幻想恩義   作:銀の鰹節

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紅霧異変も博麗の巫女、博麗霊夢たちの手によって解決し、以降レミリアは神社へ赴くようになっていた。
紅魔館でのみ雨が降っている事を見かけたレミリアが霊夢達に紅魔館の様子を見に行かせる。
雨を振らせていたパチュリーと魔理沙が戦おうとしていた。



⒐激情

 

「むきゅ〜…」

 

 不思議なうめき声と共に倒れていたのはパチュリーであった。

 魔理沙とパチュリーの弾幕ごっこは、ほぼの互角に見えたが、魔理沙は狙ったのか定かではないが、強引に弾幕網を突破した事が勝敗を決した。

 

「あ、危ねぇ…!!喘息の調子良かったらこんなに強いのかよ…!!」

 

 とはいえ、勝った魔理沙も息絶えだえで、座り込んでいた。

 

「ここには本もないから全力でやれただけよ…はぁ疲れた…」

 

 パチュリーは地面に寝転んだまま、起き上がる気配がない。満身創痍、又は疲労困憊という状態なのだろう。

 

「……気をつけなさい。妹様は危険よ」

 

「…誰よ、妹様って」

 

「レミィの妹よ…。この前の異変で外に興味を持っちゃって出ようとしてるの」

 

「出させりゃいいじゃない。何よりここの主が帰れなくなってるんだから」

 

 霊夢は呆れ混じりに言うと、パチュリーは続けて言った。

 

「アナタは知らないだけよ…妹様の能力を…」

 

「能力…?どんなーーーー」

 

「私の事、知りたいならその身で味あわせてあげるよ」

 

「っ?!」

 

 突如暗闇の奥から聞こえた、少女の声。

 霊夢達が目を凝らして先を見つめていると、ポっと虹色に光り輝く石が宙に浮いているのが見えた。

 そしてその石はゆっくりと霊夢たちへ近づいていく。

 やがて目の前のロウソクの灯火に照らされて現れたのは、見た目十歳前後の金髪少女フランドール・スカーレットと、手を引かれる一人の男性……黒羽信哉であった。

 

「……なるほどね。確かに妹様とやらは強そうね。そして、行方不明になっていた人間が今目の前にいると…確か、信哉だっけ?」

 

 霊夢はほんの少し足をずらして、臨戦態勢へと移行する。

 

「信哉はね、私の永遠のバディなの!初めて生きたままで出来たの!」

 

「バディだか何だか知らないけど、面倒事はゴメンだわ。なんなら今すぐにでもあのチビを神社から追い出したいのだけど」

 

「…それは嫌だなぁ。まぁでも、あなたがアイツをここへ連れてくるのは無理ね。だって…」

 

「……はぁ、なんでこう血の気が多いやつしかいないのかしら…」

 

 霊夢はお祓い棒を強く握り、札を持って身構える。

 するととてつもない圧力が、フランから発される。まるで肌に静電気が何度も起こるような、感覚に陥る。

 

「あなたが、コンティニューできないのさ!」

 

 フランが手を上げて、霊夢へ襲いかかろうとした時、隣にいた信哉がフランへと手を伸ばし、腕を引いた。

 するとフランは燃えるように煌めく紅い瞳で、信哉を睨みつける。

 

「邪魔しないでよ…!!」

 

「フランドール、今は待て。待て、だ。あの人は恐らくこの世界の中でかなり強い筈だ。今ここで、そんな人と遊んでしまっては後が退屈だろう?」

 

 パチュリーは目を疑う光景を見て、言葉を失ってしまう。

 能力の影響により、危険という危険を持ち合わせた妹様…フランドールを信哉が言葉で抑制させたのだ。

 フランは耐えるように手を下ろし、パチュリーへと命令した。

 

「ねぇパチュリー、雨を止ませて?私、信哉と外に行く」

 

「そ、それは……」

 

 パチュリーは魔理沙との戦闘による疲労が長引いており、未だに動く事ができなかった。

 故に、止めたくても止められない。

 雨を止めさせないと言ったらどんな手を使って雨を止ませようとするのだろう。

 予想できないからこそ、何もできなかった。

 黙ることしかできないパチュリーを見た信哉は、パチュリーの元へと歩み寄る。そして彼らにしか聞こえない程の小さな声でパチュリーへ告げた。

 

「俺が、最大でも一ヶ月後にはフランドールをここへ連れ帰ります。信じてください」

 

 妨害する体力を失っているパチュリーは、信哉を頼らざるを得なかった。

 信哉がフランの手を引いて紅魔館から出て行こうとした時だった。

 信哉の目の前に、霊夢が立ち塞がる。

 

「…俺に何か?」

 

「いえ、少し気になったのよ。あなたが行方をくらましていた間、一体どこにいたのか…」

 

「…」

 

 信哉は落ち着いたようすで、霊夢をじっと見る。霊夢も信哉の目をじっと見つめ、沈黙の時が流れる。

 

「…ずっとフランドールといた。それだけだ…」

 

「ふぅん。ま、ここの主はあなた達がいようと居なかろうと帰らせるつもりだから別にいいわ…」

 

