結芽「もしかして……」

 夜見「私達……」

 「「入れ替わってるー!?」」

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 なんやかんやあって皆仲良くやってるパラレルワールド的な世界線です


ゆめよみえくすちぇんじ!

 親衛隊とは紫様を守るために結成された組織だが、それだけが存在理由ではない。

 僕、獅童真希は現在、仲間達と共に都市に出現した荒魂を討つために御刀を振るっていた。

 街は激しい雷雨に見舞われ通常の部隊は既に撤退している。

 無理もない、この悪天候の中で無数の荒魂と戦うのは並の刀使では荷が重すぎるだろう。

 だが紫様の刃として数々の修羅場をくぐってきた僕達にとってはこの程度何の問題もない。

 

 「このエリアの荒魂は全部片付いたようですわね。

 真希さん、次のエリアに向かいましょう」

 

 「あぁ」

 

 今荒魂討伐に動いているのは僕を含めた親衛隊の4人だけ、しかしすでに現れた荒魂の4分の3を仕留めていた。

 僕の力かって?

 いや違う、そこまで僕は強くないさ。

 この任務で倒してきた荒魂の半分以上が一人の親衛隊員の手によるものだ。

 

 「アハハハ! ほらほらもっと来なよ全部私が倒しちゃうんだからさ!」

 

 彼女の名は燕結芽。親衛隊第四席。

 四席というのは四番目に親衛隊に入ったという意味であり、実力は既に親衛隊の中でも群を抜いている(しかし末席であることを気にしているのか度々「四席と言っても私が一番強いけどね!」と言っている)。それどころか、刀使全体から見ても最強クラスであることは間違いないはずだ。

 さすがに紫様には負けるがあと数年したらひょっとして……と、思えてくるのは彼女の才能と成長速度からだろうか。

 

 年上の僕が言うのも変だが、僕にとって燕結芽は憧れであり、目指すべき目標だ。

 彼女が生きている限りは親衛隊の未来は安泰だな。

 ただ……

 

 「遅いよ真希お姉さん! 先行ってるね!」

 

 「結芽! 単独行動はやめろとあれほど言ったじゃないか!」

 

 「じゃあお姉さんが私についていけばいーじゃん。

 ついてこれればだけどねっ!」

 

 そう言うと結芽は聞く耳を持たず迅移を使い僕達から離れていく。

 全くお前というやつは何でこう一人で先走りたがるんだ!

 

 ……失礼、少々熱くなってしまったな。

 今のように刀使としての強さに対し精神が追い付いていないのがあいつの欠点だ。

 幼いころ親に捨てられた境遇のため、ちゃんとしたしつけを受けなかったせいなのかもしれない。そう考えれば仕方ないことなのかもしれないな……

 だからといって君の横暴を見逃すわけにはいかない、今でこそ若さゆえの未熟で済まされるがいずれはそうはいかなくなるぞ。

 結芽がやがて訪れる次世代の刀使の希望になれるよう導いてやらなければ、それこそが刀使の先輩としての僕の義務だ。

 待ってろ結芽!お前を立派な刀使にするまでは僕は絶対に諦めないぞ!

 

 と、決意を新たにしていると隣で寿々花がクスリと笑った。

 

 「フフフ……まるで結芽の父親にでもなったようかのですわね真希さん」

 

 「な、何を言ってるんだ寿々花? 僕は一言も喋ってないぞ」

 

 「真希さんの考えてることなんて(わたくし)には手に取るように分かりますわ。

 だってあなたって単純ですもの」

 

 やれやれ、君には敵わんな寿々花。

 序列上一席の僕が親衛隊のリーダーというわけだが、どうも僕は冷静に物事を見通すことが苦手で寿々花に頼り切ってしまっていた。そのため彼女が親衛隊における事実上の司令塔だ。

 そうしている内にいつの間にか僕の好物やスマホの暗証番号、今考えていることまで寿々花に見通されてしまったというわけさ。

 

 もし君が敵に回ったら、僕はあっという間に追い詰められてられてしまうんだろうな。何せ考えていることが筒抜けなら常に先回りしてくるはずだから。

 そう思うと寿々花は僕にとって最も恐ろしい相手になりうる存在で、そんな彼女が僕の相棒でいてくれるのは最高の幸運だ。

 寿々花、これからも頼りにしてるぞ。

 

 「私を頼りにするのは結構ですが結芽はどうしますの?

 あの子が向かった先とは逆の方向に荒魂が出現しましたわよ」

 

 「結芽を放ってはおけないが荒魂を無視するのは本末転倒だ。

 さてどうしたものか……」

 

 悩んでいると今まで一言も喋らなかった夜見が動き出した。

 

 「……私が燕さんのサポートに行きます」

 

 それだけ言うと夜見は結芽の元へ向かう。後ろの荒魂は僕と寿々花に任せたということか。

 僕としては結芽の方に行きたかったが今あいつに説教をすればムキになって余計暴走するかもしれない。

 その点夜見なら心配ない、彼女ははあまり自己主張をすることをしないが与えられた役目を着実にこなすことに定評がある。頼りになる仲間さ。

 

 結芽の援護にしても彼女の死角を徹底的にカバーしていくに違いない。

 確実に貢献し、されど決して目立たない、結芽の対抗心を刺激することなく彼女の力が最大限に発揮できる状況を作り上げる。

 結芽のサポートにおいて夜見以上の適任者はいない。僕や紫様だと結芽が張り合ってしまうからね。

 

 「それにしても奇妙な話だな……」

 

 「何がですの?」

 

 背中を合わせて戦いながら僕はふと感じたことを寿々花に話した。

 

 「結芽と夜見さ。感情が常に表情に現れる結芽と感情を一切表情に出さない夜見、何もかもが真逆の二人が戦いにおいては最高に相性がいいってことが不思議だと思ってね」

 

 「そんなに不思議なことですの?」

 

 僕の背後に回っていた荒魂を一刀両断してみせた寿々花は自分の見解を語る。

 

 「磁石だって同じ極性では反発し合いますが逆の極性なら引き合いますわ。

 第一私達だって話し方からして全く違うんじゃなくて?」

 

 なるほど、そういう見方もあるのか。確かに僕も寿々花のコンビニ弁当好きは理解できないし、寿々花も僕の話し方を真似するのは難しいだろう。

 全く同じよりも真逆の方が一周回って合うのかもしれないな。

 

 そんなことを考えている内に僕達は荒魂をすべて斬り伏せ、先に倒し終えた結芽と夜見もこちらへ駆け寄ってくる。

 これで今回の任務は終わり、降り続ける雨のせいで髪がビショビショ、雷も未だ鳴り響ているし早いとこノロの回収を済ませてシャワーを浴びたい。そんな風なことを僕は考えていた。

 

 

 あの時までは……

 

 

 

 ドォーン!!

 

 その瞬間、光が僕の目を塞ぎ鼓膜を破るような轟音が鳴り響く。

 落雷か!?まさかこんな近くに落ちるなんて……!

 

 「皆、大丈夫か!?」

 

 視力を取り戻した僕に目に最初に映ったのは寿々花だった。

 良かった、君は無事だったか。

 

 いや待て、様子がおかしい。手で口を抑えて、目を見開いている。

 何事だと思い寿々花の視線の先を見る、彼女が驚愕している理由は一瞬で理解できた。

 

 夜見と結芽が倒れているではないか!

 まさかさっきの落雷で!?

 二人は気を失っているのか動く気配がまったくない。

 

 「結芽! 夜見! しっかりしろ!!」

 

 僕の頭は落雷の瞬間の時のように真っ白になり二人に駆け寄ろうとするのを寿々花が引き留めた。

 

 「落ち着いてください真希さん! まずは救護班に連絡ですわ!

 冷静に対処しなければ助かるものも助からなくなりますわよ!」

 

 くっ……確かに寿々花の言っていることは正しい。どうして僕は切羽詰まった時に限って最善の道を選べないんだ!

 指示通り救護班に連絡した僕は一旦二人を雷が届かないところへ避難させる。

 寿々花が二人に必要な処置を施し、後は救護班の到着を待つだけだ。

 

 頼む結芽、夜見、無事でいてくれ。

 君達に何かあったら僕はきっと僕を許せなくなる……

 

◆◆◆

 

 うぅ、まだびりびりする……

 幸い写シを張っていたから怪我はなかったけどどうやら私、燕結芽は気絶して宿舎の医務室に運ばれたみたいだ。

 ついてないなぁ。

 

「おぉ! 目が覚めたか!」

 

 やだなぁ真希お姉さん、死んだ人が目を開けたような反応しちゃって大げさだよー。

 まだ痺れてるけど心配させないようにいつもの調子で振る舞おーと。

 

 「ゴメンゴメン、迷惑かけちゃったね。」

 

 私はいつも通りに笑ってみせた。

 これで真希お姉さんも安心して…

 

 どうしたのその顔?

 まるで幽霊にでも出くわしたかのような顔だよ?

 

 「お前...どうしたんだ?

 その表情と口調、まるで結芽みたいだぞ」

 

 「まるでもなにも私は結芽だけど?」

 

 「はぁ!?」

 

 まーたそんな顔して、意味わかんないよ。

 

 「大変ですわ真希さん! 結芽が目を覚ましたのですが……」

 

 だから結芽は私だってば。

 そう言おうとした私の口は寿々花お姉さんが連れてきた女の子を見て止まった。

 

 薄いピンク色の髪をサイドテールにまとめた小柄な女の子。

 この子どっかで見たことあるような……って私じゃん!?

