あ、おかしい箇所とかたっっくさんあるかもです。ご注意を。
「アイドル...ねぇ...」
結局あの後、考えさせてくださいという断る決まり文句みたいなやつで武内さんから逃げてきた私達は家に帰宅した。
今のお父さんとお母さん...というか、引き取ってくれた夫婦にそう呼んでと言われてるんだよね。恥ずかしいったらありゃしない...あ、話が迷子になっちゃった。まぁ、お父さんお母さんは共働きだから家にいるのは私達だけ。9時ぐらいまで1人だ。
...アイドル...かぁ...
『...一応名刺はもらってしまった訳だしな。その会社がホントにあるか調べてみようぜ』
「もう嘘って感じはしないけど...一応見てみよっか」
パソコンを開いて『美城プロダクション』と検索をかけてみる。するとびっくり、超絶大手のプロダクションであることが判明した。
テレビとかあんまり見ない私やコウでも分かるような俳優さんや女優さんが所属してるのを見て...もう言葉が出なくなっちゃった。
『...マジである会社なんだな。なら尚更不思議だ...なんでこんなところにその社員がいて、なんでルリがスカウトされちまったんだろうな』
「た、確かに...」
コウの反応に一部おかしなところがあったような...とりあえず置いておこう。
でも、私達がスカウトされちゃったことは覆せない事実。今考えるべきなのは...この話を受けるか受けないかだ。
『...ルリとしては受けたいんじゃないか?まだ小さいときにアイドルに夢中になってた時期があっただろ?』
「そ、それは本当に小さいときの話だよ!...それに、コウはどうなの?」
『ん、オレかー?..................まぁ、興味がなかったって言えば嘘になるな』
照れるようにして話すコウ。可愛い。
...オホン、とまぁ私達は興味があるわけなんだね。だけどそしたらこの地元離れなきゃいけないわけだよね。この会社東京にあるし...東京かぁ...遠いなぁ...
『ま、仮にアイドルになるとしたら、オレの存在は隠さないといけないな』
「...え?」
『だってそうだろ?基本オレの存在は周囲の人に隠してるしな』
そうだった、コウのことは学校の友達にもお父さんお母さんにも隠してるんだった...だからコウは体育のときでも周囲には私っぽく振る舞ってる。かなり違和感あるけどね...
で、でもそれは...
「それはコウが言ったからで...」
『ルリが周囲から変なやつ認定されてほしくないからな。アイドルになるとしてもルリが変なやつって思われないようにオレを隠すべきじゃないのか?』
「......」
...ほら、出たよ。コウはいつも私を優先する。たまにはわがままとか言ってもいいのに...コウも私なのに...
「...まぁ、それは後で考えようよ。今は受けるか受けないか...だね」
『あー...そうだな。んで、どうするよ』
コウもやりたくないわけじゃないし、私もどっちかって言えばやりたい。なら決定はしてるわけだけれども......
「問題はお父さんお母さんだよねー...」
『...そういや、かなり過保護だったな。あの二人』
そう、私達が孤児院からこの家に引き取ってもらったときからなんだけど、お父さんお母さんは物凄く過保護。それは私達が初めての子供だから...なのかな。どういうわけか、お母さんの体は子供が作れないらしい。だからなのかもしれないね。
でも、それでもお父さんお母さんが私達にくれる愛情は本物だ。本当に感謝しても仕切れないよ...
...まぁ、そこが欠点なんだけどね。
「仮にアイドルやりたいって言っても...お母さんはいいとして、お父さんは賛成してくれるかなぁ」
『反対...されるだろうな。あの人は芸能界に携わってるしな』
ま、とある雑誌の会社なんだけどね。そこまで大手じゃないけど。でも時々、芸能人の特集とかしてるから...多分芸能界には詳しいはず。だからそれに関してなんか言われそうだなぁ...
お母さん?あぁ、あの人は『貴女の人生、好きに生きなさい。どんな結果になろうと全力でサポートするから』というめっちゃいい人だから。
──もうちょっと考えてみようかな。まだ...まだやるって決めたわけじゃないし、私達をスカウトした理由も気になるし...
「...コウ、コウは...アイドルってどう思う?私じゃなくて、コウ自身がするって考えてみて」
『んー......難しいな...まぁ、楽しいとは思うが...』
そっかぁ.........
