あ、いつもか。
また更に時が流れて──具体的には高校にもう入学して、学校生活が始まった頃──私達はとうとう、この女子寮で暮らし始めることになった。
でも、武内さん...いや、呼び方変えるべきなのかな?プロデューサーさんって感じ?...まぁいいや、武内さんに部活動は出来れば入らないで欲しい、と言われた。そりゃそうだよね。レッスンとかあるんだろうし...やる暇なんてないよね。ま、結局私達が惹かれるような部活動は無かったんだけど。
...ん、あの後どうなったのかって?勿論蘭子ちゃんから色々と案内してもらったり、ここでの決まり事とかの説明を受けたよ。残念ながら蘭子ちゃん以外は仕事とかレッスンとかで誰とも会わなかったんだけどね...
とまぁ、さっきも言ったけど今日からここで暮らすのね。お隣さん...誰なんだろ。挨拶はしっかりしないとね。荷物整理は粗方終わったし...うん、行きましょうか......緊張するなぁ。早く行かないと...あぁでも...うーん...
『...なぁ、とりあえずベル鳴らそうぜ?もう10分以上お隣さんの部屋の前にいるじゃないか』
「わ、分かってるよぉ!...でも...」
『あーもうじれったい!!さっさと行けよぉ!!』
「で、でもさぁ......」
うぅ、コウの声が脳に響く...でも確かにこのままじゃ、ダメ......いやでも!...でもなぁ...
「...ん、部屋の前に誰かいるのー?」
「ふぇ!?」
へ、部屋の中から声が!?...あ、当たり前か...
なんてあれこれ考えてたら部屋の扉が開いて、中から茶色っぽい髪の毛をした私達とほぼ同じくらい...うん、同じくらいの身長の女の子が出てきた。
『嘘つけ。オレらのほうが絶対身長低いだろうが』
「い、いいじゃん!脳内くらい自分の都合よくしてもさ!」
「...えーっと?」
「あ、ごめんなさい!...そして初めまして!今日から隣の部屋に住むことになります。凉月瑠璃です!宜しくお願いします!」
頭の下げる角度は60度。そして手には手土産の割と高めのお菓子!...これこの女子寮にいる人数分買ったんだよね。引っ越し当日、お母さんが買っとけ、って言ってそのお店の場所と買うものが書かれたメモとお金をバッと大量に渡されたんだ。使ってみればあらびっくり、お釣りは0円...残ったらお小遣いにしようと思ってたのに...
って、そんなことよりも...お隣さんの視線がさっきからこっちを品定めするかのようにギラギラしてるんだけど...大丈夫かなこれ。
「...この子が蘭子ちゃんが言ってた子だよね?予想と全然違う...」
「...へ?」
「あぁ、なんでもないにゃ!」
...にゃ?今にゃって言ってたよね?...猫?
「オホン...前川みくにゃ!アイドルは猫キャラでいくつもりにゃ!...とりあえず顔を上げてほしいにゃ」
「あっはい」
あ、みくちゃんの着けてるネコミミ可愛い。
...そしてなんでだろ。まだ観察してるかのような...疑い?とはちょっと違う感じの見られ方されてる...気にしないのが勝ちかな。
「...では、私達はこれで...色々とご迷惑をかけるかと思います。改めて宜しくお願いします!」
「宜しくにゃ!次からは敬語無しでいいよ。同じアイドルの仲間だし!」
「はい!...あ、うん!宜しくね!」
「じゃ、とりあえずまた後でにゃ!」
その言葉を最後にみくちゃんは部屋に戻っていった。しかも、手を振ってくれて...普通にいい人だったなぁ...可愛かったし。
っとと、まだだね。まだもう片方のお隣さんがいるもんね。よし、行こう!
『お、もう一人目行ったからもう他の人の部屋の前で止まることはないな!』
「え...あ...その...」
『...だー!!頑張れよぉ!!』
「...で、でも...」
「同士よ、我が神聖なる空間に通ずる門の前で何をしておるのだ?(瑠璃ちゃん、私の部屋の前で何してるの?)」
ら、蘭子ちゃん!?...へ、もしや...いやもしかしなくても...
