幻想恩義   作:銀の鰹節

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事故に合うと同時に途絶えた記憶。目覚めると信哉達は湖の付近にいた。
町を探し求めて歩くが、いつまで経っても見つける事が出来なかった。
二日目の夜、少女に父が喰われ、信哉は明寛を抱えて必死に逃げた後に気を失い、気づけば元の世界へと戻っていた。
しかし、その数時間後に再び気を失ってしまうのであった。

※今回も残酷な描写が含まれます。ご注意ください。


⒊廻り道

 

 

 ーーー誰だ貴様は。

 

  響く少女の声。しかしただの声ではない。重く伸し掛るような声は私の喉を塞ぎ、全身を硬直させた。

 

 ーーー……だんまりか。

 

  何も言えない。動けない。極度の緊張が体を縛る。

 

 ーーーっ?!

 

  しかし少女は私を睨みつけると、小さく声を上げて目を見開いていた。

 

 ーーーなんなんだ…その禍々しいものはっ!!

 

  少女は声を荒らげる。何を問われようが何も出来ない。体が動かせるようになる気配すら感じない。

 

 ーーー動くなよ…そこから。私が葬り去ってやる。

 

  少女は手に紅色に光り輝く棒…槍のような物を作り出し、私へと狙いを定める。

 

 ーーーこんな人間がいるとはな…。貴様がいては今後の計画に支障が出る。

 

  少女は再び私を睨みつける。しかし最初の時ほどの余裕は見えなく、むしろ額から汗を滲ませていた。

 

 ーーーさらばだ。

 

  少女の手から放たれた槍は、視界全てを真っ白にさせた。そして視界は戻らぬまま上か下かも分からなくなり、やがて思考すらもが止まった。

 

 

 

 

 草木の揺れる音。荒ぶ風が体を冷やす。そして、木の葉から落ちた雫が自分の顔に当たった事により、目が覚める。

 どうやら雨が降ったらしく、服が濡れており、葉は萎れ、地面には水溜りができていた。

 

「う…ぁ…」

 

 信哉はゆっくりと起き上がる。その時に肩や背中、脚に痛みが伴い、顔を歪めた。

 意識が朦朧としながらも辺りを確認する。

 

「ぐっ…。森…戻ってきたのか…」

 

 自分達は木々が生い茂る森の中にいた。枝から枝を生成し続ける木は空をも覆っていた。

 自身が一度、元の世界に戻った事を、その時に沢山の物を準備していた事を思い出す。

 

「あっそういえばリュック、リュックは…?!」

 

 自身の背中にはリュックが無かったため、辺りを探す。その時にすぐ傍に明寛が倒れているのを見つけ、同時に明寛と自分の間にリュックが地面に埋まり掛けているのを見つける。

 

「トラ…!!トラ…!!」

 

 明寛の口元へと手をかざす。微かにだが息を感じた。

 俺はすぐさまリュックを掘り出して、中からタオルを取り出して、雨で濡れてしまった明寛の体を拭き始める。

 するとその間に明寛が目覚める。

 

「信…兄ぃ…?ゴホッ!」

 

「だ、大丈夫かトラ?!痛いところとかないか?寒くないか?」

 

 俺は明寛へ必死に声をかけるがあまり反応がない。

 明寛は心労も度重なって今までにないほど衰弱していた。

 何をしたらいいのかわからなかった。どうしたら助かるのかわからなかった。道具があろうと、元が既にボロボロであるならばどうしようもない。

 一旦行き詰まった考えをリセットする為にも、その場から少し離れる。

 深呼吸をして、肩を回す。そして前を向いた時だった。

 

「あ…」

 

 俺は明寛を抱いて逃げたが、その時に我武者羅に走った為、自分達が何処にいるのかわからないと思っていた。

 しかし、違った。目の前には見覚えのある波打ち際と、父が刻んだ目印が近くにあった。

 戻ってきていたのだ。自分達が歩いてきた道を。

 そしてもう一つ、大きな発見があった。

 

「建物…屋敷が、ある…!!」

 

 この間の時は濃い霧で包まれていた湖だが、今日は雨は降っていたが霧がないため、端から端まで見える程に空気が澄んでいた。

 そのため、湖から伸びる島の畔に建っている大きな赤い屋敷を簡単に見つける事ができた。

 始めて見えた生きる希望。俺は見つけただけだというのに目に涙を浮かべていた。

 

(しっかりしろ…!!まだ安全じゃないんだ…!!)

