氷創の英雄 ~転生したけど、特典の組み合わせで不老不死になった!~   作:星の空

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第9話

 

光が収まり、目が慣れてから開くと教室では無くなっていた。

1番初めに目に付くのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。

しかし、俺達はそれを見ずそれ以外を見渡す。

周囲を見てみると、どうやら俺達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。

素材は大理石で出来ており美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

俺達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りには南雲や香織と同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

南雲は香織に手を貸して立ち上がらせる。

南雲の手を取り立ち上がる香織。怪我はないようで、南雲はホッと胸を撫で下ろす。

そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。

そう、この広間にいるのは俺達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、俺達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

彼等は一様に白地に金の刺繍ししゅうがなされた法衣のようなものを纏まとい、傍らに錫杖しゃくじょうのような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

「泉奈さんや、まさか異世界転移ってこれのことか?」

十六夜が小声で聞いてきたので俺は頷きながら静かにする様指を立てる。

「奴らは敵の手下共だ。下手なことしたらいざって時に困るぞ。」

その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢ごうしゃで煌きらびやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺しわや老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で俺達に話しかけた。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺こうこうや然とした微笑を見せた。

 

✲✲✲

 

今俺達は、場所を移ってから十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。

おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に士郎、遠坂、間桐、迦楼那、愛ちゃんが座り、続いて光輝とあと3人が、後はその取り巻き順に適当に座っている。俺達は中間辺りで、南雲と香織は最後方だ。

ここに案内されるまで、精神が図太い奴が喋る以外は大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、教師陣が落ち着かせたことも理由だろうが。

副担よりも先に落ち着かせていた迦楼那を見て、愛子先生が涙目だった。

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。が、俺や鈍感な士郎、理性蒸発者である飛斗、本物の英雄たる迦楼那や香織がいる南雲は一切動じなかった。

こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。

要約するとこうだ。

まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

それが、魔人族による魔物の使役だ。

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

イシュタルはどこか恍惚こうこつとした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

俺達は〝神の意思〟を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

愛ちゃんだ。

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

ぷりぷりと怒る愛ちゃん。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

〝愛ちゃん〟と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。

今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

「ふ、不可能って───」

「笑わせんなよ狂信者。行くの反対が帰るのように召喚したんなら送還もできるだろうが。」

愛子先生が叫ぶが十六夜が口を挟む。

「…………………先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

「…………ちっ」

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とし、十六夜は黙り込む。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

パニックになる生徒達。

俺達はボロを零さないよう黙りをする。しかし、俺達は原作(・・)を知っているため、このあとの展開がわかっている。

誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

だが、俺や満愛、代赤と迦楼那は、その目の奥で侮蔑が込められているのが分かった。今までの言動には「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」とでも思っている。と、迦楼那が眼で読んだことを念話で言ってきた。

未だパニックが収まらない中、士郎達が立ち上がってなだめようとしたら、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

が、あの男が立ち上がった。

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわな。……気に食わないが……俺もやるわ」

「河須戸……」

「え、えっと、天之河君がするのなら私もする!!」

「恵里……」

 

いつもの光輝メンバーが光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。

が、そんな中、立ち上がった男がいた。

「ダメだ。そんな事は1人の教師、いや、大人として認めるわけにはいかない。」

そう、正義の味方を目指し続けたが、満愛や遠坂のお陰でそのなりが納まった士郎である。

しかし、生徒から批判が殺到していき、結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。

俺達はそんなことを思いながらそれとなくイシュタルを観察した。彼は実に満足そうな笑みを浮かべている。

俺達はそこで気がついていた。イシュタルが事情説明をする間、それとなくクラスメイト達を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていたことを。

正義感の塊である光輝が人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。

世界的宗教のトップなら当然なのだろうが、危険人物として俺は頭の中のブラックリストにイシュタルを加えるのだった。

 

✲✲✲

 

戦争参加の決意をした以上、クラスメイト達は戦いの術を学ばなければならない。いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。

しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。

俺達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。

途中、何かの空洞があったので中に転移符を送っておいた。後で行こうか。

聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門がいせんもんもかくやという荘厳そうごんな門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかった。おそらく大型魔術で生活環境を整えているのだろう。

クラスメイト達は、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。

どこか自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。

台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

その途端、足元の魔法陣が燦然さんぜんと輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。

どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る〝魔術〟に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。

やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、否、国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

ハジメは、皮肉げに素晴らしい演出だと笑った。雲海を抜け天より降りたる〝神の使徒〟という構図そのままである。俺達のことだけでなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はない。

南雲は今頃、戦前の日本を思い出しているのだろう。政治と宗教が密接に結びついていた時代のことだ。それが後に様々な悲劇をもたらした。だが、この世界はもっと歪かもしれない。なにせ、この世界には異世界に干渉できるほどの力をもった超常の存在が実在しており、文字通り〝神の意思〟を中心に世界は回っているからだ。

自分達の帰還の可能性と同じく、世界の行く末は神の胸三寸なのである。徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、俺は一種の思いが胸に渦巻くのを我慢した。そして、エヒトルジュエの居場所を捜さなくては。と隣の誰かの手を握るのだった。

その手が誰のものかは分からないが。

 

✲✲✲

 

王宮に着くと、ハジメ達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。

教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。俺達が何者か、ある程度知っているようだ。

 

 ハジメや十六夜、士郎は居心地が悪そうに、最後尾をこそこそと付いていった。

美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

イシュタルは、それが当然というように悠々(ゆうゆう)と扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢ごうしゃな椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって・・・・・・待っている。

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

玉座の手前に着くと、イシュタルはハジメ達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。

そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。これで、国を動かすのが〝神〟であることが確定だな、と俺や英霊、感の鋭い者達は内心で溜息を吐く。

そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。

ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから香織の魅力は異世界でも通用するようである。だが、そいつは彼氏持ちだぞ少年。

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味だった。

士郎の料理人としてのスイッチが入ったのかシェフなどに料理法や材料を聞いていた。

ランデル殿下がしきりに香織に話しかけていたが、彼女は南雲一筋故にあやされているだけだが。それをクラスの男子が南雲を羨ましそうに見ているという状況もあった。

王宮では、俺達の衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。しかし、俺達はする事があるのでいつか離れるが。

晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋てんがい付きベッドであるがそれを無視して床に寝転ぶ。

因みに南雲は香織や女子勢の強い要望もあり、香織と同じ部屋である。

その周りの部屋は教師陣が取り、それを中心に男子と女子に別れた。

俺が何故女子側なのか一言問いたいが。その前に爆笑しているそこのヘッドホン(十六夜)チビ(明里藹須)、こっちに来なさい殴るから。

因みに影の薄い奴(遠藤浩介)は肩を叩いて、グッジョブをしていた。だって、気配が気づかれない奴(遠藤浩介)性別が違うのに気づかれない奴(氷室泉奈)であるから。

言い忘れていたが此奴はなんと、あのハサン・サッバーハの血縁関係があるとの事。置いて来た破王の翁が一度会った時に言っていた。

 

✲✲✲

 

翌日から早速訓練と座学が始まった。

まず、集まった皆に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。

不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思っていたのだが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落ごうほうらいらくな性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。

俺はその在り方を気に入った。憧れたあの英雄もそんな感じだったから。よし、気づかれない様に十二の試練(ゴッドハンド)のストックを2つ送っておこう。それに、遥はるか年上の人達から慇懃いんぎんな態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。俺達も同じように血を擦りつけ表を見る。

 

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氷室泉奈 17歳 男(の娘) レベル:1«???»