 

 「えっ!? 何で私がいるの!? 偽物!?」

 

 自分の顔は見えないけど今の私すごい驚いているんだろうなぁ。

 私そっくりの女の子も私を見て驚いているみたいで……

 

 「……これは、どういうことなのでしょうか?」

 

 反応薄っ!

 表情も全く動いてないし顔は私そのものなのにまるで中身は夜見お姉さんみたい。

 

 ん? 夜見お姉さん?

 そう言えば夜見お姉さんいないけどどこ行ったのかな。

 視界に入るのは信じられないという顔で私を見つめる真希お姉さんと寿々花お姉さん、夜見お姉さんみたいな不愛想な顔をする私似の女の子。

 

 

 いや、まさか……

 フィクションじゃないんだからそんなことあるわけ……

 

 「真希お姉さん、スマホ貸して」

 

 「あ、あぁ……」

 

 真希お姉さんからスマホを借りると私はすかさずインカメラで自分の顔を見た。

 そこに映るのは見慣れた自分の顔……

 

 

 

 

 じゃない!?

 

 「えぇー!? 夜見お姉さんの顔になってるー!?」

 

 「今更気付くのか……」

 

 どういうこと!? 私が夜見お姉さんの顔になっていて夜見お姉さんっぽい私がいて……

 俺がお前でお前が俺で……わけわかんないよー!?

 

 「ねえ私のそっくりさん、一応聞くけど名前なんていうの?」

 

 「皐月夜見ですが? あなたは燕さんのようですね」

 

 間違いないこれ絶対夜見お姉さんだ。

 私が夜見お姉さんで、夜見お姉さんが私で、これって──

 

 「もしかして……」

 

 「私達……」

 

 

 

 「「入れ替わってるー!?」」

 

 ととと取りあえず落ち着こう!最適な判断をするのに必要なのは落ち着くことだって紫様も言ってたし。

 私はれーせーな判断をできるよう頭を枕に置き、布団をかけて目を閉じた。

 おやすみなさーい。

 

 「寝とる場合かーッ」

 

 もー布団はがさないないでよ真希お姉さん。気持ちよく眠れそうだったのに。

 でも一度横になったことで私はこの状況に関する推測がついた。

 

 「これたぶん(ゆめ)だ」

 

 「結芽(ゆめ)なら私の隣におりますけど?」

 

 「そっちの結芽じゃないよ。寝てる間に見る方」

 

 なーんだ、夢なら何でもありだからこんなことが起きたって不思議じゃないよね。

 でも夢にしては妙にリアルな感じがするなー、こういう時は頬をつねればいいんだっけ。

 えいっ

 

 「イダダダダ! な、何をするんだ夜見!? いや、夜見なのかこれ?」

 

 「痛みがある、これは夢じゃない!」

 

 「いや待て、そういうのは普通自分の頬でやるよな?」

 

 「ゴメンゴメン真希お姉さん、だって自分の頬でやったら痛いんだもん」

 

 「痛いから夢だって分かるんだろーが!」

 

 「やだなー、乙女の柔肌につねったあとが残ったら台無しじゃん」

 

 「僕も乙女だけど!?」

 

 自覚あったんだ……当たり前のよう男の子言葉を使うからてっきりそういうものなのかと。

 

 「はぁはぁ、本当に結芽と夜見が入れ替わっているみたいだな……」

 

 真希お姉さんは入れ替わっていること信じてくれたみたい。

 でも寿々花お姉さんはまだ半信半疑って感じだね。

 

 「あの、一応お聞きしますけど夜見さん」

 

 「……はい、何でしょうか此花さん」

 

 「あ、ごめんなさい。体の方と付け加えるのを忘れてましたわ」

 

 紛らわしいな!

 

 「結芽のいたずらに付き合わされている、というわけではありませんのよね?」

 

 「やだなー、私…じゃなくて結芽がそんな悪ふざけをするように見える?」

 

 「「うん」」

 

 ひどっ!真希お姉さんも同調してるし、よく見たら夜見お姉さんも首を縦に振ってるよ。

 

 「結芽お前、前に僕の包帯が邪気眼を封印しているという噂を流しただろ。

 あれを払拭するのにすごい苦労したんだぞ」

 

 「以前温めたばかりのコンビニ弁当がお漬物だけ温める前のものに入れ替わっていた珍事がありましたけど、あなたの仕業ですわよね?」

 

 ありゃりゃ、ちょっとふざけすぎたかな。

 反省する気はないけどこのままだと信じてもらえなそうだ、どうしよう。

 夜見お姉さん(体は私だけど)も何か言ってくれればいいんだけどなー、という私の心を読んだのか夜見お姉さんの口が開いた。

 

 「……私達が入れ替わっているのは事実です。

 仮に燕さんの遊戯に付き合わされているとして、私に彼女の表情が演じれると思いますか?」

 

 え、自分で言っちゃうんだ……

 

 「た、確かに……」

 

 「それもそうですわね……」

 

 事実だけどちょっとは否定しようよ!? 夜見お姉さんがなんかかわいそうな感じになってるじゃん!

 

 「…このことは私達だけの秘密にしておきましょう」

 

 「そうですわね。下手に話しても余計な混乱を生むだけですもの」

 

 私にとってはそっちの方が面白そうだけど仕方ないよね。

 そう言えばさっき真希お姉さんのスマホ見て気付いたけどもうすぐ任務の時間じゃん。

 急がなきゃ。

 

 「じゃあ私、紫様の美濃関視察に同行してくるから。

 バレないように気を付けてねー」

 

 美濃関には可奈美お姉さんがいて立会いの約束をしているんだ。

 早く行って今度こそお姉さんに勝ちたいな~

 

 「おい待て」

 

 「うぐっ!?」

 

 スキップしながら医務室を出ようとする私を真希お姉さんが襟首を掴んで引き止める。

 もー邪魔しないでよ。

 

 「それは()()の任務だろ?」

 

 「そうだよ、()の任務だけど?

 遅れちゃうから早く行かせてよ」

 

 「お前なぁ……自分の状態を理解しているのか?」

 

 どういうこと?

 教えて夜見お姉さん。

 

 「燕さん、今私達は入れ替わっていますよね」

 

 「うんそうだね」

 

 「入れ替わっているということは私の体にあなたの精神が入って、あなたの体に私の精神が入っているのだというのが理解できますね」

 

 「それくらいわかるよ」

 

 「つまり周りからあなたは皐月夜見に見えていて、私は燕結芽に見えているというわけです」

 

 「何が言いたいの?」

 

 「燕さんが私に見えている以上、あなたは燕結芽ではなく皐月夜見の任務をこなさなければならないということです」

 

 「それってつまり……」

 

 「燕結芽の体を借りている私が、燕さんの代わりに美濃関に行かなければならないということです」

 

 えぇー!? 夜見お姉さんが美濃関にー!?

 

 「やだよそんなの! 私可奈美お姉さんと立会いの約束をしてるんだよ。

 夜見お姉さんが可奈美お姉さんと立会ったって楽しくないでしょ?代わってよ!」

 

 「……できれば私もそうしたいのですが、事前に決まった予定を個人の都合で変更するわけにはいきません」

 

 夜見お姉さんの分からず屋! 後で部屋になまはげのお面ばら撒いてやる! ……やっぱりやめよう、本当に苦手みたいだから失神を通り越して死んじゃうかも、それは絶対に嫌だ。

 だから真希お姉さんも寿々花お姉さんもなんか言ってよ、私が代わった方がいいって!

 

 「結芽、気持ちは分かりますけど今のあなたは夜見さんですのよ。

 衛藤さんは結芽と約束しているわけですし、夜見さんになったあなたが来ても困惑するだけですわ」

 

 「でも!」

 

 「結芽!わがままを言うんじゃない!

 元通りになるまでお前は皐月夜見として過ごすんだ!」

 

 やだ! 絶対に美濃関に行くんだ!

 

 「やだやだやだ! 行きたい行きたい行きたーい!」

 

 「夜見の姿で駄々をこねるってすごいシュールだな……」

 

 「……何故でしょうか、あれに入っているのは自分じゃないと分かっていてもすごく恥ずかしいです」

 

 結局、私のわがままは通らず夜見お姉さん(結芽ボディ)が美濃関へ向かい、真希お姉さん達も別の任務で宿舎を離れていった。

 医務室に残されたのは私だけ。今日の夜見お姉さんは特に予定がなく、呼び出されるまで待機しているのが任務だったみたいで何もやることがない。

 

 「はぁ……つまんなーい!」

 

 私病室とか医務室のベッド嫌いなんだよね。昔を思い出してさ……

 

 真希お姉さんはバレないよう人前に出るなって言ってたけどそんなの知ったこっちゃないよ。

 私が一番嫌いなのは忘れられることで二番目に嫌いなのは退屈。

 一番好きなのは強い相手と剣術で戦うことで、二番目は楽しいこと。

 

 「というわけで結芽ちゃん鎌府に来ちゃいました!」

 

 宿舎は管理局本部に近くて鎌府はその本部の隣、暇なとき私は遊び相手を求めて鎌府に行くことが多いんだよね。

 でも今の私は夜見お姉さん、普段とは違うことをやってみたいな。

 何をしようかなー、関係者立ち入り禁止の場所にでも行こうかな夜見お姉さんなら顔パスで入れるかもしれないし。

 

 そんな風にどんないたずらをしようか考えている私を遠くから見つめる視線に気が付いた。

 鎌府生徒のお姉さん達だ。

 

 「皐月先輩よ、皐月先輩だわ……」

 「栄光の親衛隊第三席皐月夜見……」

 「私達鎌府の星だわ……」

 

 へーそういえば鎌府は夜見お姉さんの母校だっけ。

 母校ではこんなに慕われているんだよって言ってくれればいいのに。

 まあ親衛隊(わたしたち)は刀使のビッグ4のように見られているからみんな有名人みたいなものなんだけどね。

 私も綾小路に行けばチヤホヤされたりするのかな?

