神を運ぶ者   作:コズミック変質者

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超電磁砲は大覇星祭までダッシュで行きます。


第6話

学園都市において『原石』の扱いとは大変微妙なものである。超能力者であれば一定の数を揃えられ、その中から細かく種類分け、レベル分けをしている。だが数少ない原石だとそうはいかない。

例えば超能力者(レベル5)八人の中で原石は第七位と第八位の二人。両者共に超能力者を称すに相応しい原石である。

 

第七位の削板軍覇。能力名すらも不明とされるこの能力。最早大道芸でもしているのかと言うくらいヘンテコであり強力な原石は、銃弾をモロに受けようが痛いですまし、音速の2倍以上で拳を振るえるなど、訳の分からない解析不能な能力だが色々と使い勝手はいい能力と、周りから認識されている。

 

対して第八位の鍍金聖。能力名は黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)。その能力は上記の削板軍覇の『原石』を率いても、核ミサイルの数十倍の殲滅兵器を撃ち込もうがかすり傷一つ負わず、能力者の能力による攻撃、同じ『原石』である削板軍覇でさえも無傷で済ます防御一辺倒の『原石』とされている。

 

『原石』とは基準にすべき点が曖昧なのだ。ただでさえ数が少なく、最上位の二人はわけが分からないオールラウンダーと防御最強。

 

故に、能力開発など出来るはずもなく、出来るのは能力の成長、もしくは劣化の確認。その確認も一つ一つが大規模なものとなり、また人員も時間も勿体なく、大した成果は得られていないため、『原石』の確認作業は最早流し作業と同等。回数も年に数回行われる身体測定(システムスキャン)と同じ回数だけである。

 

 

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「後始末ですか?」

 

最新流行りのペットカフェ。犬や猫、ハムスターなど、人気の高いペットの飼い主達がペットと共に交流しながらお茶をする場。

第七学区に最近多く見られるペットカフェ。数多あるカフェの中の一つ、犬専門のカフェに鍍金はいる。

別に鍍金は犬は飼っていない。それどころかペット自体も飼っていない。確かに犬猫に愛嬌を感じるが、時間を割いて世話をしたいと思うほど好んではない。

 

ならば何故、このような場にいるのかと聞かれれば、やはり秘密の密会である。

 

鍍金の隣に座っていたのは鍍金を呼んだ二人組———一人と一匹だった。幸薄そうな顔をしており、隣の椅子に行儀正しく座り、人間でも美味しく頂けるカロリーオフという触れ込みのドッグフードを食べている白衣の女性。こちらに関しては鍍金は気にもとめていない。そもそも呼び出したのは彼女ではなく、犬用の椅子に座りながら彼女が愛でている犬———ゴールデンレトリバーの方だ。

 

『ああ。ぜひ君にお願いしたい。というよりも、君だからお願いしたいんだ』

 

「はぁ・・・貴方にそこまで言われると少々断りずらいですね。分かりましたが引き受けましょう」

 

『助かるよ』

 

ゴールデンレトリバーは肉声で出しているのか機械で出しているのか分からない、だがどことなくダンディーな声を発すると、隣の白衣の女性が取り出したUSBを、肉球で踏みながら鍍金の方に滑らせる。

 

『そこに今回の標的である『木原』の情報が乗っている。正確には動機や活動拠点や現在の装備、あとは私生活についての諸々かな』

 

「プライバシーがあったものじゃありませんね。それよりも、いいのですか?同じ『木原』を売り渡すような真似をして」

 

『構わないさ。今回の『木原』はそこまで『木原』としての活躍は期待できない。木原幻生の孫娘らしいが、どうやら祖父の才能は遺伝しなかったようでね。近々面倒な問題を起こすらしいから、事前に潰しておきたいんだ。やり方は君に一任するがね』

 

「では、どのようなやり方でも、どのような人材でもよろしいのですね」

 

『どうするつもりかね?君の子飼いの治安維持部隊でも動かすのか?それとも、君自身かね?私としては君がやってくれることが一番安心できるのだがね』

 

「私の、愛しきお気に入りですよ」

 

『・・・そうか』

 

鍍金の言葉で何かを察したゴールデンレトリバーは、気の毒だと言いたげに目を伏せる。そんな様子を隣で見ていた白衣の女性は指を気持ち悪く動かしながら抱き上げようとするが、直前で椅子から飛び降りられて失敗に終わる。

 

『君が何を企んでいるかは分からないが、過ぎた陰謀は身を滅ぼすぞ』

 

最後に言葉を置いて、犬は出ていく。

 

 

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「良かったのですか先生?彼に任せてしまって」

 

『構わないとも。彼ならば『加減』を知っている。それに彼はアレイスターの計画(プラン)の全貌を知る数少ない人間だ。今後、私達の立場を考えれば、彼に取り入っておくことは悪くない』

 

先生と呼ばれたゴールデンレトリバーはから笑いの様な音を発しながら犬らしく四足歩行で歩く。途中喋っていることが奇っ怪なのか、通行人の視線に晒されるが、誰もが新しい動物を率いた機械なのだろうと、直ぐに興味をなくす。一時の物珍しさは一瞬で消えていく。それが学園都市。異常に対する神経を擦り減らしていく場所。

