偏屈な男のGGO 作:ヘレン&コットン
追跡するうちに分かったことがある。それは名前は知られているが、具体的な容姿や居場所を知っているのは誰もいないということである。しかし諦めるわけにはいかない。
「また収穫なし、か…」
そもそもカラシニコフという名もメールの送り主なだけであるし、本人ではないのではないか。ログアウトする前に、ダメ元で郊外にある小さなガン・ショップに行ってみることにした。
「いらっしゃい」
中にはカウンターに銀髪のショートヘアで同年代に見える少女一人だけがいた。落ち着いた雰囲気であり、少し大人びている。
「カラシニコフという人は知らないかしら?」
「あら、まさか探しに来たの?今会わせてあげるわ」
そういって少女が店の奥に入っていった。なんとなくだが、仲良くなれそうな性格だ。
(それにしても、まさかこんな所にいてすぐに会えるなんてね…)
郊外とはいったものの、それなりに街には近い。案外近くにいたのだなと思っているところで先程の少女が一人の男を連れて戻ってきた。見た感じ20代後半ぐらいだろうか。優しそうな目つきをしており、とてもこの人物が戦場で戦っているのを想像できない。
「おや、君は前のスナイパー君じゃないか。どうだい、調子は?」
成人男性としてはやや高めの落ち着いた声で話しかけられる。本当に優しそうな人だが、あいにくこちらは愛銃を返してもらいに来たのだ。
「私の銃を返してもらいにきたの。どこにやったのかしら?」
「KSVKは気に入らなかったのかい?あれは結構な値段するし強いと思うんだけどね」
男は残念そうな口ぶりでぼやいた。あの銃は試しに撃ってみたが、やはり使用感が違っていて代わりにはならなかった。
「色々な所で違う所があって使いにくかった。やっぱり私は元の銃のほうが好きなの」
「じゃあ仕方がない、返すよ」
男はあっさりと要求に応じた。残念そうな雰囲気なので少し罪悪感はあるが、もっと抵抗されると思っていたので、心配して損をした。
「ほら、これ。KSVKは君にあげるよ。ぜひとも使ってくれたまえ」
ヘカートIIを渡され、さらにKSVKももらった。かなりの赤字だと思うが、大丈夫なのだろうか。そう思っていると、考えていることがわかったのか答えてくれた。
「気にしなくていい。元からお金目当てじゃないからね。そういえば、名前を名乗ってなかったね。私は楓だ。こっちは相棒の――」
「クリスよ。よろしく」
どうやら男の方は楓、少女はクリスというらしい。仲が良い雰囲気であるし、リアルでなにか関係があるのかも知れない。
「私はシノンよ。突然邪魔しちゃったわね。次は何か買いに来るわ」
「待ってるわ。あなたとは仲良くなれそうだしね」
軽い別れの挨拶をしてすこし小さくて暖かかった店の外に出る。なにはともあれ一件落着だ。今度余裕があればもう一度寄っても良いかもしれない。
そう思って去っていくシノンは少し明るく、楽しそうに見えた。