幻想恩義   作:銀の鰹節

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訳は分からずとも再び父や明寛と出会えた事を幸せに思う信哉。今度は直接館へ向かう事を決め、犠牲を避けようとするが、道中で妖精によって父と離れ離れになり、館へと急いで向かう事に。
館へ着いたら着いたで、二人の女性が攻撃して来て、信哉も応じようとするのであった。



⒌芽生え

 門番少女は長い髪をゆらゆらと揺らしながら信哉へと距離を詰める。

 信哉は彼女から放たれる覇気や、気迫に恐怖して、焦っていた。

 

(ど、どうする…?!あの力で来られたら対処も何も無い…?!)

 

「隙多いですね〜…もしかして返し技が得意なんですか?」

 

「…っ!!」

 

 信哉は瞬きすら出来なかった。彼女の一つ一つの動きに気を取られ、より焦りは大きくなる。

 

(落ち着け、落ち着いて見るんだ…!?)

 

 彼女との距離が五メートル程まで縮まった時、彼女の体から放たれる波動のようなものに動きが現れる。

 彼女の脚、そして右手の波動が急激に膨張する。

 

(何だ…力が溜まっていくのかーーー)

 

 不思議に思っていると、門番少女は地面を音なく蹴り、一瞬で信哉へと詰め寄る。そして、その勢いを右手へと移動させ、高速の掌底を放つ。

 

「ぐっ?!」

 

 信哉は咄嗟に後ろへ後退し、腹部を両手を交差させて守る。

 その事により、少女の掌底は腹部へ命中すること無く、腕が弾かれるだけで済む。

 

「わっ、よく反応できましたね?!」

 

「ぐっ…?!うおあああああっ!!」

 

 腕で防げたのはいいものの、腕の骨に響く鈍い痛みと衝撃。波打つように強弱の衝撃があり、腕を痺れされる。

 

「じゃあこれはどうですかっ?!」

 

 彼女は次の攻撃を繰り出そうと、前方へ跳びながら左脚を地面と垂直に上げた。

 天を貫くようにピンっと上げられた脚では先ほどと同じように波動が膨張しており、避けなければと反応した際には既に信哉の頭上に脚が高速で下りていた。

 音も置き去りにするほどの速さで振り下ろされた脚は大地を砕いた。

 

「…よく、避けましたね」

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…?!」

 

 信哉は目をチカチカさせて息を切らしながら、自身が彼女の蹴りを回避した事に気づく。

 どのように回避したのか、咄嗟の行動だったため、あまりわからない。

 蹴りを避けられた事にかなり驚いた彼女は一呼吸おいて、体勢を整える。

 

「ふぅぅー…」

 

 信哉は再び身構える。荒れた息をぐっと抑え込んで、彼女が纏う波動を観察する。

 

(先程からの傾向からして、あの波動は力らしい。溜まればたまるほど強いのか…)

 

 俺は視線を自身の掌へと移す。彼女ほどではないが薄い膜のように体の表面を流れているのが確認できた。

 

「余所見とは!!油断大敵ですよっ!」

 

「ぐっ?!」

 

 すぐに視線を上げたのだが、彼女は目の前に既に迫っており、左手で突こうとしていた。

 信哉は体を精一杯捻って躱そうとするが、彼女の掌底は信哉の脇腹へと届いたのだった。

 

「こほっ…!ぐっ…!」

 

 彼女の手では波動が急激に膨張しており、その波動が自身の体内へと伝わり衝撃となる。体内から破壊されていくに等しかった。

 息をする事すら難しくなる。後ろへ倒れながらも、彼女から目を離さないようにしながら、地面へと手を着く。

 

「ぐぅっ…はぁっ?!」

 

「アナタすごいですね。全く武術を取り入れていないのにも関わらず、気の扱い方は常人を凌駕してますよ」

 

 彼女は笑っていた。俺の全てを見据えるような、息の詰まりそうな視線を向けて。

 呼吸を乱しながらも立ち上がる。構える程の余裕すらなく、ただの棒立ちだが。

 

「はぁっ…はぁっ…?!」

 

「…これで終わりですかね!楽しかったです」

 

 彼女はニコッと笑みを浮かべると同時に、右手に今までで最大級の波動が膨張していた。先程までの戦いは何だったのかと疑問に思うほどの力。

 俺は体の表面に漂う僅かな波動をある箇所へと、無意識のうちに集めていた。

 

