中国 蓮花池公園 ---
公園の池の水に冷やされた宵の風が狼の長髪を宙に流した。
缶コーヒー片手に携帯端末でネットニュースをサーチしている彼は驚くべき速度でネット上に浮上していく廃工場群の破壊事件についての記事を読み眺めていた。缶コーヒーを鼻を啜る様に一気に啜ると、今度は常備している生薬の酒の小瓶を取り出した。
それを煽りながら、端末の中にあるSNSアプリを開き、さらにそこからも情報を読み漁った。どうやら、廃工場群が謎の現象によって地面基盤が抉れるほどに荒らされてしまい、集団的になんらかの組織が実験場として利用していたなどの説がみるみるうちに浮上している。実際に廃工場群を消し飛ばしたのは集中的に浴びせかけた魔力風圧弾だが、それを特定するには有象無象の大衆には役不足だ。
「アサシン。廃工場群にいた不法侵入者たちは全員死んだかい?」
『さぁ、ちらほらと見えた分は撃ったが、マスターが空から仕掛けた段階でそもそも誰も逃げていないとは限らないからな……とはいえ、弾が魔力で構築されている分、それが攻撃であるかを認識できる者はそういないだろう』
「んん。まぁ、あまり人を殺してもあれだし。戻っておいで」
『了解した』
空返事のようにも聞こえた応答から五分と経たないうちにアサシンは半霊体と化した状態で跳躍と霊体化を繰り返して人目に付かぬように狼の元まで参じた。とはいえ、もう既に陽が暮れてあたりはだいぶ薄暗くなったために、実体となっても動きを速めれば常人の眼にとまることもないだろう。
狼はカービンを解体して詰め込んだライフルバックを肩に担ぎ、小瓶を懐に仕舞った。
「さて、深夜から明け方にかけてまでにニューヨーク行きのヘリが僕を拾いにくるそうだよ。それまでどうしようか……」
「んん……マスター」
「どうかした?」
「あれだけ走破したというのに、マスターはまるで疲労を浮かべていない。流石に固有次制御に似た魔術を行使した後、これほどまでに平生と変わらない立ち振る舞いを見せるのは理解が及ばない」
「つまり、所作の一つとっても疲れを滲ませろって?別に疲れていないんだから構わないだろう。疲れないようにするコツもある。それに、僕の疲労は動作よりも見た目に現れてくるんだ」
そういうと、狼は自分の目尻を指さした。罅割れたように刻まれた深い皺がそこにはあり、かなり醜く耳裏までそれは伸びていた。それが強力な身体強化の代償だと言われれば、なるほどわかりやすいことはあるのだが、それでもあれほどまでの身体加速をそんな陳腐な外見変化だけで回収できる程度の代償など、やはり能力に釣り合っているような気がしなかった。
「………」
アサシンは押し黙り、静かに狼に向けて移動を始めた。
霊体化と実体化を繰り返す半霊体として、器用に跳ね飛びながらビル街を疾走し、狼のいる蓮華池公園を目指す。
駅舎から見下ろした際に見受けられた雑踏は和らぎ、宵の訪れを感ぜられるほどにどこか静けさが街を呑んでいた。
「アサシン。イタリアン調の装いをした妙な男を見かけたら教えてくれ」
「…承知したが、何か障害にでもなり得るのだろうか?」
「いや、どうにも見知った人が中国にきているみたいでね、見えるようなら挨拶でも、と」
「んん」
サーヴァントだからこそこうして宙を舞うような高速移動を可能としているが、そも生前のアサシンは狙撃兵だった男。地点観測には心得があっても、哨戒隊員のように自身の動きがある程度持続している中で見知らぬ特定の個人を発見することは容易ではない。遊弋しながらというならば或は可能であるかもしれないが、狼の口ぶりからしてそこまで躍起になることもないだろうと勘繰った。
それから少しばかり体を浮かせる時間を用意しつつ、同じように移動を続けた。
すると、蓮華池公園までもう少しという所まで来た。が、自然とその脚は止まり、数舜の滞空を経て重力に任せてその身が街路に降り立った。不自然に点滅する街頭の明かりがなんらかの高次的な力の発動を告げているようで、アサシンの視線は自然とその眼前に佇む男に注がれた。
何故この時、こうして脚を止めてまでその男と向かいあったのか、後で説明しろと言われてもうまく彼にはそれを自分の中で証明することは出来なさそうだった。
