アーシアに不倫させようと思った   作:赤いUFO

4 / 7
今回、アーシアにとってのご都合主義展開があります。


4話:解ける鎖

 アーシアが植物園から家に戻ったのはもう日付が変わろうとしている時間だった。

 久々に感じた異性の温もりに酔っていた。

 重ねた唇と吐息。触れられる安堵。優しく包むような言の葉

 それらが忘れられない幸福となってアーシアの心に染み込んでいた。

 

(私……こんなにも破廉恥だったでしょうか……)

 

 支えて欲しいと思った。この人に。

 遠くにいる夫よりも近くで触れてくれるあの人の温もりが鮮明に焼き付いている。

 

(こんな私をあの子たちや皆さんはどう思うでしょう?)

 

 きっと軽蔑されるだろう。そう思うと室内を歩く足が重くなる気がした。

 無意識に忍び足で移動していると声をかけられた。

 

「お母さん、おかえりなさい」

 

「あ、愛理ちゃん……!」

 

 少しばかり今は顔を合わせたくなかった実の娘と顔を合わせ、アーシアは笑顔を引きつらせた。

 

「遅かったね。もしかして飲んできたの?」

 

 問われてどう答えたものかと慣れない言い訳に頭を使っていると息子の誠二まで現れた。

 

「あぁ、帰ってきたのか。母さん、おかえり。結構遅かったな」

 

 愛理と同じセリフでこちらに近づいてくる。

 しかし一誠とよく似た息子に眉間に皺を寄せられて言われると、どこか夫に今日のことを責められているような気がした。

 

 それに誠二はもうセクハラや覗きなどの問題行動は起こさないと約束してから本当にそうしてくれている。

 それなのに自分は何をしているのか。

 男の人と出掛けて、浮かれ、相手の優しさに縋りついて唇を許した。

 別の男性に現をぬかし、一緒に歩く未来を想像している時、一誠との間に儲けた2人をどれだけ考えていただろう。

 その考えに思い至って目頭が熱くなった。

 恥ずかしい。

 情けない。

 みっともない。

 そんな感情に心が振り回されて気が付けば2人の子供を抱きしめていた。

 ビックリする2人は母の方を見ると涙を流していた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 震える声で繰り返す謝罪の言葉に愛理と誠二は困惑する。

 その状況に後からゼノヴィアや他の子供たちが現れる

 

 その際、誠二がまた何かしてアーシアを泣かせたと一方的に決めつけられる事態が発生し、必死で弁明する誠二がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場を取り仕切ったゼノヴィアが心配する子供たちを散らせて自分の部屋にアーシアとその子供たちに使用人に持ってきてもらったお茶を出す。

 

「それで、アーシア。何があったんだ?君がそんな風になるなんて、よっぽどのことなのだろう?」

 

 子供たちからは訊き難いと判断してゼノヴィアは自分から切り出すことにした。

 まるで罪人のように怯える彼女を友人として放って置けなかった。

 

 俯いていたアーシアは置いてある茶に手を出さずにポツリポツリと話始める。

 

 中々会えない一誠に年々中に有った想いが希薄になっていること。

 今日、ニュースで久しぶりに見た一誠に対する無感動さ。

 そして、他の男の人に心が移ろっている事実。

 アーシアの話にゼノヴィアはただ黙って聞き手に徹し、愛理は眉間に皺を寄せている。誠二は考え込むように腕を組んでいた。

 

 話を聞き終わると再びゼノヴィアが口を開く。

 

「アーシアの話は分かった。しかしそれはそこまで気にするようなことなのかな?」

 

「え?」

 

「言うまでもないが冥界では複数の伴侶を持つことは認められている。それは何も男性だけの話じゃない。君がそのシオンという男性に魅かれたなら彼も第二の夫として迎え入れればいいだけの話だ。今まで黙っていた後ろめたさはあるかもしれないが、別に冥界の法に触れたわけじゃない。一誠だってそうだろう。もしアイツが何か言っても自分は妻を増やしているのにこっちはダメなのか、とでも言えばいい」

 

「それは……」

 

 ゼノヴィアの言っていることも間違っていない。

 実際にそれは可能だし、アーシアが想っているほど大事ではないのかもしれない。

 しかしアーシアは良くも悪くも生真面目だった。

 一誠が複数の伴侶を持つのだから自分も、という理屈は違うと感じてしまう。

 そんなアーシアにゼノヴィアはふむ、と少し話を変える。

 

