イリナ・ゼノヴィア・アーシアがその後の話をするだけの回。
その日、イリナは久方ぶりに冥界の実家に帰ってきた。
天界・人間界・そして冥界を忙しなく行き来するイリナにとって今回は約半年ぶりの長期休暇だった。
疲れた様子を隠しもせずにフラフラと歩いていると2年ぶりに会う旦那を見かけた。
「あ、ダーリン、2年ぶりー」
「グハッ!?」
悪意のないイリナの挨拶に一誠は血を吐くようなポーズを取って前屈みになる。
そんな一誠の様子を疲れた頭では特に気にすることもなく横を通り過ぎようとすが一誠に呼び止められた。
「ま、待ってくれ!?」
「?」
「その……久しぶりに会ったんだし今日は一緒に寝ないか?ほら!積もる話もあるだろ!」
「……ゴメン、疲れてるから勘弁して」
一誠の誘いを袖に振るイリナに一誠は「いや、でも……」と言い募ろうとする。しかし眠気が最大だったイリナには引き留めようとする一誠を煩わしく感じた。
「ダーリン……あ・と・で」
「……はい」
隈ができた眼で笑い牽制するイリナに一誠ははい、と頷いて引き下がった。
部屋に戻ったイリナは倒れ込むようにベッドに身体を預ける。
「久しぶりの七日間休暇だ~!」
部屋に埋め尽くされた書類も会談も気にしなくていい七日間。流石に最終日は色々と準備はあるが今はとにかく眠りたい、休みたい。
一誠の妻の中で一誠に次ぐくらい忙しく、フォローできる相方もいないイリナの疲労は転生天使の身体でも相当なモノだった。
今回の休みで疲労を抜くのを怠ると次はいつ纏まった休みが取れるか。
スーツ姿のままベッドに倒れたイリナはそのまま眠りにつく。
その頃には一誠との会話はまったく記憶に残っていなかった。
翌日。一誠が京都に旅立ってお昼に目が覚めたイリナは昼食をゼノヴィアと食べながら思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、昨日ダーリンに会ったけどなんか様子がおかしかったなー」
「おかしいとはどういうことだ?」
「うん。なんか必死っていうか。泣きそうな感じだったなぁ。なんでだろ?」
イリナが首を傾げているとゼノヴィアがあぁ、と納得した。
「どうやら、アーシアに離婚を突き付けられたのがよっぽど堪えたらしくてね。ついこの間も久しぶりに会った白音に昔みたいに膝に座る?などと訊いて、はぁ?と返されて傷ついていたな。今は、
「え?今更!」
イリナからすれば驚きの解答だった。
そもそも学生時代から一緒だったイリナですら今では数年に一度会うくらいなのだ。
昔からの仲で未だ熱狂的に一誠に熱を上げているのは半分届くかどうか。大体は一誠に対する感情は好きだけど今は仕事をしている方が楽しい。もしくはイリナのように本当に会う暇がない程に時間がズレてしまったか。
「それにしてもアーシアさんか~。アレには驚いたなぁ」
正直アーシアはどんなことがあっても一誠から離れないと思っていた。それがまさか1番最初に離婚なんて話になるとは思わなんだ。
久しぶりに家に戻って事の経緯を聞いて納得すると同時に寂しい気持ちになる。
どうして、もっと彼女の力になってあげられなかったのかと。
「でも相手の人は誠実そうよね。ダーリンと違って」
本人が聞いたら手を床に付けて泣きそうな最後の一言にゼノヴィアは苦笑いを浮かべる。
「知っているかイリナ?先月2人は正式に籍を入れたぞ。離婚騒動もようやく治まってきたからな。式は上げないらしいが」
「そうなの!?」
「君にもメールで連絡を入れたと言っていたが……?」
「あーゴメン。仕事が忙しくてプライベートのメールを見るのを後回しにしていたら見るのを忘れてたみたい」
「まぁ、それなら丁度良い。明日、アーシアと会って出掛ける予定でね。イリナも一緒に来るか?」
「もちろん行く行く!!久しぶりにアーシアさんと会いたいもの!」
身を乗り出して賛成するイリナにゼノヴィアが行儀が悪いと呆れられた。
ゼノヴィアが車を出して訪れたのは冥界に在るとある一軒家。
それは人間界に在る義理の両親の家に似ていてどこか懐かしさを感じた。
インターホンを押すと、少し遅れて中のドアが開いた。
「ゼノヴィアさん!イリナさん!お久しぶりです!」
「アーシアさん久しぶり~!やっと会えたー!」
手を合わせて再会を喜ぶアーシアとイリナ。それに後ろからアーシアの新しい夫となったシオンが中へと促した。
「中へどうぞ。お茶を用意してありますので」
「とりあえず再婚おめでとう、アーシアさん。そう言って良いのか分からないけど」
「いえ、とても嬉しいです。ありがとうございます」
イリナの祝いの言葉を素直に受け取るアーシア。
その薬指には以前填めていた物とは違う指輪が通されていた。
そこでシオンがお茶を用意して現れる。
「ごめんなさい、シオンさん。お任せしてしまって」
「いえいえ。久しぶりの再会なんですから、これくらいはさせてください。アーシアも、話したいことがたくさんあるでしょう?」
その会話にゼノヴィアがん?と顔を上げた。
「貴方はアーシアのことを呼び捨てで呼ぶようになったのか?」
