クソッタレな御伽噺を覆すために黒兎が頑張るそうです 作:天狼レイン
なかなか迷走しまして時間がかかりました。
閃の軌跡IVのせいでオズパッパが、以前までの『圧倒的ラスボス臭。コイツ絶対強敵でヤベー奴』のイメージがさらに強まった反面、『実は無茶苦茶頑張ってた優しいパッパ』のイメージが出現・強くなってきました。いやまぁ、それでも新旧VII組で頑張っても三戦連続で戦い抜けるような化け物ですけどね。やはり年長者は強い。
この作品では、そういうシーンが原作通りのタイミング以外で出るかは未定ですが、代わりに〝常識の外を行くもの〟に興味を示し、期待を抱くパッパの姿は見れます。原作でいうあの二つの存在と同じですね。一応文中にも出ます。
「かのドライケルス帝がノルドの地で挙兵したのち、帝都を解放。《獅子戦役》が終戦したのは、七耀歴何年でしたか?」
「ななひゃくろくじゅーさーん!」
「……952年ですよ、ミリアムさん」
「正解です、アルティナちゃん」
「あれー? そうなの?」
「おかしいですね。この問題は先週の勉強会で一度出されたはずですが……。———ところで、その〝763〟という数字はいったい何処から出てきたのですか?」
「えっとねー、ボクが復習してる時にねー。レクターが『おう、そうか。困ったら〝
「……クレアさん。これはレクターさんへの制裁が必要だと思われますが———《クラウ=ソラス》の鉄拳一発に値しますね」
「……ええ、そのようです。アルティナちゃん、少し手を貸して頂けますか? ———彼にはお灸を据えなければならないようですからね。手早く済ませてしまいましょう」
「……あはは………えーっと、ボク言っちゃいけないこと言っちゃったかな?」
七耀歴1202年。
ミリアム、アルティナの二名が〝二度目の覚醒〟を果たしてから、はや数ヶ月が経った頃。二人は、一般的な知識教養、及び理解力を身につけるために、同じ男の元に集った一人であるクレア・リーヴェルト少尉———まだ、大尉ではなかった頃の彼女から勉学の手解きを受けていた。それには勿論、宰相ギリアス・オズボーンからの命もあったのだろう。
しかし、その考えも少しばかりが経つ頃には消えたのだろうか、今では彼女はごく自然に二人の教育係として以上に関わりあうようになっていた。彼女の過去を知るアルティナからすれば、自分達が実の妹のように見えているのだろうことは分かっていたが、そこに不満など一つもなかった。事実、彼女は良くしてくれたのだ。そののち、見捨ててしまったことをずっと悔いていたぐらいには善人である。例えいずれその姿をこの目で見ることになるということを知っていなくとも、今こうして向かい合ってみるだけで伝わってくる。彼女はどう足掻こうとも悪人にはなれないのだ。
実のところ、〝あの時〟までの記憶を持つアルティナからすれば、彼女から勉学の手解きを受けることは実に都合が良かった。いくらミリアムよりも後の製造番号を持つ自分に一般的な知識教養が
そうして、今ここにはいない《子供たち》の一人であるレクター・アランドールの行ないに対する制裁措置が二人の間で確立したところで、一旦そのことは傍に置いたクレアがニコニコとした笑顔を見せる。
「それにしても、アルティナちゃんは覚えるのが早いですね。もしかして自習を欠かさずしていたりしますか?」
「あ、それボクも気になってたんだー♪ ねーねー、アーちゃん。ボクにもヒケツ教えてよー」
「……特別大したことはしていませんよ? ちょっとした小噺と共に覚えてみたり、語呂合わせで覚えてみたり、近い年号のものと合わせて覚えてみたり……などでしょうか。復習に関しても、毎日コツコツやっていますね。
とはいえ、同じ部分を毎日復習するのは効率があまり良いとは言えないので、本来なら期間を一週間ほど空けるのですが、一週間に一度クレアさんに教わるので三日ほど期間を空けて再度確認する、などと言った方法を取っているくらいです。他には———……あの、どうかされましたか?」