「私もイッセーに対して昔ほど熱は上げられないかな」

 

 笑って肩を竦めるゼノヴィア。

 

「私は昔からイッセーとの関係で伴侶のひとりという立場で納得していたし、最初は赤龍帝の子供が産めるならと結婚のことすら考えてなかった。少なくともマスター・リアスや朱乃さんのように言い争うほどではなかったからね」

 

 過去を振り返りながらゼノヴィアは自分のことを話し始める。

 

「もちろん、彼との子である漸を産んだときは嬉しかった。子を育てて成長するのを見守るのは楽しかった。だからこそかな。漸が一人前と言えるだけの年齢になってある種の達成感と言うか、区切りがついたと思ってるんだ」

 

「区切り……」

 

「うん。漸や愛理を含めて上のほうの子たちは後何年かすれば結婚して子を産み、そして私たちにとって孫と呼べる子を連れて来てもおかしくない。そういう年齢だ。まぁ、孫は悪魔の出生率を考えればまだ当分先かもしれないが。だからか一誠の妻としての役割はある程度果たしたと思えるんだ」

 

 ゼノヴィアの話を聞いてアーシアは自分はどうだろう、と思う。既に上の子供である愛理は成人を迎えている。それである程度の満足感は得ているのだ。

 そしてそれはゼノヴィアだけでなくイッセーからある程度離れて生活している妻たちの共通認識でもあった。アーシアには自覚がなかったようだが。

 

「一誠はまぁ、ああいう性分だからね。これからも今回のように新しい妻を迎えて子を産むだろう。私は今、その子たちの成長の手助けをするのが楽しいんだ。勉強や他にも色んなことを学んでもらって大きくなり、大人になるあの子たちの姿を見るのが好きなんだ。中には誠二のような問題児もいるが、それはそれでね」

 

 チラリと誠二の方を見ると彼は少しだけ居心地が悪そうに身体を縮めた。

 一誠の妻となった者たちは皆優秀だ。

 殆どのモノが何らかの職に就いてその手腕を振るっている。

 だから一緒に住んでいる者の中で時間の都合がつく者に世話が集中することもある。

 

「そして何かあった時、力のない子供たちを守るのが今の私の役割だと思っている。それが私がここに居続ける理由かな」

 

「ゼノヴィアさんは、すごいですね」

 

 ゼノヴィアとて淋しくない訳ではないだろうに。それでも自分の環境の中で自身の役割をしっかりと見極めている。

 その姿がアーシアにはとても眩しく見えた。

 しかし当のゼノヴィアは軽く手を振って否定する。

 

「もしかしたら、元から執着というモノが欠けているだけかもしれないけどね。なにせ私は、教会の騎士でありながら主の不在を知ってアッサリと転生した女だからね。だから、私はアーシアがどんな選択をしようと責めるつもりはないさ」

 

 そう締め括って愛理と誠二に視線を向けた。

 

「お前たちはどう思う?」

 

 話を振られてアーシアの方が肩を跳ねた。

 子供たちに何と言われるのか。もし軽蔑されると思えば顔を直視できない。

 先に口を開いたのは愛理のほうだった。

 

「そう、ですね……まさかお母さんがって気持ちはあります。他の男の人と会っていたいう話も裏切られたとまでは言いませんが、素直に受け入れられません」

 

 縮こまるアーシアに愛理はでも、と一拍置いて誠二の頭に手を置いた。

 

誠二(この子)が問題を起こしていた時のお母さんを思い出すと、強くも責めたくありません。大事な時にお母さんを支えられなかったのは事実ですから」

 

 だから自分は否定寄りの中立と言う。

 アーシアが思い悩んでいた時に夫である一誠が力になれなかったということもあって、そういう結論に達したのだ。相手のことを良く知らない不安もある。

 

 最後に誠二が組んだ腕をそのままに発言する。

 

「あー。母さんと父さんがどうなるかってことなら俺は何も言えないなぁ。だって俺、父さんのことあんまり知らないし」

 

 誠二の発言に3人が固まる。

 

「会った回数ならじいちゃんばあちゃんや祐斗おじさんのほうが多いくらいだしな。家で見かけても親戚のおじさんとかが家に居るのと変わんないっていうか」

 

 年がら年中飛び回ってる一誠に下に行けば行くほど顔合わせの機会が得られていない。

 もしかしたら、テレビ以外で父の顔を見たことがない子もいるのではないだろうか。

 