 

 「でも待って、皐月先輩って何で親衛隊にいるのかしら?」

 「確かに、目立った実績とか持ってないわよね……」

 「戦っているところも見たことないし……」

 「鎌府七不思議の一つだわ……」

 

 あー、そこに気づいちゃうかー。

 私達が体にノロを取り込んでいるのは最重要機密だもんね(ま、私はノロなんかに頼らなくても最強だけど!)。

 夜見お姉さんは特にノロを多く入れているから中々人前で戦えないんだよ。

 

 人の戦い方に文句言うつもりはないけどさ……

 夜見お姉さんの腕を切って荒魂をドヒャーッて出す攻撃、あれ痛くないのかな?

 本人に聞いても気にする必要はないとの一点張りだけど明らかに危ないよね?

 その内荒魂に乗っ取られないか心配だよ。妙なところで夜見お姉さんは頑固だからなおさらね。

 

 夜見お姉さんの未来を案じていると生徒の一人が変なことを言い出してきた。

 

 「バカねーあんたら。よく言うじゃないの『能ある鷹は爪を隠す』って。皐月先輩が本気を出せば荒魂なんてイチコロよ」

 「そういえば聞いたことがあるわ、皐月先輩は秘密組織に造られたサイボーグだって」

 「そうなの? 私は地球侵略を目論む宇宙人の擬態だって聞いたけど?」

 「その噂知ってるわ、何でも目からビームを撃てるそうよ」

 「これは確かな情報筋だけど脱いだらすごいらしいわよ」

 

 何かすごいことになってるなぁ。

 夜見お姉さん周りの評価とか気にしない人だからどんどん噂が飛躍していくんだろうな。脱いだらすごいを広めたのは私だけど。

 そうだね、せっかくお姉さんの体で動いてるんだし噂をもう一つ増やそうかな。

 

 「しゃきーん」

 

 私は部屋から出ていく際に持ち出した夜見お姉さんの御刀、水神切兼光(名前長くて覚えづらい)をおもむろに抜いてみた。

 

 「皐月先輩が御刀を抜いたわ」

 「何をするつもりなのかしら?」

 「私達に何か見せたいんでしょ」

 「ストリップかなウヘヘヘ」

 

 最後のやつは無視して私は手ごろな獲物を探す。

 試し切りにちょうどいいものないかなー……

 

 

 「なにこれ?」

 

 本当になにこれ? 紫様の銅像?

 えーとなになに、『紫様初出陣の像』? プッ、だっさーい。

 これ作ったの絶対高津のおばちゃんだよね。だって後ろに控えている昔の学長達の像おばちゃんのだけ無駄に美化されてるけど他の4人はへのへのもへじだもん。

 的はこれでいいよね、答えは聞いてない。

 

 「どうしたのかしら、通行の邪魔だと評判の紫様初出陣の像を見つめて」

 「正直あれセンスないよねー」

 「今の学長が鎌府を去ったら消えるものぶっちぎり1位だよね」

 「職員会議で取り壊しが決まったようだけど学長が必死で守ってるそうよ」

 

 じゃあそろそろいこうかな。

 

 「そりゃっ」

 

 「ど、銅像を突き刺したー!?」

 「よりによって高津学長の像に!?」

 「何て恐れ知らずなの!?」

 「不良よ不良だわ! 皐月先輩の正体はスケバン刀使だったんだわー!」

 「いや、皆待って! 像の穴をよく見て!」

 

 ほうほう、お姉さん察しがいいね。

 

 「刺した穴が三つある……?」

 「日常的に刺していたのね」

 「待って、穴がまだ新しい。これは今開けた穴よ」

 「そんな、一回しか見えなかったのに……」

 「その一回の内に三回突き刺したというわけね……」

 

 ふっふーん! これが天然理心流の奥義、三段突き。

 私の手にかかれば普通の人には一突きにしか見えないほどのスピードで繰り出せるんだよ。

  

 でもこれじゃあ夜見お姉さんがすごいみたいになって面白味がないなぁ……

 そうだ、この際どれくらいこの人達が信じるか試してみよう!

 

 「静まれ……静まれ……」

 

 「急に手を抑え始めてどうしたのかしら?」

 「まさか多重人格の噂は本当だったんじゃ……」

 

 「フハハハハ! 夜見め、お前の体は乗っ取ってやったぞー!」

 

 「さ、皐月先輩が乗っ取られたー!?」

 「皐月先輩を返して!」

 

 「フッフッフッ、お前が恐れ封印していたこの邪気眼の力、思う存分使わせてもらうぞー!」

 

 「そ、そんな! 皐月先輩にそんな力が眠っていたなんて……」

 「獅童先輩と同じ邪気眼の使い手だったなんて……」

 「ってか邪気眼ってなに!? 何で親衛隊に邪気眼持ちが二人もいるのよ!」

 「もしかして邪気眼ってノロかなんかの隠語なんじゃ……」

 「おいばかやめろ」

 

 「フヒヒヒ、この妖刀が血をすすりたがってるぜー!」

 

 「に、逃げろー!」

 「血をすすられるわー!」

 「助けてー!」

 「待てよ、ノロを入れたのならあんなに強いのも納得できるわ…」

 「よせ! それ以上踏み込んだら消されるぞ!何のことかは知らないけど!」

 

 アハハハハ! おっかしー邪気眼なんてあるわけないじゃーん! お姉さん達バカだなー。

 これで夜見お姉さんの噂がまた一つ増えたわけだけど許してくれるよね。

 お姉さんなんだかんだで私に甘いし。

 今頃夜見お姉さんは何してるのかな?そろそろ美濃関に着いた頃だと思うけど……

 

◆◆◆

 

 何ということでしょうか、私、皐月夜見の精神は燕さんの体に入ったしまったようです。

 

 「どうした結芽? いつものお前なら飛びかかってくるはずだが?」

 

 「いえ、今日は気分ではないので……」

 

 「そうか」

 

 紫様も普段とは違う燕さんの様子を見て怪しんでいます。

 気付かれないよう注意しなければ……

 

 ………………………………………………………………

 

 

 え、何か言うことはないのか、ですか?

 最初こそ驚きましたが冷静になってみれば慌てるほどのことではないはずですが違うのでしょうか?

 強いて言うのなら体質の影響か少し息苦しいですね。

 荒魂で延命しているとはいえ燕さんは本来寝たきりの身、この体であっても親衛隊最強を誇っているのですから彼女には驚かされるばかりです。

 

 「紫様、例の件ですが」

 

 「あの件は夜見に任せる。やつの得意分野だからな」

 

 夜見は私なんですけどね……

 

 「夜見といえば、今日のお前は夜見が乗り移ったかように静かだな結芽よ」

 

 「!? ……秘書である彼女の代わりを務めようと思いまして……」

 

 「それで模倣しているわけか、まあ真似事から学べるものもあるだろう。

 私もこれ以上は言及しないことにしようか」

 

 誤魔化せた……のでしょうか。紫様の智謀なら既に見破っていてもおかしくありません。

 

 ちなみに紫様の元へ向かう途中、燕さんになりきれるか鏡で練習してみたのですが……

 

 『いえーい……紫様一緒にあそぼーよー……』

 

 ……無表情で無感情に話す燕さんの顔を見てなりきるのを諦めました。

 隣にいた獅童さんと此花さんもあまりの酷さに肩が震えていましたからね。

 下手に芝居を打つよりも自然体でそれらしい説明をした方がまだばれる確率は低いでしょう。

 

 そう、自然体。私はいつも自然体です。

 感情に左右されることなく、意思表示は最小限。

 それが皐月夜見のあり方、よく「お前が何を考えているか全く分からない」と言われますが、これでも自分の本心に偽りなく行動しているつもりです。

 それはきっと燕さんも同じ……燕さんは自分の心の声に正直であり続けている、それが大衆の正義に相いれないものだとしても決して自分を曲げない。

 私と彼女は真逆のようで似た者同士なのかもしれませんね……

 

 「ご足労いただきありがとうございます、紫様」

 

 「今回はさほど重要な案件じゃない。敬語は必要ないぞ江麻」

 

 「そうね、それなら普段通りにいかせてもらうわ紫」

 

 そこから二人はお互いの近況を語り合い始めました。

 紫様と羽島学長、20年前は同じ部隊で背中を合わせた身、積もる話もあるのでしょう。

 今のお二方の姿は刀剣類管理局の局長と美濃関学院の学長という重い肩書きがあるようには見えず、ただの仲いい旧友同士にしか見えません。

 私達も後10年か20年たてば彼女達のように昔を笑って語れるようになるのでしょうか。

 私がこの先長生きできる自信はありませんけど……

 

 「そうそう燕さん、衛藤さんは道場で待っているわよ。

 ごめんなさいね、任務中なのに」

 

 「いえ、お気遣いなく」

 

 「あの子は最近立会える相手がいなくて寂しい思いをしているの。

 お願い燕さん、衛藤さんの友達になってあげて、まっすぐな子だからあなたもきっと気に入るはずよ」

 

 私(体は燕さんですが)に向ける羽島学長の目はとても優しいものでした。

 社交辞令ではなく本気で衛藤さんと燕さんが友人になれることを願っているのでしょう。

 思えば衛藤さんといい柳瀬さんといい美濃関にはおおらかな性格の持ち主が多いような気がしますが、これも羽島学長あってのものなのでしょうか?