 

 気を緩ませぬよう、頬を叩き、未だ朦朧とする意識をハッキリさせる。よし、と空を見上げた時だった。

 

「あ……」

 

 思わず声を失ってしまった。空は綺麗な星々の夜空が広がっていると思ったら、まるで大地を吸い込もうとしているようにも見える紅く染まった大きな満月が佇んでいた。

 そして、月を除いた空は赤みがかった霧で包み込まれ、紅月から差し込む光が辺りを不気味に紅く照らしていた。

 俺は意識を奪われていたが、すぐさま明寛の元へと戻り、湖の建物へと移動する事を決めた。

 

「トラ…!大丈夫か?!今、大きな家を見つけたからな…!頑張れよ…!」

 

 明寛を抱き上げ、歩み始める。浜辺に出ると姿がまる見えなので、湖を見失わないように少し森へ入って移動する。

 耳を澄まして、微かな物音から周囲の状況を探る。いくら大きな月が辺りを照らせども、森の中には光が届かないため、視界での危険察知が難しいのだ。

 あまり足音をたてぬよう、ゆっくりと足を踏み、素早く歩く。

 以上の行動を心がけていたおかげか、唐突に聞こえる草木を掻い潜る音と何者かの気配を感じ取る事ができ、即座に木の根元へ身を隠す。

 木の影から物音のした方向へと視線を向ける。すると、暗闇の中で蠢く影を見つける。

 

(…!!あの影、高さが2mを優に超えているぞ?!)

 

 その時、風が強く吹いた。空を覆う枝葉は揺らされ、隙間が生まれる。そしてその隙間から月光が差し込んで、影を照らした。

 

「…は?」

 

 俺は目を疑った。

 影の正体は巨大な生物ではなく、宙に浮いている少女であったからだ。

 さらに言うとその少女、背中に羽を生やしているのだ。

 

(人を食う幼女だったり、空を飛ぶ幼女だったり…なんなんだよ、此処は…)

 

 俺は空を飛ぶ少女に見つかってはならないような気がして、そのまま木の影に隠れ続けた。

 数分して少女の姿は消え、周囲を確信してから再び移動を始める。

 

「あ、足が重い…?!か、体もか…?!」

 

 大きな館へ近づくに連れて、体が重くなってゆく。いや、実際には重くなってはいないのだろう。ただ本能の警鐘のようなものが俺の中で必死に鳴らされていた。まるで自ら死に場所へと向かっているような、そんな考えが生れるせいで足取りを無意識に重くしていたのである。

 

「…!!」

 

 しかし、明寛の様子を見る限りそのような事は言ってはいられないようだ。俺は急ぎ早に館へと向かった。

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 

 重かった足取りや煩い警鐘はいつの間にか消えていて、足取りも速くなっていた。

 そのため館には無事着けたのだが問題がある。

 

「なんだよ…この惨状…」

 

 門の前までやって来たのだが、地面や木々はボロボロで激しい戦闘が繰り広げられたような状態となっていたのだ。

 もし戦闘があったというのなら、まだ近くで勃発しているのかもしれない。だが行かねばならないのだ。

 意を決して、館に足を踏み入れた瞬間だった。

 

「うぉっ……?!がぁっ…?!」

 

 自分自身が何なのか、一瞬何もかも分からなくなる。

 ピリッと電流のようなものが流れたと感じると同時に、押し寄せる激情の激流。

 その激情は永き年月によって積み重なれた負の感情や、激昂、自責の念らしく、全てが一気に押し寄せて、体が動かなくなる。

 

「あっ…がぁ……うっ…」

 

 痙攣に等しい状態となり、息が出来なくなる。目の前の視界は赤や黒、緑などの色をグチャグチャに混ぜたようなドロドロとしたものに変わる。

 徐々に意識が混濁し、体が軽くなってゆく。視界のドロドロは最初なんの形も無かったが、ゆっくりと人の様な形が形成される。

 そして、その人の様な模様は口を動かして声には出さなかったが、はっきりとこう言った。

 

『壊せ』

 

 その瞬間、痙攣が止み、視界も戻り、息も大きく吸った。

 俺は倒れていた。そして、今の現象が何なのか全く理解できなかった。

 だが、俺の中にとてつもない寂しさが残っており、今にも押しつぶされそうだった。

 自分の傍に倒れている明寛を抱き上げて、そのまま強く抱く。明寛が弱っていようと遠慮なんてできず、全力で抱きしめた。

 

