神を運ぶ者   作:コズミック変質者

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第5話

「素晴らしい。予想以上ですよ木山春生。貴方は私の予想を、理想を大きく乗り越えた」

 

『君にとってこの結末はそこまで有意義なものなのかね?』

 

窓のないビル。学園都市にある窓も入口も一つもない巨大建築物の中。そこの一室、というよりは部屋としてはたった一つの場所。そこでアレイスターよ入っているビーカーに映し出されている木山春生と御坂美琴の対決。そしてたった今、この世に形を得て生誕した化物(虚数学区)

 

「一万の脳でここまでのものが出来るのです。貴方としても目安にするには中々いいものなのでは?それに今まで知らなかったことを知る。未知を理解するというのはそれが何であれ、素晴らしいことだと思いますよ?」

 

『虚数学区についてはそこまで参考にはならなかったよ。どの道ヒューズカザキリに対しての目安では物足りないな。この程度、たった1万程度では』

 

いつもと同じ、男にも女にも子供にも老人にも聖人にも悪人にも見えるような、二人が共通して他者が抱くであろう笑みを浮かべている。

 

『それにしても、良かったのか?』

 

「良かった、とは。まさか美琴のことですか?」

 

『ああ。これまでこの街の闇から守り続けてきていたのに、掌を返すように引き摺り込む。そして初めから『木原』に関する物を与えるなど。度が過ぎれば再起不能になるぞ。そうなって困るのは君も私も共通しているだろう。彼女は学園都市の貴重な財産で、君にとっての大事な行動理由だ』

 

「だからこそ、ですよ。私はこれから何度か街を離れますからね。自立を促す為ですよ」

 

『君の目的は彼女の守護ではあったと、私は記憶していたんだが』

 

「今までは、ですよ。ですがもう、私が全てから庇う必要は無い。頼れる仲間もいます。何より、彼女はそこまで弱くはない」

 

睨むようにアレイスターを見上げる。見上げられたアレイスターは視線を意にも介さず、複数新たに展開されたウインドウへ目を通す。表示されたウインドウの数は一や十では足りない。少なくとも数百のウインドウが展開される。

 

『プランの大幅な短縮には期待できそうにない。やはり科学だけではこの程度しか得られないか。逃げ回っている禁書目録の方はどうなっている?』

 

「安心してください。五日以内にはご招待出来そうですよ。報告では学園都市行きの貨物船に乗っているようですし。丁度よく誘導することは簡単です」

 

『任せたぞ。アレと幻想殺し(イマジンブレイカー)の接触は今後のプランにも大きな影響を齎す。だが『窓口』である君が十分に機能しなければ、余計な停滞が必要になってしまう』

 

「『窓口』としての機能は十分に行なっていますよ。近いうちにイギリス清教必要悪の教会(ネセサリウス)に居場所をリークしますから。ローマ正教とイギリス清教、そしてロシア正教の牽制も。今はまだ停滞していますが」

 

『起爆剤を用意してくれるのはあちら側だ。私達はその気にさせるだけでいい。君は目の前のことを考えていたまえ。近いうちに会わなければならないのだから』

 

「本当に、私と彼の接触は必要なのでしょうか?」

 

『君があの幻想殺し(イマジンブレイカー)に何を見たのかはわからないが、君という刺激を打ち込むことは必要なことだ』

 

心底嫌そうな顔をする。上条当麻。幻想殺し(イマジンブレイカー)を担う少年。何度も報告に上がっている。何度も『闇』に関わってくる。何度も揉み消しを行った。間違いなく人のはず。人でなければならないはず。だがその中身は人とは思えない。もっと違う、常人とは根本からして感性がずれている。

 

はっきり言って気持ち悪い。鍍金には人が本に見えて、石や木をラジオに感じる。見て感じたのは人の本質、その物の本質。だがそれは時折であり、その回数も人生で数えられるほどでしかない。その何の役にも立たない、ただ気味が悪いだけのその力が、上条当麻を画像や映像で見ただけなのに、ひどい嫌悪感に襲われる。