 美濃関は学長と生徒の精神的な距離が短いというわけですね……

 

 

 ……いえ、これ以上この件を考えるのはやめましょう。

 よそはよそ、うちはうち。

 他の学長がどうであろうとも私の高津学長に対する忠義は変わりません。

 今の私があるのもあの方のおかげ。

 恩に報いるためなら私はどこまでもあの人についていきましょう。

 例え、正道から外れた道だとしても……

 

 それよりも今気にすることはただ一つ。

 衛藤さんとの立会いをどう回避するかです。   

 私は道場へ行かない言い訳を見つけるために思考を巡らせ── 

 

 「結芽ちゃん! 待ちきれないから迎えに来たよ!

 あ、紫様こんにちは。視察が終わったら私と立会ってくれませんか!」

 

 「可奈美ちゃんここ学長室! どうもすいません紫様、可奈美ちゃんには後できつく言っておきますのでどうか……」

 

 ……全く、あなたは常に私達の予想のはるか上を行きますね。思いついた作戦も全部ご破算です。

 羽島学長も手を額に当てうなだれていますよ。

 こうなってしまった以上紫様の判断に身を委ねるしかないのですが……

 

 「構わんぞ結芽、視察が終わるまで思う存分楽しんで来い。そのために同行させたのだからな」        

 

 紫様……燕さんへの寛大な配慮には痛み入りますが、問題なのは私が燕さんではないということなのです。

 それを話すわけにもいかず、衛藤さんの伸ばす手を無視するわけにもいかず、柳瀬さんに申し訳なさそうな目で見つめられながら私は避けるべきだった剣術道場へ来てしまいました。

 

 「さぁ遠慮なく打ってきていいよ結芽ちゃん!」

 

 まずい……本当にまずいです。

 親衛隊第三席といっても私の剣の腕ははっきり言って並以下。

 主な戦術は体内のノロを荒魂に変えて使役することですが、あれを行うには肉体のどこかを斬らなければなりません。

 自分の体ならいくら斬ったとしても問題ないでしょうが今は燕さんの体を借りている身。

 彼女の体を傷つけるわけにはいきません。

 

 対する衛藤さんは燕さんや紫様に匹敵する強者。

 それに剣術に関して鋭い観察眼を持っていると聞いていますのでもしかしたら燕さんの中に私がいることも見破ってしまうことだって考えられます。

 今も私が打ってくるのを誘っていますが、その構えに一切の隙が感じられない。

 私程度では一太刀で写シを剥がされてしまうでしょうね。

 

 というか、この状態でも写シを張れるんですね。

 立会うにあたって最大の懸念が写シだったのですが私は問題なく燕さんの御刀、ニッカリ青江(変わった名前ですね)に適合しています。

 大荒魂と融合した紫様の肉体年齢が17歳で止まったため、20年たった今でも二刀の御刀に適合できるように御刀の適合基準は精神よりも肉体だということでしょうか? 

 

 精神が交換されても適合する御刀は肉体に依存する。

 もしかしたら私はこの事実に気付いた世界最初の刀使なのかもしれません。

 ……まあこれが世に明かされたとして、何の役にも立たないのでしょうからこのことは墓場まで持っていこうと思います。

 

 そんな与太話に興じている場合ではありませんね。

 未だに動く気配のない相手に衛藤さんも訝しんできました。

 

 仕方がない、気が引けますがこの手しかないでしょう。

 

 「ゲホッ、ゴホッ!」

 

 「結芽ちゃん!?」

 

 仮病作戦です。

 わざとらしい咳払いも病弱な燕さんでやるのなら多少は騙せるでしょう。

 彼女を利用しているように感じて心が痛みますが。

 

 「大丈夫……?」

 

 「申し訳ありません、今朝から体調が悪くて……」

 

 「そっか、元気がないなって思ってたけどそれが原因だったんだね」

 

 私の振る舞いも仮病の信憑性を深め衛藤さんは完全に信じ切っています。

 これなら何とか切り抜けられそうです。

 

 「約束した手前勝手ですが今あなたと立会うことができません。

 調子が戻った時に立会うとして今日は紫様の護衛に当たらせていただきます」

 

 これで問題はないでしょう。

 再戦の約束をしておけば精神が戻った時燕さんがふてくされることもないでしょうから。

 後は紫様への説明を考えれば……

 

 「待って」

 

 踵を返し道場の出口へ向かう私の肩を、立会人を請け負っていた柳瀬さんが掴む。

 

 「燕さん、無理はよくないよ」

 

 どうやら仮病作戦の効果がありすぎたようです。

 

 「紫様を護衛することが今日の私の任務ですので」

 

 「その体調じゃ難しいんじゃないの?」

 

 これは、簡単には行かせてくれないみたいですね。

 

 「心配いりません。親衛隊としての訓練を受けていますので」

 

 「紫様だって無理するあなたを心配しているんじゃないの?」

 

 「あの方の刃として戦い、盾となって守る、それが私の務めです」

 

 「今のあなたはとても苦しそうだよ」

 

 「苦しくても耐えられます」

 

 「耐えられても苦しいと感じているなら放っておけないよ」

 

 「あなたが私に対してそのような配慮をする必要性が感じられませんが?」

 

 「必要性がなくても構わない。だってあなたが心配だから」

 

 彼女は燕さんの身を案じて話している。中に私がいることに気付かずに。

 それを理解しているのに胸に感じるこの思いは一体何なのでしょうか。

 苦しいようで、温かいようで……心が安らぐ?  

 

 これは危険です。

 このままでは私は私でいられなくなる。

 あの方に仕えることに何の疑問を持たない私ではなくなる、あの方がまた一人になってしまう。

 

 「柳瀬舞、あなたは私の何なのですか?」

 

 私は自分でも驚くほどの敵対心を持って柳瀬さんに問いかける。

 対して彼女は微笑みながら答えた。

 

 「お姉ちゃんだよ」

 

 年上という意味でのお姉ちゃんなのでしょうが私は柳瀬さんより──

 あ、今は燕さんの体でしたね。

 

 「…ところで衛藤さん、どうして私の足を掴んでいるのですか」

 

 「んー?運ぶ準備だけど」

 

 「え?」

 

 言葉の意味を理解するよりも先に後ろの柳瀬さんが私の脇を挟み込む形で抱きしめる。

 

 「はい確保。可奈美ちゃん準備はいい?」

 

 「オッケー舞衣ちゃん、取りあえず部屋に運ぼうか」

 

 「!?」

 

 しまった、先ほどまでの問答は時間稼ぎだったのですか。

 

 「れっつごー」

 

 「ごー」

 

 柳瀬さんに脇を抱えられ、衛藤さんに足を持ち上げられた私は抵抗することもできず彼女達に運ばれてしまいました。

 一体どうなることやら……

 

◆◆◆ 

 

 「なんか私が運ばれてる気がする……」

 

 虫の知らせっていうのかな、根拠もないのに向こうで夜見お姉さんが面白いことになってる予感がするよ。

 あっちも私の体で楽しんでいるならこっちもお姉さんの体で遊ばせてもらうよ。

 次は何しようかなー、歌でも歌おうかなー。

 

 「ん? あれは……」

 

 沙耶香ちゃんだ、何してんだろう本なんか読んで。

 

 「さーやっかちゃん、なーに読んでるの?」

 

 「っ!? 皐月……夜見……!?」

 

 プププ、見てよこの沙耶香ちゃんの顔!あ、そっちからじゃ見えないか。

 えっとね、なんていうか「信じられない」と「誰だこいつ」って二つの表情が混ざった感じの顔。つまりすごく面白い顔ってことだよ。

 まあそうだよね、あんまり関わりがない夜見お姉さんがすごく馴れ馴れしく近づいてきたら私が沙耶香ちゃんでもこんな顔をするもん。

 

 で、沙耶香ちゃんは何を読んでるのかな?

 

 「『料理初心者にもできるクッキーの焼き方』?」

 

 「見ないで……恥ずかしい……」

 

 へー意外、沙耶香ちゃんがお菓子作りに興味を持っていたなんて。

 

 「いつも、舞衣にクッキー焼いてもらっているから……恩返し、できたらな……と思って……」

 

 健気だねぇ沙耶香ちゃん。

 私ならクッキー貰えるだけ貰ってパクッ! だけど。

 まあ私の周りに上手くクッキー作れる人いないんだけどね。

 真希お姉さんはそもそも料理ができるか微妙だし、寿々花お姉さんもコンビニ弁当大好きだからそういうの興味がないかもしれないし、夜見お姉さんは……前に一度だけ作ってたけどあれはひどかったなー。

 え、紫様? ないない!ここだけの話あの人カップ焼きそばが大好物で一人の時はいつもカップ焼きそばを食べてるらしいよ。あれじゃあクッキーは作れないだろうねー。

 ん? 待てよ、もし私がクッキーを作れればクッキー作りにおいて私が周りで一番すごいことが証明できるんじゃ……

 

 

 そうだね、たまにはこういうのもいいかもね。

 

 「沙耶香ちゃん沙耶香ちゃん、勝負しようよ」

 

 「え、剣術の……?」

 

 「違うよクッキーでだよ。どっちが美味しいクッキーをたくさん作れるか競争しようよ!負けた方は勝った方のいうことを一つだけ聞くことにしてさ!」

 

 「でも、私、クッキー作るの初めて……」

 

 「それは私もだよ、条件は互角。じゃあ行こうか」

 

 私は困惑する沙耶香ちゃんを引っ張って鎌府の家庭科室に入った。

 誰もいないみたいだし材料もすでに沙耶香ちゃんが用意してたから早速始められるね。

 

 でもどうやるんだっけ?

