AKINOさんの『創聖のアクエリオン』
上原れなさんの『After All~綴る想い~』
米倉千尋さんの『10 YEARS AFTER』『未来の二人に』とか聴いてるとこの作品の執筆が捗るのは何故なのか?
特に『Re:pray』
たくさんのお気に入り登録、評価、感想ありがとうございます。嬉しくて思わず一話書き終わるまで頑張りました。
今回はデート回。こんな感じでいいのかな?
アーシアはどうしようかと迷っていた。
悩ませているのは私室の机に置かれている紙である。
それは冥界に在る有料植物園の無料チケットだった。
冥界に在る植物だけでなく人間界や天界の草や花も配置されている大きな園で冥界の植物学者だけでなくデートスポットとしても紹介されている施設だった。
明日その場所にシオンと2人で行くことになったのだ。
実は、ちょっと行ってみたいと思っていたのだが、まさかシオンと一緒に行くことになるとは思ってみなかった。
それも、最終的には自分から誘う形になってしまったのだ。
「あぁ……どうして私はあんなことを……」
過去の自分の迂闊さに頭を抱えて数日前のことを思い返していた。
「アンタがアーシア先生?」
「はい?」
シオンと話していた男性に突如話しかけられて困惑気味になっているとその男性の頭をシオンが手にしているバインダーで小突く。
「なんでいきなり詰め寄ってるのさ。あからさまに怪しい人じゃないか」
「ん?なんだお前。俺のこと話してねぇの?」
「……どこに話す必要が?」
冷めた視線を送るシオンに男性はオーバーに両手を上げて嘆く。
「かぁ~!自分の1番の親友を紹介しないとかどういう了見だよ!」
「親友じゃなくて悪友だよ、君は」
悪友という単語にアーシアはもしかしてと以前シオンから聞いた名前を口にした。
「もしかしてエリルさん、ですか?」
「なんだ聞いてるじゃねぇか。そ!俺がこいつの友人のエリルな。アンタのことはシオンから聞いてるよ。こいつが誰かをベタ褒めするなんて珍しいからな!」
「え、と……ありがとうございます?」
疑問形に返すアーシアにエリルは可笑しそうに笑っているが反対に眉間に皺を寄せたシオンが離れるように促す。
「もう行きなよ。仕事は終わってるんだから」
エリルは製薬会社で働いており、薬の説明や営業などでシオンたちの職場にそれなりに顔を出す。そしてその度にシオンを捕まえて他愛のない話をしに来る。
「そう邪見にするなよ。お前が怖い顔してるからアーシア先生がビビってんぞ」
「え?い、いえ!?シオン先生がそんな風に砕けた感じにお話するのを始めて聞いたから驚いてしまって……」
慌てた様子で手を振るアーシアにエリルはニヤニヤしてあぁ、顎に手を当てた。
「こいつ、波風立てないように基本敬語で物腰柔らかくしてるからな。ん?どうした?俺の顔ジッと見て。惚れた?」
「いえ、その……どこかでお会いしたことありませんでしたか?」
「うんにゃ。まぁ、俺もここには仕事の関係で出入りはするしな。顔くらいならみたことあるんじゃないか?」
自然に否定されてアーシアは疑問に思いながらもそうですか、と納得する。
「さてそんな君たちにプレゼントをあげよう!!」
「会話が全く脈絡ない……」
エリルのテンションに辟易しながら渡された紙切れを見る。それが例のチケットだった。
「チケット?」
「そ!仕事の付き合いで貰ったんだけど俺行かないしさ、誰かに押し付けられないか探してたんだよ!今週末までだから暇なら行ってくれば?2人で」
言うだけ言ってじゃあな!とその場を去るエリルにアーシアは苦笑した。
「突風みたいな人ですね」
「アレはどちらかといえば嵐の類でしょう。それよりこれですが、どうぞ」
「え!?」
シオンはエリルから渡されたチケットをアーシアに渡した。
「私は何度か行ったことがありますから。良ければご家族か友人とで。色んな花や植物があって中々景色も良いんですよ」
「……」
言われても、愛理は急に予定が空くか分からず、誠二はこういうのに興味ないだろう。他の妻たちもどうだろうか。
「あ、あの!シオン先生が使いませんか!その、予定が合えば、ですけど」
