氷創の英雄 ~転生したけど、特典の組み合わせで不老不死になった!~   作:星の空

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第16話 脱出とウサギ

あれから2ヶ月が経った。

この間に南雲が造った新装備について少し紹介しておこう。

まず、南雲は“宝物庫”という便利道具を手に入れた

これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は、勇者の道具袋みたいなものである。空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出すことができる。

物凄く便利なアーティファクトなのだが、南雲にとっては特に、武装の一つとして非常に役に立っている。というのも、任意の場所に任意の物を転送してくれるという点から、南雲はリロードに使えないかと思案したのだ。結果としては半分成功といったところだ。流石に、直接弾丸を弾倉に転送するほど精密な操作は出来なかった。弾丸の向きを揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だった。もっと転送の扱いに習熟すれば、あるいは出来るようになるかもしれないが。

なので、南雲は、空中に転送した弾丸を己の技術によって弾倉に装填出来るように鍛錬することにした。要は、空中リロードを行おうとしたのだ。ドンナーはスイングアウト式(シリンダーが左に外れるタイプ)のリボルバーである。当然、中折式のリボルバーに比べてシリンダーの露出は少なくなるので、空中リロードは神業的な技術が必要だ。まして、大道芸ではなく実戦で使えなければならないので、更に困難を極める。最初は、中折式に改造しようかとも思ったハジメだが、試しに改造したところ大幅に強度が下がってしまったため断念した。

結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で南雲は見事、空中リロードを会得した。たった一ヶ月の特訓でなぜ神業を会得できたのか。その秘密は“瞬光”である。“瞬光”は、使用者の知覚能力を引き上げる固有魔術だ。これにより、遅くなった世界で空中リロードが可能になったのである。“瞬光”は、体への負担が大きいので長時間使用は出来ないが、リロードに瞬間的に使用する分には問題なかった。

次に、南雲は“魔力駆動二輪と四輪”を製造した。2、3台程造り、俺達全員が乗れる様にしたのだ。

これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、南雲自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。

更に、この二つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔術を起動する地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、どこぞのスパイのように武装が満載されている。南雲も男の子。ミリタリーにはつい熱が入ってしまうのだ。

“魔眼石”というものも開発した。

南雲はヒュドラとの戦いの余波で右目を失っている。飛来した瓦礫で右眼を失明していまい、神水を使う前に“欠損”してしまっていたので治癒しなかったのだ。それを気にしたユエが考案し、創られたのが“魔眼石”だ。

いくら生成魔術でも、流石に通常の“眼球”を創る事はできなかった。しかし、生成魔術を使い、神結晶に”“魔力感知”“先読”を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる魔眼を創ることに成功した。

これに義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。

因みに、擬似神経を作ったのは俺です。はい。イリヤの仮の身体をギルガメッシュ戦の時に創って以来、特訓して青崎の人形師に合格を貰ったのである。

氷から派生した水に人間の材質である塩や炭素などを混ぜながら魔力を込めつつ概念魔術を使ったら出来たのだ。

閑話休題

魔眼では、通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔術の核が見えるようにもなった。

魔術の核とは、魔術の発動を維持・操作するためのもの……のようだ。発動した後の魔術の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、では、その式は遠隔の魔術とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。実際、俺が利用した書物や教官の教えに、その辺りの話しは一切出てきていなかった。おそらく、新発見なのではないだろうか。魔術のエキスパートたるユエも知らなかったことから、その可能性が高い。

通常の“魔力感知”では、“気配感知”などと同じく、漠然とどれくらいの位置に何体いるかという事しかわからなかった。気配を隠せる魔物に有効といった程度のものだ。しかし、この魔眼により、相手がどんな魔術を、どれくらいの威力で放つかを事前に知ることができる上、発動されても核を撃ち抜くことで魔術を破壊することができるようになった。但し、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要らしい。

