋め号泣し始める。
未だに話の大枠が掴めていない俺はなんと声をかけていいのかが分からず、ただただ抱き締めてひふみを落ち着かせる事しか出来ずにいた。
ただ一つ分かったことがある。この話には青葉が関係していると……。
―――
夢を見た。
まだ私が上京してきたときの夢。
あの時はまだ東京の人混みにも慣れてなく右も左も分からない状態のときだった。
――お姉さん。何かお困りごと?
そんな時だった彼が声をかけて来てくれたのは。
――やっぱり、上京してきた人なんだ。うん、わかるよ。お姉さんの場合物凄く分かりやすかったよ。上向いてキョロキョロしてるんだもん。
彼は笑いながらそう教えてくると”どこか行きたい所でもあるの?”と聞いてきたので、私は内心恥ずかしながらも”自宅の場所がわからない”と答えた。
すると彼は愉快そうに”流石にそれは無鉄砲すぎるでしょ”と答え、道案内をしてあげると言ってきた。
そして別の日。
会社への行き方が分からなく困っていた私の目の前に、また彼は現れた。
――お姉さんまた帰り道分かんなくなったの? この間〇〇駅からの帰り道メモした紙渡したじゃん。無くしちゃったの? だからあれ程携帯で写メっときなよって言ったのに……。
――違うの? 会社までの行き方が分からないの。……いや、流石に上京したばっかりでもそれはやばいって。入社試験の時、一体どうやって面接会場まで行ったのさ……。
彼の私を見る目が、どんどん変な人を見るかのような目になって来て恥ずかしかったので、その場を立ち去ろうかしたのだが、結局会社への道が分から無かったので彼にまた道案内してもらうことになった。
そしてさらに別の日。
また彼に会った。いや、正確には会えた。
――おっ、お姉さん。お久し振りじゃん。そんなにキョロキョロしてまた迷ったの? 仕方ないな~。また道案内してあげるよ。
彼はそう言ってどこに行きたいのか聞いてきたが、今回キョロキョロしてたのは道に迷った訳ではなく、人を探していたから。そう、彼を探していたから。
――道案内のお礼? 別にいいのに、俺もちょうど暇してたから案内しただけだし……。あ、そうだ! じゃあ今日一日付き合ってよ!
首を縦に頷くと、彼は私の手を取りおもむろに街中の方へと歩き出した。
急に手を握られた時はドキッとして、顔まで真っ赤になってしまったがそれを悟られないため、頑張って違うものを見てるふりをしながら彼から顔を逸らしていた。
今思えばこの時からもう私は彼のことが気になっていたのかも知れない――
―――
「ん……。夢?」
眼を擦りながら上半身を起こす。どうやら泣き付かれていつの間にか眠っていたようで、体には毛布がかけてある。
キッチンでは彼が何かを作っているようで、芳ばしい香りが此方まで漂ってくる。
「おっ、おはよう。 ひふみまだ晩御飯食べてないだろ? 後はお皿に盛り付けするだけだからちょっと待ってて」
彼はそう言い終わると、馴れた手つきで食器棚からお皿を取り出し、フライパンで炒めていたものを二つのお皿に分ける。
そして此方にあるテーブルへと持ってきた。
「ほら、くれは君特製チャーハンだぞ。あんまし料理しないから味は保証できないけどね」
彼はそう言いながら笑いかけてきた。
「ほら、冷めちゃわないうちに食べよう」
彼が食べはじめたのを見て私も"頂きます"と呟き食べ始める。
「やっぱ、美味しくないな」
「ううん 美味しいよ」
確かに彼の言うとおり味は美味しくない。でも、自然と心は満たされていく。
「そうか……?」
「うん」
彼は気恥ずかしそうに頭をかきながら笑いかけてくる。
その笑顔を見てると心が癒されてくる。
やっぱり私は彼のことが好きだ。
東京に上京してきて誰よりも永く一緒に過ごしてきた彼のことが好きだ。
彼が二股していると知ったときも怒りよりも、悲しみの方が強かった。
「ねえ くれは君」
私が話しかけると彼は真剣な顔で此方の話を聞く姿勢をとる。どうやら私が何を言うのかは見当がついているようだ。
「私はくれは君が好き。その気持ちは今でも変わらない。だから……別れたくない」
「青葉ちゃんと……別れて欲しい」
自分でも分かるぐらい心臓がドキドキしている。自分の気持ちは全部伝えた。後はくれは君しだい。彼がもし青葉ちゃんを選んでも私は恨まない。