「ぅあっ…うああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 押し寄せる寂しさは孤独感を生み、その孤独感が絶望を生み、絶望が涙を生んだ。

 まるで世界が自身の全てを消しにかかっているような感覚だった。

 離せない。離したら死んでしまう。そんな気がして、俺は明寛を離せずずっと抱きしめ続けた。

 

 

 

 どれほど泣いただろうか。俺が正気を取り戻したのは月が頭上を超えて、沈み始めた時であった。

 

「トラ…ごめんなぁ…」

 

 俺はまだ泣いていた。泣き止む事ができなかった。今にも精神は崩れ落ちそうだった。

 明寛の呼吸はどんどん静かになっていっていた。体温も徐々に下がってきている。

 俺は何もできていなかった。

 せめて、この館の中に入ってやる、と。俺は何かしなければという焦燥感から、震える脚を無理やり動かして、館の中へと入っていった。

 

 館の中も外の状況と全く同じであった。酷くボロボロで所々にナイフが刺さってあった。

 俺は壁に刺さっていたナイフを手に持って、そのまま前へと進む。

 幾段も続く階段を上る。一階、二階…。

 そして、三階に到達した時、大きな音と衝撃が鳴り響く。

 

「なんだよ…!!なんなんだよぉっ…!!」

 

 俺は怒りを感じていた。衝撃で揺れる館。その衝撃はボロボロになった建物を倒壊させるには充分であった。

 足元の床が、徐々に亀裂が生じる。足早に移動しようとした時、天井が崩落した。

 

「あっ……」

 

 瓦礫は俺の肩に直撃し、俺は勢い余って弾き飛ばされる。肩に鈍い痛みが走る。

 それでもゆっくりと、起き上がり明寛を抱き直す。

 

「トラ…俺が…いるからな…」

 

 天井から崩落した瓦礫は頭部にも当たっていたらしく、額から血が垂れる。

 意識が朦朧とする中、自然と足を進ませる。すると、一際目立つ大きな扉の前に到達する。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

 扉の奥からは声が聞こえた。少女の声だ。

 俺は躊躇なんてしなかった。大きな扉を精一杯の力で押し開ける。

 

 ギギギギギ…

 

 重い軋む音が響く。部屋に入ると、中にはthe魔法使いと言えるような服装をした少女と、神社等でよく見るお祓い棒をもった紅白の服を着た少女がいた。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

「なんだ…?ここの住民か?」

 

「知らないわ…そんな人間…」

 

 魔法使いのような少女が俺へ疑惑の視線を向ける。すると部屋の端で倒れている背中から蝙蝠の翼を生やした少女が発言する。

 俺の様子を見て、お祓い棒を持つ少女はまさか、と言って続けた。

 

「あなた…まさか外から来たの…?」

 

 俺はその問に対する応えを発言するほど力は残っていなかった。

 力がなくなり、タオルを巻いて抱いていた明寛を地面に寝かせてしまう。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

「なっ子供?!大丈夫なのかよ…?!」

 

 魔法使いの容姿の少女が慌てて駆け寄る。

 明寛の頬を手を当てて、息を飲んでいた。

 

「こんなに…冷たくなっちまったら…。って、お前もよく見たら怪我してんじゃねぇか?!しっかりしろっ!」

 

「うっ…はぁっ…」

 

 俺は立つことすらできず、そのまま床に倒れ込む。先程まで熱かった傷部分が何も感じなくなる。限界だった。

 

「ト…ラぁ……」

 

 手を伸ばす。明寛の顔を見ると、あの笑顔が蘇る。口が裂けんばかりに最高の笑顔をする明寛の姿が。

 

「この感じ…元々衰弱していた所にあの吸血鬼の霧のせいで更に追い打ちになったようね…」

 

「き…り…?」

 

「そ。もう私達があの吸血鬼を懲らしめたから霧は消えていくけど…遅かったみたいね」

 

「アイツが…。アイツのせいなのか…?」

 

 薄れていた意識が徐々にはっきりとしていく。そして同時に体よ芯から何か熱いものが湧き出すような感覚があり、身体が熱くなっていく。

 

「アイツの…せいで、トラは…」

 

「お、おい立つなって…?!」

 

 もう立つ力すら残っていない筈だった。

 もう声を出す力さえも無いはずだった。

 もう諦めた筈だった。

 だが今は、沸々と湧き上がるような感覚があり、じっとせずには居られなかった。

 この館へ入る時の感情が再び湧き上がる。しかし、今度は寂しさは沸き起こらない。純粋な怒りが、そしてあの蝙蝠の翼を生やした少女への恨みの念が一気に生産されてゆく。

 