「そうか…」

 

 霊夢が身を退いて、空いた道を信哉達は歩き出す。

 霊夢と信哉がすれ違う時、お互いに小さく囁いた。

 

「トラを頼む」「暴れたらすぐに退治するから」

 

 信哉とフランは廊下の奥にある階段を登って、パチュリー達の前から姿を消した。

 

「ねぇ、やっぱりあの女と戦いたい」

 

「…頼むから我慢してくれ…」

 

 信哉は頭を抱えたまま、フランと共に紅魔館を出て行ったのだった。

 

 パチュリーは未だに体力切れで起き上がることが出来ないらしく、傍にいる小悪魔の助けもあってようやく起き上がる。

 

「…はぁ。あの男、ただ生きていただけじゃなく妹様とも接していたとは…」

 

「たまたま咲夜さんや美鈴さんが近くにいないらしいので、今回の事は運が悪いとしか…」

 

「ち、近くにいない…?緊急時の雨を降らせているというのに?!ーーーーゴホッ?!」

 

「あああ?!落ち着いてください…」

 

 パチュリーは焦りと同時に苛立ちも覚えていた。

 なぜ咲夜、美鈴がいないのか。

 いくら考えようとも、答えは思い浮かばない。

 小悪魔が咳き込むパチュリーの背中を摩る。

 すると奥からドタバタと慌ただしい足音と共に急いでやってくる二人の影が迫っていた。

 美鈴と咲夜であった。

 

「すいません、パチュリー様!」

 

「い、妹様は何処へ…??」

 

「信哉と…一緒にここから出ていったわ…」

 

 パチュリーの一言に、美鈴は信じられないという表情で言葉を失い、咲夜は目を一瞬見開いた後、尋常ならぬ殺気が解き放たれる。

 

「あの男…!!」

 

「待って。信哉は一ヶ月以内には連れ戻すって言っていたわ」

 

「し、しかし…!!」

 

 咲夜は怒りを隠すことができない様子で、自然と拳が音を鳴らしていた。

 

「まず妹様は吸血鬼。能力で言えばレミィよりも狂暴と言えるから、一人のにんげんにどうこう出来るわけはないわ」

 

「信哉は…どこにいたんですか…?まさか、最初から…妹様の部屋に…?!」

 

 異変後、誰一人として信哉の姿を見たものはいなかった。

 そのため、瓦礫の中に埋もれて死んだとか、妖怪に食われた、妖精に攫われたなどと騒がれていたが、彼は生きて紅魔館にずっといたのだ。

 

「…はぁ。レミィが帰ってきた時のことを考えると頭が痛いわ…」

 

「すいません、対処に向かうのが遅れたばかりに…!!」

 

「過去を気にしても何も変わらないわ。今後の対策を考えましょう」

 

 後日、咲夜と美鈴がパチュリーの元へやってこれなかった訳を聞いた。彼女達曰く、進んでも進んでも、館の中で同じ場所に留められたとの事。

 そんなことが有り得るのだろうかと思いつつも、その場所周辺の調査をすると、咲夜が発動させていた空間操作術が、人為的に変化させられている事がわかった。

 そこで彼女達は改めて気づく。今回の出来事は、全てが計画されたもの。そして、その計画した者と大きく言える人物が黒羽信哉だということを。

 雨の止んだ紅魔館へ帰ってきた主は、現状を聞いた瞬間に顔を青ざめさせていた。

 

「そ、そんな…!!」

 

 彼女には能力がある。その能力の力で、少し先の未来を『知る』又は『視る』事が出来るらしい。

 そして信哉を館へ迎え入れたその時、彼女が視た未来はフランが信哉や明寛を含めた自分達と笑う未来であった。

 

「可能性の未来だったか…!!」

 

 レミリアは己の過信を強く責めた。しかし、現実は変わらない。

 紅魔館を去った信哉とフランの行方は誰にもわからない。

 運命の歯車は確実にズレて狂ってゆく。

 

 

 

 信哉とフランが共に去ってから一週間が過ぎ、幻想郷にとある噂が流れ始める。

 妖怪や動物の謎の変死体が相次いで発見されているらしいのだ。

 その噂は妖怪達の間で流れていたが、人里を行き来する妖怪の耳にも噂が入り、人里に噂が広まるのは早かった。

 

 十六夜咲夜は己の失態や信哉への憤慨などの激情によって、見れば誰もが恐怖を抱くような表情になっていた。

 目付きは鋭く、話しかけただけでも攻撃してくるのではないかというぐらいに誰もが近寄れない空気を醸し出していた。

 だがそんな彼女も紅魔館の家事全般を担う者。姿に問題はあれど仕事はこなさなくてはならなかった。

 無論、人里への食料調達もだ。

 しかし、この時はタイミングがあまりにも悪かった。

 里の人々は咲夜の形相を恐れ、無意識のうちに噂の元凶と関係があるのではと結びつけるようになってしまう。

 さらに噂は様々な情報が盛られて、妖怪や動物の変死体は体中の骨が抜かれているだとか、カラカラに干からびているだとか、四肢をバラバラにされていて頭が潰れているだとか様々だ。