日頃どうやって復習や記憶しているのかということに滔々と説明していたアルティナが、ふとそれを聞いている二人へと視線を向けてみると、一人は何やら「私がいなくともアルティナちゃんは問題なさそうですね……ふふふ………」と呟きながら若干泣きそうな顔をし、もう一人は遠い目で「さっすがアーちゃんだよね……ボクにはちょっとムリかなぁ………」などと既に諦めた様子を見せていた。
当然、そんな二人に首を傾げる少女もいるわけで。「しっかり勉強していることは良いことだとリィンさんに褒められたはずなんですが……」と、かつて学んだことが何故か通じていないような複雑な心境に至っていた。
何故このようなことになったのかなど、それは三人の心境はそれぞれすれ違っている状況にあるのだが、当人達はそれに気付く様子もない。クレアはアルティナに対し勉強でも世話を焼きたくて、ミリアムはアルティナみたいに勉強できる一面を少しでも見せてお姉ちゃんらしく見せたくて、そしてアルティナはリィンに褒められた姿勢をこれまで通り行っただけに過ぎなかっただけである。
「そういえば———」
ふとアルティナが何かを思い出したかのように切り出す。
「リベールの方でも何か起きていると聞きましたが……」
〝かつて〟はあくまで知識として〝識っている〟だけだったが、念のためアルティナは不自然さがないように情報を得ようと試みる。別に勝手に調べて知りましたというのも問題ではないが、消去したはずの検索履歴から逆探知されない可能性も無いとは言えなかった。特にクレアという人物が〝総合的共感覚〟という才能を開花させていることからも、ごく自然と訊ねることで悟られないようアルティナは警戒していた。加えて、もう一つ訊ねる
「ええ、そのようですね。アラン・リシャール大佐と情報部クーデター未遂事件。現時点では不明瞭なところは多いですが、やはり何かが動いていることは確かでしょう。
……それに先日起きた《帝国遊撃士支部連続襲撃事件》———リベールにて名を馳せるS級遊撃士カシウス・ブライト氏の活躍によって解決されましたが、やはりその事件が起きたタイミングも考慮してみると、偶然なのか怪しいところです」
耳が早いですね、とクレアはアルティナの積極的な情勢把握に感心を抱いた後、《
しかし、
「(……それでは大きく変わってしまいますね)」
アルティナは誰によって引き起こされたことなのか、果ては誰が何を望み、何を為そうとしているのか。
時を遡る者———いわゆる〝逆行者〟。
言うまでもないが、アルティナはそれに当たる。そして、そのことを本人も自覚している。その危険性もまた把握している。
彼ら〝逆行者〟は基本的に未来からやってきている。その目的は、だいたいは一つに集約し———〝未来を変えるため〟というその一点に尽きる。つまるところ、彼女には目的がある。目的達成のためには、ある程度〝あの未来〟と同じ筋書きをなぞらなければならない。何故なら、下手に未来が変えてしまえば、彼女自身が知っているはずの展開・事象が起こらないからだ。
しかし、全て筋書き通りという訳にもいかない。アルティナが体験した〝あの結末〟は、最後のみを覆せば何とかなってしまうようなものではない。未然に防ぐことは間違いなく不可能。その結末の寸前へと至るまでに、あらゆる布石を敷き、手を尽くし、全力を以て当たらなければ変えられないほどだ。それは、未来において協力者であった〝
つまるところ、アルティナは多くの制限が課せられた上で、〝出来る限り多くの協力者の力を借り〟〝出来る限り対策を引っ提げ〟尚且つ、〝あの結末の時よりも強くならなくてはならない〟のだ。
当然その条件を全て達成するのならば、アルティナの知る
しかし、例えそれがどれほど矛盾であろうとも、彼女はどうにかしなければならなかった。
明らかな歴史改変となるものを除いて、まず始めにアルティナは何処までならその改変が大きな影響を及ぼさないかというギリギリのラインを知らなければならない。
その試しとして、すでに彼女は改変を行っていた。それは自身の目覚めが早まったことだ。本来であれば、七耀歴1204年での出来事である自身の目覚め。それがミリアムと同じ1201年へと3年も早まっているのだから、これは明確な改変だろう。