 

『唯一君も一度、彼を良く観察してみるといい。時間はかかるが理解はできるよ』

 

「観察?彼の何を観察すれば?」

 

『表面、もしくはメッキ』

 

躊躇い無く答える先生に、唯一と呼ばれた女性は首を傾げる。

 

『彼はまるで金色の鉄板を身に纏っているだけに見えるんだよ、私からは。誰もが思う学園都市第八位というメッキか、もしくは『窓口』としてのメッキか。まぁ名は体を表すだ。彼の場合はいき過ぎているがね』

 

だからここまで不気味なのだ。鍍金聖。鍍金の聖者。その本性はまるで自分の内面———邪悪さを必死に隠そうとしている愚者。一度剥がれてしまえば、もう再起することはない。故に歪。

 

『もしかしたら彼の『原石』はそういうところから来ているのかもしれないね』

 

黄金聖餐杯。万物の攻撃全てを通さず、あらゆる攻撃もあらゆる干渉も断ち切る城の如き鎧。その城がハリボテだったとしたら、それはさぞ愉快だろう。

 

 

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依頼された以上は、何がなんでもやりきる。鍍金聖にとっては当たり前のこと。どんな汚れた依頼であれ、引き受けた以上はどのような手を使っても完遂する。

 

「目立ちすぎますね」

 

第七学区にある廃墟区画、スキルアウト達の縄張り。区画自体は決して大きなものではないが、それでもかなりの人数がスキルアウトとしてこの場にいるため、組織としては巨大である。

足の爪先ほど『闇』に足を突っ込んでいる者もいるが、上層部はスキルアウト如きに目などくれるはずもない。少しくらいなら放置で構わないと決定している。

 

道行くスキルアウト達からの視線がウザったい。落ちこぼれの彼らにとって、優秀な能力者、そして研究者の卵が集まることで有名な高校の制服を着ている鍍金など、敵でしかないのだから当然といえば当然だろう。

 

針の筵のような視線を浴び続けて、慣れたような足取りで奥へ奥へと進んでいく。進んだ先にある一際目立つ廃墟。中からは喧しいほどの音楽が聞こえてくる。

壊れかけ、錆び付いている扉を開ける。勿論、ニコニコとした笑顔も忘れない。

 

錆び付いた扉が空いた音で、全員の視線が鍍金へ向けられる。

 

「半蔵君はいますか?」

 

「はいはい、俺が半蔵だ」

 

鍍金の呼びかけに、リーダー格の大男と金髪の男を押しのけて、軽そうな男が出てくる。生憎と、鍍金は半蔵の顔を知らないので、彼を信じるしかない。

 

「で、優等生の中の優等生、生まれながらの天才である超能力者(レベル5)様が、こんなちっぽけな落ちこぼれに何の用だ?」

 

自分を卑下しながら、この場にいる全員の意識を警戒から完全な敵意へと変化させた。唯一例外なのは大男だけだろう。彼だけは冷静に鍍金を見つめ、値踏みするような視線を送っている。

 

「私の事を知っているなら話は早く済みますね。端的に言いましょう。貴方から、というよりも第七学区のスキルアウト達から情報を買い取りたい。無論、報酬は望むものを用意させていただきます。金でも武器でも、兵器でも」

 

「へぇ・・・。で、何をお求めで?第七学区のお嬢様達のスリーサイズでもご所望か?」

 

「いえ。最近スキルアウト達に与えられたとあるシステム。それを持っているチーム達の情報を」

 

「俺達に仲間を売れってか?」

 

「仲間?貴方達は傷を見せ合っているだけの相手を仲間というのですか?違うでしょう。苦悩を共有し、痛みを和らげ合うことが仲間のはずだ。仲間などでは決してない。事実、貴方達はそうしている。こうしてスキルアウト同士で、チームを組んで活動している。私が売って欲しい情報は、ただ自分と同じ傷を持つだけの他人だ」

 

「どういうことだテメ———」

 

「やめろ、浜面」

 

侮辱されたのかと思ったのか、浜面と呼ばれた金髪の男が身を乗り出すが、後ろから大男が肩を掴んで止める。

 

「いいだろう。半蔵、コイツに売ってやれ。だが忘れるな。俺達は売って、お前は買ったんだ。請求には確実に応じてもらう」

 

「話が早くて助かります。では、これを」

 

「これは?」

 

「そのUSBメモリにはとある『ショップ』の情報が乗っています。そこに行き、同時に記録されている暗号を定員に言いなさい。そうすれば、大抵のものはタダで揃えられます。もし何かあれば、私に連絡でもください。私の連絡先も同伴してありますので」

 

「分かった」

 

鍍金が渡したUSBメモリを、確かに懐に入れる大男。と、同時に駆け足で奥へ向かっていく半蔵。今から集めるのか、もしくは情報の整理か。まだまだ時間はかかりそうだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・一曲歌うか?」

 

「・・・では、お願いします」

 

待ち時間の間、無駄に睨み合いを続けるのはどちらも御免らしい。


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