「フッ!!」

 

 彼女の足踏みが大地を響かせ、右手に込められる力によって空気が揺れる。

 再び掌底の予備動作。今までのと比にならない。

 信哉は、いつもと違う感覚に陥っていた。背景が消え、彼女一人しか目の前にない。そして、見える。どのように動こうとするのか。彼女の腕、腰など様々な箇所の筋肉が微かに動く姿を捉えられていた。

 何故、この現象が起こっているのか。それは信哉の波動が集まっている場所が関係していた。

 目と脳だった。信哉はその二箇所へ波動を集めていた。

 信哉は無意識の内に理解していた。この波動が力を増幅させたり、細胞を活性化させることを。

 波動によって強化された眼は物事を的確に捉え、そして脳は通常よりも何倍もの効力を発揮する命令を下す。

 

「ハァッ!!ーーーいっ?!」

 

 彼女の叫びと共に掌底が放たれるが、僅か一瞬の出来事に度肝を抜かれた様子で体勢が崩れていた。

 彼女の掌底は信哉に当たる事がなく、そのまま空を穿っていた。

 強化された脳からによる行動は、通常の何倍もの力の元で行われた。掌底を避けるために上半身を逸らし、下半身はすり足で横へ移動。彼女の腕が通過した際に、脇に挟め、彼女が前傾姿勢であることを逆手に後方へと引っ張る。

 以上の行動が僅か一瞬で行われたのだ。波動によって強化された脳の伝達能力は超人的な力を開花させたのだ。

 そして彼女の勢いは未だに失っておらず、そこに同じ方向の力が加われば止まるはずの勢いは止まらず、そのまま体勢が崩れてしまう。

 そして二人は目にも止まらぬ速さを保ったまま地面を転がり倒れる。

 

「ぐ、うぁあ…?!」

 

「イタタ…。ま、まさか避けた上に引っ張られるなんて…。ん?んん?」

 

 信哉の姿を見て彼女はなにか不可解な事を感じたのか、頭上にクエスチョンマークを浮かばせたかのような表情をする。

 ちなみに少女が信哉へと覆いかぶさっているような状態なので、信哉は何も動くことができなかった。

 

「アナタ…この感じ。もしかして気を操れてます?」

 

 少女は腰を下ろし、信哉の上に座る体勢で、右手を上げて波動を膨張させた。

 

「くっ?!」

 

 信哉は咄嗟に両腕を交差させて、腕の波動を膨張させる。

 すると、彼女は違う違うと言いながら自身の右手を指さした。

 

「今、この手に溜めている気が見えますか?」

 

「あ、えと…黄色やら緑やらそんなオーラみたいなものが手で玉になってます…」

 

「へえ…!じゃあ見えてるんですね。さっき腕で防御しようとした時に、腕で気を固めていましたけど操ったりもできるんですか?」

 

「操っているっていう実感はありませんけど、その…何となく意識で波揺れるみたいなそんな薄い感覚でしか…」

 

 彼女はへぇ!と戦う時と同じような笑みを浮かべる。しかし今の視線は、敵意などの見据えるような恐ろしいようなものではなかった。

 ただ人が人を見るために使う、普通の視線であった。

 そして、彼女からは先程まで感じていた迫力などが消えていて、朗らかな印象であった。

 

「咲夜さん!咲夜さん!」

 

 彼女が信哉の上から立ち上がると、メイド少女の方へと駆けていく。

 信哉は何が今起こっているのかが理解出来ず、ただ呆然と二人の少女へと視線を向けることしかできなかった。

 

「あの人を助けませんか?」

 

「お嬢様からは人間を近づけるなって言われているけど?」

 

「そこを何とか…!!ダメです?」

 

「私は嫌よ。お嬢様に許可を求めに行くなんて面倒だし。そんなに助けたいならアナタがお嬢様の所へ行って頂戴。私は仕事に戻るわ」

 

 メイド少女はその言葉を最後に目の前から姿を消す。残された紅い髪の女性は信哉の方へと向き返り、駆け寄る。

 

「じゃあ少し私に着いてきて下さい!直接お嬢様の所へ許可をしに行きます!」

 