強いて言うなら、何か運命的なものを感じたのかもしれない。ある種死者であるその身に沸いた元来の生命的な直感に引き込まれたのかもしれなかった。恐怖でも、興味でもない、強く引き付けられる感覚。それはどこか春に芽吹いた若娘の抱く恋のようでもあり、極寒の地に取り残された遭難者の抱く絶望のようなもののようだった。
精神の相反とまではいかなくとも、確かにそこには意識や摂理と乖離した何かが確かにあったのだ。
「君は…。……死霊の類が仮の肉体を持ち、常時から見放せないような魔力を漂わせている。…驚いた、まさかこんなところで英霊と出くわすとは」
「聖杯戦争について知悉しているような口ぶりだな。イタリアン調の装いとなれば貴方は我がマスターの知り合いか?」
「……なんの話だろうか。さて、君も英霊なら私と口を長く聞くだけの暇もないのでは?」
男はどこか困惑した面持ちでそう言う。
「確かにな。そうだ。俺は貴方と声を掛け合わせるだけの理由も由縁もない。では、まぁ、いかせてもらう」
魂が浮遊したような感覚は自分とも驚くほどにふっと途切れ、自然と足早に彼は公園まで辿り着いた。
ライフルバックを担いだ狼はアサシンの到着を一瞥すると、携帯端末で行っていた誰かとの通信連絡を続け始めた。
ーーー とある街路
「今誰と話してたの?」
「いや、珍しいこともあるもんだよ。あれは英霊。聖杯戦争で見られるサーヴァントと呼ばれる使い魔の一種さ」
「見えなかったけど」
オジョウはコンビニで用を足し終え、留め置いたバイクまでジョージと共に向かった。
「SOFER層のいい例かもな。見ようとしなきゃ見えないものもいるって証左よ」
「ジョージがおかしくなっただけかもねぇ」
オジョウが面白がると、ジョージもまた少し微笑んだ。
「行くか、婆肝糺が搔き集めた匂いがもうかなり濃い。そろそろ対面することになるかもしれない」
「その婆肝糺って普段人に溶け込んでるの?バケモノが街にいたら騒ぎになるよね」
「いや、基本的には気体や霊体になっていると考えられてる。普段から異形を晒していると現代のありとあらゆるところで光ってる眼からはすり抜けんだろうよ」
ーーーーーーーーーーー アメリカ・ニューヨーク
ーーーーーーーーー 2nd Avenue 隣接
ーーーーーーー ホテル 【overture】
この時期の高級ホテルというのは何かと需要がある。
特にアメリカのニューヨークではクリスマスへ向けてかなり多くの企業や団体がイベントや関連企画を用意する風潮があるし、やはりそこでも一定の市場効果から経済が回される。やはり季節に見合った各所の動きというのはこの世界がある意味健全に成長している様子を伺うわかりやすい例でもあるし、毎年この時期のovertureではそういった商談を持ち込んだりするプレゼンルームも幾つか用意されているだけに会社系の利用者が多くみられる。
のだが、よもやアメリカの二番街ともあろう場所にかくも多くの宗教関係者が集結することもないだろう。まして、世界に散らばる個性強いさらに多くの魔術師が一堂に会するなど、もはや笑いの声がどこからか漏れ出しそうなものだった。
基本的に魔術師の多くは氏族社会の文化の中で育っているだけに血筋を重んじ、過去に衝突した他の魔術師家系とはなかなか相容れないこともしばしばある。さらに言えば政府や役人を嫌う者や近代兵器を厭う者も一定数いるわけで、ただでさえ宗教関係者や魔術師といった異様な存在がごった返しているホテル内の中でさらに溢れかえりそうなほど集結した、機関も所属もあやふやな政府関係者の顔が並べられるこの光景はそれだけで世界の危機的な性質を蓋然的に予覚するようなものだった。
overtureの最大キャパシティが二千人超という特大ホテルということもあり、一応は彼らを収めておくだけの空間は提供できているのだが、なんとも数日前から強制された機密保持の制約によりホテルマンたちは非常な息苦しさを感じ得なかった。
ーーー overture 最上階 臨時設置司令塔及び管制室及び即応会議設置室