天職:弓兵(アーチャー)«冠位裁定者(グランド・ルーラー)»

筋力:700«A-»

体力:1400«EX»

耐性:370«EX»

敏捷:3000«EX»

魔力:900«EX»

魔耐:500«EX»

技能:弓術[+速射][+連射][+魔力矢]・夜目・遠視・先読み・最速・«解析・隠蔽»

«騎士王[+宝具][+逸話][+円卓の騎士][+魔力放出(風)]

狩人の乙女[+宝具][+逸話][+速射][+連射][+魔力矢]

最速の英雄[+宝具][+逸話][+全ての力(パンクラチオン)][+勇猛]

不撓不屈[+宝具][+逸話][+流派射殺す百頭(ナインライブズ)]

宝具[+星眠するは静寂の終剣(イルシオン・ステラスリーピング)]

[+星起きるは静寂の終剣(イルシオン・ステラアーリィ)]

[+静寂の終剣(イルシオン)]

[+不滅なる獄鎖の氷界(アブソリュート・アンスターブリケイト)]

不老不死[+竜の心臓][+勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)][+十二の試練(ゴッドハンド)]

感知[+気配][+魔力][+熱][+音源][+心理]

歩法[+縮地][+瞬歩][+天歩][+空歩][+光歩]

魔力操作[+魔力放出(炎)(風)(雷)(氷)(時)][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]

想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]

概念魔法»限界突破・言語理解

※«»内は隠蔽しているものです。

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表示された。

まぁ、元から此方に来れていたので隠蔽しておかないとバレたら絶対に逃げられない。俺は身内に念話で教えておく。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。

メルド団長からステータスの説明がなされた。

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない。ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

俺のステータスは弓兵と出ている。どうやら隠蔽には成功しているようだ。

クラスメイト達は上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていたこと。なら当然だろうと思いつつ、口の端がニヤついてしまう者がいる。「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

この世界のレベル1の平均は10ということが分かった。南雲のステータスは見事に10だったはず。南雲が嫌な汗を掻き、首を捻っているのでそうなのだろう。

メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

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天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

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「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

俺としては低いと感じる。

団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。

これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……

南雲のステータス欄にある〝錬成師〟を見つめる。響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。技能も二つだけ。しかも一つは異世界人にデフォの技能〝言語理解〟つまり、実質一つしかない。

だんだん乾いた笑みが零れ始める南雲。報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。

今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

その様子に南雲を嫌っている奴らが食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。

檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達は檜山を白けた目で見ている。

まぁ、マイナーなアニメな方だが【鋼の錬金術師】がこの世界であったので1度広めた所、かなりの人数が気に入ったのだ。それ故にやりようでは万能型になるだろうと一目置いている生徒が多い。

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗しつように聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの2人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉をひそめている。

香織に惚れているくせに、なぜそれに気がつかないのか。まぁ、彼女は南雲一筋なので無理だが。南雲は投げやり気味にプレートを渡す。

南雲のプレートの内容を見て、檜山は爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。

「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

次々と笑い出す生徒に香織が憤然と動き出す。しかし、その前に怒りを込めた声を発した者がいた。十六夜だ。

「へぇ、ならあんたらはレアな職種で高ステータス、技能もたんまりとあるんだな?俺はこんなんだぜ?」

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逆廻十六夜 16歳 女 レベル:1

天職:冠位万能(ミリオンクラウン)

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:正体不明(コード・アンノウン)・言語理解

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『……………な・ん・じゃ・そ・りゃあぁぁぁ!?』

「やはは、こちとら南雲と同じ技能1つだぜ?それに、使い様は千差万別だ。南雲がどう扱うかによって変わる。ま、天之河の様な成長補正は無いだろうがな。」

十六夜のステータスに毒気を抜かれたのかプレートが南雲に返される。

 

 愛子先生が南雲に近づき、励はげますように肩を叩いた。

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。

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畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

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ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。

確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。南雲のようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。

ちょっと、一人じゃないかもと期待したハジメのダメージは深い。

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「な、南雲くん! 大丈夫!?」

反応がなくなった南雲を見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄る。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

南雲に対する嘲笑を止めるという目的自体は達成したものの、上げて落とす的な気遣いと、これからの前途多難さに、南雲が乾いた笑みを浮かべるのだった。

因みに、俺達は皆見せた所、スタートが勇者より強い事に驚いていた。まぁ、そうだろう。俺らは一騎当千の猛者共だ。


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