 彼女はそう言うと信哉の手を取って、館の中へと進もうとする。

 信哉は引っ張られつつも明寛を慌てて抱き上げて、少女と共に館の中へと入っていった。

 

 信哉は未だに少女の考えを読み取ることができなかった。先程まで食べようとする考えがあったはずだが、逆に今は助けようとしている。わからない。読むことができない。

 悶々としながら彼女に引っ張られ続けると、とある大きな扉の前へとたどり着く。その扉には見覚えがあった。この扉の奥で、力尽きた事を信哉は覚えていた。

 

「少し待ってて下さいね!」

 

 少女はそう言うとノックしてから扉の中へと入っていった。

 絶望の中で彷徨っている時にはあまり気づかなかったこの館の内装。長く続く廊下には窓があまり無く、また照明は蝋燭の灯火なのだが数も少なく、暗闇の空間が多い。灯火で照らされる床や壁は紅く、目に突き刺さるような錯覚を覚える。

 信哉は不安を紛らわすように、明寛の様子を確認する。明寛の体に付いていた氷は溶けてなくなっており、また息も落ち着いていて弱っている所は見受けられなかった。

 その事に少し安心していると、扉がキイィと静かに開く。扉の奥から少女が顔だけを出して、入れと手招く合図をしてくる。

 信哉は素直に扉の奥へと進む。

 部屋の中は廊下と同じように、またはそれ以上に暗闇に包まれていた。

 ただし、その暗闇の奥で紅く光り輝く二つの眼光が信哉達を捉えていた。

 

「…っ?!」

 

 思わず身震いしてしまう。

 猫ともトカゲとも違う眼は、今からでも獲物を狙っていると言わんばかりの鋭さを感じさせた。

 恐怖しているからなのか、肌寒く感じる。先程まで戦闘の余韻で暑い程だったのにだ。

 信哉達をジッと見つめ、ほんの少したった時、暗闇の奥から少女の声が聞こえた。しかしただの声ではない。重くのしかかるように感じさせ、緊張で喉が詰まりそうになり、口が動かせない。

 今、信哉は目の前にいる者に命を握られているような、そんな感覚であった。

 

「…人間よ。貴様は何とも不思議な奴だ…。運命が定まってない…」

 

 少女の声が闇に溶け込むようにサッと消える。そして再び沈黙。再び見据える。

 

「…いいわ。美鈴」

 

「お嬢様ありがとうございますっ!」

 

 隣に立つ少女は勢いよく頭を下げ、その場を後にしようとする。その後を信哉は縋るようについて行くのだった。

 部屋から出ると久しぶりに生きた心地を感じたのだった。

 

「ふ、ふぁぁ…」

 

「やっぱり、怖いですか?」

 

「す、すごく…」

 

 壁へ体を預けていると、少女は良かったですね!と手を握ってくる。

 

「やりましたね!アナタはここで暮らせますよ!」

 

「ほ、ホントですか…?!ありがとうございます…!!」

 

 信哉は少女へと勢いよく頭を下げる。目頭が熱くなっていくのを感じた。するとタイミングよく明寛に反応がある。

 

「ん…んぅ…」

 

「…!?トラ…トラッ?!」

 

 目を擦りながら明寛は信哉の顔を見る。まだ寝ぼけているのか、とろーんと甘い表情になっている。

 しかし、すぐにハッとして辺りを見回す。大事なものを探すように忙しなく辺りを見回す。

 

「信兄、父さんは…?」

 

「父さん、は…な……」

 

 信哉は助かったと喜んだ矢先に、明寛からの問いで罪悪感が蘇り、また明寛へ父さんの事を言う覚悟ができていなかったため言葉が出てこなくなる。

 少しの間の沈黙が明寛を理解させてしまったのだろう。

 明寛は涙を浮かべ、そのまま信哉の肩へと顔を押し付けた。

 

「…っ…っ!!」

 

 そして信哉はまた更に罪悪感を感じた。小学に上がって間もない少年を、親が亡くなった悲しみで声を上げて泣かせてやれないのを凄く申し訳なかった。

 だが同時に救われもした。明寛が声をあげなかった為に、信哉の心は保たれているのだ。もしも号泣なんてしてしまったら父を亡くした悲しみに囚われ続けてしまうだろう。

 だからこそ、信哉はまるで生きた気がしなかった。

 ほんの少し時間が経つと再び明寛は眠ってしまった。疲れたのか、または心を保護する為なのか。

 信哉は明寛の頭を撫でつつ、少女の案内の元、ある部屋のベッドへ寝かせるのであった。

 

