幻想恩義   作:銀の鰹節

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フランと共に去った信哉がそのほぼ一ヶ月後に、紅魔館へ戻ってきて一触即発の状況に。


10.救出作戦

 信哉はただ立っていた。構えなどせず、咲夜達の前に立っていた。

 そこへ扉を勢いよく開けて美鈴が入ってくる。

 信哉は目線だけを美鈴へと向けていた。

 

「信哉…」

 

 信哉は何の反応もせずに、ゆっくりと咲夜達へ意識を戻す。

 

「人間よ、問うわ。フランは何処なの」

 

「…。無事だ。だがここにはいない。俺がここに来た理由は…ッ!!」

 

 信哉が答えを返している途中で、咲夜が時間を止めて信哉へ襲いかかる。

 信哉は止まった時間の中で動ける為、咲夜の飛びかかりを素早く回避する。

 

「待ちなさい!今ここでアナタをナイフで切り刻んで、皮を剥いで、火で炙り殺してやる!!」

 

「ぐっ?!」

 

 時間を止めた中で動けるとはいえ、咲夜の連撃は凄まじく回避が徐々に遅れていく。

 

「このっ…!!」

 

「がっ?!」

 

 信哉は咲夜の手首へ手を翳し、弾幕を発生させる。

 ゼロ距離での弾幕生成により、生成と同時に炸裂し咲夜の腕を弾く。

 体制が崩れた所を蹴りを放ち、距離を置く。

 信哉の蹴りは咲夜の右脇腹に直撃し、そのまま薙ぎ払われて地面を転がった。

 咲夜が地面を転がると同時に時間も動き出す。

 

「咲夜っ?!」

 

 突然、咲夜の位置が変わり声を張るレミリア。

 すると信哉が額から汗を滲ませて、叫んだ。

 

「フランは少し離れた所にいる!俺がここに来た理由は十六夜咲夜だ。彼女の異常を軽減、もしくは解決させるつもりだ」

 

 蹴り飛ばされた咲夜が起き上がる。手にはナイフが握られて、投擲の構えを取った時だった。

 

『バキンッ!!』

 

「?!」

 

 ものすごいスピードで何かが壁を突き破って、レミリア達の目の前に転がり倒れる。

 

「ふ、フラン?!」

 

「イテテテ…」

 

 壁を突き破ってきたのはフランであった。体の各場所から出血していて、枝や木の板の破片などが刺さったりもしていた。

 

「フランドール、大丈夫か?」

 

 信哉がフランの元へと駆け寄って手を差し出す。

 フランが信哉の手をとって立ち上がる頃には傷は癒えていた。

 フランの突然の乱入にレミリア達は思考が停止していた。しかし、咲夜は違った。

 

「殺すっ!!」

 

 フランが壁を突き破った衝撃で遮られたものの、再び構えてナイフを投擲したのだ。

 

「ぐっ?!」

 

 信哉は咄嗟にナイフを避けようとするが、ナイフの速度が突然加速し、避けきれずに信哉の肌を切り裂いた。

 

「ぶ、物体の運動すらをも能力で操る事が出来るのか…!!」

 

 信哉は鮮血が溢れる部位を手で抑え、咲夜と対峙する。

 するとフランが心配するように信哉の傷口にそっと触れる。

 

「大丈夫だ…それよりも『ヤツら』の暴走を止める事が優先だ」

 

「分かった…!」

 

 フランが外へ再び向かおうとした時だった。レミリアがフランを引き止める。

 

「待って!何処へ行くの?!」

 

「…」

 

「あ…」

 

 レミリアは反射的にフランを止めた為に、言葉を考えておらず、フランに見つめられて言葉が詰まってしまう。

 何か言わねば。しかし、何かを言ったところで睨まれ責められる。どう、すれば…。

 考えれば考えるほど言葉を失っていく。

 フランの口が動きだした瞬間、レミリアは俯いた。

 しかし、フランから放たれた言葉はレミリアが予想にも出来ないものであった。

 

「お姉様、どうしたの?」

 

「え…」

 

 レミリアは思わず顔を上げて、耳を疑ってしまった。

 彼女の視界には、睨みや叱咤と何も無い純粋な疑問を抱いた眼差しを向けるフランが映っていた。

 