「あ、その……それは……」
「それとも、私と一緒に出掛けるのは、お嫌でしょうか?」
シオンの言いたいことは分かる。
アーシアは既婚者で子供もいる。
そんな女性と休日に2人で出掛けるのは憚れるのだろうし、その考えは間違っていない。
それでも、この人にはそれを理由に逃げられたり避けられたりしてほしくないと思ってしまうのは我侭だろうか。
我侭、なのだろう。
だけど――――。
上目づかいで見つめるアーシアにシオンは根負けしてアーシアに渡したチケットを手に戻す。
「分かりました。謹んでエスコートさせてもらいます」
「あ……その、ごめんなさい……そちらの都合も聞かずに……」
さすがに強引過ぎたと後悔するアーシアにシオンは笑顔で首を横に振った。
「気にしないでください。私も週末に予定はありませんから。植物園、楽しみですね」
あの笑顔が本心からであってくれればいいが、こちらに気を使ってのモノだとすると気が沈む。だけど同時に了承してくれて嬉しくもあった。
「そ、そうだ!明日着る服を選びませんと……」
クローゼットの中を開けて服を吟味し始めた。
「これはちょっと恥ずかしいですね。これはいつ購入しましたっけ?」
ああでもないこうでもないと服を選ぶことを楽しいと感じる。
悪魔としてはまだまだ若いアーシアだが人間として見ればそれなりの年齢だ。
そんな自分がこうして服を選ぶのに一喜一憂してることへの気恥ずかしさはあるが、明日会うあの人がどう思ってくれるか期待が生まれる。
(こうして男の人と2人で出掛けるのはいつ以来でしょうか?)
その相手はもちろん夫である一誠だった。
こうして彼とも長い付き合いになったし、これからも長い付き合いになるのだろう。
だけど、2人っきりで出掛けたと言われると思い出はそう多くない。
高校時代は何をするにも皆で一緒だったし、大学は入学当初こそ時間が取れたが卒業が近づくにつれて一誠も上級悪魔として学ばなければいけないことが増えて、彼を慕う女性も増えた。
デートと呼ばれる2人っきりの時間などそれこそ両手で数え納まるくらいだろう。
一誠が正妻であるリアスを優先していたということもある。
当時は皆で行動するのは楽しかったし、周りに妬くことはあっても不満はなかったが、今思うと何かが違うのではないかと思う。
社会に出て、一誠の妻のひとりとなり。各地で活動する一誠について行った時期もあったが妊娠・子育てと続き彼の傍に居られる時間が減った。
今住んでいる大きな屋敷で夫の帰りを待ちながら同じ男の妻となった女性たちと一誠を出迎える際にどんな服を着ようかと話し合ったこともあったが、今ではそんなこともない。
(学生の頃はイッセーさんがいなくなったら生きてさえいけないと思うほどに強く想っていたのに……今はどうでしょう……)
一誠が死んだらきっと悲しいし泣くだろう。だが生きていけない程に心が壊れるという事はないだろうと思う。
これが大人になり、強くなったということなのか。
それとも、ただ単に彼への想いが―――――。
「やめましょう、こんな考えは……」
そこで思考を打ち切り再び服を選び始める。
こんな気持ちで服を選んで会うなど約束してくれた彼に失礼だ。
どこか逃げるようにクローゼットの中にある服を調べ続けた。
「おはようございます、アーシア先生」
「はい。おはようございます、シオン、さん……」
いつもの先生呼びではなく躊躇いがちにさん、と呼ぶアーシア。それに慌てて弁明する。
「その、せっかく休日に会うのに先生呼びも堅苦しいかなと……」
「それもそうですね。では私もアーシアさんと。あぁ、それとその服、上品で落ち着いた感じに思えてとても似合ってると思いますよ」
今日のアーシアは白いシャツに橙色の上着紺色のスカートを履いている。
どれもかなりの上物っだった。
「あ、ありがとうございます!シオンさんもカッコいいですよ」
「あはは、お世辞でも嬉しいですね。さ、乗ってください。場所は私が知ってますので、エスコートさせてもらいます」
お世辞じゃないですよ、と言いながら助手席に座り、シオンが運転する車で移動した。
