神を運ぶ者   作:コズミック変質者

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第3話

人影が全くない立体駐車場を、一つの影が動く。影はいつも通りの黒い制服を着ているのではなく、シンプルな黒のカソックに似せた服を着ている。この真夏に近い学園都市の気温の中で、彼は相当目立っている。目立つことは彼からしても不本意である。

そんな彼にとっても幸いなのが、近くに制服を置いてあるバンがあることだろう。流石に、こんな真夏で真っ黒なカソックを着て出歩くほど、不振行動をとるつもりはない。いや、年中長袖長ズボンの制服も可笑しいだろう。

 

彼———鍍金は改造されている青いランボルギーニを見つけると、ゆっくりと歩き、近くに人がいないことを確認してから右側の席である助手席に乗り込む。

 

車内には既に先客、と言うよりも持ち主がいた。女性だ。目にくっきりと隈が出来ている。ヨレヨレだが白衣を着ていることから研究者ということが見て取れる。メイクでもすれば美しくなるであろう顔は、日頃のオーバーワークからか疲れ切っている。

 

「お久しぶりです、木山春生」

 

「ああ、久しぶりだね第八位」

 

旧知の中、という訳でもないが気安く声を掛けられるくらいには仲はいい。少なくとも、木山春生自身から、彼女が抱える秘密を聴けるくらいには。

 

「能力者集めは順調だよ。流石だな第八位」

 

「いえ、私はあくまで幻想御手(レベルアッパー)の開発途中のデータを持ってきただけです。そこから完成まで届かせたのは木山春生、貴方だ。貴方の執念と努力があったからこそ、幻想御手(レベルアッパー)は形を成して、学園都市に広がっている」

 

幻想御手(レベルアッパー)———現在、数多い学園都市の都市伝説の中で、一番有名で一番現実味が出てきている、無能力者を能力者にし、低能力者を高能力者にする夢のようなアイテム。

彼らはそれを学園都市にばらまいた張本人。

 

「恐ろしいものですよ。人の欲というのは。特にこの学園都市。予兆も見せずに浸透し、皆一心不乱に使い続けている。デメリットがあるかもしれないなど、微塵も考えもせずに」

 

「考えている人もいるのだろうさ。だけど抗えないのだろう。能力開発を受けてない私達には分からないが、目の前に本物(・・)があるんだ。別に、使ったからと言って人生は劇的に変わる訳でもないのに」

 

「使えることそのものが刺激となり快感となるんでしょうね。ハハ、まるで麻薬だ。使用者に気分でも聞けば、世界が違って見えるだの、見下してた奴らに復讐を、等の愉快な妄言を言い始めるのでしょう」

 

「人の弱さに漬け込む、か。この学園都市では目に見えるくらい大きいからな。弱さというものは」

 

人の弱みに漬け込む。その行為に思うことは木山にもある。だが既に他者の気持ちなど度外視しているのだ。しなければいけないのだ。今更、人1人が倒れようが、ああそうかとしたか思わない。

 

「そう言えば、この前君に言われた件について調べてみたよ。全く、私も酷い悪魔に掴まされたものだな。・・・木原、か。まさかあの木原幻生のような者達が、まだあんなに居るとはな」

 

「科学の発展の裏には常に木原がいる、という都市伝説でしたか?まぁ異常すぎる故に気付けなかった、ということでしょう。木原というのは強大ですからね。何せ彼らは我々や普通の研究者とは考え方が根本から違う」

 

「そこの部分は研究者としては羨ましいものだな」

 

「貴方も十分優秀な研究者だと思いますが?」

 

「外に出ればそうだろうな。だがここでは並だよ、私程度は」

 

皮肉のように言う。なにせ学園都市は外と中では30年以上技術力が離れているのだ。外で優秀だった者が学園都市に来ても、あまりの技術格差にすぐについていけなくなる。本当に理解出来るのは学園都市で育ち、研究者になるべく精進してきた者か、一握り以下の天才のみ。

 

「子供達の保護は任せてください。と言っても守っているのは私ではなく冥土帰し(ヘブンキャンセラー)ですが」

 

「あの人には本当に頭が上がらない。何から何まで頼りっぱなしだ」

 

「気にしなくても大丈夫でしょう。なにせ子供達も、貴方も彼の患者なのですから。彼は患者のためなら、なんでもする男ですよ」

 

鍍金がそう言うと、ポケットに収めていた携帯がバイブ音を鳴らす。

 

「どうやら、今日はここまでのようです。では私はこれで」

 

「少し待ちたまえ」

 

「まだ、何か?」

 

車から出ようとした鍍金を木山が呼び止める。鍍金は投げ出していた半身を、再び車内に収める。

 

「君が目をかけている第三位、彼女が関わっている裏の実験についてだが———」

 

「絶対能力進化計画。勿論分かっていますよ。その細部まで、全てを」

 

「止めないのか?」

 

「必要なんですよ。彼女には」

 

「そうか・・・君がそういうのなら私はこれ以上は言わないさ。だが気をつけておきたまえ。如何に君であろうと、この街の闇の深さは測りきれないだろう」

 

木山がそう言うと何も言わずに今度こそ、鍍金は車から降りた。木山はため息をつき、車線に鍍金が居ないことを確認すると車を走らせた。

 

 

———————————————————————————————

 

 

一人だけ、残っている鍍金。そろそろバンは木山の車がでたのを確認した頃だろう。そうなればもうすぐここにやってくるはずだ。

 

木山春生。鍍金が見つけた、成長に必要な存在であり、彼女のための入口として機能させる予定の存在。木山春生の敗北を持って、鍍金の一つめのプランはようやく歩み出す。

 

「ふ・・・ふふふ、ふふふふふふ」

 

笑う声が漏れる。その声は未来への期待ではなく、木山春生という愚か者を憐れむ声。

 

「ハハハハ!!全く無知とは酷いものだ!まさか私が、この聖餐杯が学園都市の闇を把握してないとでも?全く・・・貴方に渡した幻想御手(レベルアッパー)の試作型を、どこから持ってきたかも知らずに。貴方程度が触れたものが、垣間見たものがこの街の闇だと?温いですよ、全く持って温い。本当の闇には、愛や勇気などといった物は等しく通用しないというのに」

 

木山春生が触れた学園都市の実験。それは能力者を意図的に暴走させることで暴走の規則性を見つけるというものだった。だがその程度がなんだという。木山自身が忠告してきた絶対能力進化計画(レベル6シフトプラン)の大まかな概要しか知らない者が知れる程度の闇を、学園都市の闇そのものにさえなれる聖餐杯に忠告。愚かな話だ。

 

「頑張ってください木山春生(踏み台)。そして狂い喜ぶといい。貴方が、彼女に与えられる初めての試練だということを」

 

全ては掌の上。信念も正義も悪も怒りも悲しみも喜びも勇気も愛も友情も憎しみも嫉妬も憧れも復讐心も、何もかもは学園都市———アレイスターと鍍金の思うままに動いているのだから。

 

全てを意のままにしており、進むべきプランが決定している以上、木山春生の結末は変えられない。

彼女の自分の生徒を救うという彼女の行動は無情にも、

 

 

 

失敗すると決められている。




主人公は正義の味方にはなりません。
主人公(鍍金聖)主人公(上条当麻)と相入れることはありません。
主人公は優しくなんてありません(屑です)
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