「大丈夫だよ!フランは外の敵をやっつけにいくだけだから!」

 

「え、ええ…」

 

 レミリアは呆気にとられてしまい、開いた口が塞がらなかった。

 フランは外へ出ていこうとした直前に、再びレミリアの方へと振り向いた。

 

「お姉様、ありがとう…!その…嫌いなんかじゃないからね!」

 

「え…?ええぇぇええぇぇ?!」

 

 レミリアは信じられなかった。一瞬、夢を見ているのではと思った。

 フランの一言は一瞬にしてレミリアを混乱させてしまったのだ。

 

(え、え…?!ふ、フランが私の事を…?!えぇ?!)

 

 レミリアが困惑している間に、フランは再び外へと飛び立ってしまう。

 呆然としているレミリアの瞳からは一滴の雫が流れ出ていた。

 

 

「貴様は…!貴様は絶対に殺してッ…!!」

 

「あぶっ?!」

 

 信哉は咲夜の猛攻を避ける事しか出来なかった。

 しかし避け続ける事も難しく、壁の破片に足をとられ体勢がよろめいてしまう。

 すると、ここぞとばかりに咲夜は三本のナイフを信哉目掛けて投げつけて、また本人も両手にナイフを握って突き刺そうと突っ込んでくる。

 無駄のない動作で、信哉が1つ行動する間に咲夜は複数の行動を終えているため、二手三手と遅れが生じ、信哉を確実に追い詰めていた。

 咲夜は自身の攻撃が当たる事を確信して笑みを浮かべた。しかし、咲夜の攻撃は信哉に当たる事はなかった。

 

「待ってください!」

 

「っ?!」

 

 信哉と咲夜の間に、美鈴が割り込んで咲夜の攻撃を妨げる。

 咲夜は憤怒の形相で、言葉を発さずに美鈴の首へと躊躇なくナイフを突きつける。

 美鈴は咲夜の手を弾いて難なく回避すると、咲夜を止める為に力一杯肩を押し、足を引っ掛けて、地面へ倒れ込む。

 

「ううっ!」

 

「抑えっ…ぐっ?!」

 

 美鈴は咲夜の腕を捻って拘束するが、咲夜は異常なまでの力で美鈴の拘束を振りほどこうとする。

 腕を捻られて、上から押さえつけられている状態から、上体を起こし力ずくで立ち上がる。美鈴の力が負けているのだ。

 

「えぇっ?!ちょ、つよ……!!」

 

 拘束して有利であったはずの美鈴は、すぐさま状況を変えられて不利になっていた。

 

「に、人間の…力を超えているっ!」

 

 妖怪である美鈴のパワーに勝る咲夜のパワー。異常であった。

 すると体勢を立て直した信哉が咲夜の額を鷲掴みにすると、咲夜の体は一瞬浮き上がり、壁に打ち付けられる。

 

「ぐうっ?!」

 

 しかし咲夜に怯んだ様子もなく、間髪入れずにナイフを信哉の腕へと突き刺し、浮いている体をしならせて強烈な蹴りを信哉の腹部へ送り込む。

 

「ぐ…ぅ…」

 

 信哉は腹部を手で抑え、その場に膝を落とした。

 咲夜は口が裂けんばかりの笑みで、ケタケタと奇声をあげながら信哉の頭頂部目掛けてナイフを振り下ろす。

 美鈴が咲夜の手を止めようと全力で飛びかかるが、咲夜は瞬時に時間を止めた。

 昨夜の手に握られたナイフが信哉へ向かって一直線に向かってゆく。止める者はこの咲夜の世界において誰一人いなかった。故に信哉自身が動かねば避けられないが、信哉は腹部への強い衝撃で動くことができなかった。

 必中と思われる咲夜の攻撃。だがその攻撃は彼女自身が、信哉に刺さる直前に止めてしまう。

 

「ぐ、ぅ…?!」

 

 咲夜は突如、強烈な痛みが腹部に発生した事によりよろめいてしまう。

 食あたりなどの張るような痛さではなく、明らかに外部からの衝撃による痛さであった。

 あまりの痛さに咲夜は膝を落とす。そして信哉と同じ腹部から痛みを感じ手で抑える。

 すると時間停止が解除され、飛びかかる美鈴が再び動き出す。

 美鈴は突然腹部を腕で抑えた咲夜を見て、空を蹴って咲夜への直撃を回避する。

 