「三十人の先遣に対して帰還は二人か。どう見る、ギーゼルヘール?」
「報告の通りの実情だとすれば『大敗』という名の表現が相応しかろうよ。アーカス・レイ。これでこの対策本部の方針が定まったのだから喜ばしいじゃないか。我々の仮想敵は晴れて『武力国家及び連立同盟』といったところにまで定まった」
「まぁ、そうなるよな」
毛色の違う面々がホテルに介したからとはまた一段二段と話の違った異常事態がこの対策本部を揺るがしている。無論、聖杯戦争などという儀式の中で国連本部がすっぽり特異点に呑まれたというだけでも十分すぎるほどの異常事態といってもなんら間違いはない。何しろ、この時代において一般人が視認出来る程度の発見敷居の低い異様な光景など、報道規制を仕掛けるよりも早く世界中に即座にバラまかれてしまう。それが生じて現状、大前提としていくつかの問題がこの異変に付きまとう。
一つは紛れもない人の眼からなる事態の究明活動。報道機関を筆頭に有象無象のライターやらカメラマンやらが日をまたがずに押し寄せるという野次馬の数。これではそも神秘の秘匿云々の前にこの魔術儀式及びその存在が全世界に向けて生中継されているようなものだ。
さらに一つとして特異点と化した国連本部のあった地点は直径1000フィートに及んで白濁した半球体上の煙の膜が立ち込めているということだ。しかもこの白濁した煙は常に一定の光度と明度を保っており、夜間では目に痛いほどその光が煌々と放たれている。これに影響されて興味本位でこの特異点に突っ込みだす者も少なからずおり、その都度それらが帰らぬ者となるのはやはり食い止める必要がある。集った方面の権力者が昼夜の奮闘によって打規模の封鎖と事態解決を試みる運動をしているが、大通りを封じればある程度効果的に人の侵入を阻める西側エリアとは違い、西側はほぼイースト川と隣接しており、やる気のある者なら水中を潜り進んで接近してくるものもいるので、立地的に様々な角度からの特異点接近を許してしまうのだ。
言うなればこれは戦時の内線戦略にも似ている。多方面において同時多発的に生じた戦線をどう処理するかでやはりこの危機によるさらなる混乱と世界の攪乱の程度を左右することになる。
また、対外的な侵入者に対してのみの対処でも手に余るということを構いなく、特異点内部から複数種の未確認存在の出現が発生している。人型のものから獣型のそれまで、統率性もなくふらふらと現れるあたりがゾンビ的なスローリーモンスターを思わせるが、出現個体によって動き方も行動の方向性もまるで違う。これらは即応的に『魔導存在』と呼称せざるを得ないが、それでもoverture側の対策本部をしてはこれらをいちいち捕獲して調査するだけの余裕は与えられてない。出現した地点は複数種のレーダーを重ね掛けすることで正確に割り出すことはできるのだが、先ほどの立地的条件からしても東側にはほぼ隣接した形でイースト川が流れている。幅にして2000フィートを超える川であるから対岸から迎え討つにしても動物的な乱数の生じる動きをされては対応にムラが生じてしまうのは避けられないし、そもそも対岸には押し寄せるようにカメラを並べた記者や野次馬が遥かに聳えている霧のドームを睨みつけている。可能な限り、イースト川の方向に出現したエネミーはその都度すぐさま排除する必要があるのだが、それもどこからどこまでをどうやって事に当たるかの思案だけで通常は数日かかってしまうくらい重要なことなのだ。
現状、西エリアは国連本部の霧のドーム付近には厳重な侵入規制が敷かれ、各方面からの圧力によって一番街は完全に封鎖された。そしてそこは事実上overtureから急ぎ足で派遣された魔導存在鎮圧部隊とドームから出現した魔導存在にとっての戦場と化している。幸いにして地の利ばかりは鎮圧部隊側にあることから、エネミーに対して有効とまではいかなくともある程度の有利を保持したまま、なるべく人的損耗を生じさせずに鎮圧にあたれている。しかし、それでも決して死人が出ていないわけではなく、ほぼ断続的に排出されるエネミーの対処にあたる鎮圧部隊の出動サイクルもコマンド・ポストの循環も十分に回転しているとは言い難かった。