「園の中は結構な敷地があって軽食が摂れるところもありますし、お土産用に植物の種や茶葉なども販売されてますね。冥界だけでは観られない草花も多いんですよ」
「楽しみです」
ニコニコとシオンの説明を聞いているアーシアの反応に彼自身も浮かれているのを自覚する。
きっとあの悪友がここに居ればニヤニヤと自分たちを観察するだろう。
(彼もいったい何を考えているのやら)
チケットを貰ったその日の夜に電話して問い質した時のことを思い出していた。
「で、どういうつもりかな。あんなチケットを強引に渡して」
『おいおい俺は善意でくれてやったんだぜ。まさか俺が親友を何かに陥れるために渡したとでも思ってるのか。さすがに傷つくぞ』
「えぇ。君とは長い付き合いだからね、きっと何か企んでるんだと確信してるよ。長い付き合いの友人として」
『ハッハッハッ!言うじゃねぇか、コラ!って言っても今回は本当に善意だよ。堅物のお前が女に意識向けるなんて珍しすぎるからな。友人として背中を押してやりたいと思うのは当然だろ』
「向こうが旦那とお子さんもいるのは知ってるよね?それで――――」
『だからお前は堅物だってんだ!それでもホントに悪魔か!?赤龍帝だって何人も奥さんを囲ってるし、ガキが居てもお前がそれを気にする質か?2人目の夫って立ち位置に入れば赤龍帝と違ってずっと傍に居られるお前の勝利同然なんだぞ!後はお前の気概次第だろうが!!ねだるな!勝ち取れ!さすれば与えられん!』
声を熱くして言う悪友に重たい息を吐く。
そしてエリルは追い打ちをかけてくる。
『それにな。ホントに迷惑に思ってんならチケットなんて捨てればいいじゃねぇか!ちょっとでも期待してるから一緒に行くことになったんだろ』
「それは……」
エリルに言われてシオンは口ごもる。
シオン自体アーシアのことは嫌いではない。むしろ好意的だ。しかしそれはあくまでも同僚としてだった筈。
それに変化が起きたのは。
(三ヶ月前に、酔った彼女を家に上げてからかな……)
正直、冥界の英雄である赤龍帝の妻という立場だ。きっと幸せな家なのだろうと勝手に想像していた。しかし吐き出された彼女の弱音。年頃の子供の教育が上手くいかない。夫とはもう随分会っておらず、必要とされているのか自信が持てない。そして今の立場が息苦しく仕方ないと感じる時があるなど。
口に出してしまえばありふれた悩み。しかしだからこそリアルさを伴っていた。
アーシアをここまで追い込んだ家族に対する憤りや自分が頼られているという一種の優越感が有った。
その後もアーシアを意識することがあり、あの折れてしまいそうな彼女を自分が支えられたらと夢想しなかったわけでもない。
『お前なら行けると思うぞ、俺は!俺なんてな5年近く貢いだ女に二ヶ月くらい放って置いたら”あなたといる意味が分からなくなった”とか言われて一方的に別れさせられたからな!』
電話越しから自虐的な笑いが聞こえるが無視した。
『ま、デート1回したくらいで何かが変わるわけじゃないだろ?そんな行動力が有ったらお前がまだ独り身な理由が分からん。気楽に行け気楽に』
それだけ言って一方的に電話を切られた。
「どうしました、シオンさん?」
どうやらいつの間にアーシアの方へと視線が動いていたらしい。
誤魔化すように笑って
「すみません。もう少しで着きますので」
「はい!よろしくお願いします!」
向こうもそう笑顔を向けてくる。
悪友が何を考えているかはともかくとして、今日が彼女にとって楽しく安らかな時間になればいい。そう思って車を運転した。
「わぁっ!?綺麗ですね!」
アーシアは薄暗い建物の中で硝子を隔ててぼんやりと発光する色とりどりの花びらに感激していた。
「これは天界で生息する花ですね。綺麗ですけどその光自体が微弱ですが聖なるオーラを放っていて、悪魔である私たちは硝子越しでしか観賞できません。小さな子供が触れるとそれだけで命に関わりますから。以前聞いた話だと、職員の方も特殊な防護服を着てこの花を育てているらしいですよ」
「そうなんですか。あ、でもそれならこの花を育てるのは難しいですね」