「こ、これは…?!」

 

 信哉と咲夜が腹部を抑えて動けない光景を前に美鈴は戸惑った。

 すると信哉が脂汗を滲ませながら、美鈴へと言った。

 

「俺の…能力です…。『共鳴』させま、し

 た…」

 

 苦痛の表情を浮かべていた信哉だが、数十秒程経つと平然とその場に立ち上がる。

 すると咲夜も動けるようになったらしく、ナイフを持って信哉へと切りつける。

 しかし、腹痛のダメージが余程咲夜を苦しめたのか先程のようなキレは失っていて、信哉は咲夜の攻撃を容易く躱し、先程美鈴が咲夜を押し倒したように、信哉も咲夜に足をかけて押し倒す。

 

「ぐ、ぅ…!!」

 

「えーと……あの…。すいません、この人を魔法か何かで拘束してもらってもいいか?」

 

 信哉は咲夜を押さえつけながらパチュリーへお願いする。

 パチュリーは一瞬考える素振りを見せる。直ぐに咲夜へと手を翳す。すると光の鎖が地面から現れて咲夜を縛り付けた。

 

「アナタの…話を聞きたいわ。話してもらえるかしら?」

 

「今から話させてもらう。外で天変地異並の災害が発生しているのを知っていると思うが…。元凶は十六夜さんであって、詳しく言うと本人ではないんだ」

 

 信哉の言うことに美鈴や小悪魔は頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。

 パチュリーは表情を一つも変えずに、ただ信哉の話を聞く。

 

「十六夜さんの中では今、とんでもない事が起こっているはずだ。このままだと、彼女の魂は消える。俺はそう予想している」

 

「……早く結論をいいなさい。粗方予想はできたわ」

 

 パチュリーが溜め息を吐きながら、大きな魔導書を開く。

 パチュリーに言われた通り、信哉は直ぐに結論を言った。

 

「十六夜さんは霊の類に取り憑かれている。呪われていると俺は思っている」

 

 美鈴と小悪魔が信じられないと言うような表情を浮かべる。しかし、パチュリーは納得の頷きをしていた。

 

「変だと思ったのよ。あなたと妹様が出て行った時、咲夜達は来れなかった原因として空間操作に誤りがあったって聞いたけど、咲夜において誤りは異常だし。こあ達も最近の咲夜が別人のように感じたりしなかった?」

 

 小悪魔と美鈴はハッとして思い返した。殺意を常に放っていた咲夜の姿を。

 皆が咲夜へ視線を移す。咲夜は光の鎖を解こうともがき暴れていた。

 

「気づくのが遅れたわね…。まぁでも今すぐに浄化させたら済む話よ」

 

 パチュリーは咲夜へ向けて再び手をかざす。しかし、その間に信哉が妨害するように割り込む。

 パチュリーはムッとした表情を浮かべた。

 

「そこ。邪魔なんだけど」

 

「十六夜さんの呪いは深刻だ。魂とほぼ融合している。浄化魔法を使っては十六夜さんごと葬る事になるぞ…」

 

「どうしてそれがわかるの?今にも彼女の魂は貪られているかもしれないのよ?」

 

「俺にはわかる。わかるんだよ、パチュリーさん」

 

 信哉はジッとパチュリーの目を見つめる。

 すると浄化魔法を使おうとしていたパチュリーの手は下がり、信哉へと向き直した。

 

「そう。じゃあどうしろと?」

 

 パチュリーは不機嫌な様子で信哉へと問う。

 信哉は紅魔館の外を指さして、ある一つの案を提案した。

 

「いま、俺の能力が常時発動中だ。まず俺の能力についてだが『共鳴する程度の能力』だ。本来ならば共鳴しないものですら、俺の能力で共鳴できる。

 その上でだが、十六夜さんの魂と紅魔館周辺およそ半径一キロの範囲で共鳴させている。地獄の様な光景になってしまっているのはそのせいだ。十六夜さんの魂を蝕むものの記憶に等しい……筈だ」