神結晶を使用したのは、複数付与が神結晶以外の鉱物では出来なかったからだ。莫大な魔力を内包できるという性質が原因だと、一行は推測している。未だ、生成魔術の扱いには未熟の域を出ないので、三つ以上の同時付与は出来なかったが、習熟すれば、神結晶のポテンシャルならもっと多くの同時付与が可能となるかもしれない、と南雲には期待している。

ちなみに、この魔眼、神結晶を使用しているだけあって常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っている。南雲の右目は常に光るのである。こればっかりはどうしようもなかったので、仕方なく、南雲は薄い黒布を使った眼帯を着けている。

白髪、義手、眼帯、南雲は完全に厨二キャラとなった。その内、鎮まれ俺の左腕! とか言いそうな姿だ。鏡で自分の姿を見た南雲が絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になった挙句、丸一日寝込むことになったそうだ。それを見た代赤が爆笑しているが。

新兵器について、対物ライフル:シュラーゲンも強化した。アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので三メートルに改良した。“遠見”の固有魔術を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。

また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出したのか、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発という化物を創っていた。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。

さらに、面制圧と南雲の純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。ロケット弾にも様々な種類がある。

あと、ドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも開発された。南雲に義手ができたことで両手が使えるようになったからである。南雲の基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。典型的な後衛であるユエや回復役である香織との連携を考慮して接近戦が効率的と考えたからだ。もっとも、俺は水、氷が関わる物があれば遠中近どの距離でも対応可能だが。あ、溶岩は液体と認識しているので凍らせることは可能だ。キリマンジャロで試した。

それはいいとして、他にも様々な装備・道具を開発したっぽい。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。枯渇した神結晶に再び魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。やはり長い年月をかけて濃縮でもしないといけないのかもしれない。

しかし、神結晶を捨てるには勿体無い筈だ。南雲の命の恩人……ならぬ恩石なのだから。不運と幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいた。その為、南雲には並々ならぬ愛着があった。それはもう、遭難者が孤独に耐え兼ねて持ち物に顔をペインティングし、名前とか付けちゃって愛でてしまうのと同じくらいに。

そこで、南雲は、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。そして、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔術を行使できるが、最上級魔術等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔術でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。

それから十日後、遂に一行は地上へ出る。

三階の魔法陣を起動させる中、それぞれは奈落の中であったことを思い出したりこれから先に何があるのか分からないという冒険に心を踊らせていたりする。

言い忘れていたが、香織が欲求不満を爆破させた。つまりは十日間中に南雲と香織がヤったのだ。部屋の扉からユエがそれを覗いてナニカしていたが。

魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に俺達の頬が緩む。

やがて光が収まり目を開けた俺達の視界に写ったものは……………………洞窟だった。

『なんでやねん』

魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていた一行は、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。正直、めちゃくちゃガッカリだった。

そんな中南雲の服の裾をクイクイと引っ張るユエ。何だ? と顔を向けてくる南雲にユエは自分の推測を話す。慰めるように。

「……秘密の通路……隠すのが普通」

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

「………確かにね。」

そんな簡単なことにも頭が回らないとは、どうやら自分は相当浮かれていたらしいと恥じる一行。頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、一行は暗闇を問題としないので道なり進むことにした。

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。一行は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。奈落の底に落ちた一行はこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

俺達全員、特に南雲とユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。はしゃぐ夫と娘を見るような目をしながらそれに続いて行く香織。

近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。俺達は、“空気が旨い”という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

そして、一行は同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔術が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 【ライセン大峡谷】と。

 

✲✲✲

 

俺達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

例えどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた俺達の表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

