氷創の英雄 ~転生したけど、特典の組み合わせで不老不死になった!~   作:星の空

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第12話

鈴(そう呼べと言われた)とのいざこざがあってから数刻。

夕食を食べ終わってから俺は氷室家+‪α‬に招集をかける。

そして今俺の泊まる部屋には

飛斗、代赤、雫、白音、満愛、天鎖(あまくさ)、イリヤ、

迦楼那、栄光、士郎、遠坂、間桐、姜弩姉妹、十六夜、金糸雀、

十門司、鈴(いる訳はこの人の部屋でもあるから。)

がいる。かなりの所帯だが、金糸雀の持つ恩恵(ギフト)の一つである空間拡張のお陰で部屋は広くなっている。

「招集をかけたのは明日のアレに乗じて離れることを決めた。着いてくる来ないはあんたらで決めてくれ。出来れば今の間にな。」

「僕は泉奈について行くよ!何たって護衛だからね。」

「おいおい、俺も行くぞ。正直胡散くせぇ奴らの言いなりになるかってんだ。」

「僕も行くよ。僕の力はいずれ必要になるだろうしね。」

飛斗と代赤、天鎖はすぐに答えた。

「俺はここに残ることにした。生徒達をほっとく訳には行かない。全員は無理でもなるべくは元の世界に送りたいし。」

「はぁ、あんたは。いいわ、いつまでも付き合ってあげる、士郎。」

「先輩はあの頃からあまり変わってませんね。私もここに残る。」

士郎、遠坂、間桐の3人は残る。

「私は行くわ。私だけ残ったら何かされそうだもの。」

「………………雫に着いてく。」

八重樫義姉妹は此方について行く。

「やはは、自由な方が動きやすいから氷室と行くな。おもしれぉもんがありゃあいいがな。」

「全く、十六夜は楽しければいいって思ってるが、かなり危ない位置にいるんだよ君は。エヒトルジュエが依り代を手に入れる為だけに私達を召喚、今は見極め中ってとこだけど君はアーティファクトでさえ力が分からないんだ。依代に選ばれたら楽しめないよ。まぁ、ディストピアと戦うより、君が依代に選ばれないよう画作した方が楽だからいいけどね。」

十六夜と金糸雀は此処から抜け出せるのなら、とついて行く。

「私は嫌な予感がするのでそれを調べてから合流します。」

満愛は士郎たちと一緒に居残り、

「んーとねぇ、私も泉奈と行く!バーサーカーも隠さなくていいし!」

「イリヤ、私の事は栄光と呼んでください。あ、私はイリヤのサーヴァントなのでイリヤがついて行くのなら私も行きます」

イリヤと栄光はこちら側についてくるとのこと。

「俺は他の転生者が何をしでかすかわからん。だから目を光らせておく。」

十門司は残る。

「俺は泉奈のサーヴァントだ。故に俺は泉奈のもとにいるのが当たり前であろう。」

迦楼那は俺についてくると告げた。

「私は同胞を見捨てて去ることなど出来ません。ですので残ります。」

「私は行くわ。男共が最近ハメを外し過ぎていつか襲われるんじゃないかって?」

奈瑠紅は残り、織咫はついてくるそうだ。

「ねぇねぇ、皆は何の話をしてるの?」

行く行かないが大方決まった時、全く知らない鈴から質問があった。

「ん?そりゃあ明日は迷宮だ。ゲーム感覚でやった挙句ミスってやらかすだろうな。」

「うんうん、大方檜山辺りの連中がね。」

「そんな奴らに背中は預けられん。それに、宗教なんていう胡散臭い存在がいる」

「それならいっその事此処を離れてしまおうって話しだ。」

「え、皆を見捨てるの!?」

「馬鹿をしない奴は助けるさ。だが、俺らは成すことがある。それなりに忙しいさ。っと、鈴は付いてくるか?」

「…………………私は───────」

 

✲✲✲

 

現在、俺達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

俺達は、クラスメイト達がお上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルド団長の後をカルガモのヒナのように付いていくのを見て苦笑いをしている。

 

✲✲✲

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。俺達は後ろの方で陣形を整えているが。

しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

正面に立つ光輝達――特に前衛陣の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

間合いに入ったラットマンを光輝、龍太郎、河須戸の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔術を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

光輝は純白に輝くバスタードソードを物凄く遅い速度で振るって数体をまとめて葬っている。

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

河須戸は、そのまま〝黒の剣士〟その者で、ソードスキルを使わずとも一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