 

 信哉は、突然のマグマの噴出、燃え広がる森。それらの現象が咲夜の呪いの具現化とも言える、と言った。

 小悪魔や美鈴がどうすればいいのかと聞き出そうとした時、先程まで混乱していたレミリアが口を開く。

 

「咲夜の魂を共鳴させているんだとしたら、未だに抵抗する『本当の咲夜』がいるということでしょう?」

 

「その通りです。この半径一キロ圏内に耐えしのいでいる咲夜の魂を見つけ出し、救出するというのが俺の考えた案だ」

 

「なるほどね…あなたがいてようやくできる技ね。その応用であの妹様も丸くさせたのかしら?」

 

 パチュリーの問いに対して、信哉は言葉を詰まらせて苦笑いした。図星のようだ。

 

「十六夜さんの魂を探す上でだが、本人がもっとも強く思っている…大事だったり思い出のある場所というのは侵食されにくい。つまり、その場所に魂が抗っている可能性が高い」

 

「思い出…ねぇ。だとしたらこの紅魔館内には必ずあるわ」

 

「やはりか。激しい地割れが発生するほどの巨大な揺れだというのに建物が崩壊しないっていうのは謎に思っていた。もしそうならこの建物の中で最も損壊が乏しい場所こそが十六夜さんの残った魂だろう」

 

 場所がかなり絞られたことにより、咲夜の魂を探す時間はかなり短縮されたように思えた。

 しかし、咲夜がこの館を維持させてきたからこその苦難が立ちはばかる事となる。

 レミリア達は二手に別れ、小悪魔とパチュリー、レミリアと美鈴の二手で紅魔館内で咲夜の魂を捜索。

 信哉は紅魔館の内装をあまり認知していない為、外にいるフランの元へと向かった。

 外にいたフランは手に巨大な炎の剣を握って、紅魔館へと押し寄せる大量の黒い影と交戦していた。

 

「すまんフランドール。遅れた」

 

「おーそーいー!!フランでもこの数は厳しいって!!」

 

 フランは剣で影を切り裂きながら、信哉へと怒鳴る。

 信哉は申し訳なさそうに頭をかきながら、押し寄せてくる大量の影と対峙する。

 

「さて…。そこまで十六夜さんの魂の居心地がいいのか。恩人の一人なんだよ、苦しめないで欲しいな…!!」

 

 信哉は影を睨みつけながら、フランと同様の炎の剣を生成し、振るった。

 

 

 レミリアと美鈴、パチュリーと小悪魔は紅魔館内を右往左往して必死に咲夜の魂であろう場所を探す。

 しかしあまりにも広すぎる。かれこれ数分は廊下を高速で移動しているが、壁が見えない。

 その状況で美鈴とパチュリーはある事を思い出す。

 

「辿り着けない…!やっぱり、この異常な廊下の長さは咲夜さんの…」

「この現象…美鈴や咲夜の言っていたループ現象…?!……まさか咲夜に取り付いている魔物は咲夜の能力を操作できる…?!」

 

 美鈴とパチュリーは額から冷や汗を流す。

 パチュリーの理論はあり得ることであった。以前に起きた空間誤操作は魂を乗っ取りつつあった魔物による現象とも言えるからだ。

 レミリアも異常に気づいたのか、先ほどよりも周りに警戒していた。すると何かに気づいた様子で、暗く見づらい廊下の奥を凝視する。

 

「美鈴、何かいるわ」

 

「わっ?!奥から流れ出る気の強さが桁違いですよ…かなりのヤバい奴っぽいです…」

 

 美鈴は腰を下ろして構え、レミリアは羽を広げて顎を引き闇を睨みつける。

 数秒後、闇からゆっくりと現れたのは影が地面から浮き出たような真っ黒の姿で二足歩行型、高さ百五十センチほどの鋭い牙が口から大きくはみ出した化け物であった。

 しかも一体ではない。奥から湧き出るように大量の化け物が音もなく現れる。

 

「こ、この数は…予想外ね…」

 

「な、なんか気が不安定で存在自体を認識しずらいです…」

 