何分、そもそも実力部隊として国軍をそのまま流用するわけにもいかないのだ。事の次第を国家権力のどのあたりまで開示し、協力すればいいのか、それ自体魔術師にとっての大きな命題であり、人間同士だからと簡単に手を繋いで事態に正面から向かうことは決して容易ではない。
事実、不可抗力的にoverture側の混成機関は一般人のいくらかを殺害してしまった後だ。どうしても事態の追求をしようとして戦場につっこんでくる記者やカメラマンなどをいちいち区別していられるほどの余裕すら、戦場にはないのだ。さらにイース川を船で移動して特異点に接近する好奇心溢れた若者を狙撃銃でそのまま撃ち殺して不可視の迎撃ラインを既に敷いていたりもする。この未曾有の現象下で殺人が正当化されるようなことはよもやあり得ないが、それでもovertureの管理できない範疇で人の手がこの特異点に加わることはどうしても避ける必要があることなのだ。
しかし、overture側の本来の目的というのはそもそも特異点に集まってくる野次馬の撃退や特異点からあふれ出る未確認生命体の鎮圧なのではなく、この特異点そのものに対する調査と状況把握である。ただでさえ余裕のない状況下であるというのに、それでも有象無象を未知の世界に突っ込ませるわけにもいかないということでかなり熟達した各方面の混成部隊を先遣隊及び調査班として三十人ほど向かわせたのだが、帰ってきたのはわずか二人であり、さらに彼らの持ち帰った情報というのがなによりこの対策本部を困惑させる要因となっていた。
「ヒトが棲んでいた。言葉も服装も見た目も大きく違ったが、それは確かに人間であり、理解力と協調性を持ち合わせた知能生命だった…と」
「特異点というからには『中身のほう』は決して直径1000フィートってことはないと思っていたが、国家がいくつか成立するほどに巨大とはなぁ。パラレルワールド、この場合は並行別世界というよりは時間軸、空間座標自体の摂理がこの世界とは乖離したそれといった方が当てはまりそうだな。まったく、高位存在は人間世界に深く干渉してこないものだと思っていたのだが、どういう風の吹きまわしだろうか」
「さぁて、これで干渉していないつもりかもしれんよギーゼルヘール?…奴は粘土細工みたいに空間だけ用意して生命の種をそこにバラまいたに過ぎないのかもしれない。その空間を世界に換えたのは紛れもない人間。あの特異点の中で生まれた人間の文明かもしれない。…それに完全乖離のパラレルワールドと君は言ったが、僕はそうは思わない」
「ほぉ?」
「完全乖離のパラレルワールドだとしたら、まぁ、あの霧の説明が付きやすいというのはわかる。あれが完全乖離による空間の歪みのエネルギーをこっち側とあっち側に分散させて中和効果を発揮していると思うんだろう?」
「ああ」
「だが、ドームから出現している魔導存在には幾つかこちら側の歴史に見られる武具武装の概念を匂わせるヒト型生命もいくらか排出されている。ちょうど古代の各文明の長所と短所をこちゃまぜにしたような武装だけど、いくらヒトだからって同じような思想に陥るにはいくらか条件的な集約性と制限性が働く、とはいえ、彼らの世界がどれくらいの文明レベルを保持して勢力を編んでいるのか、となれば話は少し異なってくる。だって出てくるエネミーは毎回少しずつ違うわけだし、ヒト型存在の武装形態もちょっとずつ違う。それにこっち側の世界に対して学習能力を発揮して武装を変えているわけじゃない」
「何が言いたいのかわかりにくい物言いだが、まぁ、理解した。お前が言いたいのはあのドームの中では順調に歴史が育まれている文明の成長が発生している、ということだな。なるほど、完全乖離のパラレルワールドというよりは相対性理論的な時間軸の関係性があると?」
「そう。向こうの世界が存続するにあたってこちら側の世界は人間の完成系、というか、人間の現状のモデルを無意識に向こうの世界に提供している、それがどういう手続きをへてむこうに影響を与えているのかは推察が及ばないけど、そういったモデル像の提供を受けて向こうの世界ではこちらの一日あたりに十年だか百年だかの文明成長を遂げているということさ」