 人々は咲夜を恐れてから逃げるようになり、噂の元凶を彼女に押し付けるようになる。

 やがて博麗神社へと情報が伝わり、とうとう巫女が動き出すまでに。

 

「変死体が出てるのは事実なのよ。……でも、ホントにそれをあなたがやったとは思えないわ」

 

「…知らないわ。そんな噂」

 

 紅魔館へ直接赴いた霊夢は咲夜へとそう告げた。

 咲夜は以前よりもまたさらに殺伐としており、尋常ならぬ殺気を放っていた。

 

「…。あまりピリピリし過ぎない方がいいわよ。ま、私には関係ないけどね」

 

 霊夢は言葉を残して紅魔館を後にした。

 咲夜の感情は許容を超えた激情で今にも爆発するのではと危惧するほど強大で、咲夜自身も激情に蝕まれるように負の感情に囚われていった。

 

「あの男を…アイツを…!!」

 

 

 

 

 

 あと数日で信哉が告げた一ヶ月になろうとしていた。

 変死体の噂は消えるどころか、変死体が人里・紅魔館付近の森で見つかったことによって、事件として捉えられ皆が恐れるようになる。

 そして噂の元凶と疑われていた咲夜への敵意はますます強くなっていた。

 咲夜自身も負の感情が以前よりも膨大となり、既に区別の境界線すら見えなくなっていた。

 

「咲夜さん、一度休んだ方が…」

 

「黙りなさい。殺すわよ」

 

 激しい憎悪の矛先は仲間へも関係なく放たれるようになっていた。

 咲夜は主のレミリアでさへ殺意を向けるようになっていた。ことある事に殺気を放ち、今、彼女がなぜ紅魔館の家事をこなせているのかが不思議でならない。

 そして危機として感じているのは咲夜のみならず、レミリアもまた同様であった。

 

「…なによこの運命…。掻き乱したっていうレベルじゃないわよ」

 

 能力で運命を察知したレミリアは顔を青ざめさせていた。

 彼女が察知した運命とは、燃える世界の中で様々な生物が死んでゆくものであった。

 地獄と言っても過言ではない光景らしい。

 

 その日の夜、美鈴はレミリアから徹夜で三日間ほど門番する事を命じられる。

 普段なら文句を言う美鈴も何かを感じとったのか、一度で顔を縦に振った。

 

「んー…なんだか胸騒ぎが…。気の所為ですかね…」

 

 見えない異常に気づいているのはレミリアや美鈴のみならず誰もが本能的に察知していた。

 虫の鳴き声や動物の声が静まり返って、静寂が世を包み込む。誰もが息を飲んで耳を済まして警戒していた時だった。

 

『ゴゴゴゴゴ…!!!』

 

 大きな地鳴りと共に揺れ始める大地。揺れは徐々に大きくなり、地面に亀裂を発生させる。

 

「ちょ、ちょっとこれはまずいんじゃ…?!」

 

 美鈴はあまりにも強い揺れに立ち続けることが出来ず、反射的に飛翔する。

 空から見える光景に呆気にとられてしまう。

 大地の亀裂は大きく広がって地割れとなり、激しい隆起や陥没が発生。

 紅魔館も激しい損傷が既に発生しており、強い揺れが続くと崩壊しかねない程であった。

 森に住まう鳥達が鳴きながら大量に羽ばたいた。揺れの音、鳥などの生物の鳴き声が辺りに響き渡る。

 

「…!!」

 

 言葉を失っていると、さらなる事態が巻き起こる。

 地割れの奥底から赤い光が放たれた瞬間であった。地中奥深くにある筈のマグマらしきものが、勢いよく地割れから噴出したのだ。

 マグマは空中で溶岩化して大地や森に降り注ぐ。高温の溶岩は木々に直撃して発火させ、辺りの森を一瞬にして火の海へ変貌させる。

 溶岩は依然、噴き出し続ける。

 

「お、お嬢様ー?!」

 

 美鈴は紅魔館へ戻ってレミリアの指示を受ける事しか、考えられなくなっていた。

 目の前で天変地異と捉えられる程の出来事が、美鈴の思考や判断を制限させたのだ。

 

 紅魔館へ戻ってくるや否や、美鈴は再び言葉を失ってしまう。

 扉を開けてホールのような広場に、レミリアやパチュリー、咲夜が立っていて、一人の男性と一触即発の状況であったからだ。

 しかしその状況下にてら美鈴はその男の姿を見て、その名が自然と口から零れた。

 

「信哉…」

 

 やつれて肩が下がり、目の下に濃い隈を作った信哉が、咲夜達と対立していた。

 

 

 




この作品を呼んでくれてありがとうございます。銀の鰹節です。
前回投稿から非常に期間が空いてしまい、すいません。1ヵ月ぶりでしょうか。
訳としては学業成績とだけ呟かさせていただきます。
そして、投稿頻度はこのペースが少し続きそうです。先の見通しが甘かったとしか言えません…。ごめんなさい!
今回はここまでにさせていただきます。
次回もゆっくりしていってね!
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