俺は物足りなさを感じている中3人の詠唱が終えた。

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

すぐそこに攻略者が1人居るが…

クラスメイト達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

従って、俺達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

メルド団長のかけ声がよく響く。

ここまで、南雲は特に何もしていない。一応、騎士団員が相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、地面を錬成して落とし穴にはめて串刺しにしたりして、一匹だけ犬のような魔物を倒したが、それだけだ。

それを見た何人かは両手を合わせたあと地面に手を付けるという奇行に走った。それを見たメルドは首を傾げたが。

南雲は、どのパーティーにも入れてもらえず、騎士団員に守られながら後方で待機していただけである。それでも、実戦での度重なる錬成の多用で魔力が上がっているのだから意味はある。魔力の上昇によりレベルも二つほど上がったのだから実戦訓練はためになるようだ。

再び、騎士団員が弱った魔物を南雲の方へ弾き飛ばしたのを、南雲は溜息を吐きながら接近し、手を突いて地面を錬成。万一にも動けないようにして、魔物の腹部めがけて剣を突き出し串刺しにした。

魔力回復薬を口に含みながら、額の汗を拭う南雲。騎士団員達が感心したように南雲を見ていることには気がついていない。

実を言うと、騎士団員達は南雲に全く期待していなかった。ただ、戦闘に余裕があるので所在無げに立ち尽くす南雲を構ってやるかと魔物をけしかけてみたのだ。もちろん、弱らせて。

騎士団員達としては、南雲が碌に使えもしない剣で戦うと思っていた。ところが実際は、錬成を利用して確実に動きを封じてから、止めを刺すという騎士団員達も見たことがない戦法で確実に倒していくのだ。錬成師は鍛冶職とイコールに考えられている。故に、錬成師が実戦で錬成を利用することなどあり得なかった。

俺としては、南雲の武器が錬成しかないので、鉱物を操れるなら地面も操れるのだからと鍛錬していたのだが、周りが派手に強いので一匹相手にするので精一杯の南雲はやはり無能だと思い込んでいる様だ。

ちなみに本邦初公開である。王都郊外での実戦訓練で散々無様を晒した末、考え出した戦法だ。

小休止に入り、俺達は軽く動いてコンディションを確認する。

因みに昨夜は香織が南雲を〝守る〟と宣言。南雲が恥ずかしそうに顔を逸らし、香織が拗ねたような表情になる。それを横目で見ていた雫が苦笑いし、小声で話しかけた。

「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織。怒ったように雫に反論する。

「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!」

「それがラブコメしてるって事でしょ?」と、雫は思ったが、これ以上言うと本格的に拗ねそうなので口を閉じる。だが、目が笑っていることは隠せず、それを見た香織が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまった。

そんな様子を横目に見ていた俺は、ふと視線を感じて見回すと、ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線を檜山が南雲に向けていた。今までも教室などで感じていた類の視線だが、とうとうその領域になったのかと思う。代赤が凄い剣幕で押しかけようとするが満愛に抱き着かれて落ち着く。

その視線がなんなのか俺は分かる。

殺意だ。檜山が南雲に殺意を抱いているのだ。それを見た俺はその殺意以上の殺気を檜山に放つ。意外に鈍感なのか気づかない。

深々と溜息を吐く南雲。昨日、香織が南雲に言っていた嫌な予感というものを、俺達もまた感じ始めていた。

因みに知ってる訳は南雲にマーカーを付けているので盗聴可能で尚且つ居場所が分かるようにしている。

一行は二十階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔術の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

メルド団長の忠告が飛ぶ。

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

直後、

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

クラスメイト達の体にビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔術“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

香織達が、準備していた魔術で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

それを俺は鍾乳洞を足場にして飛び掛ってイルカルラで弾き飛ばして魔力矢を50本射て殺す。

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

メルドの一喝に香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

「…………カヴァーチャ・クンダーラ」

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。が、黄金の何かが間に入り威力を落とす。

しかし止まらず、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。龍太郎達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

「でも、どう見ても罠だよね?」

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

「素敵……」

「だから、あんなわかりやすいのは罠だってば。」

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

「だったら俺らで回収しようぜ!」

「だからあんなわかりやすいのは罠だと言ってるのに〜」

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。影の薄い奴がどう見ても罠です.と主張されているのを言っているが誰も気づかない。

グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく檜山。

それに慌てたのはメルド団長だ。

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

「団長! トラップです!」

「だから言ったじゃん!?」

「ッ!?」

しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

俺達は空気が変わったのを感じた。次いで、スタッ、と華麗に着地する。

俺は周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは南雲と同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔術使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔術はこの世界では規格外だ。

