ロック・リーと我愛羅の試合が始まったその頃、二人の忍者が木の葉の里を抜け疾走していた。
「まさかアナタも大蛇丸様の部下だったとは思わなかったわ。只のうだつの上がらない下忍じゃなかったのね」
一人は第二試験初日にサスケに敗北し、その後大蛇丸の情報を聞き出す為に捕らえられていた音隠れの忍者キン・ツチ。
そして彼女を暗部の監視から救い出して共に行動しているのは本戦予選を棄権した後、姿をくらませていた大蛇丸の側近と言える立場の薬師カブトであった。
「それにしても木の葉の暗部連中を一人で片づけるなんて凄いわね。私を助けてくれたのは大蛇丸様の命令なの?」
「そうでもないよ。それに僕が受けた命令は君の救出じゃないんだよね」
そう言い終えたカブトは突然キン・ツチに詰め寄り髪を掴んで引き倒し、そのまま地面に押し付けてメスを突きつけた。
「ガハッ!?な、何をするのよっ!!」
「決まってるだろ。任務に失敗して更には木の葉の連中に大蛇丸様の情報を漏らした無能者を始末する。それが僕が大蛇丸に命じられた任務だよ」
淡々とした口調でそう告げるカブトにキン・ツチは恐怖を感じ逃げようとするが、首元に突き付けられた冷たいメスの質感に逃げる事は不可能であると察してしまう。
「た、助けてっ、もう二度と失敗しないから!何でもするから見逃して!!」
「君はもう用無しなんだよ。次のチャンスは生まれ変わった後に期待だね」
問答は終わりとばかりに振り上げられたカブトの腕にもう駄目だとキン・ツチは目を閉じると、メスはキン・ツチの黒い髪を切り裂き深々と地面に突き刺さった。
「ヒぃ!!……えっ?」
「なんてね。実は君を始末する前にもう一度だけチャンスを与える様に仰せつかってたんだよ」
状況が呑み込めず呆然とするキン・ツチに笑いかけながら、カブトは新しいメスを取り出して残りの髪を断裁していく。
「な、何がどうなってるのよ。それに私の髪を勝手に切るなんて」
「髪は女の命とでも言いたいのかい?だったらこの髪が君の身代わりになって死んでくれたと思わなきゃ」
ちょっと臭い台詞だったかなと苦笑するカブトは、散髪し終えたキン・ツチを立たせるとその姿を確認する。
「髪型はこんな感じかな。身長は君の方がやや高いけど、まあ誤差の範囲内だね」
「い、いい加減教えてくれたって良いでしょ?私をどうするつもりなのよ」
恐る恐る目的を尋ねるキン・ツチに、カブトは危険を冒してまで彼女を助けた本当の理由を説明しだした。
「いいかい?君は僕の整形手術を受けた後、今言った人物に成りきる為の訓練を受けて貰うよ」
今度こそ失敗は許されないと脅しをかけるカブトに、キン・ツチは先程の恐怖を思い出して首を縦に振る事しか出来なかった。
我愛羅の勝利で幕を閉じた第八試合の後、運良く予選を免れたシカマルを含めた俺達本戦出場者は三代目から中忍試験の本来の目的の説明を聞かされていた。
「一ヶ月後、この場に残った8名による中忍選抜第三次試験の本戦を執り行う。各々限られた時間を有効に活用し、精進するなり休養するなりして貰いたい」
「それじゃこの箱の中に有る紙を取ってね。一人一枚ずつよ」
アンコが持って来た箱の中からトーナメントの組み合わせを決める紙を取ると、そこには原作通りの流れなら4と書かれている筈の紙には1の文字が記されていた。
(俺が1?すると相手は……やっぱりコイツか)
俺の最初の相手となる人物は2と書かれた紙を引いた日向ネジであり、そして俺に代わって我愛羅と戦う羽目になった相手はナルトであった。
「ゲゲッ!?俺の相手はゲジマユを倒した砂のアイツかってばよ!?」
「俺の相手はあの女かよ。メンドクセーな」
トーナメントの組み合わせに分かり易く態度に表すナルトとシカマルとは対照的に、俺と戦う事になったネジは冷静な態度を変える事無く俺に視線を向けて来た。
(まあ好都合か。ネジにはいずれはヒナタの敵討ちしてやりたいと思ってたからな)
試合に私情を挟むべきではないのだが、先に私情を持ち込んだのはネジの方なので、俺は一ヶ月の間に何としてもネジの八卦六十四掌とリーの体術を完全にマスターしようと決意する。
「では、これにて解散とする。みんな御苦労じゃった」
