中忍試験が開催される前日。木の葉の里に数ヶ所存在している演習場の一つで3人の下忍が修業をしながら会話をしていた。
「オイオイオイ聞いたかよ。今度の中忍試験、5年ぶりにルーキーが出るって話」
「まさかぁ、上忍の意地の張り合いかなんかでしょ」
「いや、その内の二つはあのカカシの部隊と最近話題のアスマの部隊だって話だぜ」
緑の全身タイツを着たおかっぱ頭の男とチャイナ服に身を包んだ女の会話を聞いていた日向一族特有の眼をした男、日向ネジは僅かに表情を緩めて口を開いた。
「面白いなそれ……だがリー、お前のその喋り方は違和感しか感じないぞ」
「そうですか?今度の中忍試験デビューの為に少し喋り方をイメチェンしてみたのですが」
普段とは違う喋り方を否定されたロック・リーはすぐさまいつもの口調に戻し、うんうんとネジに同意し頷いていたテンテンは手に持っていた苦無をぶら下げていた藁人形に投げつける。
「ま、いずれにせよ可哀想な話よね。その子達イジメられちゃうんじゃない?」
「そうだな。精々自分達の実力不足を悔やんで貰うか」
余程自信が有るのか余裕の態度を崩さない3人だったが、その二班と同じく試験に出る事になっている紅の部隊に対して、ほぼノーマークの状態であった事を後々後悔する事になるのだった。
中忍試験当日、俺は悩んだ末試験を受ける事にした。
最悪大蛇丸に遭遇した場合に備えてサクラとヒナタを連れて逃走する為の手段も何とか形になり、俺達は最初の試験会場となる忍者アカデミーへと訪れた。
「え~と、試験会場はアカデミーの301の教室よね。あれ?あそこで何か揉めてない?」
「本当だ。あ、あそこに居るのはもしかして」
ヒナタの視線の先には第三班の面々とその他複数の試験志願者達が試験役をしている中忍と言い争っており、俺はネジの姿を見つけて萎縮するヒナタを気遣い、ネジ達がこちらに気付く前にさっさと本当の会場である三階の教室へと移動する。
「でも、どうしてあの人達2階で騒いでたのかしら?あの程度の幻術普通引っかからないでしょ」
「その程度に騙されるなら試験を受ける資格すら無しって事だろ……何か用か?」
試験前に面倒事を起こしたく無かったから接触する事を避けたのに、試験会場の教室に入る直前の俺達に一人の男が絡んで来た。
「アナタがうちはサスケ君ですね。突然ですが僕と勝負して頂けませんか?」
「本当に突然だな。今から試験なのにそんな事する意味有るのか?」
俺に勝負を挑んで来た男は2階で試験官の中忍と揉めていたリーであり、サクラは近寄り辛い見た目に加えて慇懃無礼な振る舞いをするリーに忌避感を露わにする。
「何よアンタ。サスケ君に喧嘩売って何が目的なの」
「ぼ、僕は喧嘩を売っているのでは有りません。ただ、木の葉のエリート一族であるサスケ君に自分の実力が何処まで通じるか試してみたいだけなんです」
サクラの批判に顔を赤くして弁解をするリーを尻目に、俺はこのまま相手をせず教室に入ろうとするが、リーの体術をコピーする機会はこの時しか無かったと考え直して、勝負を受ける事にした。
「では……行きます!!」
「は、速い!?サスケ君気を付けて!!」
見た目とは裏腹にその動きの速さからリーが高い実力を有していると見抜いたヒナタが叫ぶが、俺はその警告が耳に届く前に印を結び終えて術を発動させる。
「水遁・霧隠れの術」
「むっ?目くらましですか!?」
リーの蹴りが俺に当たる寸前に上体を逸らしながら霧を発生させると、俺は間髪入れず別の術の印を結んでリーの追撃に備えた。
「見つけました!!そこです!!」
「グッ!?なんて重い蹴りだ」
サスケの発生させた霧は一時的にリーの視界を遮ったが、まだ術の持続時間が再不斬レベルに達していない為に姿を捉えられてしまい、サスケは予想以上の速度に驚きつつも写輪眼の先読みを駆使してリーの攻撃をガードし続けた。
「どうしたんですか!?守ってばかりでは僕を倒せませんよ!!」
「う、嘘……サスケ君が反撃出来ないどころか防御するだけで精一杯になってる」
ようやくリーの実力を把握したサクラに良い恰好を見せようと、リーは奥の手である蓮華を使用する為サスケを上空に蹴り上げる。
「これでトドメです!!表蓮華!!」
「クソッ、動けない……俺の役目はここまでだな」
そう呟くと同時にサスケの姿が消えてしまい、リーは驚愕した表情でもぬけの殻となった包帯と共に床面に降り立った。
「い、今のはまさか影分身ですか。そうか、最初の目くらましはこの為だったんですね」
自分が一杯食わされた事に気付いたリーは本物のサスケの姿を探すが、周囲を見回してもサスケを発見出来ないどころか誰一人見つからなかった。