「言われてみれば、そうかもしれないわね……」

 

「しかし、それでよく昔のイッセーと瓜二つの言動が出来たな。まぁ、今は大分マシになったが」

 

「そんなに?」

 

「えぇ。若い頃のイッセーさんにそっくりです」

 

「なんでだろう。褒められてる気がしない!」

 

 場が少しだけ笑いに包まれる。

 

「で?アーシアはこれからどうするんだい?いや、急いで結論を出す必要はないのかもしれないが」

 

「……一度、お義父さまとお義母さまにご相談しようと思ってます」

 

「そうか。あの2人なら、私たちより適切なアドバイスができるかもしれないな」

 

「はい……もしかしたらもうお2人を親とは呼べなくなるかもしれませんが……」

 

 アーシアにとって兵藤夫妻は本当に尊敬すべき義親だった。

 2人から軽蔑されることは実の子から嫌われることより辛いかもしれないと思えるほど。

 もしかしたら、一誠との関係が切れることよりも、あの2人との親子関係が切れることの方がアーシアにとって心傷むことかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアが出て行った後に残された3人の沈黙を破ったのは愛理だった。

 

「まさかお母さんがねぇ。最近なんか嬉しそうだなぁとは思ってたけど」

 

「うん。高校時代のアーシアと雰囲気が重なるね。それはそうと2人とも、明後日少し付き合ってくれ。誠二は学校を休んでいい」

 

「なんでっスか?」

 

 誠二の疑問にゼノヴィアは決まっているだろう、と言う。

 

「アーシアが見定めた男の顔を見に行くんだ。お前たちも自分の父になるかもしれない相手くらい知っておきたいだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに訪れた兵藤邸はリアスたちが住んでいた時のような豪邸ではなく、アーシアが初めて足を踏み入れた時の家に戻されていた。

 皆が冥界に本格的に移住することが決まった際に2人だけではあの豪邸は広すぎる為、元の二階建ての一軒家に戻っていた。

 冥界に移住した後も手紙のやり取りは頻繁に行っており、互いの状況もそれなりに知っている。

 

 昨日連絡を入れた際も急な話にも関わらず快く快諾してくれた。

 そんな義両親にこんな話をしなければならないことに胸が痛んだ。

 

 インターフォンを鳴らすと数秒遅れて声が聞こえた。

 

『はい?』

 

「お久しぶりです。アーシアです」

 

『まぁ!待っててアーシアちゃん!今開けるから!』

 

 言われたとおり待っていると家のドアが開かれる。

 

「アーシアちゃん、久しぶりねぇ。さ、入って入って!」

 

「はい。お久しぶりです、お義母さま」

 

 嬉しそうにアーシアを迎える義母。

 その姿が見て、胸の痛みが強くなる。

 

 もしかしたら、今日がお義母さまと呼べる最後の日かもしれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの御仁。少し時間をいただけないだろうか?」

 

「はい?」

 

 昼を終えたシオンは突如青髪に緑のメッシュを入れた女性に話しかけられて体を強張らせた。

 話しかけてきた女性にはシオンも見覚えがあった。

 確か赤龍帝の奥方のひとりで騎士の女性だ。

 用件はなんとなくわかる。もしかしなくてもアーシアとのことだろう。

 しかし、今は少し間が悪い。

 

「申し訳ありませんが、これから職場に戻らなければならないので。急ぎでなければ後日連絡していただけませんか?」

 

 アーシアが休日を取っていることで人手不足とは言わないが、シオンまで抜けるのは流石にマズイ。

 何か大きなトラブルになった際に対処が遅れる可能性がある。

 

「そうか。すまないね、突然」

 

「いえ、お話の内容は必ずお受けしますので」

 

「少々力づくで来てもらうとしよう」

 

「へ?」

 

 指を鳴らすゼノヴィアが突如揺れたと思うと、シオンは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ。先日買った茶葉です。美味しいんですよ」

 

「ありがとう!アーシアちゃんには色々なモノを送ってもらって嬉しいわ。もちろんお手紙も楽しみにしてるのよ。うちの人が定年退職して皆から来る手紙が1番の楽しみですもの!」

 

「あぁ。なんでかイッセーから来る手紙が1番少ないけどな。ハッハッハッ!」

 