 

忠告はされている。アレイスターから上条当麻は学園都市において重要な位置付けを担っていると聞かされている。なのに、鍍金は彼を見るとどうしようもなく殺したくなる。

それは上条当麻が『ヒーロー』だからか。もしくは『偽善使い(フォックスワード)』だからか。

 

救われない存在を沢山見てきた。

 

強すぎる力故に最強(孤独)となってしまった者。世界のズレを認識し続ける者。己の幸運を嘆く者。覚えて欲しい人に何度も忘れられる者。自分に憧れさせないために愛した者たちから離れる者。一年周期で愛する者が死ぬのを見届ける者。自分のいるべき世界を忘れた者。

 

上条当麻はあらゆる悲劇を粉砕する。切り落とされた者達を繋ぎ合わせ、砕かれた者たちを新生し、破かれた物を縫い上げる。

 

人の悪意を知って肯定できる善意の塊。自分の事なんて度外視で、ボランティアなんていう規模を遥かに超える善意を施す。立ち塞がる悲劇を右手で粉砕し、暗闇を踏破して救い出す。

 

鍍金聖はどうしようもなく、上条当麻を嫌悪する。

 

鍍金は切り捨ててきた存在だ。己の目的のために、庇護すべき存在のために悪意を被り、振り撒いてきた。殺人を行った回数など覚えてすらない。虐殺を行った回数は六回。自分を砕いてここまで来た。友と呼んでくれた存在を殺した。自分のことを好きだと言ってくれた女を捧げた。自分の命を救ってくれた存在を裏切った。

 

老若男女あらゆる人種を殺した。握った拳を振り下ろし、構えた銃の引き金を引き、爆弾のボタンを押し、殺した全てを取り込んだ。全ては目的一つのため。全てを贄にしてここに来た。

 

何かを切り捨てることが生きるということなのに、上条当麻は何も失っていない。それは鍍金にはどうしようもなく綺麗に見えて、憧れた。

故に嫌悪する。上条当麻は殺すべき存在なのだと、自分に悪影響を及ぼすのだと滅多に使わない本能で判断する。

 

だから、来るべき時が来て、許可がおりたらすぐに殺す。

 

一片の慈悲もなく、強者の余裕すら見せず、反撃の策を考える間もなく、誰かにピンチだという状況を伝える時間さえ与えず、嬲らず侮らず慢心せず躊躇なく滅殺する。

 

滅尽滅相。必ず殺す。

 

本来の目的からは遠回りになるが、決して逃がすことは無い。あらゆる手段を講じ、あらゆる戦力を投入し、あらゆる死力を尽くす。

この宇宙から上条当麻を消す。これは紛れもない鍍金の意思であり、神の意思でもある。

 

故に神の運び手であり、代行者たる鍍金聖が殺すのだ。

 

 

———————————————————————————————

 

 

ステイル=マグヌスは苛立っていた。後ろにいる客に迷惑になるほど14歳にしては大柄な体型。場所なんて気にせず、だが火は着けないで煙草を噛み潰す。赤髪に目の下にあるバーコードのタトゥーも相まって他の客はステイルに怯えている。

 

「来たか・・・」

 

正面から男が近づいてくる。ステイルと張り合うほどの身長。長い黄金を思わせる黄金(こがね)の髪を真ん中ほどで結んでいるカソックの青年。

ステイルも同じカソックを着ているが、こちらはまだ魔術的な防御術式を付けているため、青年の着ているカソックよりは派手である。

 

「おや、確かイギリス清教は二人の魔術師を今回の件に駆り出したと聞いていますが、もう御一方はどちらに?」

 

「神裂なら先に帰りの分のチケットを取ってもらっている。別に、こんな人気の多い場所で人払いもせずに君と戦うつもりはないのでね。いや、人払いをしていたとしても、こちらは君とは戦いたくないのでね。ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリン」