 ま、適当に形を作って焼けばできるよね。

 

 あれをあーして、これをこーして、それをそーしないでこうやって……できた!

 

 「うわぁ……」

 

 これもうクッキーじゃないね。何かの焼死体だよ。なんまいだー。

 

 「さ、沙耶香ちゃんのもできたー?私のはげ、げーじゅつてきな仕上がりだったけど……」

 

 いざとなったらさっき言った負けた方がいいなりになるルールはすっとぼけよう。

 恐る恐る私は沙耶香ちゃんのクッキーを見る、ってアレ?

 

 「沙耶香ちゃんのも焦げてんじゃん」

 

 「クッキー、作るの難しい……」

 

 アハハハ! これじゃあ引き分けだね。

 

 「剣術と違って上手くいかないもんだねー」

 

 「……」

 

 「ん、どーしたの沙耶香ちゃん?」

 

 「ちょっと……意外で……」

 

 意外?

 

 「私は学長に期待されている、だから……あなたは……私のことが……」

 

 「嫌いだと思ってたの?」

 

 「…………」

 

 気まずそうな感じで顔をそらす。沙耶香ちゃん、それもうYESって言ってるよーなものだよね。

 

 でも実際のところどうなんだろ?

 夜見お姉さんから沙耶香ちゃんの話は聞かないし、だからと言って毛嫌いしてるようには見えないし。

 結構ミステリアスだよね夜見お姉さんって、そこそこ長い付き合いの私でも夜見お姉さんが秋田生まれってことを知ったのはつい最近だし。

 私達が知らないこととか夜見お姉さんが言ってないこととかいっぱいあるんだろうなぁ……

 取りあえず私は私が知っている範囲で夜見お姉さんが沙耶香ちゃんをどう思ってるかを話した。

 

 「ゆーしゅーな後輩だと思うよ。わた……結芽には負けるけど」

 

 「なんで曖昧?」

 

 「いーじゃんそんなこと。それよりももう一度クッキー作ろうよ。

 今度は負けないよー」

 

 「もう、材料が……それに、時間が……」

 

 「何か用事あるの?」

 

 「学長から受けた任務が……遅れると学長、怒る……すごく……」

 

 あ、いやーな予感……

 案の定ドアを壊すかの勢いで開ける音が、誰かなんていうまでもないよね。

 

 「何をしている沙耶香! 任務の時間はとっくに過ぎているぞ!

 お前には紫様初出陣の像を死守するという大役を与えたではないか!」

 

 いやそれ世界一どーでもいい役目だよね。

 高津のおばちゃんは私(正確には夜見お姉さんの顔)を見るやおっかない顔して迫ってくる。

 そして私の頬をびたーん!とひっぱたいた。

 

 「夜見、お前か! 沙耶香を惑わしたのは!

 お前如きが沙耶香の邪魔をするんじゃあない!わきまえろこの試作品が!」

 

 いったいなー、本気で叩くことないじゃん。

 夜見お姉さんはよくこれに耐えられるよね。

 でも今おばちゃんが叩いたのは夜見お姉さんじゃなくて私、燕結芽。

 

 

 頭にきた。

 私はお姉さんみたいに我慢強くはないし、やられっぱなしなんてまっぴらごめんだね。

 

 「うっさいなー、私達はクッキー作り勝負をしてるの。

 分かったらあっちいってよ、おばちゃん(・・・・・)

 

 「おば……おばちゃん!?」

 

 クヒヒヒ、おばちゃんってば目を小さくして口をパクパクさせてるよ。

 よっぽど驚いたんだね。

 

 「貴様ぁ、誰に向かって口を聞いている!」

 

 「おばちゃんに決まってんじゃん。沙耶香ちゃんに言ってるとでも思うの?

 おばちゃんバカだなー」

 

 「お前……本当に夜見か? その生意気な物言い、まるで結芽のよう──」

 

 「いつもひっぱたかれればそりゃ怒るよ!」

 

 「た、確かに……」

 

 まあ私がビンタされたのは今日が初めてなんだけどね。

 

 「いや待て! だからといってお前が私にそんな口を聞いていいと思っているのか!」

 

 「そっちこそ良いのかな? バラしちゃうよ、『アレ』のこと」

 

 「な、何のことだ!?」

 

 私知ってるもんねー。おばちゃんのひ・み・つ。

 

 「学長室に隠してある紫様の等身大フィギュアのことを。

 あれを抱き枕にしてるんでしょー?」

 

 「ななななな何故それを!? 隠し扉にしまっておいたはずなのに!?」

 

 あれは、前に鎌府に遊びに来た時のことだった。

 おばちゃんをからかってやろうと学長室にいくも誰もいない。

 しょうがないから何かおばちゃんの恥ずかしい秘密でもないかなーって部屋を物色をしてたら偶然隠し扉を見つけたんだ。

 その扉の先にあったのが紫様の等身大フィギュアってわけ。

 すっごくクオリティが高くて私も最初紫様が隠れんぼしてたのかなって勘違いしちゃうほどだったよ。

 

 「あれすごいよねー、身長どころか体重まで本物と一緒なんでしょ」

 

 「お、おま……」

 

 「着せ替え機能で紫様が着ないようなドレスを着せて遊んでたんでしょ?

 パソコンのファイル画像見せてもらったよ」

 

 「ま、まて……」

 

 「でも口元についてる口紅の跡を見た時はドン引きしたなー。

 そんなに好きなら本物とすればいいじゃん」

 

 「や、やめ……」

 

 「このことを紫様に話したらどうなるのかなー?

 良くて一生ゴミムシを見るような目で見られ、悪くてクビだろうね」

 

 「ああああああああああああああ!?」

 

 おー、おばちゃんが過去最大級に荒ぶってるよ-。

 驚愕と恥ずかしさのあまりのたうち回ってるよー。

 スマホに撮ろうかな……って今持ってるの夜見お姉さんのだった。

 

 「な、何が目的だ夜見……私に何をさせようというのだ?」

 

 「逆に聞くけどおばちゃんは私に何をしてくれるの?」

 

 「何でもする! 何でもするから紫様にだけは……」

 

 へぇ…良いことを聞いた。

 

 「何でもするって言ったね、じゃあ肩もんで。痛かったらバラす」

 

 「なんで私がお前の肩を……」

 

 「だ・き・ま・く・ら」

 

 「揉みます! 揉ませていただきます! 揉ませてください!」

 

 おばちゃんがいつも酷いを扱いをしている夜見お姉さんの肩を必死で揉んでいる。

 これはおもしろ……私が夜見お姉さんだから見えないじゃん。

 う~んこれは想定外、そうだ!

 

 「沙耶香ちゃん。いつもおばちゃんにこき使われて疲れてるでしょ?」

 

 「え?」

 

 「疲れてるでしょ?」

 

 「でも、それが私の役目──」

 

 「疲 れ て る で し ょ ?」

 

 「……う、うん」

 

 正直でよろしい。

 私が言わせたって? 何のことかな~? 知らないな~。

 

 「そういう時は足つぼマッサージがいいらしいよ。

 というわけでおばちゃんよろしくね」

 

 「は? 夜見はともかくなんで沙耶香にまで……」

 

 「だーきーまー」

 

 「沙耶香ぁ! 靴を脱げぇ! 足つぼマッサージを行う!」

 

 アハハハ! おばちゃんってば必死でおもしろーい。

 

 「どう沙耶香ちゃん、リラックスできてる?」

 

 「……痛い」

 

 「痛いって、バラしちゃおうかなー」

 

 「ま、待ってくれ! 仕方ないだろ私は足つぼマッサージに関しては素人なんだ!

 つぼがどこにあるかなんて分かるわけ……」

 

 「だー」

 

 「今すぐプロの足つぼマッサージ師を呼んでくる!

 30分以内に来るよう手配するから紫様だけはー!」

 

 泣き叫ぶようにおばちゃんは大慌てで部屋から出て行った。学長名義で無理矢理足つぼマッサージ師をここへ来させるんだろうな。

 ……さすがにかわいそうになってきたよ、後一回言うこと聞かせたら今日のところはやめよう。

 

 「まあ今日ぐらい働かせたってバチ当たんないよね」

 

 「……」

 

 「沙耶香ちゃん?」

 

 「羨ましい……」

 

 へ? どうゆうこと?