「……戻って来たんだな……」

「……んっ」

「…………良かった。一時はどうなるかと思ったよ。」

「あんなに錯乱する程南雲君が大事だったんでしょ香織?」

「もう、からかわないで雫ちゃん。」

「はぁ、やっとこさ出れた。やっぱ、明るいところは心が明るくなるからいいよな。」

「うんうん!!満月の夜でも良かったけどね!」

一行は、ようやく実感が湧いたのか、

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「んっーー!!」

しばらくは人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。

漸く皆の笑いが収まった頃には、すっかり……魔物に囲まれていた。

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」

ドンナー・シュラークを抜きながら南雲が首を傾げる。座学に励んでいた南雲には、ここがライセン大峡谷であり魔術が使えない場所であると理解していた。

「……分解される。でも力づくでいく」

ライセン大峡谷で魔術が使えない理由は、発動した魔術に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。

「近接主体におまかせあれって奴だな。」

「えぇ、洞窟内だと窮屈であまり動けませんでしたがここなら羽を伸ばせそうです。」

「やはは、栄光の言う通りだ。久々に暴れられるぜ!」

「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」

スっとガン=カタの構えをとる南雲。各々が構えて皆の眼に殺意が宿る。その眼を見た周囲の魔物達は気がつけば一歩後退っていた。しかも、そのことに気がついてすらいない。本能で感じたのだろう。自分達が敵対してはいけない化物を相手にしてしまったことを。

常人なら其処にいるだけで意識を失いそうな壮絶なプレッシャーが辺り一帯を覆う中、遂に魔物の一体が緊張感に耐え切れず咆哮を上げながら飛び出した。

「ガァアアアア!!」

 

ズドンッ!!

 

しかし、ほぼ同時に響き渡った銃声と共に一条の閃光が走り、その魔物は避けるどころか反応すら許されず頭部を吹き飛ばされた。それを合図に皆が動き出す。

そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、唯の一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く頭部を吹き飛ばされ骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

「どうして樹海側なんだ??」

「代赤は見てなかったっけ?峡谷抜けたら砂漠があるけど、いきなり砂漠横断とか嫌でしょ? 樹海側なら町が近そうだから提案した所でしょ。」

「……確かに」

俺の提案に、皆は頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。南雲の“空力”やユエの風系魔術や英霊達の身体スペックならば、絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

南雲が右手の中指にはまっている“宝物庫”に魔力を注ぎ、魔力駆動四輪を2台と魔力駆動二輪を取り出す。

颯爽と運転席に乗ってエンジンをかける。助っ席にセタンタが乗って、後ろに香織と雫、飛斗と美久。香織の膝にユエが座る形で7人が乗る。

もう1台の運転席に迦楼那が乗って助っ席に俺。後ろに十六夜と金糸雀、栄光とその膝にイリヤと鈴の7人が乗る。天鎖は鎖化して俺に巻きついていて白音は猫化して雫の膝の上である。

魔力駆動二輪に代赤が跨いで後ろに織咫が乗る。

因みに、地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。

南雲としてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったのだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。ちなみに速度調整は魔力量次第である。まぁ、唯でさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろうが。

ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動車を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

もっとも、その間も運転手の手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らせているのだが。

暫く魔力駆動者を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

南雲達の乗る魔力駆動車が崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

一行は魔力駆動車を止めて胡乱な眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。

「……何だあれ?」

「……兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処だったっけ?」

「それは違ぇ筈だ。」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

南雲と香織、セタンタ、ユエが会話をする中、ウサミミ少女の方は俺達のことを発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま俺達を凝視している。

そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……俺達の方へ。

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊し俺達に届く。

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、俺達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

流石に、ここまで直接助けを求められたら最終決定権を持った南雲も……

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

「……迷惑」

やはり助ける気はないらしい。必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。俺達を必死の形相で見つめてくるウサミミ少女から視線を逸らすと、一行に助ける気がないことを悟ったのか、少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

ウサミミ少女が更に声を張り上げる。

それでも、一行は、全く助ける気がないので、このまま行けばウサミミ少女は間違いなく喰われていたはずだった。そう、双頭ティラノがウサミミ少女の向こう側に見えた俺達、特に南雲に殺意を向けさえしなければ。

双頭ティラノが逃げるウサミミ少女の向かう先に俺達を見つけ、殺意と共に咆哮を上げた。

「「グゥルァアアアア!!」」

それに敏感に反応する南雲。

「アァ?」

今、自分は生存を否定されている。捕食の対象と見られている。敵が己の行く道に立ち塞がっている! 双頭ティラノの殺意に、南雲の体が反応し、その意志が敵を殺せ! と騒ぎ立てた。

双頭ティラノが、ウサミミ少女に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。ウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、「ああ、ここで終わりなのかな……」とその瞳に絶望を写した。

が、次の瞬間、

 

ドパンッ!!