「ふっ、だがこの対策本部の方針に変化はなさそうだな。自体の早期解決が望まれるが、相手がこちらの予想を遥かに上回る勢いで成長する国家体だと考えると、長く放置すれば武装国家がニューヨークのど真ん中にあるっていうとんでもない状況が生まれてくるわけだ」
「ま、わざわざ高位存在が我々と新興別世界国家との戦争を防いでくれるとも思えないしねェ」
「衝突を止める子は微塵の無いのだろうが、同じように戦争を誘引するような気もありはしないのだろうよ。単にあのドームの中で育った文明がいかようにこちらに干渉してくるかどうか、その際に我々が武力と以て制圧するか、否か……無論、手に余ることばかり積もり積もった現状からして、我々にのんびり考えて選択肢を熟考するだけの猶予もない」
「高位存在にとってはただのゲームか……しかしなんでまた聖杯戦争なんてマイナーな儀式を掘り起こしてこんな世界を揺るがせるような状態を作ったのか……」
「それも考えるのは我々の役目だが、まずは人事が第一だ。人事の構築と適応的な接続システムを構築できなきゃミジンコみたいな我ら二人がこの大量の混成組織を纏め上げることになる。それは流石に動きに限度があるし、第一我々二人では全体の隅々まで把握出来やしないだろう?」
「まぁ、今回の事件ではこれから起こるいろんなことが緊急事態かつ予測不能なサムシングだろうし、極論は各自の判断と献身的な活躍で補うしかないこともあるだろうけどね。…とにかく社会からの眼を意識するのは神秘秘匿機関『ゲルダ』に任せるのが良い。あれらはあれらで好き勝手やらせないと窮屈だろうし」
「イルミナティは扱いが面倒だからな、そもそも魔術師が組織的行動に向ていないのもある。時計塔と聖堂の者たちが同じ空間に押し込まれてるこのホテルも決して安全じゃない、だが、使える者は使い潰すくらいの意気でないとこの事件は乗り切れないだろうな…」
「アーカス。最終的な全体指揮はお前に任せる。その下に二つの大きな括り、魔術師と非魔術師で組織系統を二分させ、その下に七ツずつ役割ごとに機関を設ける。ひとまず、この場に集まった者たちだけは俺が一括して人事を担当しよう、細かいところは各所の責任者に委ねるのが良いだろうな。とにかく、今は現場に対する体力を落としてはいけない時期だ。先遣隊を新たに百五十人組織してドームに向かわせる」
「情報不足なのが心配なのはわかるが、百五十人はやりすぎじゃないか?推論通りならドームの中の世界の文明レベルは第一調査の時とは比較にならないと考えられる。それに、第一先遣隊は敵のサーヴァントも視認してるとの報告だ、あまり安易に人的損耗を被るのは避けたくないかい?ギーゼルヘール」
「いや、今は数千人でも数万人でも投入して情報を持ち帰るべきだ。何しろ敵は国家だからな。こちら側の常識や摂理通りに発展するわけがない。わかりやすい危機としては、向こう側がこちらを侵略対象として認定した場合に起こる大規模戦争だ。マサロスの人口論でもある通り、人間は生活に使える資源が足りなくなる段階まですぐに増える。意外とこれが無視できない。自分の所で飯が食えなくなったり、そうなりそうだったら御隣さんから奪いとるのが人間の原始的な礼節だからな。言葉が通じない国家相手なら『ROE』もないし、戦いかたすらまるで違うだろう。偶然、今の我々が奴らより軍事力で勝っているのだから、本来ならば叩ける今叩き切るべきだ」
「だが、まぁ、具体的な解決策としては現地に最終的に送り込むマスターたちの活躍に依るところが大きいのだろう?」
「そうさな。しかし、まずは敵を知り、金を使い、防衛ラインと迎撃ライン。そして戦争に使う人間資源を搔き集めることが求められるのだ。流石に異界の戦士相手に迎撃ラインを敷いても、マジノ線のようにはならないだろうしな」
「そういや、ROEがないなら、一応礼儀作法なしに武力を全力投入することも出来るわけだ。いや、まさか僕がそうしたいわけじゃないけどさ。選択肢には入るわけだろう?」
「ミサイルやら化学兵器やらを特異点に放り込むって?はは、頭がお花畑に寄ってるお偉方ならやりかねんな」