「一体何処に隠れてるんですか!!出て来て正々堂々勝負して下さい!!」
リー以外誰一人いないという事はつまり、先程まで観戦していたサクラとヒナタも居なくなったという事にリーが気付くのは、担当上忍であるマイト・ガイが表蓮華の使用を咎めに来たのとほぼ同じタイミングであった。
影分身が自力で術を解いた事でリーとの勝負が決した事を察した俺は、本人の代わりにその場に残していたサクラとヒナタに変化させていた影分身の術も解除する。
そして実際に勝負した経験値と客観的に写輪眼で観察した経験を蓄積させて、先に試験会場の教室前に戻らせておいたサクラ達と合流した。
「ねえサスケ君、リーって人と影分身の勝負はどうなったの?」
「ああ、取り敢えず俺の負けって所だな。体術だけならリーが俺より強いのは間違い無しだ」
予想以上だったリーの体術を影分身経由とはいえ体感した俺は、素直にリーの実力を評価しサクラ達に伝えるが、サクラはリーが俺より強いという事を中々認めたがらなかった。
「でも、なんか納得出来ないわ。あんな変な恰好の人がサスケ君より強いなんて」
「見た目が強さに比例する訳じゃないだろ。それに勝負は負けたけど目的は果たせたから十分だ」
もっともリーはまだ錘を外したり、八門遁甲を開く等切り札を隠してる事は知っているが、今回の目的はあくまでもリーの基本的な体術をコピーする事なので特に支障は無いだろう。
「さてと、そろそろ中に入るか、っと?」
教室に入ろうと扉を開けると同時に中から一人のくノ一とぶつかりそうになる。
「あ、ゴメン。ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、おかっぱ頭で全身緑タイツの人見なかった?」
そのくノ一とは先程勝負を仕掛けて来たリーの同じ班員のテンテンで、恐らく今だ教室に来ないリーを探しに行くつもりなのだろう。
「ああ、ソイツだったらさっきあっちに居たぞ。案内しようか?」
「い、いいわよ別に。場所さえ教えてくれたら十分よ」
俺の申し出をテンテンは当然の様に断るが、正直言って情報収集が目的だったとはいえリーに負けた鬱憤が溜まっていなかった訳では無かったので、俺はサクラ達に先に中で待つ様に伝えると、八つ当たりと復興の協力者確保目的半々でテンテンをアカデミーの空き教室に連れ込むのだった。
「遅れてしまい申し訳ありませんでした」
「やっと来たか。お前を迎えに行ったテンテンはどうした?」
サスケとテンテンが連れ立って数分後、リーは試験会場へとやって来た。
「テンテンですか?僕は出会っていませんよ」
「入れ違いになったのか。仕方ないな」
そう言いながらネジは今テンテンが何処に居るのか白眼で探し出そうとするが、丁度その時教室の扉が勢い良く開かれると同時に教室中に響き渡る大声を発する下忍が現れた。
「俺はうずまきナルトだぁー!!お前等なんかにゃ負けないってばよ!!」
あまりにも型破りなナルトの登場に試験前で気が立っていた受験者達も一緒呆気に取られるが、すぐに宣戦布告されたと認識したのか一斉にナルトに向かって殺気を放つ。
「元気な人ですね。アレがガイ先生が永遠のライバルと言っているカカシ先生の班員ですか」
「うずまきナルトか。身の程知らずとは正にアイツの事だな」
リーとネジは教室の受験生全員を敵に回したと言っても過言では無いナルトの行動に、それぞれ違った印象を受けていた。
「お、お待たせ。まだ試験は始まって無いわよね?」
「遅いですよテンテン。一体何処に行ってたんですか」
騒がしくなった教室にいつの間にか戻って来ていたテンテンは息を乱しており、ネジはリーを探して校内を駆け回っていたのだと認識する。
「リー、テンテンはお前が遅れたから探しに行ったんだぞ」
「そ、そうでした。申し訳有りません。余計な手間を取らせてしまいました」
自分の発言が軽率だったと謝罪するリーにテンテンは気にしてないからと言って座席に向かうと、余程疲れたのかそのまま周囲の目も憚らず突っ伏してしまう。
その様子を見たネジは妙な違和感を感じてテンテンの元に向かおうとするが、ナルト達と音忍の一悶着とその後すぐに現れた試験官の森乃イビキ達が試験開始を告げた事で、今まで本当に探し回っていたのか確認を取る事が出来ずに第一試験を受ける事になるのだった。
「ではこれより中忍試験第一試験を始める。それぞれ指定の席に着いたら筆記試験の用紙を配る」
「ぺ、ペーパーテストぉー!?」
この作品のサスケはイタチが死んだとしても万華鏡写輪眼に目覚めそうにないのが現状抱えてる悩みの一つです