とはいえ、歴史そのものを覆すほどではないことは今こうして確認が取れていた。問題なく———と表現するのはあまりにも不謹慎なことだが、確かに変わらず事件が起きている。小さな改変程度ならば致命的な誤差は生じないことはこれで明らかとなった。
賭けだった。下手をすれば、これが全てが無に帰してしまってもおかしくないほどの危険な行為だった。その心中は決して穏やかではいられなかったはずだろう。クレアからクーデター事件のことを聞いている間、アルティナは漸く安堵することができていた。賭けに勝てたことが嬉しかったのだ。
しかし、こと《リベールの異変》規模となれば話は別だ。あの事件は起きるべくして起きるものであり。未然に防がれてはいけないものだ。仮にもし防がれてしまえば、恐らく《結社》の行動は想像もつかないものへと激化する恐れもある。それこそ、《使徒》第七柱《鋼》のアリアンロード卿をかのリベールの地に送り込んでもおかしくないだろう。《執行者》No.II《剣帝》レオンハルト。彼を含めた一行が失敗したとなれば、それに
「(やはり念入りに気をつける必要がありそうですね……)」
変えてはいけないモノは何なのか。何処までなら筋書き通り進行できるほどに問題ないと判断されるのか。まるでそれが分からない。今のアルティナが置かれている状況は正しく地雷原に丸腰で放り出されたのと何ら変わりがないのだ。そのことを再度客観的にも確認する。
「ねーねー、アーちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「このあと、予定とかあるかなー? ボク、アーちゃんとおでかけしたいんだー♪」
「そうですか。お誘いは嬉しいのですが、すみません。実はこの後、宰相閣下から話があると言われているので……」
「むー、オジサンからかぁ……。それなら仕方ないかー……」
「代わりと言ってはなんですが、今度わたしから誘ってもいいですか?」
「え、ホント!? アーちゃんからボクを誘ってくれるの? やったー! うん、ゼンゼン良いよ! 楽しみにしてるね!」
はしゃぎ、飛び跳ね、全身で嬉しさを表現するミリアムに、アルティナは優しく微笑む。そばではクレアも実の妹達を見るように、その仲睦まじい姿に笑みを零していた。
ふと、アルティナは思う。〝本来在るべきこの頃のアルティナ・オライオン〟には出来なかったことがごく自然にできる。それはリィンや皆が望んでくれていたことだ。きっと前の彼女を知る者がこの時系列帯にいてくれたのなら祝福してくれたかもしれない。〝変わった〟ことを自分のことのように喜んでくれたはずだろう。
しかし、残念ながらこの時系列帯に〝かつてのアルティナ・オライオン〟を知る者はいない。またヒトと同じように笑い、悲しみ、喜び、怒るというその成長ぶりを誰かに見せることが無くなってしまったことはとても残念なことなのだろう。それでも彼女にとって、こうしてまた過ごせる時間は尊いものに違いはない。それこそ、いずれ来たる《黄昏》が如何に残酷で、苛烈で、気の抜けないものだということを忘れてしまうぐらい、ずっとこんな優しい日常を享受したいと心から願うほどに。
けれど、
「(……今は程々にしておかないといけませんね。まだ救わないといけない
〝逆行者〟となった理由を忘れてはいけないと自分を戒めるようにアルティナは心のうちで再度目的を再確認する。あくまでも最優先は目的の達成だ。幸福はそれを達成した後に味わえばいいと、弱い自分を包み隠そうとするかのように、彼女は独り静かにそっと
恐らく《黒の工房》は何かがおかしいと思い始めるだろう。覚醒のタイミングが早まったことを皮切りに計画とは僅かな誤差が生じ続けるかもしれないと。いずれそれがバレることは分かっている。それでも、今は、少しでも気取られないように、悟られないように、浮かべた表情を仮面と変えて———
———*———*———
P.M.15:50————