◯ ◯ ◯
考えに考えてみて──次の日が来てしまった。
いつものように過ごそうとしてもぜーんぜん授業とかが頭に入ってこなくて...気付けば放課後に。
──今日の課題?...あぁ、確か忘れましたーって言いに行ったと思う。凄く珍しそうに見られたけどね...だって調べ損ねちゃったし...仕方ないね。もしかしたらだけど......昨日のやつは全部夢だった可能性あるよね。うん、そうじゃなきゃ私達がスカウトされる理由が無いし...うんうん、そうだよ。きっとそうだ。
「...すみません、お時間宜しいでしょうか」
...夢だけど、夢じゃなかった。
「...大丈夫です武内さん。私達のほうもそう思っていましたし」
『お、おいルリ?』
「私『達』?......まぁ分かりました。では、立ち話もアレですのであちらの公園のベンチに」
私達は武内さんの目線の先にあった小さな公園に行き、ベンチに座り込む。第三者から見れば一つのベンチに中学生女子とスーツを着た高身長の男性が座ってることになる...彼らはどう感じるんだろう、と呑気に考えていた。
「あの、申し訳有りませんが...お名前を教えて頂けませんか?」
「あぁ、そういえば名乗ってませんでしたね。『凉月瑠璃』です。とりあえず、よろしくお願いします...あ、出来れば名前で呼んで貰えると嬉しいです」
「はい、よろしくお願いします......瑠璃さん」
...さて、そろそろ質問しようかな。
「あの...なんで私達なんでしょうか。周りから私達を見てもそこらにいる一般人と何も変わらないと思うのですが」
『「達」をもう使うなルリ...普段はそんなことしないだろ?』
コウ、黙ってて。私は今武内さんの答えを待ってるから。
武内さんはほんの少し間を置いて、真剣な目付きになってこちらを向き、言った。
「──笑顔、です」
「...え?」
「ですから、笑顔です」
...えぇ...本気?笑顔だけで普通そこらにいる少女をアイドルにスカウトします?
「貴女の笑顔は人を惹き付け魅力することが出来ると思いました。だから私は貴女をアイドルとして輝かせたい......これが理由です」
...この人本気だ。ってあれ?...私昨日笑ったことあったっけ?
『昨日帰ってるときに高校調べることに対してウキウキしてたろ?あそこで多分笑ってたんだろうよ』
あ、補足ありがとねコウ。
なるほど...笑顔、笑顔ねぇ......うーん...ちょっと納得いかないかも...
「...あの、すみませんがこちらからも宜しいでしょうか」
「あぁはい。アイドルの件ですよね?私個人的には受けたいと思っているのですが...」
「いえ、勿論それもあるのですが...どうしても気になることがありまして」
気になること?それって私やコウでも答えられるやつなのかな?...うーん、思い付かないな。
「その、先程から言われてる私『達』とはどういうことでしょうか。差し支えなければ教えて頂きたいのですが...」
...あー。それかぁ...
『おい、どうするつもりだルリ?お前がドジったせいで変なことになっちまったぞ?』
変なことって...まぁ、寧ろ想定内だよ、コウ。
『...まさか』
やっと気付いた...まぁ、もう遅いよ。
「武内さん。『二重人格』ってご存知ですか?」
◯ ◯ ◯
瑠璃さんとの出会いは本当に偶然。私はここに出張として来ていて、その営業の帰り道で見かけたというものだ。その時の私は瑠璃さんのことが少しだけ気になり、チラッとなるべく自然な形で瑠璃さんを見た。その瑠璃さんは──
──物凄く可愛らしい満面の笑みをしていた。
これから私が担当するアイドル部門の新プロジェクト...シンデレラプロジェクト。『女の子の夢を叶えるプロジェクト』として上のほうからも期待をされているのだが、まだ肝心のメンバーが集まっていない。だから現在そのメンバーを探している状態だ。そんな時に見かけたのが瑠璃さんだ。
───この子なら、この笑顔なら、絶対に輝くアイドルになれる。
私の中で何かを感じた。恐らくこれが所謂『ティンときた』なのだろう。
思わず私は声をかけていた。
『...あの、アイドルに興味ありませんか?』
『...はい?』
初対面としては、かなり駄目だったのではと今更ながら思う...が、あれが精一杯であったと思う部分もある。
私は自他共に認める口下手だ。一度それが原因で......いや、今はそれは関係ない。とにかく、瑠璃さんから見れば私はとても変であったであろう、ということだ。
しかし私はそんなことはお構い無しでその概要について説明をした。あまり時間を取らせないために簡潔に、しかしきちんと内容がはっきり伝わるように...それが良かったのかは不明だが、瑠璃さんの話を聞いてくれる態度はしっかりしていた。と同時に、アイドルに興味がありそうな要素もチラチラと見せてきていた。