 一瞬驚いた表情を見せるが、二人は直ぐに冷静を取り戻し、戦闘態勢に入る。

 レミリアは紅く輝く大小様々な弾幕を宙で生成する。弾幕はレミリアからの一定距離を保ちつつ、円を描くように漂う。

 また美鈴も同様に宙に色鮮やかな弾幕を生成して、自身を守るように動かないように固定させる。

 

「さて私の可愛い従者から離れてもらわないとね…。美鈴、私が先頭になって力ずくで突っ切るわ。後方支援しなさい」

 

「わかりました」

 

 レミリアはその場から小さく浮かぶと、羽を広げて高速で前身する。美鈴もその後を追って全速力で駆け抜ける。

 化け物達は向かってくるレミリア達に襲いかかるが、弾幕に被弾したり、直接攻撃されたりと反撃されて、いとも簡単に敗れてしまう。

 両手でも数え切れないほどいたはずの化け物は一瞬にして肉片へと変貌。

 圧倒的強者として存在する二人の姿がそこにあった。

 

「さっさと通しなさい!この弾幕は遊戯なんかじゃあないわ。道を切り開くただそれだけよ!!」

 

 レミリアは叫んだ。消えゆく従者を救う為に。進む先に咲夜の存在を勘にも等しいほどの不確かなものでだが、しっかりと感じていた。

 レミリアと美鈴は高速で突き進んだ。

 

 

 パチュリーと小悪魔は同じ廊下を彷徨い続けていた。不気味なほど静かで、点々と続く蝋燭の灯火が揺れるたびに影も揺れる。

 

「パチュリー様、完全に閉じ込められた感じですね」

 

「…そうね、歩くのも飛ぶのも疲れたわ…」

 

 パチュリーは息を上げて、左右に揺れながら進んでいた。

 無限に続く廊下。抜け出す手はなく、効果が切れるのを待つのみであった。

 

「はぁ…。この空間が咲夜の魂の魂と共鳴さえしていなければ魔法をぶっぱなしていたのに…」

 

「パチュリー様、それでは救う以前の問題で住居破壊行為ですよ」

 

 パチュリーは体力が尽きかけていて、壁によしかかる。

 小悪魔もパチュリーの様子をみて立ち止まって、マッサージなどのケアを行う。

 

「パチュリー様、もっと運動しましょう?」

 

「……耳が痛いわ」

 

 肩、脚、腰、肩甲骨周りの筋肉を手際よく揉みほぐす小悪魔。

 寝そべりつつあるパチュリーは、マッサージの心地良さに目を細めて、緊張が解けていた。

 呼吸も落ち着いて、体力も回復する。いざ立ち上がろうとした時だった。

 

『バチッ!』

 

「っ…?!」

 

 パチュリーに、静電気が発生したときのような衝撃が、体中に響く。

 驚きはしたものの、特にダメージや影響はなく、咲夜の魂探しを再開する。

 

(今の…本当に静電気なの…?)

 

 衝撃のことが気になっていた時だった。

 パチュリーの手を引いていた小悪魔の足が止まる。

 そして震わせた声で小悪魔は呟いた。

 

「ど、ドアが奥から…開いていく…?!」

 

 無限に続く廊下の奥から、ひとつ。またひとつと小悪魔達に近づきながら扉が開かれてゆく。

 唾を飲む音が聞こえた。

 小悪魔の脚が下がる。開かれる扉の間隔が自分たちの目の前へと迫る。

 パチュリーは魔導書を開く。緊張した空気が漂い始める。

 

『バタンっ!』

 

 そしてパチュリー達の目の前にある扉が開かれる。

 扉の奥から飛び出す影が見えた瞬間、パチュリーは火の魔法を放っていた。

 

「はぁっ!」

 

「ぐっ?!」

 

 しかし魔法は空中で打ち消される…というよりは弾けた。

 だが、その事よりもパチュリー達は今の声の主に驚いていた。

 

「ま、まさか…魔法を投げつけられるとは…」

 

 扉から出てきたのは信哉でらあった。そして後に続いてフランが出てくる。

 

「パチュリー!いきなり魔法を放たないでよ!!」

 

 フランは、パチュリーの不意打ち魔法にご立腹の様子。それを信哉がなだめる。

 

