今回はエクハザール視点と三人称視点の両方があります。
「…何だコレ?
ナルニア国物語か…ロードオブザリングの撮影セットか?」
広大な灰の大地を歩くうち、俺は真横に傾いた巨大な城の残骸にたどり着いた。
それはもう…今言ったファンタジー映画の特殊効果で出てきそうなほどに壮大な城だ、間違っても一から作り出すようなものではない。
残骸に近づき、サッと触れてみると…やはり石の触感がした。決してプラスチックやポリ何とか等の偽物ではない、遠い昔の古い人達が一つ一つ石を削り積み立てたかのようだ…。
…あくまでそんな感じがするだけ、恐らくだが此処もGBN――――そうでないにしても仮想空間の一つなのだ。
「ホントに、そんな感じ…な、だけ…」
ここに来てとうとう帰れるかどうかの不安が心の半分を占めてしまった。
見つかる保証もないデンと出口を求めてプラプラと歩いたのはいいが…こうもだだっ広い黄昏の世界だけが広がるようでは無意識の内に見ていた希望も夢の記憶の様に徐々に徐々にと薄れて行ってしまう。何かの拍子でログアウトできるようになっていればいいと再びインターフェースを開くが、やはりログアウトが拒否されてしまう。
城の残骸をいくらか上った所で、その場に腰を下ろした。
しばらく黄色い大空を見上げて…昔のことを思い出していた、大体第二次有志連合の時だ。
「ッ…!
あぁ…ッ!!」
確かにサラちゃんは守りたかった…何気ないが、幾度となく彼女やビルドダイバーズの面々と交流してきた俺達ロッテンアイアンは彼女を
だが俺は、(自分が知る中では)俺だけがダイバーズ側に傾けられない理由があった。
ロンメル大佐だ。俺はGBNを始めてちょっとの期間は第七機甲師団に居た…その時にGBNへの可能性を見せてくれた大佐への恩もあるし、何より彼がGBNに見出している拠り所としての一面をも知っているからだ。
ずっと大佐とサラちゃんとの板挟みにあって悩んでいた時………カナちゃんが、たった一言の魔法をかけてくれた。
――――――――俺に、悪魔への抵抗を無くす魔法だ。
その瞬間、俺の悪魔が冷酷な思考を俺に与えてくれた…対価を告げぬままに。
先ず俺は…RIの指揮権を全てカナちゃんに譲り渡した。それは先ず俺が有志連合に所属するためだ、見捨てて行く仲間へのせめてもの手向け――――そう見せかけて俺は有志連合側にスパイとして“潜入”した。大佐を売ったのだ………けれども悪魔が指し示したのは大佐だけではなかった…サラちゃん、ひいてはRIの面子まで指さしたのだ。俺は狡く囁く悪魔の声を聞き入れて、有志連合の動きをカナちゃんに飛ばすのと同時にRIの情報を大佐に送ったのだ。ただただ、自責の念が渦巻く自分の心に忠実になって…。
そんな反復横跳びを続けるうちに…いつの間にか、俺は中途半端に分かれていた。
大佐を、GBNを取った自分と…サラちゃんを取った自分が交互に入り交じり、気付けば心が壊れていた。
体感からして、壊れるのにそう時間はかかっていなかっただろう…何せ2,3重スパイを自覚していた時より、無意識に自分を入れ替えては急遽入れ替わりを意識して動機が止まらなくなるのを繰り返していた時期の方が長く感じているからだ。
結局、カナちゃん含めた仲間たちには俺の裏切りは筒抜けだった(カナちゃん曰く「あんまり抱え込んでて、そんなこったろうと思った」)挙句に許されて、更に大佐にまで感づかれて…さらには許されてしまった。
――――――――――――――――違う、違うんだ。
板挟みがどうとか、どっちも大切だとか…そうじゃないんだ!全部俺のせいなんだ!俺という卑怯者が全部、全部自分単位で動いたせいで…!それを全部「命を奪う判断をしてしまった」だとかで美化して…!最初からそうだ、俺が悪いんだよ!
俺は、許されてしまった俺自身が許せなくなっていた。それなのに一体、俺は何なんだ…贖罪のつもりでデンを救うと言い出し自分を偽った。その結末が今の冷たい瓦礫の上だ…このまま帰れずして電子世界の片隅に閉じ込められるとして、それでもいい…もうこのまま消えてしまいたい。
…消えたい、のに、俺が消える事を許さない奴がいる。
「俺は…どうすれば、いい…!」
何度も過る…罵詈雑言立てながらも自分をリーダーとして慕ってくれているRIのメンバーたちが。
時々心臓が握りしめられる。
何度も幻視する…弱り果て、自分に縋りつつも何時か自分の翼で飛び立とうとするデンの姿が。
ありがとうと言わないでくれ…お前自身が自分の力で立ち上がるだけなんだから。
……………そうだ、きっとRIの奴らも心の底じゃ俺が憎いだろう。俺がリーダーの座を降りる事を望んでるはずだ。デンだって、デンだって…軽蔑してるんだ。
――――――――――――――――違う!