「ねぇ、蘭子ちゃ......オホン、同士蘭子よ。そなたがここの空間の主なのか?」
きちんと言葉をこっちに直して蘭子ちゃんに聞いてみる。これちょっと楽しかったり...
『プッ、アッハハハハ!!ど、「同士蘭子」て!!空間の主て!!アハハハ!!!』
恥ずかしい......くっ、いっそ殺せ!
「いかにも!そこは我が神域であるぞ!...どうした同士よ。少し顔色が...(そうだよ!そこは私の部屋なの!...あれ、どうしたの瑠璃ちゃん。少し顔色が...)」
「な、なんでもないぞ同士蘭子よ!気のせいであろう!」
「そ、そうか...(う、うん...)」
あー恥ずかしさで絶対顔真っ赤だよ...うぅ、てかいつまで笑ってんのさコウ!!
『ハハハッ...なるほどな、これが受験後のことを頑なに教えてくれなかった理由かぁ...ま、逆に考えろよ。知ってるやつがいて良かったってな!』
「...そうだね。ポジティブに行こうか...」
ま、結局は全員にこの手土産渡すつもりだけどね...
「それで、そこで何をしているのだ?(それで、そこで何してるの?)」
「うむ、実はな同士蘭子よ。我らは今日よりそちらの空間...つまり、貴殿の隣に住まうこととなったのだ。その挨拶をだな...」
「なっ...これも、運命の導きか...!?(えっ...すっごい偶然!!)」
「フフッ、そうであろうな。改めてにはなるが...これから宜しく頼むぞ。そしてこれはちょっとした手土産だ。受け取って欲しい」
「な、これは...あの幻の秘宝の甘味...!!!(え、これって...あの中々高くて1日に百個以下しか製造されてないって言われてる幻のお菓子...!!!)」
お、どうやら気に入った様子。やっぱり女の子は皆お菓子大好きなんだねー...ま、私達も例外じゃないけどさ。
...あ、そうだ。コウのこと...どうしよう。紹介するのは確定として...うーん...
「...それでは、我らはここで立ち去るとしよう。ではな」
『あ、逃げやがった』
「うむ、闇に飲まれよ!(うん、また後でね!)」
...やみのまは挨拶って解釈でいいかな?とまぁ、なんとかなったね。
まぁそれで、部屋に戻ったわけだけど...つっかれたぁ...
『まだ二人しか挨拶してないだろ?...まぁ、少しくらい休憩を入れてもいいとは思うがな』
「コウッテヤサシー」
『おう、棒読み止めろよな』
◯ ◯ ◯
暫く何もする気力なくて...ここでダンスの練習するって案もあったけど一応ここは私達だけの場所じゃないし止めたんだよね...とにかくずっと横になってボーッとしてたの。
そして気付けば外は真っ暗。時間は...7時!?何時間ボーッってしたの私ぃ...!!
『...まぁ、今回はオレが声をかけなかったのも悪い。すまなかった』
「んーや、コウは気にしなくてもいいよ...はぁ、とてつもなく時間を無駄にした感じ」
これからどうしようか...と考えを巡らせていると──こんこんこん、と三回ノックが鳴った。言わずもがな、ここは私達の部屋。だから相手は私達に用があってきたのだろう...誰?
「瑠璃ちゃん!迎えにきたにゃ!」
「ふっふっふ...今宵の宴への道標となろうぞ!」
...みくちゃんと蘭子ちゃん?迎え?宴?...へ?
『とりあえず行こうぜルリ。このまま放っておくのはダメだろ』
「うん、そうだね」
私達は立ち上がって扉を開ける。待っててくれたのは案の定二人。そしてとてもニヤニヤしてる...何かしたっけ?
「これから歓迎パーティーにゃ!」
「主役は勿論...我が同士だ!」
へ、マジ?...凄く有りがたいなぁ...だけど、これじゃあ今出てる私だけがお祝いされてるみたい。どうせなら...
