ロクでなし魔術講師と異世界憲兵 作:mocomoco2000
努力をし続ける、それが出来るものは天才である。
私には全く出来なかったもので、出来るものをみると少し黒い感情が混み上がってくる。
エルドレッド=ドゥール。
アルザーノ魔術学院の3年次生で学院内で変わり者と証されている。それもまず、オーウェルと関わってる時点で変人扱いされている。学年も違うのによく知り合ったなと思ったが、どうやらエルドレッドが動いて知り合ったらしい。
エルドレッドはオーウェルの存在とどんな奴かを知ると昼食の際、オーウェルの相席をしたそうだ。それも何度も。
「エルドレッドがついに壊れた」
と言われてもエルドレッドはめげずにオーウェルの所へ赴いた。
エルドレッドの野望にオーウェルが必要であると感じたからだそうだ。実際オーウェルと一緒に研究をするようになって己の野望に着実に近づいているらしい。
エルドレッドの野望というのは"最高の人形師"になることだ。
彼には姉がいて、アンリエッタ=ドゥールと言う。彼女は魔術が上手く扱え、魔導師として優秀で、何より"人形を扱わせれば右に出るものなし"と言われているそうだ。
そんな彼女といつも比べられ、失敗すれば姉のように頑張れと言われ、成功してもあの姉の弟なのだから当たり前と評された。それに苛立ちを感じたエルドレッドは家を出て学院に飛び込むように入学した。
「1年次生の頃は金に困り続けた」
親を頼らずバイトをしながら学費の金を稼いだ。住み込みのバイトだったから家賃とか食費の心配は無かったが、自身の研究……人形の研究は全然出来なかったそうだ。それでも筆記は学年首位を取る辺り、努力家なのだろう。そして2年次生になった時に彼の前に天災が現れた。天啓のようなものが降りたそうだ。こいつに関われと。一瞬バグXを想像したが、あれは転生をする際に起きた不具合。生きている者に関わることはないはず。
そして、オーウェルの信用をある程度勝ち取ると、住み込みバイトをしなくてもよくなった。オーウェルが学費を出すと言ったらしい。その代わりに研究の助手をやってくれと頼まれたそうだ。それを快く受け、今に至る。
スキターリェツはエルドレッドを常識人でありながら変人でもあると評した。
エルドレッドは己の野望に真剣に取り組んでいる。特に錬金術とやらをかなり勉強し、高速錬成というのが出来るようになった。一瞬で武器を生み出したのを見たとき、こりゃスゴいと思った。ただ、失敗したら廃人になる諸刃の剣らしく、あまり使わないそうだ。
そういった努力家というのが常識人で、変人というのはどういうことか。彼、人形の事になると本当に変人になる。人形が好きだからああなったのか、それとも姉に対する対抗心から生まれたのか分からないが、とにかく人形の事になるとどんどんのめり込んでしまうのだ。あのオーウェルですら、
「ハハハハハハ!!!!アイツに人形の研究をさせるとブレーキの効かない暴走馬となる!疲れ果てるまで放置するしかあるまい」
と言わせるほど。まあ、人形の事になった途端暴走するわけでもない。現に人形の腕とかの動作確認とかする程度ならのめり込まなかった。設計図とか書き出したりして………要するに何か火が付くような事が起きなければ普通の気の良い兄ちゃんである。知り合ってしばらくしてもどこで火が付くか、どうしたら火が付くのか未だに分からない。
5歳になってもスキターリェツのすることは変わらなかった。ただひたすら鍛練あるのみと。未だに前世の自分(イメージ)に勝てず、シュトゥーカ隊の急降下爆撃(イメージ。1度だけ淡い金髪ツインテにやってもらってそれを当時避けることに成功はした)にも負け、その鬱憤ではないが負け続けると気が滅入るので、エルドレッドとオーウェルが共同で作った戦闘用魔導人形を完膚なきまでに叩きのめした。