 まさか沙耶香ちゃんおとなしいように見えてドS──

 

 「思ったことを口に出せるあなたがすごい。

 私は……いつも言い出せなくて人形みたいって言われてるから……」

 

 あーそういうことかー。

 沙耶香ちゃんも夜見お姉さんみたいに表情硬いよね。

 というか鎌府自体なんか暗い雰囲気な気が、まああのおばちゃんがトップじゃしょうがない気もするけど。

 

 「別に羨むほどのことじゃないと思うけど」

 

 「……どうして?」

 

 「私はただ私がやりたいことをやりたいようにやってるだけ。

 『感情を素直に表に出すのは子供だけ』って誰かさんが言ってたけど、それじゃ誰も自分を分かってくれないよ。

 自分の心の中を完全に理解できるのは自分しかいなんだから」

 

 そう、病床の頃の苦しみや寂しさを100%理解しているのは私だけ。

 あの時紫様が差し出したノロを手に取ったわらをも掴む思いを知ってるのは私だけ。

 親衛隊になって皆と一緒になれた喜びを知っているのは私だけ。

 だから私は思ったことは全部言う。やりたいことは全部やる。

 自分勝手だって言われたって知ーらない。

 

 それはきっと夜見お姉さんも同じ。

 じゃなきゃ自分のことを試作品呼ばわりするおばちゃんになんかついていかないよ。

 お姉さんは自分から言ってこないから、理解するのが簡単じゃないね。 

 

 「自分を……理解できるのは……自分だけ……」

 

 「そ、もっと正直に生きなよ。

 で、これからどうするの?おばちゃんのいいなりであのだっさーい像を守りに行くの?」

 

 沙耶香ちゃんは首を横に振った。

 

 「私は戦うことしかできない……でも、今のままで終わりたくない。

 だから、せめて、少しずつでも……変わりたい……!」

 

 「じゃあまずはクッキーをうまく作れるようにならなきゃね!」

 

 「うん!」

 

 いい目になったね沙耶香ちゃん……

 

 

 

 って私なんか先生みたいになってるよ、同い年なのに。

 ちょっと私らしくないなぁ……

 

 「沙耶香! 予約取れたぞ! もうすぐ着くそうだからここを動くな!」

 

 「あ、おばちゃん。クッキーの材料買ってきて。はいだきまくら」

 

 「買ってくればいいんだろちくしょーめー!」

 

 「じゃあおばちゃんが戻ってきたらもう一度クッキー勝負しようか。

 私が勝ったら沙耶香ちゃんにはミニスカメイド服を着て学園祭で踊ってもらおうかな~」

 

 「えっ!?」

 

 そうそうこれが私、燕結芽のイメージ!

 これからも私は私らしくありたいな。

 

◆◆◆

 

 「……ものすごく嫌な予感がします」

 

 具体的には燕さんが高津学長によからぬことをしている気が。

 早くあの方の元へ行かなくては。

 

 「ダメダメ結芽ちゃん。体調悪いんだからゆっくり休んでないと!」

 

 とは言え衛藤さんに阻まれ部屋から出ることすら叶いませんが。

 今、私は柳瀬さんの部屋でベッドに横にされています。

 私を見る衛藤さんの目には心配の表情、完全に仮病作戦が裏目に出てしまいましたね。

 しかしこれも身から出た錆ということで彼女達の看病を受け入れることにしましょうか。

 ですが不可解なことがあります。

 

 「衛藤さん、これはどういうことですか?」

 

 「ネギだよ」

 

 「それは分かるのですがなぜ私の首に巻かれているのですか?」

 

 ねぎを首に巻くと風邪が治るというのは迷信のはずですが。

 

 「あ、疑ってるね結芽ちゃん。でも大丈夫!

 私も小さい頃、風邪をひいた時お母さんにネギを巻いてもらって薬を飲んでぐっすり寝たら三日後には元気になったよ!」

 

 「それネギ関係ないですよね」

 

 明らかに薬のおかげですよね。

 

 しかし荒魂や刀使といった不思議なものが存在するこの世界、ネギにもそういう『不思議な力』があってもおかしくはありません。

 ネギも使い方次第では御刀のように……って何考えてるんですか私。

 

 「あとネギと言えばもう一つ風邪に効くのがあってね」

 

 「結構です」

 

 「ネギをこう……ブスッとね……」

 

 「お断りします」

 

 「効き目、あるよ」

 

 「寄 ら ば 斬 り ま す」

 

 「そ、そうだよね。さすがに嫌だよね……」

 

 危ないところでした、油断も隙もありません。

 燕さんの体を預かっている以上私には彼女の貞操を守る義務がありますから。

 衛藤さんも引いてくれたようですし。

 

 「前にお兄ちゃんで試してみたら、効果てきめんだったんだけどなぁ……」

 

 名前も顔も知らぬ衛藤さんのお兄さんへの哀れみを残しながら私は今の言葉を記憶の中から抹消しました。

 そんなことをしていたら急にお腹が鳴り始めました。

 そう言えば入れ替え現象でゴタゴタしていたので今日は何も食べていませんでしたね、恥ずかしい。

 

 「お腹すいてるの? 舞衣ちゃんがお粥作ってるけどちょっとぐらいいいよね」

 

 そう言うと衛藤さんは懐からクッキーの入った袋を差し出してきました。

 ネギはノーカウントなんですね。

 

 「はい舞衣ちゃんのクッキー、舞衣ちゃんにはナイショだよ」

 

 いたずらな笑みを見せ、クッキーを食べるよう促す衛藤さん。

 無視するわけにもいきませんね。

 

 「はむはむ……」

 

 「どう? おいしいでしょ」

 

 反応に困ります。

 まずいわけでは無く間違いなく美味なのですが、私はそもそもこういう甘味に食べ慣れていない。比較ができず評価の施しようがありません。

 ですが確かに言えることが一つ。

 

 「温かい……?」

 

 「そうだよね! 舞衣ちゃんのクッキーって食べると心がポカポカして気持ちがいいんだよね。

 私はもう舞衣ちゃんのクッキーの虜でこれがないと生きていけないくらいだよ!」

 

 それはそれで危うい傾向ではありませんか?

 それを聞く前に柳瀬さんがお粥を持って部屋に入ってきましたので、この疑問は頭の片隅に置いておくことにしました。

 

 「卵粥できたよ。まだ熱いからふーふーしてね」

 

 お粥ですか、私はこう見えてもお米にはこだわるたちでして生半可な米では満足できな──

 

 「! 秋田米ですね」

 

 「そ、そうだけどよく分かったね」

 

 合格、です。

 私としては米の味が薄れるので卵が邪魔ですが秋田米なのでよしとしましょう。

 

 「柳瀬さん、頭を撫でるのはなぜですか?」

 

 「なんでかな? うふふ」

 

 まあ悪い気はしないので好きにしていいのですが。

 

 「あ、そうだ。舞衣ちゃん耳貸して」

 

 「どうしたの可奈美ちゃん」

 

 衛藤さんが柳瀬さんに耳打ちすると二人は用事を思い出したと言って一端部屋から出て行きました。

 

 「……これ、抜け出せるチャンスでしょうか」

 

 とはいえこの秋田米のお粥を置いていくのはもったいない。

 せめて食べ終わってからにしましょうと決め、お粥を平らげた直後、慌ただしい足音と共に部屋のドアが開けられる。

 忘れ物でもしたのでしょうか?

 

 「結芽! 大丈夫か!?」

 

 ああなんだ、相楽学長でしたか。

 

 「別に異常はありませんが」

 

 「そうか、君に何かあったんじゃないかと思って来てみたが、杞憂だったみたいだ」

 

 というかあなた綾小路の学長ですよね?なぜに美濃関へ?

 以前少しだけ見た学長の私室と何か関係が……?

 

 何があったのか、ですか?

 ……個人のプライベートに関わる問題ですので返答を控えさせてもらいます。

 学長がどんな趣味を持とうと私には無関係なことですから……

 

 「でも油断は禁物だ。荒魂と人体の融合にはまだ謎が多い。

 ちょっとした不調でも逐一私に報告してくれ、できる限りのことはやってみる」

 

 「必要性は感じられませんが、一応覚えておきましょう」

 

 沈黙が流れる、燕さんはともかく私と相楽学長は親しいわけでもなく話すこともないのでこうなるのは自明の理ですが。

 その沈黙を破るように学長が口を開く。

 

 「すまない……」

 

 「あなたが私に謝罪する理由が見当たりませんが?」

 

 「あるさ、私はかつて人の脆さと世界の理不尽さを知り、人を理不尽から守る術を模索した。

 雪那の荒魂研究に手を貸したのもそれが理由だった。

 だがそれは、私のエゴを子供達に押し付けただけに過ぎないということを知った。

 すまない結芽、もしかしたら私は、君に残酷な道を歩ませてるのかもしれない……」

 

 ……またですか相楽学長。あなたはいつもそうです。

 何もかも自分が悪い、自分のせいだを決めつけて罪悪感で自分を責める。

 

 あなたが罪悪感を感じるのは勝手、ですが荒魂を受け入れるという選択をしたのは他でもない私達自身。その決断に後悔は無い。

 独り善がりな自虐心で私達を哀れむのは心外です。

 

 皐月夜見(わたし)がいくら言ってもあなたは変わることはないのでしょう。

 ですがあなたが最も負い目を感じている今の私(つばくろさん)ならあるいは……

 

 

 相楽学長、正直あなたのことはどうでもいい。

 今行おうとしているのはあなたのためではなく私達自身のため。

 間違った認識は改めなければなりません。 

 

 「『私達』は不幸なのですか?」

 

 「え……?」

 

 「目を見て答えてください。

 獅童真希は、此花寿々花は、皐月夜見は、燕結芽は不幸なのですか?」

 

 「そ、それは……」

 

 答えを出せず視線をそらす学長。それがあなたの限界です。

 

 「荒魂がなければ皐月夜見は無力な自分に絶望していたでしょう。

 荒魂がなければ燕結芽は誰にも看取られず生涯を終えていたでしょう。

 正道では救えない人だっている、それでも邪道に堕ちるのは不幸ですか?」

 

 「しかし……君達はまともに死ねるかも分からないんだぞ」

 

 「誰も未来の話はしてません。今の話をしているのです。

 今、親衛隊の誰か一人でも不幸そうな顔をしていますか?」

 

 「……」

 

 人間が完全に理解できるのは自分だけ。

 本来私が燕さん達の幸せを語る資格なんてない。

 

 

 ですが相楽学長。

 

 罪悪感というフィルターを通さなければ燕さんを見れないあなたよりは燕さんのことを理解しているつもりですよ。

 

 燕さんは自分を偽らない。

 思ったことを言い、したいようにして、嫌なことは絶対にしない。

 在り方は子供そのものですがそれ故に常に自分の感情を素直に出し続ける。それを見れば彼女がどういう人間かなんてすぐに分かる。

 

 『そういえば夜見お姉さんが笑ってること見たことないかも、写真に撮るから笑ってよ』

 

 『プププ、しょしいだって。夜見お姉さんおっかしー』

 

 『わるいごはいねがー!ってあれ?気絶しちゃった……』

 

 『もしかしたら夜見お姉さんって私達の中で一番我慢強いのかも』

 

 

 

 『でも、たまには怒ってもいいんだよ』

 

 あの姿が、あの様子が、あの声が、あの笑顔が。

 幸せでないというのなら何が幸せだというのでしょうか。

 私には今の彼女が幸福としか思えません。

 

 「君の言いたいことは分かった。

 だが、だとしたら、私はどうすればいいのだ?