 

聞いたことのない乾いた破裂音が峡谷に響き渡り、恐怖にピンと立った二本のウサミミの間を一条の閃光が通り抜けた。そして、目前に迫っていた双頭ティラノの口内を突き破り後頭部を粉砕しながら貫通した。

力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

その衝撃で、ウサミミ少女は再び吹き飛ぶ。狙いすましたように南雲が乗る魔力駆動四輪の下へ。

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

眼下の南雲に向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。例え酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止める場面だ。

「アホか、図々しい」

しかし、そこは南雲のクオリティーによってあっさりと砕かれた。一瞬で魔力駆動四輪を後退させると華麗にウサミミ少女を避けた。

「えぇー!?」

ウサミミ少女は驚愕の悲鳴を上げながら南雲が乗る魔力駆動四輪の眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

「……面白い」

そんなギャグをかましている間に俺は双頭ティラノを凍らせて砕いておく。

俺が終わらせるまでに立ち直ったウサミミ少女は南雲に寄り縋っており、いい加減本気で鬱陶しくなったのか南雲は1度降りて脳天に肘鉄を打ち下ろした。

「へぶぅ!!」

呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。それを冷たく一瞥した後、南雲はなに事もなかったように魔力駆動四輪に乗って魔力を注ぎ先へ進もうとする。

その気配を察したのか、今までゴロゴロ地面を転がっていたくせに物凄い勢いで跳ね起きて、「逃がすかぁ~!」と四輪のボンネットに飛び込んでしがみつくウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

そして、なかなかに図太かった。

南雲は、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。

「私の家族も助けて下さい!」

いつの間にか復活したウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が峡谷に響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。

「全く、非常識なウザウサギだ。お前ら、行くぞ?」

「ん……」

シアを再びオトした南雲はは何事もなかったように再び四輪に魔力を注ぎ込み発進させようとした。

しかし……

「に、にがじませんよ~」

ゾンビの如く起き上がり南雲が乗る魔力駆動四輪のボンネットにしがみつくシア。流石に驚愕した南雲は思わず魔力注入を止めてしまう。

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが……何で動けんるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」

「……不気味」

「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」

ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつけるシア。案外余裕そうである。このまま引き摺っていこうかとも考えたハジメだが、何か執念で何処までもしがみついてきそうだと思い直す。血まみれで引きずられたまま決して離さないウサミミ少女……完全にホラーである。

「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」

話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは、これまたさり気なく南雲の外套で汚れた顔を綺麗に拭った。本当にいい性格をしている。イラッと来た南雲が再び肘鉄を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

「ま、また殴りましたね! 父様にも殴られたことないのに! よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうでッあふんッ!?」

なにやら不穏当な発言が聞こえたので蹲るシアの脳天目掛けて踵落としをする南雲。その額には青筋が浮かんでいる。

「誰がホモだ、ウザウサギ。っていうか何でそのネタ知ってんだよ。まぁ、それは取り敢えず置いておくとして、お前の誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、お前より遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ。香織を見て堂々と誘惑できるお前の神経がわからん。あとユエも。」

そう言って南雲はチラリと後ろの座席に座る香織を見る。香織は南雲の言葉に赤く染まった頬をユエの金髪に埋めてイヤンイヤンしていた。ユエは、…あとって……と若干落ち込んでいたりする。

