私はあなたを愛してる。



どんなときでも、何になっても。



あなたの幸せを、願ってる。

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美しいあおのきみへ

 今日も空はあおい。ふんわりと浮かぶ雲の上で、悠然と地上を見下ろしている。地平線の向こうの空もまた、澄んだあおをしているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の姉は、5年前に亡くなった。幼い頃に両親が失踪した私たちは、お互いがたったふたりの家族だった。でも、姉もまだ幼かったはずなのに私をたくさん甘やかして、愛して、育ててくれた。生まれながら異形を持った、気味の悪い私のことを。

 ここで少し、私の話をしようと思う。私は長い黒髪に小柄な体格で、いつも姉の後ろに隠れているような子だった。ここまでは普通の小さな女の子だろう。けれど、私は他の人と違うことがあった。それは、瞳の色。真っ黒な髪をしているのに、何故か私は赤い瞳を持っていた。丸くて吸い込まれそうな、血よりも深い真っ赤な瞳。当然、街を歩けば気味悪がられたし学校では化け物といじめられた。でも、ただひとり。姉だけは、私の赤を綺麗だと笑ってくれた。黒く優しい、私の好きな瞳で。それが私は、何よりも嬉しかった。

 私の話はこれくらいにしておいて、本題に入ろうと思う。私の姉は、先述した通り5年前に亡くなった。否、殺されたのだ、白い大きな化け物--トリオン兵によって。

 

 その日私と姉は、小さな森で一緒に散歩をしていた。体を動かすのは大好きだったし、何より姉が提案してくれたのだから私が嫌がる訳がない。姉が嬉しいなら私も嬉しいのだ。そんな、優しい時間がゆっくりと流れていた午後の昼間。急に雨が降り出し、鉛色が空を覆った。木の下に入り不思議に思っていたのも束の間、正面の木々を倒し巨大な白い異形が現れた。突然のことに咄嗟に動けなかった。固まる私の手を取り、姉が駆け出した。後ろにナニカの気配がする。

 呆然と足を動かす私は、周囲の様子に気がつかなかった。姉が足を止めて、一緒に私も止まる。握られた左手に、ぎゅう、と力が込められた。

 

「みらい!」

 

お姉ちゃん、と口を開きかけたまま、私の動きが止まる。ふわりと姉に抱きしめられ、柔らかい身体が私を護るように覆い隠した。暗転した視界に動揺し、再び姉を呼ぶ。返事は、ない。聞こえるのは、聞き慣れた優しい声が苦しそうに呻くものと、ナニカをザクザクと抉る不快な音だけ。思考が回らなかった。恐る恐る、身体を少し離して姉の顔を見上げた。

 

「だいじょうぶ。わたしがまもるよ」

 

こんなにか弱い姉の声は聞いたことがない。こんなに苦しそうにしている姉は、こんなに顔を赤く濡らした姉は、こんなに、無理に笑顔を作っている姉は、見たことがない。

 あまりの衝撃に私は再び呆けてしまった。白い巨躯が迫っているのも知らずに。姉の歪んだ顔に、怖くなって涙が流れる。すると、突然背後で轟音が響いた。

 

「…….君のお姉さんは、もう助からないね」

 

まだ幼い、私と同じくらいの子どもの声が聞こえた。そろそろと後ろに振り向けば、淡い茶髪の少年が立っていた__その白く柔い手に不釣り合いな、長い光る刀を持って。どうやら先程の音は彼がやったようで、周囲には白い巨躯がバラバラになって落ちていた。少年がこちらを見つめる。

 

その瞳は、今は雲に隠された、澄んだ空のあおだった。

 

ぼう、と目の前まで来た少年を見つめる。ふと、彼の姿に重なって私は小さい彼を見た。泣いている、小さなこども。少年に声を掛けられるまでずっと彼に重なる不思議な映像を見ていた。だが、私にはそれが何なのかすぐにわかった。

 

「大丈夫?……‥お姉さん、連れて行ってあげよう。こんなにずぶ濡れじゃあ、可哀想だ」

 

あおい瞳の少年が、穏やかな瞳と声色で私を促す。姉に抱きしめられたままだった私は、そっと姉を横たえた。顔を覗き込むと、晴れやかで柔らかく美しい、いつもの姉の顔をしていた。いつのまにか涙は消えていた。ゆっくり瞼を下ろし、姉と自分の額を合わせる。こつんと乾いた音がした。これは、私が寂しいときに、姉がしてくれたおまじない。少年はその様子をじっと見つめていた。姉から額を離した私は少年を振り向く。凪いだあおが私の赤を捉えた。__綺麗な色だな、と今さら思った。

 

「ありがとう。私、生きられるみたい。___悠一くん」

 

私の言葉に、大人びた少年__悠一が少しの驚きを見せた。そして、どこか遠くを視るように私を見つめる。それにくすりと笑み、真っ赤な目を細める。悠一のあおい瞳は、未来を見ている。私を、これからのみらいを。私はそれをじっと待つ。美しいあおが今の私を見た。呆れたようにほう、と息を吐き、ふにゃりと笑う。私も笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉が亡くなって5年が経った。もちろんずっと姉の墓に通い続けた。花を絶やさず水を入れ替え、月に一度は墓石を磨く。声を掛けて帰るのはもはや日課になった。

 姉は、あの日から変わることなく私の記憶に生き続けている。幼い私を護り、晴れやかな表情で逝ったあの人は、今も昔も私の憧れで大事な家族。私の心も守ってくれた姉には、本当に感謝しかないと思っている。そのおかげで、今を楽しく生きていられた。

 悠一に連れられてあの組織に入って、初めてたくさんの大人に、仲間に愛された。お姉ちゃん、私、凄い幸せになったんだよ。ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も空はあおい。ふんわりと浮かぶ雲の上で、悠然と地上を見下ろしている。地平線の向こうの空もまたきっと、澄んだあおをしているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大いなる青空を仰いだ。

 

願わくば。

 

私と姉を救ったあおい瞳の、私と正反対のあのこどもに。辛い過去に勝るような、暖かくて優しい未来を、私の代わりに与えてください。

 

どうかあの子を、しあわせにしてあげて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を、みらいを救ったこども。私に未来を与えた貴方に。ありがとう。

 

私は貴方より先にいってしまう。これからすぐに塵になって崩れ落ちるだろう。

 

 

 

 

 

ああ、そんな顔をしないで。

 

大丈夫だから。

 

泣かないの。

 

 

 

 

「これからもきっと楽しいことはたくさんあるよ、貴方の人生には」

 

 

 

 

私のこの目は、実は未来も見通すの。

 

貴方なら、大丈夫。

 

私のサイドエフェクトがそう言ってる。

 

優しい未来はやってくる。

 

愛してるわ、永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最期の言葉を伝えられて良かった。

 

私は今、笑えてるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら悠一。私を上手く使うのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





短編小説、初投稿です。拙い部分や誤字脱字などあると思いますが、大目に見ていただけると幸いです。

お読みいただきありがとうございました。





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