「助かった…。フランドールが能力で魔法を破壊してなかったら…考えるだけでも恐ろしい。だけど今は許してやってくれ…」

 

「むー…。信哉がそう言うなら…」

 

「ご、ごめんなさい…まさかあなた達だとは思ってなかったから…」

 

 信哉はパチュリーに向き直って、現在の状況を伝える。

 

「俺達は紅魔館に攻め寄る化け物達を妨害していたが、突然姿を消したんだ。謎に思っていた所で、パチュリーさんと『共鳴』できて、ここまで来れた」

 

「共鳴…」

 

「多分静電気みたいな衝撃が来たはず。共鳴できれば、何となく位置は分かる」

 

 パチュリーは立ち上がった時に、全身へ走った衝撃を思い出す。

 どういう条件で衝撃が起こって共鳴出来るのかは定かではないが、信哉がこの不思議な空間に関係なくパチュリー達の前に現れたのは、紛れもなく共鳴した上での結果であった。

 信哉は辺りを見回すと、そのまま膝を落として床に手を当てる。

 

「なんだこりゃ時間軸がループしてやがる…道理で一歩も進んで居ないわけだ…」

 

 手に触れた床部分から複雑な歯車の紋様が浮かび上がり、輝き始める。

 目の前に展開された光の歯車はゆっくりと動かされて元々あったであろう場所へと戻ってゆく。

 すると無限に続いていた長い廊下が軋み、揺れ、歪み出す。

 歯車の移動が終わると、先程まで見えなかったはずの廊下の終わりが目の前に現れる。

 

「…元に戻った」

 

「俺は前に十六夜さんと共鳴したことがあるんだ。だから十六夜さんの能力は俺も少しだけ使える」

 

 信哉はその場から立ち上がり、駆け足でその場から移動する。

 その後をフランが慌てて追いかける。

 

「パチュリーさん!この階には十六夜さんの魂はない!!この上の階…紅さんがいる階に十六夜さんの魂はある!」

 

 信哉は階段を素早くかけ昇る。フランは飛翔して階段をショートカット。

 パチュリーは息絶えだえで走る信哉を追いかけるのだった。

 

 

 レミリア達は特攻の末、一番奥の部屋へと辿り着いてた。

 パチュリー達と同様に空間の時間軸を変更する術式が組み込まれていたが、レミリアと美鈴の覇気によって掻き消されたらしく、幸運にも辿り着けたのだ。

 

「美鈴、やるじゃない。いつもこのぐらい活躍してくれてもいいのよ?」

 

「うっ…が、がんばります…」

 

 美鈴は苦笑いしながら、目の前の扉へと手を伸ばす。

 すると後ろから複数の足跡を感じ取る。

 思わずレミリアと美鈴は構えた。しかし、走ってくる者の姿を見て構えを解いた。

 信哉やフランであった。

 

「お姉様!フラン外でずっと頑張っていたんだよ!」

 

「フラン…ありがとう。お陰でここまで来る事が出来たわ…!」

 

 レミリアはたじたじしながらも、フランの頭に手を乗せて撫でた。

 フランは嬉しそうにはにかんでレミリアに擦り寄った。

 

「~!?」

 

 レミリアはその事に慣れていないのか、顔を赤らめて体を硬直させていた。

 また美鈴も信哉の姿を見て安心…という名の涙を流していた。

 

「ぅああぁぁ~!!もう何処に行ってたんですか!無断欠勤大罪ですよ!ホントに…!!」

 

「す、すいません…」

 

 そんな美鈴の勢いに押されたのか、信哉も萎縮して弁論すらしなかった。

 

「よしっ…!あと咲夜さんを救えば今度こそハッピーで終えられますよ…!!」

 

「私の従者に手を出した事…後悔させてやるわ…!!」

 

 レミリアは扉に手をかけて、勢いよく開く。

 

『!』

 

 そして一同は、扉の奥の光景を目にした途端、体を硬直させた。

 

 

 




この作品を読んでくれてありがとうございます。銀の鰹節です。
全力で書きました。誤字脱字のチェックはしましたが、この文字数ゆえ見逃している可能性が大です…すいません。
多分、次からペース落ちます…
今回はここまでにしたいと思います。
次回もゆっくりしていってね!
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