「俺が…悪い…!」
あいつ等は、何も悪くないんだ…!
突然、何かの雄叫びが鼓膜を貫いた…!
慌てて背後を振り向き、立ち上がった瞬間…足元で嫌な音がした。
「…嘘だろ」
やがて予感は的中――――ガラリと足元が崩れ、俺は城内へと落下していった。
…幸い、そんなに高い所から落とされた訳では無かったので背中を打つ程度で済んだが。
「ッがぁあッ!?
…っでぇ。クソ…」
痛みに耐えながらゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡すが先ほど俺が落ちた大穴から多少の光がさす程度で、城内の全体は真っ暗闇に包まれていた。だが……そのほんの少しの光は偶然か、それとも何者かが仕組んだ必然か…。状況を大きく動かしうるものを照らし出していた。
――――正直なところ、“コレ”が目の前にある事自体が俺にとって不可解だ。
何せこれは持ち込んだ覚えがないどころか、そもそも現在は現存していないのだ…よく分かる、何せ自分が作って、壊して、別のに作り替えたんだから。
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◆ ◆ ◆
◆ ◆ 世界はつなげられた
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デンは“声”に従って、その道を歩んでいた。
彼女には分かるのだ…自分が進む先に「声」の主がいる事を。あの白髪の男が存在することを。そして…己に囁く“声”が告げていた、あの男を止められるのは私しかいない。止めなければやがてデンを媒体としてGBNへの自我の侵食を始めてしまうと。
…だから、デンは己の意思で歩み始めた。
まだこの世界の、右も左もそれほど分からぬ彼女にも、壊してはいけないと理解するものがあるのだ。
「ッ…!」
彼女はお守り代わりのストラップを握りしめた。
…いつの間にか持っていたものだ。そもそもこれは彼女がエクハザール(コダイ)の家にてデンが使っているベッドの隣にあった古ぼけたストラップである、彼曰く「兄貴の話だと赤ん坊の頃から持っていたらしいし元々はストラップじゃ無かったみたいなんだ」だそうだ。彼女はいつも横になる度にこのストラップを見ていた…だからと言って何故今それを持っているのかは不明だが。
デンはそのお守りが、自らに勇気を与えてくれると信じて再び固く握り、周囲を警戒しつつ一歩一歩進み続ける…まるで、嘗て他の誰かがそうしていたかのように。
そして、そのぞわっとする感覚は突然走った。
「!!、く、来る…!」
最早あの男は待って等いない…あちらから、迎えに来ている。
徐々に徐々に、動悸が早くなっていく…。
――――遠くの空から、大きな「鳥」がやってきた。
黒い体表を持ち、エメラルドグリーンの光を放つその鳥は一瞬で異形の人型となり急降下…慣性でそのまま数㎞滑った後にデンの眼前で停止した。
この黒い数十m級の人型兵器、彼女は知らなかったが…これこそが【エボニーカイザー】である。
その名に違わない麗しい黒色の異様に長い腕をエボニーカイザーはデンに向かって、ゆっくりと伸ばした…。
「ッ!?」
その光景に驚いた彼女はすぐさま逃げようとしたが、足が絡まってしまい、その場でうつ伏せに倒れた。
「っ…――――!!」
助けて…そう叫ぼうにも周囲には誰も居ない。
――――いや、そもそも声さえでない。どうして…と、彼女は迫る巨腕という恐怖を前によって身を封じられ、しかし何もかも受け入れられずに…今にも全身を駆け巡りそうな衝動を心の奥底で爆発させた。
だが、その時…カイザーの手が、横にズレた。
いやちがう…腕だけじゃない。カイザーそのものが何故か物凄い勢いで横に動いている…!!
「ッ…!?」
よく見れば、カイザーだけではない…もう一つ、十数m級の人型兵器がいる。其方は細身のカイザーとは違い、まるで巨大樹のような四肢を持ち両肩に分厚い大口径兵器を積んだ左右非対称な機体だった。
そのごつい機動兵器が、赤黒い瘴気を所々に纏ったMSが……………カイザーを“殴り飛ばしている”!!!
――――――――――――グォオオオオオンッ!!と、金属同士が激しくぶつかる音が響いた。
『大丈夫か!!デン!!!!』
一応エボニーカイザーの見た目としては、コアだけ白栗にしたプロジェクトマグヌスを黒栗っぽい改造をした感じの機体を更に黒檀で全身染色して、装甲の溝から地の文通りのエメラルドグリーンの光を出してるような機体だと思ってください。