格好も、王城にいた頃の様な修道女の物ではない。少し黒めな白のワンピースを着て、その上から青に白のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソだ。どれも、オスカーの衣服に魔物の素材を合わせて、香織とユエが仕立て直した逸品だ。高い耐久力を有する防具としても役立つ衣服である。

因みに、南雲は黒に赤のラインが入ったコートと下に同じように黒と赤で構成された衣服を纏っている。これも2人が作ったのだ。

当初、香織は南雲にも青を基調とした衣服を着せてペアルック気味にしたがったのだが、流石に恥ずかしいのと、服が青だと不憫さが出そうなので嫌だと南雲が懇願した結果、今のスタイルに落ち着いた。

その時、セタンタが物申していたが。

そんな清楚な香織と可憐なユエを見て、「うっ」と僅かに怯むシア。しかし、南雲には身内補正が掛かっていることもあり、二人の容姿に関しては多分に主観的要素が入り込んでいる。つまり、客観的に見ればシアも負けず劣らずの美少女ということだ。

少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。

何よりシアは大変な巨乳の持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっているそれ凶器は、固定もされていないのだろう。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。ぷるんぷるんではなくぶるんぶるんだ。念の為。

要するに、彼女が自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくないのである。

それ故に、矜持を傷つけられたシアは言ってしまった。言ってはならない言葉を……

「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっち女の子の方はペッタンコじゃないですか!」

“ペッタンコじゃないですか”“ペッタンコじゃないですか”“ペッタンコじゃないですか”

峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊する。少し落ち込んでいたユエの表情が見えなくなり、前髪で隠したままユラリと香織の膝から降りた。

一行は「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。ウサミミよ、安らかに眠れ……。

ちなみに、香織は気にしてないが、女子勢の中では1番大きい。2番目に雫である。

震えるシアのウサミミに、囁くようなユエの声がやけに明瞭に響いた。

―――― ……お祈りは済ませた? 

―――― ……謝ったら許してくれたり

―――― ………… 

―――― 死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

「“嵐帝”」

―――― アッーーーー!! 

突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共に俺達の眼前に墜落した。

まるで犬○家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。唯でさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはや唯のゴミのようだ。逆さまなので見えてはいけないものも丸見えである。百年の恋も覚める姿とはこの事だろう。

ユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと香織の下へ戻り、四輪の傍にいる南雲を下からジッと見上げた。

「……おっきい方が好き?」

実に困った質問だった。南雲としては「YES!」と答えたい所だったが、それを言えば未だ前方で痙攣している残念ウサギと仲良く犬○家である。それは勘弁して欲しかった。

「……ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

「……」

取り敢えずYESともNOとも答えず、ふわっとした回答を選択する南雲。実にヘタレである。ユエはスっと目を細めたものの一応の納得をしたのか無言で香織の膝に腰掛けた。

内心、冷や汗を流す南雲は、居心地の悪い沈黙を破ろうと話題を探すが何も見つからない。南雲のライ○カードは役立たずだった。

だが、南雲が視線を彷徨わせた直後、痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉えた。

「アイツ動いてるぞ……本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが……」

これまた静観していた一行のセタンタが己の戦闘続行スキルでも持ってるのではないかと動揺?していた。

「ねぇ…………あれって生きてるのよね?」

流石の雫も生物離れし過ぎな耐久力を発揮するシアに驚きを隠せないでいた。

ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながら南雲達の下へ這い寄って来た。既にホラーだった。

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」

南雲の胡乱な眼差しに、漸く本題に入れると居住まいを正すシア。四輪のステップに腰掛ける南雲の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

語り始めたシアの話を要約するとこうだ。

シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔術まで使えたのだ。

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔術を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔術を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔術の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、南雲やユエと同じ、この世界の例外というヤツらしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。

話を聞き終った南雲は特に表情を変えることもなく端的に答えた。

「断る」

南雲の端的な言葉が静寂をもたらした。何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿で南雲をマジマジと見つめた。そして、南雲が話は終わったと魔力駆動四輪に乗ろうとしたが、言葉を理解したシアが漸く我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。