データを取ろうとして持っていたペンと紙を2人は落とすほど唖然としていたが、スキターリェツはこの程度で負けていたら不幸姉妹とかが繰り出す西村鉄拳とかに瞬殺されると考えていた。
鍛練しつつ、2人の要望を受けて実験に付き合ったり、掃除とかしたりと2人の研究に貢献した。まあ、この頃ゴーレム?とやらを作って実験をした際は
「手加減しろ。良いな?絶対にだぞ」
と言われたので、ああ"提督理論"かと思って本気で粉砕したら
「これはフリじゃない!」
と怒られた。どうやらこの理論は当てはまらない場合もあるようだ。
月日は巡り、いつもの日課のランニングを済ませて研究室に行くとエルドレッドが机に突っ伏していた。どうやら人形の研究の火が消えた状態のようだ。
スキターリェツはオーウェルがいないことの方が珍しいみたいなズレた感想を抱きつつ、端に置かれてる魔力を込めることで空気中の水蒸気を吸い取り、浄化させて新鮮な水を出す装置"いつでも水が飲める君"(オーウェルが作った中ではかなりマシな発明品)で水をやかん(スキターリェツがオーウェルに頼んで作らせた)に入れ、棚に置いてある茶葉(絶滅危惧種らしい。でも裏庭にたくさん咲いていたからそんなに貴重品ではないのだろう)を入れて、置くだけで一瞬で設定した温度にしてくれる装置"何でも温めます君"(オーウェルは"君"とか英数字を付けたがる節があるとスキターリェツは感じていた)で瞬時に暖めると、2つカップに注いで1つはエルドレッドの横に置いた。
ゆっくりお茶を堪能していたらスキターリェツがガチャガチャ作業をしてたからか、お茶の香りでなのか分からないが目を覚ました。
「………んん………また落ちてしまったか」
「おはよう。今日が休日で良かったな。学院があれば遅刻は確定していたぞ」
「ああ………次は気を付ける」
エルドレッドは横に置いてあったお茶を啜ってほぅ……と息を漏らす。
「その言葉、何度目だ?」
「…何度目だろうな………そういやリェツが来てからもう半年か………もう少ししたら長期休暇。それを越えるともう学生でいれるタイムリミットが近くまで迫ってくる」
「…………」
「オーウェルと出会って1年半。かなり目標に近づいたと思うが、まだまだアンリエッタに届かねぇ。もっと高みに行かなければ」
高みへ行こうとするのは間違っていない。現にスキターリェツも前世の己を越える為に日々鍛練を積んでいる。それはもう間違えないようにするため。あの馬車で刻まれた悔しさを味わいたくないため。
出会いがあれば別れもある。それは肉親であろうが起こる。なら、その別れを最高の別れにしたい。スキターリェツは2度大きな別れをした。1度目はあの白いコートを纏った赤き野望を秘めた女やドイツの将校帽を被った規律に厳しい女。そんな彼女たちを纏める白い軍服を適当に着てる男。
2度目は今世の両親、村の人たち。眠らされたとはいえその原因を作ったのはスキターリェツ自身。もっと上手くできていたら、もっと強かったらと後悔し続けた。
後悔したから今の自分がある。そして、その後悔があるから上へ上へと高みへ行こうとする。失敗は成功のもととよく言うが、あながち間違ってない。失敗という糧を得ることで己のレベルを上げているのだから。
だが、エルドレッドはどうだ?
彼は姉を越える、最高の人形師になるばかりだ。たくさん失敗しただろうが、それをちゃんと糧にしているのだろうか?