だが、時々瑠璃さんが発する言葉に疑問が生じる点が多々あった。それは『私達』という言葉だ。最初はそういう一人称なのかと思っていたが、そのようではなく、本当に自分ともう一人いるような感じで話す。
結局その日は名刺だけ受け取ってもらい別れることとなった。予定表の滞在期間を確認したら、まだ十分に時間がある。明日のこの時間にまたここに来よう。そうすればまた会えるかもしれないから。そう決意し、とりあえず帰宅した。
そして次の日。昨日決意したように同じ時間にその場所に訪れてみると...予想通り、瑠璃さんを見つけた。話をするために声をかけ、近くにある公園に誘導してみる。瑠璃さんは思っていた以上に乗り気で着いてきてくれた。
そこで私は名前を聞いていなかったことに気付き、名前を尋ねてみた。そこで変な顔をされるかと思ったが、瑠璃さんは普通に教えてくれた。珍しく瑠璃さんの方から名前呼びを推奨されてしまったが。
その後に瑠璃さんは私に質問をしてきた。曰く、何故自分なのか、と。ここでも『私達』を使っていたが、その疑問を飲み込み答えることにした。
私は迷わず『笑顔』と答えた。その時の瑠璃さんの表情は困惑気味であったが、追々そこについては納得してもらうこととしよう。
そして...私はこのタイミングで瑠璃さんに質問をした。内容は当然、瑠璃さんが多様していた『私達』について。もしかしたらただの杞憂かもしれないとも感じてはいたが、知的好奇心が勝ってしまったのだ。
その質問に対して出てきた瑠璃さんの返答は──
「武内さん。『二重人格』ってご存知ですか?」
──疑問であった。
そこで私は思考する。二重人格...一つの体に複数の人格があることだ。それに関して有名な作品は『ジキル博士とハイド氏』だろうか。一応私は「はい」と答えておいた。
「私が...そうなんです。私の中にもう一人の私がいるんです。私よりも強くて...格好よくて...そんな私が」
正直、そういう設定なのかと感じていた。最近の子供によく現れる『厨二病』みたいなものだろうと。
「もう一人の私...『コウ』って言うんですけど、コウはいつも私を助けてくれて。私は運動が苦手なので、いつも変わって貰ってるんですよ」
コウについて皆には秘密にしてるんですけどね、と苦笑いしながら言う。ならば何故私には教えてくれたのか、その疑問が立ち上るがすぐ瑠璃さんは続けた。
「コウのことを隠すのはコウに言われたんです。私が周りから見て変に思われないために...でも、もしアイドルをやるとしたら...私は『
少々早口になっていたが、言いたいことは理解出来た。おそらくそういう設定であろうが。
だが、その『コウ』というのに興味が湧いた。
「宜しければでいいのですが、その『コウ』さんとお話をさせて貰えませんか?」
「あ、はい。分かりました。じゃあ変わりますね」
そういって瑠璃さんは目を瞑った。すると──雰囲気がガラリと変わった。
目で見える変化なら、瑠璃さんの髪の毛の一部が黒青くなっていた部分が何故か赤く変化したことだろうか。
まるで別人と対面したかのような錯覚。ここで私は認識を改めた。これは設定ではなく、本当なんだと。
「...ったく、ルリのやつ...あ、すまんね武内さん。アンタはまっったく悪くないんだ。悪いのはオレのことを一切隠そうとしなかったルリだからな」
姿は同じなのにここまで違うとは...世の中分からないものだ。
「なぁ、武内さん。アンタは『ルリの』笑顔に惹かれたわけだよな?」
「...はい」
「なら、オレとしてはルリを応援したい。だからオレのことは隠してルリのことをプロデュースしてほしいんだ。ルリが...変なやつだと思われてほしくない。オレがいるせいでルリが邪険にされるなら...オレは喜んで無い存在になりたい」
かつてないほどの真剣な目付き。そこからはどうしても、という願いがこもった眼差しも見える...
...そういえば先程瑠璃さんは、コウさんもアイドルをすることに一応乗り気ではあったと言っていた...
───決めた。
「...
「...は?」
「貴女『達』なら、絶対に輝くアイドルになれます...いかがでしょう?」
瑠璃さん同様、コウさんにも少なからず魅力がある。そして二人で一人を形成する...個性を尊重するシンデレラプロジェクトにはぴったりだ。
「...明日まで、待ってくれませんか?」
「はい。ではまた明日、ここで」
「すみません、ありがとうございます...それでは」
いつの間にかコウさんから瑠璃さんに戻っており、とりあえずまた別れることとなった。
前回のとは違い今回は好感触。期待は出来る。
私は内心やりきった感を出しながら帰宅したのだった。