 どんな顔で君達と向き合えって行けば良いのだ?」

 

 「簡単なことです。

 私達を哀れまないでください。今の私達を見てください。後遠慮する必要はありません、『たまには怒ってもいい』、だそうです。

 それだけです」

 

 「それだけ、か……もはや私にはそれすらも困難になってしまったよ」

 

 僅か一瞬、学長の顔がしがらみから解放されたかのように穏やかになった気がします。

 

 「ありがとう結芽、心が晴れた気分だ。

 それにしても今日の君はまるで──いややめとこう。

 もう一度言う。ありがとう、君のおかげで少し楽になれた」

 

 相楽学長は礼を言うと部屋から出て行った。

 人は簡単には変わらない、しかしこれから彼女が罪悪感を抱くたび今の言葉が頭によぎるのであればいつかは。

 

 学長と入れ替わる形で衛藤さん達が戻ってきました。

 何気に脱出失敗です。主に学長のせいで。

 

 「さっき相楽学長とすれ違ったけど何かあったの?」

 

 「とくに、他愛のない話をしただけです」

 

 「そっか」

 

 特に踏む混む様子もなく、話は別の話題に切り替わりました。

 

 「そう言えば結芽ちゃんってイチゴ大福ネコ好きだよね?」

 

 イチゴ大福ネコ? ああ、燕さんが御刀に付けているあれの名前ですね。

 

 「実は私もそのシリーズ好きで集めてたんだ。

 はい、あげるよ『レモン饅頭イヌ』。中々置いてる店がなくて見つけるのに苦労したよ~。

 大事にしてね!」

 

 いや何ですかこれ? すごくパチモン臭いんですけど……

 しかし衛藤さんの話を聞くにレア物の可能性もあります。燕さんへお土産にとっておきましょうか。

 これを渡すために部屋を出たのですね。

 

 「あの……」

 

 「どうしたの?」

 

 「そろそろ紫様の視察が終わる時間なのですが」

 

 「あ! そうだったね、結芽ちゃんは紫様の付き添いだから戻らないといけないんだね……」

 

 話が早くて助かります。

 一時はどうなるかと思いましたが終わってみれば悪くない体験でした。

 

 「それじゃ燕さん。体に気をつけてね」

 

 「暇なときはいつでも美濃関に遊びに来ていいよ。

 今度こそ立合いやろうね!」

 

 「ええ、ありがとうございました」

 

 ベッドから立ち上がった私は別れを告げドアを掴む。

 おっと、大事なことを言い忘れていました。

 

 「お粥、おいしかったです。クッキーも……」

 

 こうして長かった美濃関視察は終わり、私は紫様の元へと戻っていきました。

 

 「結芽……どうしたのだその首は?」

 

 あ、ネギを返すの忘れてました。

 

◆◆◆

 

 夜見さんと結芽が入れ替わった。

 (わたくし)、此花寿々花の前で起きた怪現象。

 しかし私達は別の任務がありましたので今日一日はお二人の様子を見れずじまい。

 夜になったことですしひょっとしたらもう元に戻って──

 

 「夜見お姉さんどうしたの?

 結芽(わたし)の首にネギなんか巻いてさ」

 

 「衛藤さんに貰ったものです。

 よろしければ差し上げますが」

 

 「いらないよ、私野菜嫌いだもん」

 

 全然変わっていませんでしたね。というかなんで結芽……夜見さん首にネギを巻き続けてますの? 気に入ったんですかそれ?

 

 (く、結芽、夜見……僕が不甲斐ないばかりに……)

 

 「どう考えても入れ替わりにあなたは関係ないと思いますけど?

 抱え込むのも大概にしてくださいまし」

 

 「ま、また心を読んで!読まれる気持ちにもなってくれ!」

 

 それは難しいですわ。だって顔にそう書いてありますもの。

 

 「それよりお二人が戻れる手がかりを探しませんとね」

 

 「ああ、そうだな。このままではまずいな」

 

 「何がまずいの?」

 

 え? 当人が聞きますのそれ?

 

 「まずいってあなた達……今日一日で不便なこともあったのではなくて?」

 

 「……特に思い当たりませんが」

 

 「いや、でも自分の体が恋しいとかないのか?」

 

 「別に~これはこれで楽しいけど」

 

 いやいやいや! なんであなた達普通に受け入れていますの!?

 

 「というか夜見お姉さんはいいの?

 私の体息苦しくない?」

 

 「いえ、我慢できますので。

 燕さんこそ私の体のせいで周りから奇異の目で見られることに不満はありませんか?」

 

 「ないよ」

 

 お二人は私達を見て言いました。

 

 「だってさ」

 

 「だそうです」

 

 「いや、よくないだろ!?」

 

 「一生そのままでいるつもりですの!?」

 

 一大事ですわ。

 当の本人に戻る気がまったくないなんて!

 このままではややこしくて仕方がありません。

 

 何とかしてその気にさせなければ……そう私が思った瞬間、医務室のドアが開かれましたわ。

 

 「やはりそういうことか……」

 

 「紫様!?」

 

 何ということでしょう。

 秘密の内に解決するつもりが紫様に見つかってしまうなんて。

 

 「……はじめから見破っていたのですね」

 

 「いや、最初は半信半疑だったが決め手となったのはこれだな」

 

 そう言うと紫様は夜見さん(結芽)の首元を指さしましたわ。

 

 「ネギ……ですか?」

 

 「ああ、好き嫌いの多い結芽が嫌いな野菜を身につけるとは思えない。だが夜見ならば。

 夜見の故郷秋田ではきりたんぽ鍋が家庭の味だという。

 鍋にネギは不可欠、よって結芽の中に夜見がいて、その夜見が古里を思いネギを手放さなかった。

 そう考えたまでさ」

 

 どういう判断基準ですの!?

 やはり紫様の考えていることは私達の遙か上を言ってますわね。

 今回は行き過ぎて大気圏を越えてますけど……

 

 「お前達の今日の経緯を考えるに今朝の落雷が原因だろう?

 案ずるな、解決方法はすでに見つけた」

 

 「それは一体なんなのですか!?」

 

 「簡単だ、同じ事を繰り返せばいい」

 

 ということはまた彼女達を落雷に……

 

 「と言ってもまた落雷を受けるわけではない。

 要は電気を感じることが重要なのだ。よってこれを使う!」

 

 ドン! と威風堂々と出したのは、下敷き?

 

 「片方が下敷きで頭をこすり、もう片方がそれを触れる。

 こうすれば元通りになるはずだ!!」

 

 「……」

 

 「元通りになるはずだ!!」

 

 理論が超絶過ぎて私には理解できませんわ……

 それは皆さんも同じのようですけど。

 

 とはいえ紫様のことですし、きっと私達のために考えてくださった策に違いありませんわ!

 ありませんわ……

 

 「了解しました。ではこする役はこの皐月夜見が引き受けましょう」

 

 そうおっしゃると夜見さんは紫様から下敷きを受け取り頭をこすり始めましたわ。

 ぱっと見は無表情であたまを下敷きで一心にこする結芽……ものすごくシュールですわ。

 

 「い、いかん寿々花、腹筋が……」

 

 「た、耐えなさい真希さん……夜見さんはいたって真剣ですのよ」

 

 「だ、だからこそやばいんだ……」

 

 今朝といいなんで結芽の体に夜見さんが入ってるだけのことがこんなに面白いんですの。

 

 「よし結芽、今だ」

 

 「は~い」

 

 私と真希さんが笑いをこらえている間に結芽さんは夜見さんがこする下敷きに触れましたわ。

 すると……

 

 バチッ

 

 「……」

 

 「……」

 

 見つめ合う二人。

 成功……なのですわよね?

 

 「やったか?」

 

 「真希さんそれ失敗フラグですわ」

 

 しかし実のところどうなのでしょうか?

 

 「あ、戻りましたね」

 

 「本当だね」

 

 いや、戻ったのでしたならもう少し大きな反応を示されても。

 なんかすごい肩すかしですわ。

 

 「これにて一件落着、というわけだな。

 お前達、問題があったのならすかさず私に報告しろ。

 この程度の些事はお前達の命を預かる者として当然の責務だ。

 分かったな?」

 

 「「「「はっ!」」」」

 

 紫様はそう言って踵を返し医務室を去りました。

 

 やはり紫様は紫様、私達刀使の頂点に立つ器を持ったお方ですわね。

 これからも粉骨砕身の思いでお仕えしますわ!

 

 

 「危なかった……まったく根拠のない勘だったから戻らなかったらどうしようかと……危ないところだった」

 

 ……最後のは、聞かなかったことにしておきましょうか。

 

◆◆◆

 

 入れ替わり騒動から一日。

 私は昨日果たせなかった約束を果たすために美濃関に来た。

 

 そう言えば行く前見送ってくれた相楽学長の様子が変わっていたけどなんだったんだろう。

 何というか憑きものが落ちたような雰囲気だったよ。

 まあそれは後で聞くとして今度こそ可奈美お姉さんと立合いするんだ!

