神を運ぶ者   作:コズミック変質者

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死んでないよ、生きてるよ


第4話

学園都市に隠し事が出来る場所など存在しない。遍く全ての場所は等間隔で、死角がないように監視カメラが設置されている。監視カメラが破壊されていようと、秘密裏に学園都市統括理事長がばら蒔いている万を容易く超える滞空回線(アンダーライン)が全てを捉え、隠している情報すらも容易く持っていく。

例えそれが意味のない廃ビルだろうが、人通りの多い場所だとしても。

 

だが唯一、例外があった。いや、あったと言うよりは生みだされた、作り出されたという言い方が適切だろう。学園都市という巨大な街に、気付かないほど小さいスポット。誰も入ることは出来ず、気づくこともできない場所。

 

そこは部屋自体が薄い光を放っている空虚な空間だった。そこには地面という地面が存在していない。まるで無重力のように際限ない暗闇が下に広がっている。唯一あるとすれば、どういう原理でそこにあるのか分からないが、豪奢と言うべき椅子である。椅子の装飾に銀色の二匹の蛇を纏わせている、なんとも趣味の悪い装飾。更に椅子から上へ伸びる装飾には、人の身では理解できない何かがある。

この摩訶不思議な空間で、鍍金は椅子を前に右手を胸に当て、片膝を立て頭を垂れている。

 

「お久しぶりです、副首領閣下」

 

いつの間にか、影がいた。いや、正確には影絵のような男がだ。男はかつてナチス・ドイツと呼ばれた国の軍服を纏い、鍍金を上から見下ろしている。

それは人の形をしているが人に在らず。それは蛇であり、水銀であり、怪物であり、理であり、神であり、宇宙である。人の身では直視すれば、その魂は永劫同じ時を彷徨うことになるなるだろう。

 

「ああ、久しいな、第二の聖餐杯」

 

「最後にお会いしたのは2年前、でしたか」

 

何度か、鍍金は副首領と会っていた。何度かと言ってもたったの3回。今回を合わせて4回しかない。無論のことながら、鍍金は副首領を信用していないし、信頼など以ての外。怪しさだけで統括理事長をぶっちぎりで超えているこの男を、どうして信用できようか。

 

「君の提示した少女は順調に成長しているようではないか。一先ずは、何も問題は要らないようだな」

 

「ええ。彼女の成長は目まぐるしいものがあります。必ずや、女神をはじめとした覇道神(・・・)の方々にはご満足していただけるかと」

 

覇道神。『座』と呼ばれる場所にいるこの宇宙を———全ての宇宙を司る存在であり、また宇宙の理を決めるモノのこと。その理は千差万別。決まるのは神が持つ渇望。渇望が深くなければ神にはなれず、神に届き得るだけに留まる。

 

『座』に居られる覇道神は基本は1柱のみ。だが鍍金は方々と言った。そう、今の宇宙には目の前の男も合わせると覇道神が4注存在しているのだ。本来ならば覇道共存など不可能だ。覇道神は己の渇望が世界へ流れ出していくもの。複数存在してしまえば、流れ出す渇望同士が鬩ぎ合い、宇宙は混沌の地獄と化す。

だが今の『座』にいる黄昏と呼ばれる歴代最高の女神は、その渇望の特性により覇道共存を成功させた。

 

「あまり悠長にはしていられないぞ。いつ女神が容量を超えるか、気が気でないのだ。早く昇華させなければ君の願いは、祈りは藻屑と消えるぞ?」

 

「・・・ハイドリヒ卿はなんと?」

 

「好きにしていい、だそうだ。全く、獣殿にも困ったものだ。現状を把握しているというのに、楽観しておられる。おそらくどちらに転んでも、獣殿にとって差異はないのだろう」

 

「ならばハイドリヒ卿にお伝えください。貴方から賜ったこの聖餐杯が、貴方の新たな爪牙になることを。そして、必ずや今の理を存続させることを」

 

「急げよ。既に未曾有の危機は迫っている。崩壊は近い。女神の理を守り、愛すべき女を守りたいというのなら、その願いが本心であるというのなら。躊躇いは捨てた方がいい」

 

「無論、そのつもりです」

 

鍍金の顔が曇る。図星を突かれた顔に、男は満足そうに微笑み、溶けるように消えていく。その姿を見届け顔を元に戻した鍍金は、不快な視線を椅子へ向ける。

既にあの男はいない。あるのは空っぽの椅子だけ。そんな空っぽの椅子に、未だにあの男がいる気がして、無性に気分が苛立ってくる。

的確に人の嫌な部分を突いてきて、全てを見透かしたような顔をしている男。逆らうことは簡単だ。だが逆らったところでその行為に意味なんてものは無い。抵抗しても蚊ほども影響なんてないだろう。