俺達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。俺達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方は面白いと感じていた。

十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

その瞬間、閃光が一線。直後に爆音がした。

「やはは!此奴は面白ぇ!!」

十六夜である。それに、ベヒモスは数メートル下がってさえいる。

さらに、十六夜は攻める。

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

「あ」

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーが跳ね飛ばされた。

中に浮くトラウムソルジャーは彼女から離れて奈落に落ちて終わる。更に、突然の熱気に数体のトラウムソルジャーは溶けて無くなる。

橋の縁から二メートルほど手前には、黄金の鎧を纏い黄金の槍を手に持った迦楼那の姿があった。迦楼那は泉奈から許可を得て霊基を解放したのである。いつの間にか、危なくなっている生徒のもとにおり手助けをしている。

もっとも、彼は口下手故に無言で手助けに徹している。

そこに、忙しなくトラウムソルジャーを奈落に落としていた南雲が彼女の手を取って立ち上がらせる。

呆然としながら為されるがままの彼女に、南雲が笑顔で声をかけた。

「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」

自信満々で背中をバシッと叩く南雲をマジマジと見る女子生徒は、次の瞬間には「うん! ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。

南雲は周囲のトラウムソルジャーの足元を崩して固定し、足止めをしながら周囲を見渡す。

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔術を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

南雲は走り出した。光輝達のいるベヒモスの方へ向かって。

ベヒモスは依然、十六夜に翻弄されていた。

十六夜が衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長は光輝達に撤退を催促している。

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! 十六夜達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

この限定された空間ではベヒモスと十六夜の衝突による衝撃を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。そして、

「馬鹿を言ってんじゃねぇぞボケナスがァ!!」

十六夜、ベヒモスとメルド達の間に|不貞隠しの兜シークレット・オブ・ペディグリー》をした代赤が降り立ち、赤雷で衝撃波を無くす。

「代赤さん………雫ちゃん………」

苛立つ代赤と雫に心配そうな香織。

その時、一人の男子が光輝の前に飛び込んできた。

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

驚く一同に南雲は必死の形相でまくし立てる。

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

南雲を言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、南雲は今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

光輝の胸ぐらを掴みながら指を差す南雲。

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振ると南雲に頷いた。

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしメルド団長を振り返った瞬間、代赤の悲鳴と同時に、十六夜が地面を蹴った(・・・・・・)ことで橋の1部が崩壊した。

暴風のように荒れ狂う衝撃波が南雲達を襲う。咄嗟に、南雲が前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

そこには、下半身が橋の外にはみ出て落ちまいと耐えるベヒモス。衝撃波の影響で橋の外まで出たようだ。。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。

「ぐっ……今の間に行こう!!」

光輝が言って、苦しそうではあるが確かな足取りで立ちあがり走り出す。団長達に手を貸しながら。

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

「香織は走りながらメルドさん達の治癒を!」

「うん!」

光輝の指示で香織が詠唱し出す。南雲は走りやすくするために障害物を錬成で無くしたり、手で払ったりしている。。戦いの余波で奈落に落ちないよう石壁を作り出したりも。気休めだが無いよりマシだろう。

光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらトラウムソルジャーの大軍に直進する。

龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に団長達を抱えて走る。代赤はどこにそんなに余力があるのか、2人も抱えているのに先陣をきっている。

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にトラウムソルジャーの大軍に直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入って行く。それを南雲は直しながら進む。

ようやく光輝達が皆の元にたどり着こうとした瞬間、ベヒモスが橋に乗り、再び動き始める。そして跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

十六夜は、足腰に力を入れてパンチを繰り出すも、ベヒモスの重さに耐えられず吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

そして、動けるようになったら頭に蹴りを噛ましてから駆け寄ってくる。その間に香織による治療で再起した騎士達は自分で出来ることを始める。ベヒモスは十六夜の蹴りによって深くめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

「まだ動けるか!」

復活したメルド団長が十六夜に叫ぶように尋ねると

「もう満足したぜ!」

と。先ほどの跳躍攻撃で内臓へのダメージも相当のようだ。

メルド団長が香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくる南雲の姿を捉えた。

指示を出そうとした団長より先に、南雲は必死の形相で、とある提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、南雲が一番危険を請け負う方法だ。

メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。

「……やれるんだな?」

「やります」

 決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる南雲に、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔術を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど十六夜を執拗に狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