 

 「お姉さん、遊びに来たよ~」

 

 「ああ結芽ちゃん! 体調戻ったんだね!」

 

 体調? 何のこと? もしかして夜見お姉さんが入れ替わってたのをそう解釈したのかな?

 一方舞衣お姉さんは米俵を持ってこっちに来た。なんで?

 

 「あ、結芽ちゃん。はいこれお父様に頼んで仕入れて貰った秋田米一俵分。

 よかったら食べて」

 

 いや、私別に米好きなわけじゃないけど!?

 夜見お姉さん私の体で何してたの!? おむすび大食い大会にでも出てたの!?

 そう言えば元に戻ったとき私の御刀にイチゴ大福ネコの他に不人気過ぎて一週間で生産終了になったレモン饅頭イヌがついてたけどこれもお姉さんのせいだよね?

 お姉さんがここでなにをしてたか……知りたいような知りたくないような……

 

 「まあそんなことよりも勝負!勝負だよ可奈美お姉さん!」

 

 「うんそうだね! やっぱり立合いだよね!」

 

 そうそう、お姉さんも話が分かってるな~。

 おっと、でもその前に。

 

 「舞衣お姉さん、立合い終わったらクッキー教えてよ」

 

 今のうちにクッキー作りの腕を磨いておかないとね。

 必ず学園祭でミニスカメイド服で踊ってもらうんだから、待っててね沙耶香ちゃん!

 

◆◆◆

 

 入れ替わり騒動の翌日、私はいつもと変わらない日々を過ごしていた……

 と、元に戻った直後はそうなるだろうと思っていたのですが……

 

 「で、でたー『邪気眼の夜見』よー!?」

 「あのサイボーグで宇宙人でスケバンで脱ぐとすごいと噂の皐月先輩だわー!」

 「高津学長を裏で操ってる影の黒幕という噂も流れてきてるわね……」

 「やっぱり! 親衛隊に入る前はパッとしない生徒だった皐月先輩がある時を境に戦績が伸び始めてるわ!皐月先輩、あなたは一体何者なの……?」

 「やめろって! 袋詰めにされちまうぞ!」

 

 いつになく私の噂が一人歩きしている気がします。燕さん、あなたの仕業ですよね?

 

 「あの……クッキー上達した。だから、その……」

 

 糸見さんもグイグイ来ますね。どう説明しましょうか……

 でも一番気になるのは。

 

 「よ、夜見!? 何か困ってることはないか。わ、私ならいつでも力になってやるぞ!

 だからその……あのことだけは内密にな」

 

 学長が妙に優しいと言うことです。

 優しいというか怯えてますよねこれ。燕さん、あなた何をしたんですか?

 『だきまくら』と言えば言うことを聞いてくれるそうですが何のことでしょうか?

 例の紫様人形となにか関係が、私はてっきり影武者にでも使うのかと。

 知りたいような知りたくないような……

 

 「糸見さん、実は昨日の私は──」

 

 「昨日は……ありがとう。

 『私を理解できるのは私だけ』……この言葉、忘れない……」

 

 如何にも燕さんが言いそうな言葉です。

 それにしても『私を理解できるのは私だけ』……ですか。

 

 

 

 そうですね、忠義を示すにしても学長を知っておかければなりませんし、学長にも私を知ってもらう必要性がありますよね。

 

 「高津学長」

 

 「は、はいぃ! 何だ夜見」

 

 「一昨日、上質な紅茶の茶葉が手に入ったのですがよろしければ一緒にお茶会しませんか?

 だきまくら、です」

 

 「!? お茶会だな! 飲めばいいんだな! 飲んでやるとも! 1リットルでも10リットルでも!!」

 

 「後、糸見さん」

 

 「……何?」

 

 「お茶会には菓子が付きものです。クッキー、お願いできますか?」

 

 「!! 分かった、たくさん持っていく、皐月……先輩!」

 

 これもありですね。

 一人のお茶会ほどつまらないものはない。でも大切な誰かといれば……

 

 「皐月先輩……笑ってる?」

 

 「……私、笑ってましたか?」

 

 「うん、すごく、いい笑顔だった」

 

 「そうですか、きっと嬉しかったのでしょう」

 

 誤解はその内解くとして、今は燕さんが残してくれたこの奇妙な状況を楽しみましょうか……

 

◆◆◆

 

 ねね! ねねー! ねねねねねね!

 ねー? ねねねね! ねね!

 ねね-! ねねっ! ねーねね!

 ねーねーねー! ねーねーねーねーねねー……

 ねー……ねねー!?

 

 

 

 「このばかねね! ねね語で地の文しても意味わかんねーだろーが!!」

 

 「Oh薫、どうしんデス? 乱暴は駄目デース」

 

 「地の文とはどういうことだ?」

 

 「いや、なんでもねーよ」

 

 オレのペットが悪かったな、最後に地の文を語るのはこのオレ、益子薫だ。

 あ? さっきねねが何言ってたか教えろだって?

 

 やめとけロクなこと言ってねーぞ。

 このエロ魂の言ってることの8割は胸に関することだからな。

 あの胸がデカいとか、あの胸は大きくなりそうだとか、あの胸はエターナル胸ぺったんだとか。

 まったく面倒な相棒を持ったもんだよ。

 

 というわけで俺達は荒魂の目撃情報があった山奥に調査任務で来ていた。

 けどよ、真庭学長は危険の有無だけでも調べてこいつったがこんなへんぴな山奥で人が襲われるわけねーじゃねーか。放っておいてやれよ。

 あのパワハラおばさんめ、いつか絶対ギャフンと言わせてやる。

 しかもオレの扱いを熟知しているエレンとくそ真面目な姫和を同行させやがって、これじゃサボるにサボれねーじゃねーか!

 

 おっと間違えた。姫和じゃなくてエターナル胸ぺったん女だったな。

 

 「おい貴様、頭の中で失礼なことを言ってないか」

 

 「言ってるわけないだろ、胸だけじゃなくて脳みそまでぺったんなのかお前は」

 

 「今言ったよな! 確実に言ったよな!」

 

 「分かったよもう言わねーよ悪かったなひよよんザナイペッタン様」

 

 「しょうちしたきさまはきる」

 

 これだからこいつの胸いじりはやめられねーんだ。

 速攻で面白い反応をしてきやがる。

 

 「薫! 駄目ですよひよよんで遊んじゃ。ひよよんも御刀を収めてくだサーイ。

 これが薫流のコミュニケーションなのデス」

 

 まあ胸いじりは程々にして調査に戻るか。

 早く帰って昼寝したいし。

 

 「スペクトラム計に反応が、こっちだな!」

 

 「ひよよん! スタンドプレーはノーサンキューデス!」

 

 スペクトラム計の反応を見るや突っ走るエターナルとそれを追うエレン。

 お前ら、こんな山奥で走ったら……

 

 「「うわぁっ!?」」

 

 転ぶぞ……って言いたかったんだもう手遅れか。

 山素人共め、あちこちに木の根が張ってるから転びやすいんだよ。

 転んだ先が崖じゃなくて小さな斜面でよかったな。

 

 「ねねー!」

 

 ねねの言う通りだな。

 ボチボチ助けにいきますか。

 

 「おーいエレン、エターナル。生きてるかー?」

 

 まあ死ぬわけないのは一緒に戦ってきたオレが一番よく知ってるけど。

 俺の声に反応してエターナルがむくりと起き上がった。

 

 「おう、生きてたか」

 

 「ご迷惑おかけしてソーリーデース!」

 

 「……」

 

 

 ……………は?

 なんでエターナルがエレンみたいな喋り方してるんだ?

 

 「お前どうした。胸が大きくなる変わりにアホになる毒キノコでも食ったか?」

 

 「どーゆー意味デスか?」

 

 「自分の胸に聞いてみろ」

 

 それを聞くとエターナルはぺったん胸を触る。

 するとこいつ信じられないといった顔で騒ぎやがった。

 

 「Why!? 私のバストがなくなってるデース!?」

 

 「何言ってんだ?元からねーだろ」

 

 哀れひよよんザナイペッタン。

 頭を打ったショックで自分のことを巨乳だと思い込んでいる一般まな板に成り下がったか。

 喋り方もエレンみたいになって……つーかエレンどこ行った?

 

 「あ、いた。って何やってんだあいつ?」

 

 

 「何だこの胸にぶら下がるような重い感覚は!?

 まさか新手の荒魂か! 荒魂めっどこにいる! 私が叩き斬ってやる!」

 

 マジで何やってんだあいつ?

 何もないところで御刀を振りましてよ。

 激しく動くもんだからあいつのデケー胸もスゲー揺れてんぞ。

 ……何かムカつく。揉み潰してやろうか。

 

 「オーマイガー! ドッペルゲンガーデース!? 怖いデース!」

 

 「その声はまさか……何故私が目の前に!?」

 

 何だこいつら?

 何でお互いを見て驚いてんだ?

 

 「おいそこのお前、ワッチャネーム?」

 

 「アイアムエレン古波蔵デス」

 

 「じゃあそっちの方、お前は誰だ?」

 

 「十条姫和だ」

 

 こいつはとんだミステリーだな、姫和がエレンと名乗って、エレンが姫和と名乗ってこれってもしかして……

 

 「「入れ替わってる-!?」」

 

 おいおい、面倒なことになりそうだな……




 取りあえず続編を匂わせるB級映画スタイル


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