三代目の解散宣言で受験者達はそれぞれ本戦対策の為に我先に塔を出て行くが、俺は事前に三代目に塔に残る様に指示を受けていたのでその場に残って次の指示を待った。
「さて、サスケには今の状況を踏まえて他の受験者とは別の指示をせねばならんな」
「前置きは良いから早く指示を出してくれよ。まさか本戦までの一ヶ月間またどこかで軟禁されるって言うんじゃないだろうな?」
俺の問いに三代目は心配無用と言って紅とアンコ、それに暗部の面を被っている夕顔に面を取る様に促し、本戦が始まるまでの間俺の護衛として24時間共に行動する様にと指示を出した。
「本当ならカカシやガイ、アスマ辺りにも護衛に就かせたかったのじゃがな。彼らの担当する下忍が本戦に出場するのに別の班員のお主に付きっきりでは、それはそれで問題が有ると意見が出ての」
ならば他の忍者を護衛に充てれば良いのではという余計な問いかけはせず、俺は都合の良い護衛のメンバー構成に感謝して、修業を行う前に紅達と共にヒナタが入院している病院へ見舞いをする為に向かう事にした。
そして病院に辿り着くと辺りは騒然としており、何があったのかアンコが看護師達に尋ねた所、俺が生け捕りにしていた音隠れのキン・ツチに逃走され、それを追跡していた暗部を含めた分隊が全滅してしまい生き残った重傷者が緊急搬送されたと聞かされる。
「クッ!!こんなに被害が大きくなってるのに試験を中止に出来ないなんて!!」
苛立ちを隠せず病院の壁を殴りつけるアンコだったが、俺は何故大蛇丸がキン・ツチを態々助け出したのかと疑問を感じてしまう。
何か目的が有ったのか現段階では分かる筈も無く、死者や行方不明者の中には日向一族の忍者も含まれていると知り、ヒナタにそれを伝えるかどうか苦悩しながら病室の扉を開けるのだった。
「よし、取り敢えず手術は9割終わりだ。コレが君の新しい姿だよ」
大蛇丸のアジトでカブトの整形手術を受けているキン・ツチは、鏡に映る自分の顔がまるで変化の術を使用したかと思える程に違和感なく変わっている事に驚愕する。
「こ、コレが私……えっ?声まであの女と同じになってる」
「当然だよ。声帯も弄ったから自然と彼女と同じ声を出せるに決まってるさ」
唯一の違いはその眼だけだねと呟くカブトは、時計を見ながら手術を完成させる物が届くのを待った。
「待たせたわねカブト。さあ、コレを早く移植しちゃいなさい」
「お、大蛇丸様っ!?こ、この度は私にチャンスを与えて頂き本当にありがとうございます」
手術室に現れた大蛇丸に感謝の言葉を伝えるキン・ツチだったが、当の大蛇丸はそれを無視してカブトに手術を完了させる様に指示を出し、キン・ツチは再度麻酔を打たれ意識を失ってしまう。
「それにしても良く手に入りましたね。移植可能な白眼を手に入れるには宗家の人間からしか無理でしたよね?」
「そうでもないわ。分家の白眼が呪印により封印されるのはソイツが死んでからなのよ」
「つまり、この白眼は生きたまま日向一族の分家の眼を取り出したんですか。相変わらず目的の為なら手段を択ばない方ですね」
容器から白眼を取り出してキン・ツチに移植するカブトは、何故本人を使うのでは無くこんな回りくどい真似をするのかと大蛇丸に訊ねた。
「理由は特に無いわ。強いて言うなら、木の葉にて最強の日向一族の宗家を本気で怒らせたくなかったからかしら?」
冗談なのか本気なのか分からない大蛇丸の返答に、カブトはそれ以上深く追求する事を止めて白眼の移植手術を終えると、キン・ツチが目覚めるのを待ちながら別の内容の質問を大蛇丸にする。
「しかし、本当にサスケ君は騙されてくれますかね?もし失敗したら僕の苦労は水の泡ですよ」
「それはこの捨て駒の演技力次第ね。それにもし駄目だったら、その時は本物を使うだけよ」
含み笑いをする大蛇丸の姿に、カブトはキン・ツチを整形して利用する本当の理由は偽物を使って相手を騙す事が好きな大蛇丸の悪癖なのではないかと思ったが、それを大蛇丸に確認してしまうと気分を害してしまいそうなので自らの胸の内に留めるのみにする。
「ああ楽しみだわ。柱間細胞に呪印、それにあの眼を開眼したサスケ君を手に入れるその時が」
サスケに転生を果たした自分の姿を想像して舌舐めずりをする大蛇丸の姿を見て、カブトは本当に厄介な人物に気に入られたとサスケに僅かだが同情するのであった。