 久しぶりに会った兵藤夫妻は当たり前だが出会った頃より大分老けている。

 白髪が目立ち、皺の多くなった顔。義理の父に関しては数年前に腰をやってしまい、杖を突いている。

 しかし、それでアーシアは2人に負の感情を抱く事はない。

 むしろ夫婦仲が良く、二十代から見た目がほとんど変わっていないアーシアたちを出会った頃のままのおおらかさで受け入れてくれている義両親をアーシアは誰よりも尊敬していた。

 2人は、アーシアにとっての理想の夫婦像なのだ。

 

(あぁ。だからこそ私は……)

 

 こんな2人のような家庭を夢見た。そしてその相手としてのヴィジョンにもう、一誠の姿が見えないのだ。

 今から言おうとすることに身体が震える。

 逃げ出してしまいたい。

 失望させてしまうことが申し訳なくて。嫌われることが怖い。

 2人が大好きだったから。

 

「お義母さま。お義母さま。今日は大事な話があって来ました」

 

「ん?なんだい、改まって?」

 

「私は―――――」

 

 泣きそうになるのを堪えて詫びに頭を下げる。

 

「イッセーさんと、別れようと思ってます」

 

 アーシアの言葉に兵藤夫妻が大きく目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないね。こんな軟禁紛いな扱いをして」

 

「監禁、に訂正してもらえませんかね?」

 

 椅子に座らされて両手を錠されたシオンはさすがに笑って流せる状況ではなくゼノヴィアを鋭い目を向ける。

 しかしゼノヴィアはまるで自分が掛けた手錠を今気づいたと言わんばかりに軽く謝罪して鍵で外す。

 

 連れて来られたのはどこかの店の個室だった。

 見るからに高級と判る店だ。シオンの給金ではおいそれと入れない程の。

 説明されていたのか個室に案内される最中も手錠をされているシオンを案内役の従業員は特に問い質すこともなく連れて来られた。そしてその個室には先にアーシアによく似た二十代前後の女性と赤龍帝に似た十代半ばの少年がいた。

 手錠を外されたシオンは手首を擦りながら何の真似か問う。

 

「その前に自己紹介をさせてもらおう。私は―――――」

 

「知っています。ゼノヴィア・クァルタさんでしょう?貴女が有名人の赤龍帝・兵藤一誠氏の眷属なのもありますが、貴女がゲームに初参加した若手悪魔のシトリー戦でリタイアしたゼノヴィアさんを治療したのは私ですから」

 

「そうなのか!それはますます済まない。だがこちらがそれだけ本気だということも理解してほしい。2人はアーシアと兵藤イッセーの子供だ」

 

「兵藤愛理と申します」

 

「兵藤誠二っス」

 

 愛理はシオンを品定めするように観察し、誠二はこの状況を楽しんでる風だった。

 

「私は搦手という奴は苦手でね。そちらも時間があるだろうし単刀直入に訊こう。貴女は、アーシアをどう思っている?」

 

 本当に単刀直入に訊いてきたゼノヴィアにシオンは驚きながら何が目的なのか考える。

 もしかしたら、自分にアーシアを押し付けることで目の前の女性が何らかの得があるのだろうか?

 それとも、自分とアーシアの関係で不利益が有るのか。

 疑うような視線をするシオンに気付き、ゼノヴィアは苦笑する。

 

「今回は本当にアーシアが選んだ男がどんな人物か知りたかっただけだ。実を言うとね。彼女はイッセーとの離婚を考えて行動している。もちろん、貴方と一緒になるためにね」

 

「離婚!?」

 

 あまりの急展開にシオンは声を荒らげた。

 まさか2・3日でそこまで話が進むとは思ってなかった。

 その行動力に驚きと称賛の気持ちを抱いていると話を愛理が続ける。

 

「母は本気です。本気で貴方と添い遂げたいと思ってます。ですが貴方がもし軽い気持ちで母を誑かしたのなら許さない――――」

 

 冷気すら感じそうな冷たい視線に隣で座っている誠二が怖がって距離を取る。

 逃げられない状況。だが、2人が彼女の子供だと言うなら、アーシアをどう思っているのか言葉にすべきだと思った。

 だからあの日の言葉を繰り返す

 

「私は、アーシアさんをひとりの女性として想ってます」

 

 ただ真っ直ぐに愛理を見つめてそう言う。

 

「旦那さんがいない間を狙って近づいて来た間男と思われても仕方ない立場だと思います。ですが私は彼女と一緒になりたい。アーシアさんを幸せにしたい」

 

 口にしながら、シオン自身アーシアに対する感情を整理していく。

 