「ありがとうございます…。えっと…。自己紹介がまだでしたね…。俺は黒羽信哉です。遅れてすいません」

 

「私は紅美鈴といいます。そしてここは紅魔館と言って主が吸血鬼です」

 

 美鈴はそう言うと、手を出してくる。信哉がゆっくりとその手を握り返すと、美鈴は笑みをみせた。

 

「この子はこのベッドで寝かせておいて構いません。ですが信哉には私と一緒に行動して欲しいのです」

 

「紅さんとですね。わかりました」

 

 美鈴と信哉はこの部屋を後にすると、今まで通った道を戻り、門までやってくる。

 

「うーん、やっぱりこの景色はつまんないなぁ…」

 

 辺り一面、濃い霧で覆われている事で殺風景となり、それが美鈴にとって不服らしい。

 

「ま、別に寝るから関係ないんですけどね…。さてと、信哉にこれからの事を説明させていただきますね!アナタは第二の門番です!つまり、私の部下です!わかんない事があったら聞いたりして、私の命令には従うように!」

 

「わかりました、大変微力ですが、お願いします…!!」

 

 信哉は再び深々と頭を下げる。

 美鈴は大丈夫ですよ〜と笑い混じりに言う。

 

「さてさて〜じゃあ早速私の命令を聞いてもらいますよ〜!少し脚を触らせて下さい!あ、立ったままで構いませんよ」

 

「わ、わかりました…」

 

 美鈴はしゃがんで信哉の太ももやふくらはぎなどを触り始める。にぎにぎと押したり、指でつついてみたり、手のひらで撫でたりなどする。

 

「んん〜〜…それほど筋肉や脚が強いとかそういう訳ではなさそうですね…。じゃあなんであの時あんなに素早かったんだろう…。ねぇなんでですか?」

 

「えっ」

 

 突然の問いに信哉は驚いた様子で、答えようとしてもなんの事を言っているのかが分からず、答える事ができなかった。

 その事を見据えたのか、もう一度質問をする。

 

「私の掌底を交わした時ですよ。その前にはバッチリ掌底くらってて、立っているぐらいでかなり苦しい筈なのに…」

 

「あ、あの時は確か…。紅さんしか見えなくなって…どう動くのかが理解できて……あとは我武者羅でした」

 

「ふぅん…」

 

 美鈴はまぁいいやと立ち上がり、元の場所へ戻る。

 信哉はリュックを置いていってしまっていたのを思い出し、門周辺を探す。霧が濃くて視界が悪いものの、置いた場所は何となく覚えていたので、時間はかからずに見つける事ができる。

 

「えっと…どこに入れたっけ……。あった」

 

 信哉はリュックの中からメモとペンを取り出して、美鈴の方へと訊ねる。

 

「あの紅さん、ここは何て街なんですか?」

 

「街…?この世界には街なんてもの、ないと思いますけど…。あ、人里ならありますよ?」

 

「街がない…?じゃ、じゃあここは何県なんですか?」

 

「県…。それも聞いた事がないですね…。ここは幻想郷、ただそれだけですよ?」

 

 信哉はよく理解ができなかった。幻想郷という場所は聞いたこともないし、逆に県すら不明なのは想定外であったからだ。

 ペンやらを構えたのはいいものの、肝心な情報が手に入らないのであれば意味はなかった。

 頭を抱えていると、横から美鈴が信哉の顔を覗き込む。

 

「ど、どうしました…?」

 

「やっぱり信哉、肌綺麗だね。できものとか、痣とか何もないし」

 

「そうですか…?あまり気にした事はなかったですね…」

 

 信哉は自分の頬を触れてみる。特に変わりない、いつも通りだ。

 思い返してみれば少し気になったことが信哉にはあった。それは自分達以外の男性を見ていない事だ。

 メイドはいいとして、門番、主が女性であるというのは少し気になった。でも、その事を美鈴に聞こうとは思わなかった。それほど重要性を感じなかったからだ。

 

 それからは美鈴と他愛もない会話を挟み、時間を過ごす。

 ある程度話し続けると、話す事が無くなってしまい、沈黙画訪れる。

 信哉はリュックから主導蓄電器を取り出して、取っ手部分をキュルキュルと音を発しながら回す。

 すると、蓄電器に興味を持ったのか美鈴がしゃがみこんでジッと見つめる。

 