「天界の草花は基本的に私たち悪魔には扱いが難しいですからね。アーシアさんは花を育てることにご興味が?」
「はい!自宅でも育ててるんですよ。家族も手伝ってくれます!」
ここで家族というのはアーシアの子供たちだけでなく兵藤家全体を指す。
嬉しそうに語る家族の話にシオンも自然と頬を緩めた。
「そうだ。ここは基本的に撮影は禁止なんですけど、職員の人に頼むと有料で写真を撮って貰えるんです。もし良かったら撮りますか?」
「あ、はい。良いですね!」
写真を撮る職員を見付けて撮影をお願いした。
「シオンさんも一緒に撮りませんか?」
「え、と……それは……」
躊躇うシオンに写真を構えた職員が口を出す。
「お2人とも見目麗しいので並ぶととても映えると思いますよ」
「ダメですか、シオンさん……」
残念そうにするアーシアに根負けして結局並んで写真を撮った。
撮れた写真は恥ずかしそうに並んでいる2人が写されていた。
次に訪れたのは人間界の花が植えられている。
花壇に植えられている花を膝を折って見ていると、葉の部分に隠れていた虫がアーシアに向かって急に飛び出してきた。
「キャッ!?」
「おっと!」
驚いて後ずさると後ろに居たシオンに頭からぶつかる形になる。
「あ、ごめんなさい!?ビックリして!」
「いえいえ。お気になさらずに」
ぶつかったことを恥ずかしそうにしているアーシアに苦笑しながらシオンは遠くを見る。
「もう少し行った先に軽食のお店があるので軽くお昼にしましょうか。私もそろそろお腹が空きましたし」
「そ、そうですね!そうしましょう!」
そう決めるとシオンが手を差し出す。
その手を取るとゆっくりと歩き出した。
自分に合わせて横を歩いてくれるその姿と手の温もりをアーシアはどこか安心感を覚えて委ねた。
店内で軽い昼食を摂りながらアーシアとシオンは談笑していた。
「ここで売られている茶葉は少し高いですけど良い物なんですよ」
「はい。お義父さまとお義母さまに素敵なおみやげができて良かったです!」
アーシアは義理の両親である兵藤夫妻に妻たちの中で特に懐いている。
だから、誕生日やこうして送りたいものを見つけると送っていた。
和やかな雰囲気で会話を楽しんでいると店内にあるモニターからニュースが流されている。
『赤龍帝、兵藤一誠さまとギリシャの〇〇〇さまのご結婚が正式に決定しました。一度、ギリシャで式を終えた後に2週間後、冥界へ帰国することが発表されました。これにより冥界とギリシャ神話がより親密な関係を維持されると期待されており―――――』
そのニュースが耳に届いてアーシアが肩をビクッと跳ねる。
モニターに目を向けるとそこには人間で言えばそれなりに整えられた顔の青年と十代半ばか後半程の紫色の髪をした少女が並んでいた。
モニターに映された青年。兵藤一誠は隣に居る少女の肩を抱き、端から見ると少し歳の離れたカップルの幸せそうな微笑ましい画として映されている。
兵藤一誠がインタビューを受けている。
『それにしても兵藤一誠さまは多くの女性を妻として迎え入れていますが、今回の御結婚に他の奥方はどう思われているのですか?』
『はい!彼女のことはここ数カ月で話して向こうも会うのが楽しみだと言ってくれました!』
『つまり、問題はないと?いや~赤龍帝の奥方は皆美人揃いですが諍いもないとは羨ましい!これが英雄の持つ人徳というモノなのでしょうかね!』
『はは、お恥ずかしい』
報じられているニュースをアーシアはただ黙って観ている。
その表情は読み取りにくく、哀しいのか淋しいのか。それとも違う感情があるのかシオンには分からなかった。
だがモニター越しで夫が話しているように、無条件で心から喜んでいるようには見えなかった。
膝の上に置かれた手は強く握られている。感情を抑えるように。
それが何故かシオンには無性に嫌な気分にさせた。
「アーシアさん!」
「は、はいっ!?」
急に呼ばれてビックリしてシオンを見る。
「次は冥界の面白い草花がたくさんありまして。その中にはちょっと驚くような動きをする植物もあるんです。だから、また手を繋いでいきましょう」
言われて一瞬キョトンとしたがすぐに小さく微笑む。