「吹き散らせ――〝風壁〟」

 詠唱と共にバックステップで離脱する。

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの光輝達を守りながらでは全滅していただろうが。

再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、南雲が飛びついた。赤熱化の影響が残っており南雲の肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視して南雲も詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔術。

「――〝錬成〟!」

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、南雲が錬成して直してしまうからだ。

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、南雲は、その埋まった足元を錬成して固める。

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

その間に、メルドは回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達は離脱しようとする。

トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、士郎達教師陣である。彼らは隠していた力を解放している。

「待って下さい! まだ、南雲くんがっ」

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「坊主の思いを無駄にする気か!」

「ッ――」

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力(笑)を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。ベヒモスは南雲の魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続ける南雲を振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長と騎士達、光輝達は撤退を開始した。

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達と迦楼那のおかげだろう。彼等のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に騎士団員達は満身創痍だったが。

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔術を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほど南雲が助けた女子生徒の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近いようで泣きそうな表情だ。

誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

「――〝天翔閃〟!」

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づく。

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔術の効果も加わっている。精神を鎮める魔術だ。リラックスできる程度の魔術だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群だ。

治癒魔術に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔術適性の高い者が後衛に下がって強力な魔術の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔術と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

そして、階段への道が開ける。

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

光輝が掛け声と同時に走り出す。

ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと光輝が魔術を放ち蹴散らす。

クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

「皆、待って! 南雲くんを助けなきゃ! 南雲くんがたった一人であの怪物を抑えてるの!」

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。なにせ、南雲は〝無能〟で通っているのだから。

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かに南雲の姿があった。

「なんだよあれ、何してんだ?」

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。

「そうだ! 坊主がたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。

無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

その中には檜山大介もいた。自分の仕出かした事とはいえ、本気で恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときのこと。

緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、香織は檜山に気がつかずに通り過ぎて行った。

気になって後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……南雲だった。

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。しかし、自分とでは釣り合わないと思っており、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。

しかし、南雲は違う。自分より劣った存在(檜山はそう思っている)が香織の傍にいるのはおかしい。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば頭大丈夫? と言われそうな考えを檜山は本気で持っていた。

ただでさえ溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。香織が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなってあらわれたからだろう。

その時のことを思い出した檜山は、たった一人でベヒモスを抑える南雲を見て、今も祈るように南雲を案じる香織を視界に捉え……

ほの暗い笑みを浮かべた。

それを見ていた氷室家+‪α‬は軽くため息をついて動き出す。

因みに、その他の転生者達はこの世界が[ありふれた職業で世界最強]であることにまだ気づいていない。

その頃、南雲はもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。既に回復薬はない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら錬成を止めても数秒は時間を稼げるだろう。その間に少しでも距離を取らなければならない。

額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

南雲はタイミングを見計らった。

そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、一気に駆け出した。

南雲が猛然と逃げ出した五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……

南雲を捉えた。

再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。南雲を追いかけようと四肢に力を溜めた。

だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

いける! と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走る南雲。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じて駆ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がった。

思わず、頬が緩む。

しかし、その直後、南雲の表情が凍りついた。

無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。

……南雲の方に向かって。

明らかに南雲を狙い誘導されたものだ。

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑る南雲の眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。

南雲はフラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……

ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。南雲が立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかり南雲を捉えていた。

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら南雲に向かって突進する!

フラつく頭、霞む視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。

南雲は、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

そして遂に……橋が崩壊を始めた。

度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。

「グウァアアア!?」

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

南雲もなんとか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

南雲が諦めた目で此方に視線を向け、香織が飛び出そうとして光輝に羽交い締めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情で南雲を見ていた。

そして、南雲の足場も完全に崩壊し、南雲が仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる姿と手を伸ばす姿があり……

 

その時、紅槍を片手に持った(・・・・・・・・・)蒼き閃光が飛び降りるのを確かに見た。




最後の1文の人物が誰か分かりましたか?

奈落に落ちた南雲とそれを追った誰か。泉奈達はそれらを追って自ら奈落に向かう。
そして、谷口鈴はクラスメイト達と初恋の相手、どちらを選ぶのか。

次回、一時の別れ、光の御子

「って言ってるが、いざこざは回避出来ないし、元々が駄作者の妄想から来てるし内容が可笑しくなるかもな。」
「それでも口にしては妄想野郎が可哀想だろう十六夜?」
「ちょ、てめぇの方がひでぇだろ金糸雀!」

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