 

「流石、噂に聞く天才。どうやら今回の件は迅速に終わらせてくれるようですね」

 

悪趣味な男だと思う。そもそも名前からしてどうかしている。このご時世にヴァレリア・トリファ———第二次世界大戦(WW2)で虐殺の大神父とも呼ばれた男と同じ名前を名乗るなどどうかしている。自分だったら即座に改名する。

 

「やはりイギリス清教も禁書目録の回収にはかなりの力を入れているようですね。まぁロシアやローマも動いてますし、魔術結社達にこの件が伝わるのは時間の問題だからでしょう」

 

「本来であれば学園都市側が彼女が侵入した時点で確保していてくれれば、こちらも面倒ごとを避けることができたんだ」

 

「ですがそうなると受け渡しなどの諸々の手続きは『窓口』である私になります。そちらとしても不都合でしょう?避けるべきことなのでしょう?学園都市にいる魔術師である私が、イギリス清教に禁書目録を提供(・・)するのは」

 

「ちっ」

 

そう。禁書目録はあくまでもイギリス清教の魔術師が確保(・・)することが重要なのだ。学園都市に入るまではいい。だが学園都市側がイギリス清教に禁書目録を渡すとなると、他の組織は学園都市とイギリス清教が手を結んだのだと勘繰るだろう。

そうなれば最悪、イギリス清教の突出を恐れた各組織達が揃ってイギリス清教に戦争を仕掛ける。それだけではない。世界各地の魔術結社までもがイギリス清教の財産を狙って騒ぎに便乗するだろう。

 

ならばヴァレリアはどうなのか。ヴァレリアは学園都市の魔術師。その肩書きがあるだけでヴァレリアがステイルと接触するのは避けるべきことである。だが現に、こうして人の目を気にしないで接触してきている。

答えはヴァレリア・トリファが学園都市の所属となっているが、その実イギリス、ローマ、ロシアなどの各魔術組織等のパイプ役や『窓口』としての役目を一手に担っているからである。

 

誰もがヴァレリアの価値を認めている証拠であり、ヴァレリアを敵に回したくないという表れである。それは彼が持つ様々な噂が恐れさせている。

有名な噂として、ヴァレリア・トリファに余計な手を出してしまった者、もしくは組織は実力派だろうが等しく皆殺しにされ、死体すら残らないという。

 

バカな話だと笑い飛ばせばどれだけいいか。数年前にロシア正教の司教クラスの一人がヴァレリアに対してかなりの無礼を行い、その数日後に行方不明になっている。

魔術を使って捜査などをしても、証拠の一つも出てこない。それどころかヴァレリアは事件が起こる前に違う国にいたという確かな情報がある。

 

学園都市にいて各宗教のパイプ役として存在している。異端や特異などの言葉では足りない。正しく異常である。

 

「学園都市側も最低限の証拠隠滅等はしてあげますよ。それと、くれぐれも学生に手出しはしないように。彼等は貴重な財産(生贄)ですので」

 

「無論そのつもりだよ。こちら側もそっちにいらない借りを作りたくない。むしろ心配なのは・・・」

 

学園都市側からの介入こそ、最も恐れるものである。不用意に戦闘に移行すれば、学園都市内部の治安維持部隊に追われることになる。優秀な戦闘型の魔術師であるステイルと、ある特殊な体質である神裂が手こずることは無いが、嬉嬉として追われたいとは思わず、また無関係な者達を易々と傷つけようとも思っていない。

 

「それはこちらでどうにかしておきますよ。貴方達はお客様です。そのような無礼は、この私の名にかけてさせませんよ。どうかごゆっくりと、任務にあたってください」

 

「それは、頼もしい限りだね」

 

冷めた目でヴァレリアを見る。ニコニコと万人受けする愛想のいい笑みをしているが、内心何を考えているのか。思考の探り合いを得意としていないステイルには、もう思考放棄してしまいたかった。

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