「はい。よろしくお願いします」
アーシアがシオンをどう思っているのかなど分からない。
それでも、笑顔でこの手を取ってくれた。
それくらいには信頼されていることにシオンは安堵を覚える自分がいた。
時間内に全て見終わるにはさすがに時間が足りない為に、丁度良いところで切り上げた。
車に乗るとアーシアは興奮冷めぬようにはしゃいでいた。
「冥界に人間界にはない植物がいっぱいとは聞いてましたけど、予想以上でした!」
「楽しんでいただけたようで良かったです」
「特に魔力を流すと音を奏でる花々。アレ、音もすごく綺麗でした!」
「最初発見された時は誰かの悲鳴みたいな音しか出なかったらしいですけど、ここ20年の品種改良の結果楽器の演奏に似た音が出せるようになったそうです。色の違いで出せる音が違っててプロが魔力を流すと本当に楽団みたいな演奏が出来るらしいですよ。さすがに聴いた事はないですが」
「そうなんですか。いつか、聴いてみたいですね」
「えぇ」
そうして話しているうちにアーシアの表情が沈む。
「アーシアさん?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと……」
沈んだ表情の理由をシオンはなんとなく察して口に出してみる。
「もしかしてニュースで見た、旦那さんのことですか?」
言われて最初は否定しようとしたのか顔を上げたがすぐにまた沈んで首肯した。
「その、こんなことを私が聞いて良いのか分かりませんが、新しい奥方を迎えることを本当はどう思っているのですか?」
「……分かりません。自分でもよく」
少し間をおいて出した答えは不明。
「ニュースで久しぶりにあの人の顔を見た時も、淋しいとか嫉妬とかそういう感情もあったんですけど、それ以上にあぁ、そうなんだって突き放したような想いが強くて……」
アーシアは駄目だと思った。こんなこと今日付き合ってくれたこの人に言うべきじゃないと思った。それでもどこかで前のように自分のやり場のない感情を受け止めてくれるのではないかという期待から口が止まらなかった。
これは、甘えだ。
「分からないんです。あの人にとって私は何なのか。もう自信を持って答えられないんです……」
アーシアは兵藤一誠の妻と名乗れるだけの確かな繋がりを見失っていた。
欠けた想いはかつて輝いていた思い出すら無色に侵食していくようだった。
何も言わないシオンにアーシアは無理に笑った。
「ごめんなさい。最後にこんな話を――――」
「かまいません。いくらでも言ってください。それで貴女が元気になるならどこでも、なんでも」
「シオン、さん……?」
「聞くだけでダメなら今日みたいに何処へだって連れて行きます。だからどうか、最後には笑って欲しい」
シオンは抑えようと思った。これは言ってはいけないモノだと思っていた。
でも、横で落ち込むアーシアに我慢が出来なかった。
「どうして、わたしに、そこまで……?」
後の事なんて、知らない。きっと今言わなければ後悔する。
「私は、アーシアさんが好きですから。好きな人には笑っていて欲しいのは当たり前じゃないですか」
驚いて見開かれた瞳は真っ直ぐとシオンを見つめる。
「ほん、とうに、ですか……」
「はい。私はアーシアさんがひとりの女性として想ってます」
シオンの告白にアーシアは少し間を置いた。
「なら、シオンさん……私と―――――」
夜の静寂でなければ聞こえない声量で頼まれたこと。
それにシオンは頷いて瞳を閉じたアーシアの顔に自分の顔を近づけた。
車の中で重なった唇。するとアーシアの瞳から一筋の涙が頬を伝う。
それは、夫を裏切る行為をした自責の涙だったのか。
それとも目の前の優しい人が自分を受け入れてくれたことへの喜びの涙だったのか。
その
最後のアーシアのこれじゃない感がすごい。
実は最初に考えた結末だと告白シーンが無くて、次の日職場で会ってもう少しこの曖昧な関係を続けよう的な打ち切りエンドみたいな感じで終わる予定でした。
もう少し切りの良い終わりを思いついたのでそっちを書きますが。
残り2話。なんとか書き上げたいと思います。