「信哉、これは…?」

 

「蓄電器です。回すことで電力を溜めれるんです」

 

 この蓄電器には電池を嵌め込む部分があり、電池を嵌めると充電できるのだ。なので、今手元にある二つの乾電池を嵌めて充電しているのだ。

 このように中々にハイテクなのだが、回し続けなくてはならないので地味で疲れるのだ。

 早くも疲れが現れて面倒に感じてきた時、美鈴が手を挙げて言った。

 

「あの、信哉!私にやらせてください!」

 

 美鈴は目を輝かせて信哉に詰め寄った。一体どこにそんなやりたい要素があるのかは、信哉にはわからないが素直に美鈴へと蓄電器を渡す。

 

 キュルキュルキュルキュル…

 

 キュルキュルキュルキュル…

 

 キュルキュルキュルキュル…

 

 美鈴はただ黙々と回し続ける。かれこれ三十分ほど経ったはずだ。でも、美鈴はまだ飽きた様子がない。

 

「あ、あの…飽きたりしたら止めてもいいですからね…?」

 

「心配無用です。楽しいですし」

 

 美鈴が蓄電器を回し続けるのを信哉はただ眺めていた。その事に気づいた美鈴は信哉へと命令を出した。

 

「信哉ぁ〜肩揉んでください」

 

「あ、あのやっぱり疲れたんじゃ…」

 

「そんなことない。いけます…!」

 

 美鈴はドヤ顔で親指を上げる。一体どこに楽しさを感じているのだろうか。

 信哉は美鈴の肩を揉みながら、キュルキュルと回す音を聞き続けた。

 

 時間が進み、日が沈もうと辺りが闇に包まれそうな頃。美鈴達の元へやってくる者が、門の奥からいた。

 

「美鈴、差し入れを持ってきたわよ…って何してるの?」

 

 その者は何時ぞやのメイド少女で、布を被せた藁で編まれた籠を持ってやってくると共に、美鈴が回し続ける蓄電器に気づく。

 

「あ、これは蓄電器です。紅さん、ずっと回しているんですけど、やっぱり止めた方がいいですよね…?」

 

 蓄電器に没頭している美鈴に変わって信哉が答える。メイド少女は相槌をうつものの、興味はないようであった。

 

「蓄電器ねぇ…ふーん…。ところでアナタ、どうしてここにいるの?」

 

 メイド少女は冷たくあしらう様に質問してくる。少し戸惑いながらも信哉は答えた。

 

「ほ、紅さんのお陰でこの館に泊めていただける事になりました黒羽信哉と申します…!自己紹介が遅れてすいません…」

 

「知ってるわよ。お嬢様から聞いているし、わざと聞いたのよ。私は十六夜咲夜。紅魔館の家事担当してるの」

 

「十六夜さんですね、俺は大変微力ですけどよろしくお願いします…」

 

 信哉は手を前へ差し出して握手を求めるが手には籠を渡され、メイド少女ーーーー咲夜はそのまま紅魔館へと帰ってしまった。

 

「やっぱり、歓迎はされないよな…。泊めてもらえるだけでも感謝しなくちゃな…」

 

 何とか安全な場所を手に入れたはいいが、この先にある壁を超えるにはかなり苦労しそうな事を、信哉はヒシヒシと感じていた。

 

 ピピピピッ

 

「うわっ」

 

 咲夜の背中を見て申し訳なさを感じていると、後ろから充電している電池が満タンになったアラームとその音に驚いた美鈴の声が聞こえた。

 信哉は苦笑いを浮かべて、美鈴の元へと駆け寄ったのだった。

 

(何とか…力にならなければな…)

 

 別に仲良くなりたいとかそんな感情からではなく、助けてくれた恩義を報いたい思いがあるからこそ、何としても力になりたいと信哉は強く思うのであった。

 

 




この作品を読んでくれてありがとうございます。銀の鰹節です。
投稿は休日または祝日が主になりそうです。ペースが遅い上に、一話ごとの進展も遅い…少し早めた方がいいかなと思い始めたこの頃です。
今回はここで終わりにしたいと思います。
次回もゆっくりしていってね!
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