アルティナは宰相執務室へと向かっていた。バルフレイム宮城内に存在するその場所は、その名の通り宰相が座す部屋であり、帝国の政治を操る中心点と呼ぶべき場所でもある。当然その場所だけでなく、バルフレイム宮とは生粋の政治家達やそこに務める者達の職場であることは無論、皇族である《アルノール家》の住まいであるため、彼女の存在は酷く浮いたものだった。なにせ、まず疑うまでもなく彼女は子供だ。未成年であり、職場に務める者としても不相応。政治が動く場であり、税が動く場であり、法や律が立案される場である宮城内に我が子だからといって立ち入らせるような馬鹿はいるはずもない。国家にとっての頸動脈に等しい場所に、テロリストは無論関係者でもない者を一人でも入れてしまえば、それこそ大問題となるだろう。本来ならば、近衛兵がすぐさま駆けつけ取り押さえられても文句は言えまい。それが為されないのは、偏に彼女が宰相ギリアス・オズボーン直属の配下であるが故だろう。
「(……今度は細心の注意を払って当たらなければいけませんね………)」
思い出されるのは、二度目の覚醒を迎えた時のこと。記憶の再構成も含めて逆行が成功した直後にうっかり喜んでしまい、致命的な失敗を晒したことはアルティナにとってトラウマにも似た恐怖体験となった。果たして、何故見逃されたのか。それは未来から来た彼女と言えど、ヒトの心のうちまで覗ける訳ではない以上、その全てを察し切れないものだったが、どういうものか分かるような気がしていた。
「(……宰相閣下も、ずっと以前からリィンさんのことを心の何処かでは気にかけていた………)」
彼曰く、覚えていた記憶の断片にあった宰相閣下の姿は紛れもなく父親の顔であったという。加えて、各地の霊窟と連動した水鏡を通して得た《黒の史書》の欠片———帝国の歴史の裏に存在した真実からギリアス・オズボーンという人物が辿ったこれまでの人生や転機、事象は何が起きたかを物語っていた。かの呪いを滅ぼすために心を鬼にし、自らを犠牲にしてでも動き続けていたこともまたアルティナは知っている。当然だが、悪魔と揶揄するのも生温い《黒きイシュメルガ》に肉体どころか魂の一片に至るまで全てを差し出してリィンを救おうとした事実から、間違いなく彼は愛されていたのだ。
そして、今も宰相閣下の望みが変わらず、〝かの呪い〟の消滅にあるというのなら———
「(……わたしは、そのために必要な駒という訳ですか………)」
結局のところ、製造された理由であり、計画の要である《根源たる虚無の剣》として生かしておいたのだろうか———とそこまで考えたところで明確な疑問が生じた。
「(……それなら、わたしの記憶を消しておく方が計画通りに事が運びやすいはずでは———)」
アルティナの知る〝未来〟において、最後の最後でミリアムが犠牲とならなければ、その目的は達せられたはずだった。今回も同じ筋書きであっても問題ないだろう。例え〝未来〟を知らなくとも、なるべく彼らにとっては計画通りに事が運ばせる方が堅実であることに違いないはずだ。消した方が良いはずの記憶に一切手をつけず、そのまま配下に置くことにした宰相の狙いはいったい何なのだろうか……とアルティナはそこまで思考を巡らせる。
そして、まさかと息を呑む。
「(————
たった一度とはいえ、イシュメルガの眷属と成り果てた《地精》の長である《黒》のアルベリヒを出し抜いた異例の中の異例。本来ならば、出し抜くどころか何もできるはずがない
「(……いずれにせよ———)」
わたしの方も出来ることや打てる手は全て打っておこうと、アルティナは移動中ずっと考えて続けていた長い思考を止めた。長い廊下の先にあった目的地に辿り着いたからだ。目の前には、〝宰相執務室〟と書かれたプレートがかけられた扉があり、その横には事務官が立っている。
「オズボーン宰相閣下からお話があるということで伺いました。アルティナ・オライオンです」
「ええ、閣下からお話は伺っております。少々お待ちください」
そういうと事務官の男は、事前に宰相が話を通していたのかアルティナの存在に何の違和感も感じることなく、こちらに背を向けると、扉を軽くノックし、中にいる彼に声をかける。
「閣下、失礼します。
ご客人がお見えになっておりますが……」
『———ああ、入って頂きたまえ』
部屋の中から厳かな声が返ってきた。その声音が間違いなく宰相であるギリアス・オズボーン本人のものであることは疑うまでもない。特別聞き慣れた訳ではないが、《クラウ=ソラス》を使って部屋の中を索敵する必要もなかった。無論そんなモノを呼び出したら大騒ぎになるだろうが。