 植物園でのデートで楽しそうに笑い、喜ぶ彼女の姿を覚えている。

 なじみの店で一緒に食事をして話し合った時間を覚えている。

 家庭が上手くいかずに崩れ落ちそうだったか姿を覚えている。

 

 自分はアーシアに幸せになって欲しいのではなく、幸せにしたいと思った。自分の手で。

 

「私は、アーシアさんが欲しい」

 

 言い切ると愛理は立って近づき冷たい視線のまま見下ろす。

 

「父はきっと許しません。殺されるかもしれません。命が惜しいのなら、ここは引くべきだと思いますよ。医者が命を蔑ろにするなんて笑えません」

 

「それは怖いですね。でも私は戦う力を持ちませんから。言葉で尽くすしかないじゃないですか。生死に関しては……そうならないように努力するしかないです」

 

 愛理に脅しにも真面目に答えるシオンに諦めたように息を吐いた。

 それにゼノヴィアが彼女の肩に手を置く。

 

「気は済んだか?」

 

「えぇ、まぁ。なんというかここまできっぱり言われると羨ましいというか恥ずかしいというか。数で勝負するより一点を狙った方が貫通力が高いんだなぁって納得しちゃったと言いますか」

 

 頬を赤くして手で自分を扇ぐ愛理。

 後ろに居る誠二もよくあんなこと恥ずかしげもなく言えるなぁと感心している。

 

「という事らしい」

 

「はぁ……」

 

 要領を得ずに首を傾げているシオンにゼノヴィアは面白そうに言う。

 

「十日後にイッセーが帰国し、その際にアーシアも離婚の話を出すだろうから貴方も来るといい。まさか、アーシアだけに頑張らせる訳じゃないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかい……」

 

 アーシアの告白に兵藤父は淋しそうに息を吐いてそう言った。

 怒るのでもなく何故と問われるのでもないその反応にアーシアは戸惑った。

 なじられる覚悟すらあったのに。

 兵藤母の方も同じような表情だった。

 

「アーシアちゃんから送られてくる手紙から、どんどんあの子の名前が書かれなくなって。最近だとイッセーのことを書いてあることが稀だったじゃない。だからかしら。今日来るって聞いた時も、そんな話になるんじゃないかって思ったの。そうでなければ良かったのだけれど」

 

「なら、どうして……」

 

 自分を責めないのか。

 

「アーシアちゃんが簡単にそんなことを決める子じゃないって知ってるからねぇ。ここに来るまでも、ずいぶん悩んだんだろう?イッセーや子供たち。そして俺たちへの義理立て。ずっと我慢を続けてたんじゃないかい?その顔を見れば分かるさ」

 

「で、でも!わたしは!イッセーさんを裏切って!逃げようとして……!」

 

 自責から叫ぶように言うアーシアに義母が肩に手を置いた。

 

「アーシアちゃんが初めて来たときは嬉しかったわ。息子もそうだけど、私は娘も欲しかったから。後に何人も娘が増えたけど、初めての娘がアーシアちゃんで良かった。だから、無理に抱えこまないで。アーシアちゃんはアーシアちゃんの幸せを1番に思っていいの。貴女の人生がまだ長いのなら猶更に、ね?」

 

 あぁ、敵わないなぁとアーシアは思った。

 これから何百年。もしかしたら何千年生きてもこの夫婦には敵わないのではないかと思う。

 だけどいつか、この人たちのようになりたいと思った。

 ボロボロと涙が出る。

 

「ごめんなさい……イッセーさんと、ずっと一緒に居るって約束してたのに……」

 

「謝らんでくれ。それは、あいつが不甲斐無かっただけなんだから。ありがとう、アーシアちゃん。俺たちの最初の娘になってくれて」

 

 泣くアーシアをなだめる夫妻。その形は間違いなく親子の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は唐突に目を覚ました。

 まだ起きるには早い時間で彼の左右には裸のリアスと朱乃がまだ眠っている。

 寝ぼけた頭で深く考えずに起き上がり、端末を見ると、そこにはアーシアからのメールが届いていた。

 

(なんだろう……また誠二のことか?)

 

 ある意味自分の血を色濃く受け継いだ息子。少し前に何度もアーシアから相談されていた。

 落ち着いたと聞いてたから安心していたのだが。

 

「え?なんだよこれ……!?」

 

 メールの内容を確認して一誠の目が一気に覚める。

 

 

 

 

 

 アーシアからのメールには、自分と離婚したい旨が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で完結です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。