「コウの方にも楽しんで貰いたいなぁ...」
...あ、思わず呟いちゃった。多分そのせいで目の前にいる二人がポカン...となってる。
「コウ?...それって誰にゃ?」
「同士の友人か?」
そりゃまぁそうだよね。突然知らない人の名前出されたらこうなるよね...
『...やっちまったなぁ、ルリ。どうするよ』
「都合がいいね。一気にここでやっちゃうよ」
少し間を置いて私は告げる。
「実はね...私、二重人格なんだ」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ここ、346プロダクションのアイドル専用の女子寮は地方からやってきたアイドル達が共同生活をする場である。それはデビュー前でも関係はないのだ。
そして、その例であるまだ開始してないシンデレラプロジェクトのメンバーである『前川みく』と『神崎蘭子』と...まだ、姿は見せてないが『アナスタシア』がこの女子寮で暮らしている。
そこに入ってきたのが新たなシンデレラプロジェクトのメンバーである『凉月瑠璃』。他のメンバーより少し背が低いのが特徴であろうか。
当初、みくと蘭子ではそれぞれで瑠璃に対する印象はまるで違った。みくの感想は「ただただ普通の女の子」。言い方を変えれば「典型的なアイドルになるであろう女の子」だった。それこそ765プロの天海春香のようなアイドルを夢見る女の子みたいな。
一方、蘭子の持つ感想は「私の言葉をわかってくれる人」だ。以前住んでいた地域でも蘭子はこの調子。よってコミュニケーションが取れなくなってしまった。その結果であろうか、少し避けられていたのだが...あまり本人は気付いてない様子。ここに来てから避けられてはされないものの、コミュニケーションが相変わらずあまり取れないまま。そこで来たのが瑠璃だ。なんと、瑠璃は蘭子の言いたいことをほぼ分かっているかのよう!しかも同じ厨二病だったのだ...まぁ、これに関しては後程そうではないと気付くのだが。
とまぁ、そんな二人に突然の告白。
「実はね...私、二重人格なんだ」
当然二人は困惑していた。何を言っているんだ瑠璃ちゃんは。そういうキャラでいくつもりなのかな?等々考えていた。
「うん、実際に見せたほうがいいかな?」
突然瑠璃は目を瞑る...するとどうだろう。瑠璃の髪の青かった部分が赤く変色し、再び目を開ければ青かった瞳は赤に変わっている。ガラリと雰囲気も変わった。
みくは絶句した。当然の反応かもしれない。しかし蘭子はかなり興味深そうに楽しそうな反応を示す。
「あー...オレがそのもう一つの人格の『コウ』だ。ルリとオレが揃って『凉月瑠璃』ってことになってる。まぁ...宜しく頼む」
照れ臭そうに頭を掻きながら苦笑いをして二人にコウは向き合う。
しかし、そこには少し小さな畏怖の念が籠っていたことに二人は気付く。受け入れて貰えるだろうか。変に思われたりしないか等々...簡単に見破れることが出来た。
二人は顔を見合せ笑い合う。考えてることは同じのようだ。
「改めて宜しくにゃ!コウちゃん!」
「ならば初の解逅となるのか。では、改めて名乗ろう...我が名は神崎蘭子!闇に飲まれよ!(じゃあ初めましてだね!一応自己紹介するよ。私は神崎蘭子!よろしくね!)」
「そして訂正するにゃ!これから行う歓迎パーティーは『凉月瑠璃』ちゃんが主役にゃ!」
「今宵の宴はこの先だ。我らが案内するぞ!(パーティーはこの先だよ。私達が案内するね!)」
それを聞いたコウ...いや『凉月瑠璃』は...
「
二つが混ざりあったような奇妙な...でもどこか美しい声で返事をした。
色々と不可解な点があるかと思いますが...あったらすみません。
あ、ついでにあのお土産達は歓迎パーティーで全員に渡したそうな