「かしこまりました。
———それでは、どうぞ中へ」
「はい」
促されるまま、アルティナは扉に手をかけ———
「失礼します」
一言断りを入れてから部屋に入った。
扉の向こうには、個人の一室としては広すぎるほどの室内が広がっていた。部屋の壁にはいくつかの絵画が飾られ、右の方のスペースには来賓を迎えるためのソファーとテーブルが置かれている。他にも各地のことを記した本が所狭しと並べられた大きな本棚が二つあり、一貫して部屋の色合いは静粛さを感じさせる黒を基調とし、部屋から外を眺めるには些か解放的ではないかと思えるほどの大きな窓が備わっている。一国の
膨大な書類の山を全て片付け、ちょうど休憩中と思わしき様子に、まずアルティナはこの男の仕事ぶりに改めて戦慄を覚えた。宰相の前歴は武官だ。それも帝国正規軍准将だ。その位がどれほど高いものかは言わずとも理解できよう。武官と文官は相入れぬ存在であり、その両立などそう出来るものではない。その彼が今や政治を預かる文官としても恐ろしいまでに有能であるというのだから、文武両道の極みと評しても差し支えあるまい。彼を知る文官達が、対峙する貴族達が、彼を〝化け物〟と畏れるのも無理はなかった。
もしも彼の前世が、かの《獅子心皇帝》ドライケルス・ライゼ・アルノールと知ろうものなら一頻り驚愕し、次第に納得し、瞠目して———一周どころか何周も回って笑いが込み上げてくることだろう。
その彼が、こちらを振り向く。
「よく来たな、アルティナ」
「……はい」
放たれる威圧感はやはりそう慣れるものではない。いくら彼が根本的な部分では〝味方〟であろうと畏れを抱くなという方が無茶だ。それでも、アルティナは屈することなく真っ正面から目と目を合わせる。この時系列帯での初の邂逅とは違い、もう怯えてなどいない、臆してなどいないと訴えかけるように。
「
歴史に名を轟かせた皇帝であった前世を持つが故に、ギリアス・オズボーンという一国の宰相が放つ風格、覇気、闘気は尋常ならざるものだ。ただそこに在るというだけで畏怖させる。しかし、忽ち者共を集わせるカリスマ性もまた、彼が前世より持ちうる類い稀なる才覚であり、今や政界どころか世界にすら振るわれる辣腕と伴っていることがルーファスやレクター、クレアを強く惹きつけたことのだと窺えた。
他者を見極める鑑識眼は無論のこと、今この時も例えそれが上から目線で物を語られたとして、そこにそうそう不快感を感じさせないというのは、やはり人を惹きつける才たる一つなのだろう。むしろ、向けられた相手が光栄にすら感じてしまうほどなのだ。こういう者の在り方に魅入られてしまえば、心酔してしまう者に際限がない。
こればかりは、流石のアルティナも僅かながらに仕える者としての悦びを覚えそうになっていた。辛うじて彼女を踏み止まらせたのはここに至るまでに歩んだ道のりと
「っ……失礼を承知で訊ねさせてもらいます。
———宰相閣下、わたしを呼び出した用件はなんですか?」
「フム。目覚めた際の不手際のせいとはいえ、警戒されても仕方ないか。焦燥に駆られるのは良いこととは言えんが、まあ良いだろう。話が早くて助かる。これでも忙殺されかねん時間管理を徹底しているのでな。
———アルティナ。お前をここに呼んだのは、私からお前に〝
「……閣下直々に、わたしへ〝
〝
最早、それは聞き慣れた言葉だった。〝かつて〟何度も何度もリィンと共に行動し続けてきた際に、帝国政府が———この男が、彼を動かし続けてきた唯一の手段を表す言葉であり、命令書。任務、ミッションとは違った意味合いを持つそれは、基本的にリィンが断らない状況下に追い込まれた際に突きつけられてきたものだ。第II分校に所属してからも、その光景を何度も目にしてきた。今やアルティナにとっては懐かしいものでもあるが、同時に彼が辛そうな顔を見せる原因の一端を担っていたこともあり、心境としても複雑なものだが———だからこそだろうか、耳朶を震わせたその言葉には驚きを隠せなかった。
「
「………ぇ……………」
今、彼はなんと言った? リィンさんの護衛の任に就け?