「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」

シアの抗議の声をさらりと無視して出発しようとする南雲の乗る四輪のボンネットに再びシアが飛びつく。さっきまでの真面目で静謐な感じは微塵もなく、形振り構わない残念ウサギが戻ってきた。

足を振っても微塵も離れる気配がないシアに、南雲は溜息を吐きながらジロリと睨む。

「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」

「メ、メリット?」

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺達を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

「うっ、そ、それは……で、でも!」

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」

「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」

「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……てめぇの固有魔()と関係あるのか?」

一向に折れない南雲に涙目で意味不明なことを口走るシア。そう言えば、何故シアが仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。その辺りのことも関係あるのかとセタンタは尋ねた。

「え? あ、はい。“未来視”といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! “未来視”があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」

シアの説明する“未来視”は、彼女の説明通り、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。

どうやら、シアは、元いた場所で、俺達がいる方へ行けばどうなるか? という仮定選択をし、結果、自分と家族を守る南雲の姿が見えたようだ。そして、南雲を探すために飛び出してきた。こんな危険な場所で単独行動とは、よほど興奮していたのだろう。

「そんなすげぇ固有魔()持ってて、何でバレてんだよ。危険を察知できるんならフェアベルゲンの連中にもバレねぇはずだろ?」

代赤の指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。

「じ、自分で使った場合は暫く使えなくて……」

「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」

「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」

「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」

「うぅ~猛省しておりますぅ~」

「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」

呆れたようにそっぽを向く南雲にシアが泣きながら縋り付く。南雲が、いい加減引きずっても出発しようとすると、何とも意外な所からシアの援護が来た。

「……ハジメ、連れて行こう」

「ユエ?」

「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

ユエの言葉に南雲は訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。

「……樹海の案内に丁度いい」

「あ~」

確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。最悪、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。ただ、シア達はあまりに多くの厄介事を抱えているため逡巡する南雲。

そんな南雲に、ユエは真っ直ぐな瞳を向けて逡巡を断ち切るように告げた。

「……大丈夫、私達は負けない。」

それは、奈落を出た時の南雲の言葉。この世界に対して遠慮しない。南雲は自分の言った言葉を返されて苦笑いするしかない。

兎人族の協力があれば断然、樹海の探索は楽になるのだ。それを帝国兵や亜人達と揉めるかもしれないから避けるべき等と“舌の根も乾かぬうちに”である。もちろん、好き好んで厄介事に首を突っ込むつもり等さらさらないが、ベストな道が目の前にあるのに敵の存在を理由に避けるなど有り得ない。道を阻む敵は“殺してでも”と決めたのだ。

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

確かに言っていることは間違いではないが、セリフが完全にヤクザである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。

「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それでおあなた方のことは何と呼べば……」

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

「私は白崎香織。こっちは八重樫雫でこっちが誘宵美九。」

「えぇ、宜しくね?駄ウサギさん?」

「私の友達をあまり困らせないでくださいな。」

「僕は氷室飛斗だよ!!」

「俺はクー・フーリン。まぁ、言いづれぇならセタンタで構わん。」

「……ユエ」

「ハジメさんと香織さん、雫さんに飛斗さん、美久さんとユエちゃんですね!」

6人の名を反芻するシア。何気に呼ばれないセタンタ。

そこで、ユエが不満顔で抗議する。

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ!

