氷創の英雄 ~転生したけど、特典の組み合わせで不老不死になった!~   作:星の空

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第10話

 

俺は今、宝物庫にいる。

悩んでいるのだ。ここに何故宝具があるのか?どちらを選ぼうか。

山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)

霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)

のどちらにしようか。

…………よし、イルカルラにしよう。弦が無かったので氷で精製して繋げておく。大型の()だが、アタランテの権能たる何者よりも速くあるという力でも活用できる。

選んだ後、弓の射撃場に行く。クラスメイトが何人かいたがそれは無視をしておく。

そして、位置に着いたら矢を番えて放つ。的の真ん中に当たった挙句後ろの壁に刺さってしまっている。

そう言えば、南雲には魔術の適性がないことがわかった。

魔術適性がないとはどういうことか。この世界における魔術の概念を少し説明しよう。

トータスにおける魔術は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔術が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔術を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。それは必然的に魔法陣自体も大きくなるということに繋がる。

例えば、RPG等で定番の〝火球〟を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。

しかし、この原則にも例外がある。それが適性だ。

適性とは、言ってみれば体質によりどれくらい式を省略できるかという問題である。例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできると言った具合だ。

この省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。

大抵の人間はなんらかの適性を持っているため、上記の直径十センチ以下が平均であるのだが、ハジメの場合、全く適性がないことから、基本五式に加え速度や弾道・拡散率・収束率等事細かに式を書かなければならなかった。

そのため、〝火球〟一発放つのに直径二メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

ちなみに、魔法陣は一般には特殊な紙を使った使い捨てタイプか、鉱物に刻むタイプの二つがある。前者は、バリエーションは豊かになるが一回の使い捨てで威力も落ちる。後者は嵩張るので種類は持てないが、何度でも使えて威力も十全というメリット・デメリットがある。イシュタル達神官が持っていた錫杖は後者だ。

ん?魔法じゃないのかって?あんなのを魔法と言ったら、青崎やゼルレッチはどうなるのだよ?

って話になる。

しばらく矢を射ていたら、招集がかかったのでメルドの元に向かう。

訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようである。

しかし、俺より先に来ていた者達がいた。

それは檜山大介率いる小悪党3人組(南雲が命名)である。訓練が始まってからというもの、ことあるごとに南雲にちょっかいをかけてくるのだ。ほんと、懲りない奴らだ。

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

一体なにがそんなに面白いのかニヤニヤ、ゲラゲラと笑う檜山達。

「あぁ? おいおい、儀留雅、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山達。それにクラスメイト達は気がついたようで香織に報告しに行った。

あ、実を言うと、南雲には士郎が付きっきりで物を造るに当たって大事な事を教えていたので、拳銃を造っていた。名をドンナーというそうだ。

俺は、わかりやすい所で偶然持っていた改造した端末で録画する。

「いや、衛宮先生がいるから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 「はぁ? 俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの? マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

そう言って、脇腹を殴る檜山。南雲は「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら呻く。

檜山達も段々暴力にためらいを覚えなくなってきているようだ。思春期男子がいきなり大きな力を得れば溺れるのは仕方ないこととはいえ、その矛先を向けられては堪ったものではない。かと言って反抗できるほどの力もない。南雲は歯を食いしばるしかなかった。

やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない場所に来ると、檜山は南雲を突き飛ばした。

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

檜山、英王、近藤の3人が南雲を取り囲む。南雲は悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がった。

「ぐぁ!?」

その瞬間、背後から背中を強打された。近藤が剣の鞘で殴ったのだ。悲鳴を上げ前のめりに倒れる南雲に、更に追撃が加わる。

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」

英王が火属性魔術〝火球〟を放つ。倒れた直後であることと背中の痛みで直ぐに起き上がることができない南雲は、ゴロゴロと必死に転がりなんとか避ける。だがそれを見計らったように、今度は檜山が魔術を放った。

「ここに風撃を望む――〝風球〟」

風の塊が立ち上がりかけた南雲の腹部に直撃し、南雲は仰向けに吹き飛ばされた。「オエッ」と胃液を吐きながら蹲る。

魔術自体は一小節の下級魔術だ。それでもプロボクサーに殴られるくらいの威力はある。それは、彼等の適性の高さと魔法陣が刻まれた媒介が国から支給されたアーティファクトであることが原因だ。

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」

そう言って、蹲うずくまるハジメの腹に蹴りを入れる檜山。南雲は込み上げる嘔吐おうと感を抑えるので精一杯だ。

その後もしばらく、稽古という名のリンチが続く。南雲は痛みに耐えながらなぜ自分だけ弱いのかと悔しさに奥歯を噛み締める。本来なら敵わないまでも反撃くらいすべきかもしれない。

しかし、小さい頃から、人と争う、誰かに敵意や悪意を持つということがどうにも苦手だった南雲は、誰かと喧嘩しそうになったときはいつも自分が折れていた。自分が我慢すれば話はそこで終わり。喧嘩するよりずっといい、そう思ってしまうのだ。

そんな南雲を優しいとい言う人もいれば、ただのヘタレという人もいる。南雲自身にもどちらかわからないことだ。

そろそろ痛みが耐え難くなってきた頃、突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

「何やってるの!?」

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

檜山の弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲る南雲に駆け寄る。南雲の様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法により南雲が徐々に癒されていく。

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

苦笑いする南雲に香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、南雲は慌てて止める。

「いや、そんないつもってわけじゃないから!あの武器は人に向けちゃいけないから耐えてただけだから!」

「でも……」

それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せる南雲。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ。それに、泣かしたらどうなるか分かってるわよね?」

渋い表情をしている香織を横目に、目の笑っていない笑顔で雫が言う。それにも礼を言う南雲。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

何をどう解釈すればそうなるのか。南雲達は半ば呆然とした。

俺はそれを聞いて噴き出した。

「わ、笑わせんじゃねぇよ光輝(ひかってる)!南雲も真面目になった方がいいって、真面目だろうが!」

「んなっ!?泉奈!?読書の何が真面目なんだ!?南雲が不真面目だから檜山達がこういうことをしたんだろ!?」

「馬鹿をいえ脳筋。てめぇはこの国の東がなんの国か分かってんのか?魔物にはどんな奴がいる?分からねぇだろ?南雲は誰もしていない事(・・・・・・・・)をして、バックアップに徹しようとしてんだろうが。それに、周りはもう知ってるがてめぇ知らねぇ様だから言ってやる。香織と南雲は許嫁、婚約してんだよ。なぜ気付かねぇ?まぁいい。何事にも善悪はある。が、てめぇは自分が正しいと押し付けてんだよ偽善者。そういうのを見ると反吐が出る。悪ぃな南雲、あの3人組が手出し出来ないように録画したからな。俺の解説付きでな。雫、行くぞ。」

「………はぁ、それじゃ南雲君、香織も行きましょう。」

俺が去るとき、南雲と香織を連れて雫は訓練所に向かう。

その後、

「香織と南雲が………………婚約者?そんな馬鹿な。」

「……………ほんとだぜ光輝。俺は氷室が話していたから気になって調べて見たんだよ。そしたら氷室の言う通り。しかもあの南雲に関して言えば某ゲーム会社の後釜で内定も決まってるときた。南雲は勝ち組なんだよ。」

「…………………はぁ、香織は南雲の何処が好きなんだ?……」

軽く黄昏れるご都合主義者と後ろから見守る脳筋という構図が出来ていたとか。

 

✲✲✲

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

この後、氷室家+‪α‬で1度集まってどうするか話し合う。

結果、教師である3人は残り、迦楼那を含めた残りはアレに乗じて離れることを決めた。


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