「ハハ。はい。アーシアもそう望んでました。私の方もようやくこう呼ぶのに慣れてきました」
言ってからじゃあ、ごゆっくりと退室するシオン。さすがに女3人の会話に入り込む気はないらしい。
シオンの後ろ姿を見てイリナが羨ましそうに呟く。
「仲が良いんですね!いいな~。私も新しい人見つけようかな~」
「君にそんな余裕があるのか?」
「ないわよっ!毎日毎日書類整理と会議ばかりで異性どころか誰かとプライベートな話なんてここ最近してる余裕がホントないんだから!!そういうゼノヴィアの方はどうなの?」
「子供たちの教育で手一杯さ。今更他の誰かと一緒になる自分というのも想像できないしね。それに下手にイッセーを刺激するのもね」
ゼノヴィアの言葉にイリナとアーシアはあ~、と困った笑みを浮かべる。
「その……イッセーさんはどうですか、その後」
「相変わらず忙しそうにしているよ。たまに帰ってきて私たちや子供たちと交流を図ろうと躍起だな。ようやく下の子たちもイッセーを父親だと認識し始めた。この間、パパいらっしゃい、だとか。お客扱いされてショックを受けてたが。白音にも冷たくあしらわれていたな。それと、ロスヴァイセも最近職場で一緒に居ることの多い男性が居ると知ってかなり焦っていた」
「……」
なんとも言えない表情をするアーシアにゼノヴィアが苦笑してフォローする。
「これは別にアーシアとの離婚が原因じゃない。あのままなら誰かしら別れていただろうさ。その1番最初がアーシアだっただけだ。全てが悪くないとは言わないが、仕事を理由に私たちや子供との関係を蔑ろにしたイッセーが1番問題だった。アレを期に家族との関係を見直そうとしている。結果的には今のところ出来る限り良い方向へと動いているさ。だからアーシアが気に病む必要はない」
ゼノヴィアはそう言ってくれるがやはり元夫を裏切った後ろめたさはそう簡単には消えないのだ。
笑顔に暗い翳が見えてイリナが話題を変える。
「そういえば愛理ちゃんと誠二くんはどうなの?2人とも元気?シオンさんとの仲はどう?」
「はい。愛理ちゃんはお仕事の方がそこそこ忙しいみたいですけど。最近、少し気になる
何故か誠二の医大に進みたいという話をする辺りで僅かに目線を逸らすアーシアにイリナとゼノヴィアはなんとなく理由を口にしてみる。
『もしかして女の人の裸が合法的に見れるとかいう理由?』
声をハモらせて言う2人にアーシアは顔を引きつらせたまま頷いた。
ただ、その雰囲気は決して重苦しくはない。
「最初はシオンさんがやんわりと窘めてたんですけどこのままじゃマズいと判断したのか色々と叱ってくれて助かってます。親子っていうか歳の離れた兄弟みたいです」
自分を叱ってくれる男親というのが珍しいのか誠二の方も構って欲しさにバカなことを言っている節がある。以前のような問題を起こすような兆候は今のところ見られない。
「そっか。上手くいってるんだぁ」
しみじみというイリナにアーシアは嬉しそうに笑った。
前までグレモリー邸で会う度にどこか疲れたような、もしくは思い詰めたような表情をしていることが多かったアーシアだが、今はこうして落ち着いている。
あの家を離れるという選択は、きっとアーシアにとって正しかったのだと思えた。
そこでゼノヴィアが思い出したかのように呟いた。
「少し前にイッセーの両親と彼を会わせたのだろう?大丈夫だったのか?」
「あ、はい!お2人もシオンさんとすごく仲良くなられましたよ。私もシオンさんのご両親にご挨拶へと向かいました。とても大らかな人たちでしたよ」
アーシアと兵藤夫妻の関係は今も変わらずに続いている。
兵藤父が第一声に『お前に
「あの2人なら心配をしていなかったが相変わらずなのか」
「あー。私も会いたくなってきちゃった。休み中に顔見せに行こうかな。パパとは仕事の関係でたまに顔合わせすることもあるんだけど」
「そうしてあげてください。きっと喜びますよ」
こうして住む場所や立場が変わっても、以前と変わらずに笑い合える。
それは悪いことではないだろう。
「わざわざお見送りありがとね」
「うん。頑張って来い」
「お体には気をつけてくださいね」
「気をつけてる、余裕があるといいな~」
遠い目をして次元を越える列車の前に立つイリナ。
僅か7日間の休暇で子供の顔を見たり、アーシアやゼノヴィアと過ごしたりですっかり疲労が抜けたようだがこれから蓄積する疲れを考えて僅かに顔が翳る。
そこで2人の後ろに立つシオンに向かって礼をする。
「アーシアさんのこと、よろしくお願いしますね」
「えぇ、それはもちろん」
いきなり言われて面喰ったシオンだが当たり前のように答えるその姿を見て安心してここを離れられた。
「じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
昔と同じように答えるアーシア。
それに満足そうにしてイリナは列車に乗った。
時間が経って変わっていくモノ。変わらないモノの両方を胸に収めて。それぞれの日常へと帰っていく。
交じり合った時間を大切にしながら。
誰かこの作品の別ヒロインVerとか書いてくれないかなーとか考えます。
読んでみたい。