自己紹介しながら助っ席から降りたセタンタが

「乗るんならこっちに乗んな。大体が満席なんでね、誰か降りんとならん。まぁその点は俺が走りゃいいだけよ。」

と言ってシアを助っ席に乗せる。

「ぇ?走る?この樹海を?」

シアが混乱している間に発車する南雲。その後ろをついて走る俺達の魔力駆動車。更に後ろに魔力駆動二輪に跨る代赤と織咫に走るセタンタ。

生前戦地を駆け抜けたケルトの戦士にとっては走った方が早かったりする。まぁ、俺を含めて迦楼那や栄光、その他英霊達も基本そうなのだが。

シアは南雲に疑問をぶつける。

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのでしょう? それに、ハジメさんやユエさん、後ろのあれに乗るフードの人も魔法使いましたよね? ここでは使えないはずなのに……」

「あ~、それは道中でな」

そう言いながら、南雲は魔力駆動四輪を一気に加速させ出発した。悪路をものともせず爆走する乗り物に、シアが「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。地面も壁も流れるように後ろへ飛んでいく。

谷底では有り得ない速度に目を瞑ってギュッと自分の座る椅子にしがみついていたシアも、暫くして慣れてきたのか、次第に興奮して来たようだ。南雲がカーブを曲がったり、大きめの岩を避けたりする度にきゃっきゃっと騒いでいる。

南雲は、道中、魔力駆動四輪の事やユエが魔術を使える理由、俺の氷、南雲の武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

「え、それじゃあ、お二人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

「ああ、そうなるな」

「……ん」

暫く呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様に俯いた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

「……いきなり何だ? 騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」

「……手遅れ?」

「手遅れって何ですか! 手遅れって! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

「「……」」

どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、“他とは異なる自分”に余計孤独を感じていたのかもしれない。

シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。俺達には何となく、今ユエが感じているものが分かった。おそらく、ユエは自分とシアの境遇を重ねているのではないだろうか。共に、魔力の直接操作や固有魔術という異質な力を持ち、その時代において“同胞”というべき存在は居なかった。

だが、ユエとシアでは決定的な違いがある。ユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアにはいるということだ。それがユエに、嫉妬とまではいかないまでも複雑な心情を抱かせているのだろう。しかも、シアから見れば、結局、その“同胞”とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

そんなユエの頭を香織がポンポンと撫でた。日本という豊かな国で何の苦労もなく親の愛情をしっかり受けて育ったユエや神代の戦士達以外の者には、“同胞”がいないばかりか、特異な存在として女王という孤高の存在に祭り上げられたユエの孤独を、本当の意味では理解できない。それ故、かけるべき言葉も持ち合わせなかった。出来る事は、“今は”一人でないことを示すこと事だけだ。

すっかり変わってしまった南雲だが、身内にかける優しさはある。あるいは、俺達が追いついていなければ、それすら失っていたかもしれないが。香織とユエのどちらかがは南雲が外道に落ちるか否かの最後の防波堤と言える。香織とユエがいるからこそ、南雲は人間性を保っていられるのだ。その証拠に、南雲はシアとの約束も守る気だ。樹海を案内させたらハウリア族を狙う帝国兵への対策もする気である。

そんな南雲の気持ちを深く理解している香織の気持ちが伝わったのか、ユエは、無意識に入っていた体の力を抜いた。

暫く、シアが騒いで南雲かユエに怒鳴られるという事を繰り返していると、遠くで魔物咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。

「! ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」

「だぁ~、耳元で怒鳴るな! 聞こえてるわ! 飛ばすからしっかり掴まってろ!」

南雲は、魔力を更に注ぎ、四輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。

そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達とそれを守るために立ち塞がろうするケイローンがいた。




南雲達一行はオルクス大迷宮に2ヶ月程滞在してから脱出。やっとこさ外の空気を吸うことが出来た一行。
そして、魔物から逃げる残念ウサミミ少女シアと出会いシアの家族ごと救う事となった一行であった。

次回、ハウリア一族と特訓

「やっとこさ出れた。さて、原作(・・)ではホルアドだっけか?そこに行くんだよな次?」
「はい。ただ、そこで南雲くん達と1度──────」
「────はいネタバレだめぇー。」
「……………何かキャラが違う気がします。泉奈。」
「いいじゃーん、だってここオフ会ゾーンだもん。あ、もう時間だ。」
「え、久々に登場でき───」

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