普段なら間違いなく落ち着きを保ちながら正確に聞き取れていたであろうものが、たったそれだけで容易く冷静の皮を剥かれ、耳に届いた言葉が本当なのかを疑ってしまう。心の内の揺らぎは当然、表面にも形として現れる。面食らったような顔をしたアルティナに対し、やはりかと納得した様子を見せると、オズボーンは告げる。
「先日の問い掛けにて、お前が〝リィン〟のことを知っていることは判明している。どういう理由があるかは兎も角、その様子からしてやはりそうなのだろうな。お前にとって、その者が如何に大事かは見て取れたというだけに過ぎん。念のため、再確認として少々わざとらしいが釣らせてもらったという訳だ。無論、《黒の工房》が待ち構えているという罠でもなければ、貴族共にしてやるような策略でもない。どうやら
そうだな、私からの〝宿題〟だと思ってくれて構わんよ。この機会を生かすか殺すかはお前の手に委ねるとしよう。
———さて、異存はあるか? アルティナよ」
ああ、やはりこの人は恐ろしいヒトだとアルティナは思う。
しかし、同時に———優しいヒトだとも思った。〝宿題〟だ何だと言ってはいたが、その実はきっと子供を心配する親なのだと何処か羨ましくすら感じる。母を持たず、父を持たず、そうして生まれてきた〝
けれど、〝あの未来〟においても、リィンはオズボーンという男が実の父であることを実感したと公言するほどとなった。そこには忌避感などなく、むしろ納得がいった様子すらある。その光景をそばで見てきたからこそ、アルティナにはとても眩しく羨ましいものに映っていた。
だからこそ、だろうか。
わたしもまた、大切なあの人を取り戻したいと願った。
そのために、色んなものを犠牲にしてここに戻ってきた。彼を救うために戻ってきたのだ。断るつもりは微塵も無い。予定よりも早く彼と接触する機会が与えられたというのなら、それを十二分に使わせてもらうことにしましょう、とアルティナは結論付け———
「いえ、異存はありません。
その〝
〝
その姿に、宰相は興味深そうに微かに笑みを浮かべると、一言忠告のように言葉を添える。
「曲がりなりにも護衛の任に就くのだ。冬が来るまでの間に、
「分かりました。
———それでは早速ですが、先に用意して頂きたいものが一つあります」
「フム、
「ええ、わたしも少々ミリアムさんを見習うことにしました」
「なるほどな。妙に納得がいったとも」
そうして、アルティナはミリアムさんに少し失礼かもしれませんが、と優しく微笑んだ。
何気にオズパッパに気に入られて予定を大幅ショートカット成功して、早めにリィンに会えるようになった逆行アルティナの図。おら、そのまま外堀埋めてしまえ(外道)
次回は七耀歴1202年初冬ユミルの話となります。次回の話から、逆行したこのアルティナが原作閃の軌跡IVノーマルエンド後と何か変わっている点が大きく目につくと思います。
具体的にどう変わっているか、何があったのかをじっくりと明かしていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いします。