「そう言うことか……プッ!」
私がそう決意を固めていると、彼はお腹を抱えて笑い始めた。微笑むとかではなく爆笑。ツボにハマったように盛大に笑い出した。
私も流石にその態度には少々カチンと来たのでもの申した。
「何が可笑しいの……くれは君!」
「い、いや、ひふみちゃん。青葉とは別れるも何も付き合ってないよ」
「へっ……!」
そんなはずは無い。あんな仲良さげにツーショットを撮っていたのだ。
まさか……。
「じゃあ……青葉ちゃんのこと弄んでたの」
「いやいや、あり得ねー。……あのね、ひふみちゃん。俺と青葉は兄妹だよ」
「へ……。そ、そんな嘘に今さら騙されない」
「いや、ほら。名字も両方"涼風"じゃん」
「そ、それは……たまたま」
「そんなに俺って信用無い? わかった。じゃあ青葉に今から電話かけるよ」
彼はそう言うとポケットの中から携帯を取り出し、電話をかけ始めた。
三回目のコールが鳴り通話相手が電話に出た。
『もしもしお兄ちゃん? 今彼女さんの所にいるんじゃないの? もしかして本当に別れ話だった?』
彼をからかう様に話しかけるその声は正真正銘、青葉ちゃんの声だった。
「ああ。本当に別れ話になるところだったよ。お前のせいでな……!」
『えぇー!? 何で私のせい?』
「俺にも詳しいことはわからん。取り敢えず、彼女が話したいらしいから代わる」
はい、と言い彼は私に携帯を渡してきた。
いきなり渡されても何を話せば良いのか分からず、名前を呼んでみることにした。
「……青葉ちゃん?」
『は、はい! はじめまして! 妹の涼風青葉です。って、この声何処かで……?』
「私……。滝本ひふみ」
『えっ!? ひ、ひふみ先輩……!? じゃあお兄ちゃんの彼女さんって、ひふみ先輩だったんですか!?』
「う、うん。青葉ちゃんもくれは君の妹だったんだ」
『は、はい。何というか、世間って以外と狭いですね』
「……そうだね。じゃあ……くれは君に代わるね」
青葉ちゃんの返事を聞き終え、くれは君に携帯を渡す。
彼は青葉ちゃんと何回かやり取りした後、直ぐに電話を切り携帯をテーブルの上に置いた。
今の私の心の中は先程までとは打って変わって、いろんな恥ずかしさで溢れ返っている。
今日の出来事を思い返すだけで顔から火が出るような気分だ。
「さてと……。ひふみちゃん!」
くれは君はそう言い笑顔で私の肩に両手を置いてくる。
彼のこの顔は意地悪をするときの顔だ。
「あ~あ。俺悲しかったな。ひふみから全然信用されて無くって。俺は何時だってひふみ一筋なのに……」
「ち、違うの。信用してなかった訳じゃなくて……」
彼の落ち込んだ姿を見て、私は慌てて弁解を始めるがこうなったらもう遅い。後はくれは君の掌の上で踊らされることになる。
「もう、数年間の付き合いなのに……」
そう呟くと目元を押さえ泣いている素振りを見せ始める。恐らくこれは嘘泣きだ。しかし嘘泣きだと分かっていても、今日のこともあり良心が削られる。
「ご、ごめんね。……何でもするから……許して」
私がそう言うと、待ってましたと言わんばかりの勢いで顔をあげる。満面の笑みだ。
「本当に何でも?」
「う、うん。……何でも」
彼はその言葉を聞き取ると"そっか、じゃあー"と続け。
――今夜は寝かさないぞ
と私の耳元に囁いてきた。
耳まで真っ赤になった私はこくこくと頷くことしか出来なかった。
「――それにしても良かった。てっきり合コン行ったのがバレてそれで怒ってのかと思ってたから」
「はっ?」
「あ……。やべ」
「くれは君……どういうことかな?」
「あ、い、いや、違うんだよ、ひふみ。あれは只の数会わせで行っただけで、直ぐ帰ったから」
「ふんっ……! くれは君なんてもう知らない」
「ご、ごめんなさい。何でもするから許して下さい!」
「今……何でもっていったよね? なら――」
何時も小説くときは先に落ちを決めて書くようにしているんですけど、たまに落ちまで上手く持っていけないことがあるんですよね。
ほんとは偶にじゃないんですけど( ´∀` )
本当は一番最後の会話を綺麗に落ちに持ってきたかったんですけどね……。
上手く繋げれなくて、申し訳程度に最後に持ってきました。
小説って難しいな~( 一一)