「お前の…せいで…!!お前のせいでぇぇーっ!!!」

 

 俺は無意識に手をかざす。すると横たわる少女の額から小さなガラス玉のような物が見えて、それが自分の手元にもあった。

 同時にただならぬ存在感が信哉から放たれていた。今まで感じたこともない力が彼から放たれていた。

 そして、その力を感じとたった少女は目を大きく見開いて冷や汗をかいていた。

 

「そ、そんな…?!この感じはフランのーーーー」

 

「ぶっ壊れろぉぉーっ!!!」

 

『キュッ!』

 

 俺は手に浮かぶ小さなガラス玉のような物を握り潰した。ガラス玉は手の中で弾ける。

 すると同時に少女の頭が瞬間膨張し、破裂。液体が飛び散る音と共に少女の頭だった物が弾けて、無へとさせた。

 一瞬、魔法使いの少女とお祓い棒を持つ少女は現状の理解が遅れた。

 

「うおあああああっー!!!」

 

 信哉は頭のない少女へと飛びかかり、体を素手で殴り付けた。すると、少女の体に穴が開き、背後の壁が砕け散る。

 その場にいる二人の少女が信哉を止めにかかろうと駆け出す。

 すると同時に、空中に突如現れた大量のナイフが信哉へと放たれていた。そして信哉の元に少女の姿はなかった。

 

「うっぐぅぅ…!!」

 

 大量のナイフが信哉の背中に突き刺さる。

 顔を痛みで歪め、膝を落とす。

 

「お嬢様っ…!!」

 

 先程までいなかった、メイド姿の女性が少女を抱き抱えていた。

 そして、瞳から涙を流し信哉を睨みつける。

 

「許さないっ…!!どんな理由があろうと…貴様だけは…!!」

 

「クソがぁぁぁー!!」

 

 信哉は背中にナイフが突き刺さった状態で、メイドが抱く少女目掛けて突進してきた。

 メイドは懐から懐中時計と、どこからかナイフを取り出して、身構えた。その時に、ピリッとした電流のようなものが流れたのをメイドは感じていたが、無視して信哉へ攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「時よ止まれ…!!貴様を切り裂いてやるっ…!」

 

 世界の色が変わると共に、音も止み、風も止む。先程まで動いていた少女達が停止しており、メイドだけが動いていた。

 メイドは信哉の喉元へナイフを突きつける。しかし次の瞬間、メイドの前から信哉は姿を消した。

 

「えっ…ーーーーがあっ?!」

 

 驚くのも束の間、突如メイドは横からの衝撃に襲われて地面へと転がり飛ばされる。

 そして同時に色褪せた世界が、元に戻る。

 

「ど、どういう…?!」

 

 信哉はメイドを横から殴ったのだ。信哉の拳はメイドの顎を捉え、強烈な一撃を送り込んでいた。

 そのため脳が揺れ、メイドは立ち上がることができなかった。

 

「止まった…時間を…動けるなんて…っ?!」

 

「うああっ……うおあああああっ!!」

 

 目に涙を浮かべ、あの吸血鬼の少女へと再び拳を向けた時だった。

 ひっそりと存在していた明寛の呼吸は消え、小さく揺らいでいた炎が吹き消されたのを感じた。

 その瞬間、信哉は金縛りにあった。そして、視界も急速に白くなっていく。音が遠ざかってゆく。意識も消え去ってゆく。

 

(あっ……)

 

 ただの無が目の前に迫ってくるようなき気がした。そして、完全に意識が失われる寸前に、信哉は声を聞いた。

 

『王を護れぬとは何事だ。このような不届き、決して許さぬ』

 

 俺は世界から真っ白になって、消えた。

 

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 

 ………ぃ、…きろ……おい、起きろ!…信哉!!

 

「っ?!」

 

 大きな揺れと声によって俺は目を覚ます。何があったのかと顔を上げると、そこには父がいた。

 




この作品を読んでくれてありがとうございます。銀の鰹節です。
前回は長くて今回は短い…。こんな感じで物語の長さが統一されてないのもこの作品の特徴です(笑)。
明日からは平日で忙しくなるので、少し投稿が難しいかもしれません。
これから信哉達の力について触れていこうと思います。
それでは今回はここで終わりにしたいと思います。
次回もゆっくりしていってね!
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