殴ろうが蹴ろうが撃とうがミサイルを撃ち込もうが、覇道神であるあの男には痒さ一つ与えられない。

 

「いつか、あの芝居がかった口調を閉じさせてあげますよ」

 

果たしてそんなことをできる日が来るのか。鍍金本人は間違いなく来ないと思った。

 

 

———————————————————————————————

 

 

幻想御手(レベルアッパー)事件。思った以上に取り込んでいるらしいじゃないか」

 

何時もの並木道。何時ものベンチ。ベンチに座っている鍍金は目の前で自販機を思いっ切り蹴りつけ、缶飲料を不当に手にしている御坂の背に話しかける。

ここであったのは偶然等ではなく、鍍金が呼んだのだ。この場所にはあまり人が来ないため、二人きりで秘密の話をするにはもってこいの場所なのだ。

 

「いい加減、その口調やめなさいよ。なんか背中がむず痒くなってくるのよ」

 

「ふむ、やはりお気に召しませんか?」

 

御坂に言われ、鍍金は粗野な口調から丁寧なものへ戻す。実はこの丁寧口調は生来のものであり、幼い頃から幼馴染として一緒にいた御坂からしてみれば、こちらが普通であり、粗野な口調は慣れないものなのだ。

 

「それで、どこまで関わったのですか?」

 

「現物を手に入れようとして失敗。その後、大脳医学者の木山春生って人に接触したのよ。って、なんで私がこんなこと、一々アンタに教えなきゃいけないのよ」

 

「心配しているから、ですよ」

 

「心配って・・・私はいつまでもアンタの思っているような子供じゃない」

 

「子供ですよ。少なくとも、感情の制御が出来ず、こんな危険な問題へ首を突っ込もうとしているんです。それも楽しそう、などと言う理由で。もし貴方に何かあれば、私は美鈴さんに顔向け出来ません」

 

「ママは関係ないでしょ!それに、私は楽しそうなんて思ってない!許せないのよ。ズルして能力を手に入れてるのが」

 

御坂美琴は自他共に認める努力家である。彼女は当初、レベル1の能力者だったが、度重なる努力の果てに、今のレベル5という常人では到達できない領域に足を踏み入れたのだ。

御坂美琴は学園都市における努力の成功例であり、誰しもが羨む理想でもあった。

 

「誰しもが、貴方のようになれる訳ではありません。努力は功をなさず、挫折を乗り越えることが出来ない者もいる。憧れに手を伸ばし、伸ばした腕を降ろす者もいる。他者よりも上手くできている、努力しているはず。そんな甘い考えを持つのが人間なのです。努力の限界を決めている者達なのです」

 

誰しもが御坂美琴になれるはずがない。憧れ、彼女のようにと手を伸ばすだけでレベル5に、最強になれるのなら、今頃学園都市は超能力者で溢れ返っている。

努力は実らず、時間は浪費されたまま。残るのは成長無しという過酷な現実のみ。

学園都市は能力の強度、種類によってそのものの価値が決まる。低能力者の者達は、無価値という残酷な烙印を押され、心のどこかで受け入れている。

学園都市ほど、人の心をふるい落とす場所はない。超能力という夢と希望の裏に、絶望と転落がある。

 

「それでも・・・私は・・・」

 

「ですが」

 

俯く御坂に近づき、彼女の頭に優しく手を乗せ、なれたような手つきで撫でる。子供の頃から何度もしてきた仕草。鍍金のその行為に、御坂は顔を上げる。

 

「もし貴方が助けたいと、落ちた者達の手を掴み、引っ張りあげたいというのなら、微力ながら私も協力させて貰いましょう。これでも私はレベル5の端くれ。何か手伝えることがあれば、いつでも言ってください」

 

御坂美琴は思う。自分の幼馴染はいつも厳しいが、最後には甘くなると。何があっても、結局は自分の味方になってくれる。自分の傍で常に支えてくれている。元々御坂が学園都市に行きたいと言った時、初めは両親は反対していたのだ。反対された御坂は泣き続け、それを見かねた鍍金が一緒に頼み込んでくれたのだ。

 

今の口調だって、自分が一言言ったから、態々口調を変えているのだ。

 

目を瞑りながら、鍍金の手に頭を委ねる。何度も体感してきた優しい感じ。まるで夢見心地に居るような心地良さ。

彼らの逢瀬は御坂の携帯に黒子の着信が入るまで、延々と甘ったるい時間が続いていた。

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