彼は姉を越えた先をちゃんと見据えているのだろうか。それを伝えたいが肉体が5歳のスキターリェツでは多分言っても効果がない。何か方法があれば良いのだが………。
「そういや、お前の使ってる短剣ってなんなんだ?」
思考の海に浸っていたら急に声をかけられた。急いで海から這い出てエルドレッドの質問に答える。
「何なのだと言われてもな。特殊な短剣としか言いようがないな」
「それは分かってる。じゃあ、質問を変える。それはどこで手に入れた?」
「村にいた頃にたまたま遺跡の近くに停泊してな。その際に潜り込んで手に入れた」
「……………待て、遺跡に入ったのか?」
「ああ。大人たちは危険だから入るなと言っていたが、さほど危険ではなかった。何人か負傷していたが、ありゃ不意討ちを食らったのだな。それで体勢を乱されて一気にダメージを受けた。そこそこ入り組んでいたから仕方ないと思うが、その程度で危険と判断するのは早計だろう」
「………………つまり、1人で入ったのか?」
「そりゃ1人で入ったさ。皆行きたがらないし、そもそも鍛練のために入っていったようなものだ。その時に武器庫を見つけてこの短剣を手に入れた」
「ちなみにいつ?」
「短剣を手に入れたのは…………2つの時だな」
唖然とするエルドレッドを他所にスキターリェツはまた思考の海に浸っていく。そういえばあの翡翠色の直剣、後数年したら振るえるだろうな。だが、あの直剣は手元に無いし、そもそもあの遺跡がどこにあるか分からない。無理やりにでも引っ張ってきたらよかったと少し後悔していた。
「こほん。それで、この短剣って抜刀しなくても良い剣なんだよな?瞬時に手元に飛び込んでくる」
「………あ、いや、少し違うな」
「は?どういう意味だ?」
スキターリェツは懐にある短剣を出して抜き取る。
「この短剣を持ってある程度魔力を込めたら、レプリカを創造してくれるんだよ」
「……………はあ!?それってつまり」
「魔力が尽きない限り永久に剣を生み出してくれるんだよ。《用意》」
左手に短剣を持って、右手に魔力を込めると左手にある短剣と全く同じモノが現れ、その2つをエルドレッドの前に置いた。
「どちらがレプリカかと言われても分からないだろ?」
エルドレッドは2つの短剣を吟味する。持ってみたり、振ったりしてみて
「確かに、どっちが本物だと言われたら分からないな」
と短剣を置いてうーむと唸った。
「まあ、少し振ったり見れば分かるがな」
スキターリェツはレプリカの方を握ると、短剣は粒子となって消えていった。
「そうなのか?」
「そりゃハリボテなのだから分かるだろ。ハリボテに生命は宿っていないからな」
「………………なあ」
短剣を鞘にしまって懐におさめているとエルドレッドが神妙な顔でスキターリェツを見た。
「ハリボテでも魂が宿れば本物になるのか?」
「……………どうだろうな。だが《用意》」
スキターリェツはまた短剣を出し、手早く複製した短剣と一緒に机に突き立てる。
「例えばこのハリボテにお前の魂が宿ったとしよう。それはハリボテではなく"本物"になる。だが、それはこちらの"本物"とは別の"本物"になる。で、この短剣に宿った魂がこちらのハリボテに移ったとしよう。そうなればハリボテは"本物"となり、"本物"はハリボテになる…………あくまで私の考えだが、質問に答えられたか?」
「あ、ああ。お前の言いたいことはわかった」
そうかと言ってスキターリェツはこの場から立ち去ろうとする。慌てて止めて剣を忘れているぞと言ったら、
「今は貴殿が必要していると思うから置いておく」
と言って今度こそ立ち去った。
エルドレッドはじっとその短剣を眺めているのであった。
どうも。やわらか戦s………けぷこんけぷこん。モコモコです。
何だかんだで5話?まで来ました。そして思うのです。いつになればグレン先生やらルミア、クリスティーナ……間違えたシスティーナに会えるのだろうか。でもまだ時期的にグレンはまだグレンという名前でなかったし、ルミアもまだルミアという名前ではない。
あー、キンクリして原作まで加速させようかな(止めろ)
友人に言われたのですが、
「なあ、これヒロイン未定ってタグ付いてるけど女性出てきた?」
……………………………出てきたよ!回想でな!
というわけで急展開な私に急展開を求めて来た(皮肉)友人に鉄槌を下しつつ今日も必死に綴っていこうと思います。
友人みたいな皮肉、ジト目な感想どしどしお待ちしております。
ただ私の精神は豆h――――